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アーランディアの魔導付与師  作者: 鋼矢
魔導付与師と全身甲冑の話
19/68

19 〈特殊個体〉と戦おう2

 さてさて、やってまいりました《森林迷宮》。

 

 今日も緑の匂いが(かぐわ)しく、魔獣さえいなければ牧歌的と言っても良い景色が広がっている。

 先行したおバカ――もといイツキがミリィの忠告を素直に聞いていれば"扉"から離れた場所にはいないはずだが、残念ながらその姿は見当たらない。

 "扉"周辺の集落で聞き込んでみると、それらしい人物を見かけたという情報あり。

 こういう時はあの目立つ全身甲冑も役に立つ。

 どうやらあのおバカは〈特殊個体(ユニーク)〉狙いの命知らずたちと同様に《迷宮》奥へと足を踏み入れたらしい。

 ――無事に確保したらお仕置き決定である。


 そんなふうに決めてイツキの後を追おうとする俺だったのだが――


「……なぁミリィ、どうしてお前まで付いてきてるんだ? 危ないから帰ってほしいんだけど」


「嫌よ。あたしだってイツキのことは心配なの。あの娘、見ていてなんだか危なっかしいじゃない」


 隣を歩く茜髪の幼馴染は平然と(のたま)ってくれた。

 どうやらあの残念美少女は、実は世話好きなミリィの心をいたく刺激してしまったらしい。

 「危なっかしい」発言について全面的に同意できる。

 なので彼女の気持ちもわからなくはないのだが、俺としてはやはり遠慮してほしい。


「けどさ、だからってミリィが《迷宮》にまで来ることはないだろう? イツキのことは俺が取っ捕まえてくるからさ。ギルドで仕事してろよ」


「仕事のほうはギルドマスターに押し付けてきたから問題ないわ。だいたい万が一〈特殊個体(ユニーク)〉に出会ったらどうすんのよ。あんた弱いからどうにもならないでしょ?」


 ぐはっ!? 素で言われてしまった。

 悪意も嫌味もない分、余計に胸に突き刺さる!

 そうですよねー。確かに俺ってば弱いですもんね―。

 子供にしか見えないギルド職員にさえ心配されるくらいには。

 ……いいんだよ! 俺は戦う人間ではなく創る人間なんだから!

 でも少しは身体を鍛えなおしたほうがいいかな。

 そうすれば少しはミリィも安心するだろうし。


「わかったよ。けどくれぐれも気を付けてくれよ? せめて『危なくなったら逃げる。出来れば危なくなる前に逃げる』――これだけは約束してくれ」


「仕方がないわね。『危なくなったら逃げる。出来れば危なくなる前に逃げる……エルトを盾にして』――これでいい?」


「……いや、なんで最後に余計なこと付け加えたし。だいたい俺ってば紙装甲だから盾にしても大して役に立たないと思うぞ?」


「だったら危なくならないように頑張りなさい。――信用してるわよ?」


 そこで上目遣いは反則だと思うんだよ。

 まぁ、頑張るしかないよな。一応俺も男の子だし。

 でも盾になるのは無理だから、いざという時はミリィを抱えて逃げるとしよう。

 逃亡に関しては自信があるし、なにしろ彼女はちっこくて軽いからな。




「それでどうやってイツキを探すの? 《迷宮》は広いから闇雲に探しても見つからないわよ」


「それについては心配ご無用。こいつを使うからな」


 ミリィの疑問に懐からブツを取り出す。

 本当はイツキから合流してもらうための物だったのだが、役に立っているのだから良しとしよう。


「……小石? あんたが自慢げに見せるってことは魔導具か何かなの?」


「大正解。こいつは『双絆石(ボンディス)』って名前の魔導具だ。この黒石は対となる白石の方向に引き寄せられるんだ。……で、その白石はイツキに持たせたから黒石が示す方向にあいつはいるはずだ」


 『双絆石(ボンディス)』の説明を終えるとミリィが重たげな溜息をついた。

 なぜだ。どうしてそんな目で俺を見る?


「あんたね、そういう便利な魔導具を優先的に創って売り出しなさいよ。あんなキワモノの回復薬(ポーション)とかじゃなくて。そうすればお店も繁盛するでしょうが」


「えー、そんな普通の魔導具とか面白くないだろ」


「面白さを優先させるのを止めなさいって言ってるのよ!」


 実用性と面白さを両立させるのがロマンだと思うんだがなぁ。

 もちろん依頼された仕事なら依頼人(クライアント)の要望に真摯に答えるが、自分で創る分には妥協せずに理想を追求したい――すなわち面白さ優先。


「けどあの回復薬(ポーション)はかなりの品なんだぞ? 確かに副作用もあるけど、一般の回復薬(ポーション)の何倍も効力があるんだからな」


「その副作用で思いっきり引かれてたじゃない……」


 まぁ確かに。最近の探索者は根性なしで困る。

 サントスだって副作用を乗り越えて見事仕事に復帰したというのにな。


「はぁ……。とりあえず今はいいわ。ともかく早くイツキを追いかけるわよ」


「そうだな、急ごう。白石のある方向は……こっちだな」


 掌の上に乗せた黒石が示す方向。

 万が一に備え手持ちの魔導具を思い出しながら、俺はミリィを連れて駆けだした。



 ◇ ◇ ◇



 そうして森を進むことしばらく――無事に発見したイツキは白い獣毛で全身が覆われた魔獣と対峙している真っ最中であった。


「(……どうやら当たりみたいね。報告にあった〈剛毛猿(シープエイプ)〉の変異種だわ。他の探索者に先駆けて遭遇してるなんて運が良いのか悪いのか……)」


 向き合う両者とはまだだいぶ距離がある。

 向こうに気づかれないように声を潜めたミリィが、頭痛を堪えるかのように眉間を抑えつつ呟いた。


「(ミリィ、何かあの〈特殊個体(ユニーク)〉に関する情報はあるか?)」


「(……原種と違って一体だけで行動しているみたいね。全体的に身体能力が高くて、それなりに知恵も回るそうよ)」


 なるほど、となれば素直に合流するのは悪手だな。

 俺もミリィも純粋な戦闘系ではないし、そうでなくとも不利と判断すれば即座に逃げに徹するかもしれない。


「(……よし、ミリィ。ここから狙いを定めててくれ。俺がもう少し近づいて〈特殊個体(ユニーク)〉の動きを止めるから、そうしたら遠慮なくブッ放せ)」


「(……わかったわ。この位置取りならイツキを射線に巻き込むこともないでしょうし……上手くやんなさいよ?)」


「(了解。とどめのほうは任せるな)」


 幸い比較的見通しの良い場所で、周囲に他の魔獣の姿は見えない。

 これなら余計な邪魔が入る心配もないだろう。

 できるだけ足音や衣擦れの音を立てないように気を付け、息を殺しながら足を進める。

 全身甲冑と白い猿はお互いしか目に入っていないのか、熱く見つめ合って俺には気づいていない。

 そのまま是非とも気づかないでいてほしい。


 特に騎士道精神とか持ち合わせていない俺は、横やりを入れる気満々で新作魔導具を『旅の鞄』から取り出した。

 手に取ったのは『蜂針機雷(ビークラフト)』。先日尊い犠牲のもとで確保に成功した〈肥毒蜂(ビックビー)〉を素材にした魔導具だ。見た目はただの革袋にしか見えないが。

 うーん、出来ればもう一工夫して面白みを足したいところだったんだが仕方がないか。


 それでは投擲手エルト・フォーン。大きく振りかぶってー、投げたーっ!

 投擲された蜂針機雷(ビークラフト)は見事に対峙する両者の中間点にー。

 そしてー、()ぜたーっ!


 内部から大きく弾けた蜂針機雷(ビークラフト)は、内包された〈肥毒蜂(ビックビー)〉の毒針を大量に撒き散らす。

 えっ、イツキ……? 大丈夫、大丈夫。

 誰が彼女の全身甲冑を創ったと思っているのか。

 蜂針機雷(ビークラフト)では装甲を貫くことも出来ないよ。


 見れば予想に違わずイツキのほうは無傷だった。

 しかし〈白毛猿〉のほうはそうもいかない。豊かな毛と強靭な筋肉に阻まれて肉に食い込むまではいかなかっただろうが、少し刺さるだけで十分なのである。


「ギッ……ギキッ!?」


 なぜなら刺さった針は全て即効性の毒針だからだ。

 数本ならばともかく数十本も刺されば、如何(いか)な〈特殊個体(ユニーク)〉と言えど動きが鈍る。

 そして――


 ヒュゴッ!


 そんな音と共に放たれた光の奔流が〈白毛猿〉の下半身を消し飛ばした。


 ……こ、怖ぇー。

 自分で創っておいてなんだけど、俺ってば普段あんなのをバカスカ撃ち込まれてんの?

 いかんな、もうちょっと悪ふざけを自重したほうが良いかもしれん。

 でないと幼馴染にチリにされるという笑えない人生の最期を迎えかねない。


 そんなことを考えながら、俺は遠くで魔束放筒(カノン)を構えるミリィに軽く手を振った。

蜂針機雷(ビークラフト)

肥毒蜂(ビックビー)〉の針を素材とした魔導具。

 投擲すると内包した針を全方位に撃ち出す。針の先には毒がある。

 味方を巻き込むような使い方は絶対にやめよう!

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