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アーランディアの魔導付与師  作者: 鋼矢
魔導付与師と全身甲冑の話
10/68

10 採寸しよう

 ギルドを後にしてイツキと一緒に店へと戻る……のだが、なんだろう、これ?

 俺の上着の裾の端を掴みながら俯き加減でイツキが後ろから付いてくる。

 非常に歩きにくい。……ヒヨコか、お前は?


「あのさ、イツキ……そんなふうに掴まれると歩きにくいんだけど?」


「(す、すまん。けど慣れない格好だから落ち着かないんだ。なんだか周りから見られている気もするし……)」


 キョロキョロと周囲を見回しながら戸惑いがちにイツキは呟いた。

 まあ、それは仕方がない。

 異国風の黒髪の美少女。今は男物の服を着ているが、スラッとした体形の彼女にはそれがかえって似合ってしまっている。

 結果として行き交う人々、特に男性陣からの視線が集まり、ついでに俺に嫉妬の視線を向けられている……実に鬱陶しい事この上ないな。

 これなら鬼面武者状態のほうが良かっただろうか?

 あれも奇異の視線を集めはするけれど、変わり者などアーランディアでは珍しいものではないので一過性で済むのだ。


「気のせい気のせい。変にオドオドしてるからそんなふうに感じるんだよ。堂々としていればいいんだ」


「そ、そうだな。別に私におかしなところがあるわけではないよな?」


 実際は気のせいではないのだが、ここはそう言っておく。

 安心したのか、少し笑顔を見せたイツキはようやく服の裾から手を離してくれた。

 ……うん、さっきは鬼面武者状態のほうが良いかもとか思ったが訂正。

 やっぱり女の子はちゃんと表情が見えてたほうが良いな。美人なら尚の事に。


「んじゃ、店に戻ろう。『ダイナゴン』の代わりになる防具を用意しないとな」


「むっ。すまないな、世話になる」


 そんな話をしながら俺たちは店に戻るのだった。

 ……しかしこの調子で大丈夫かな? この後もっと恥ずかしいことが待っているのだが。



 ◇ ◇ ◇



 さてイツキ愛用の全身甲冑『ダイナゴン』は高い硬度と、それに比例した超重量が特徴の防具である。

 こんな代物を着こんで彼女が平気で動けていたのは、『ダイナゴン』に付与されていた『筋力強化』や『重量軽減』のおかげだ。

 しかし長い年月を経てその付与効果が切れた『ダイナゴン』は、もはや置物として飾っておくくらいにしか使い道がない。

 再び効果を付与すれば話は別なのだが、そのためには触媒となる高価な素材が必要となる。


 当然ながら借金持ちのイツキにそんな金を捻出できるはずもない。

 よって当面は代わりとなる防具を用意する必要があった。

 当初は動きやすい軽鎧の類でも渡そうと思っていたのだが、彼女の戦闘法を思い出して断念した。

 『ダイナゴン』装備時の彼女は完全に回避を捨てた戦術で動いていた。

 仮に軽鎧など与えても、そうした体の使い方をすぐに改めることなど出来ないだろう。

 となればやはり防御性能に重みを置いた防具が望ましい。


 幸いなことに修業時代に創ったはいいものの、売れることなく埃をかぶったままの全身甲冑が倉庫にあった。

 この全身甲冑にも『筋力強化』や『重量軽減』といった効果が付与してある。

 イツキが使っていた『ダイナゴン』に比べれば流石に格が落ちるが、それでも急場を凌ぐのには十分な性能だろう。

 どうせ売れやしないのだから彼女に貸したほうが意味もあるというものだ。

 問題があるとするのならば次の一点。

 元々イツキ用に創った品ではないのでサイズが合わない。よって微調整が必要だということだ。

 そのためには彼女の身体のサイズについて詳しく知る必要がある。


 そう、これはイツキがこれから先も探索者として活動していくための装備を用意するために必要なことである。

 同時に製作者(クリエイター)としての義務であり責任である。すなわち断じて助平心などではないのだ――ッ!


「――というわけなので脱いでくれ」


「なあっ!? な、なななななななななななななな……!!」


 懇切丁寧に甲冑の微調整のための採寸について説明し、脱衣を要求したらイツキが壊れてしまった。

 おかしい、俺の説明に何か不自然なところでもあっただろうか?


「は、破廉恥、撲滅ぅうううううっ!!」


「ぬおわっ!? なにすんだよ!」


 顔を赤く染めたイツキが放つ猛烈な右ストレート。

 腰のひねりも加わった見事な一撃を素早く回避する。


「う、うるさい! 乙女に向かって何てことを言うんだ!!」


「甲冑のサイズの微調整のために必要だから脱いでくれって言っただけだろ!?」


「うぅううううう……ッ!」


 そんな獣みたいに唸られてもどうしようもない。

 必要なことだから行う、ただそれだけだ。


「……ど、どうしても必要なのか?」


「どうしても必要だ」


「……ど、どうしても脱がなければ駄目か?」


「どうしても駄目だ」


「……」


 そんな子犬みたいな涙目で見つめられても……まあ、ちょっとは揺らぐが。


「……わかった。脱ぐから後ろを向いていてくれ」


「ああ、わかった。用意が出来たら教えてくれ」


 どうせ採寸の際に目に入るのだから意味はない気がするのだが、ここら辺は複雑な乙女心と言ったところか。

 背後でパサリという衣擦れの音が聞こえる。色々と葛藤し躊躇するような気配。


「……い、いいぞ」


「……」


 緊張と羞恥で強張ったイツキの声に振り向くと――一瞬、素で停止してしまった。


 薄い肌着のみを身に付け、要所を両手で隠すその姿。

 均整の取れた肢体が視線を奪い、白磁のような滑らかな肌を恥ずかしげにうっすらと上気させる。濡れ羽色の長髪は艶やかに流れ、白い肌との対比には感嘆の一言だ。

 率直に言おう。下種な下心などなく純粋に見惚れてしまった。


「……は、早く済ませてくれ。は、恥ずかしいんだ……!」


「お、おう。じゃあ始めるぞ」


 急かすイツキに背を押され、身を固くする彼女へと近づき採寸を行う。

 ……しかし本当に肌白いなこいつ。普段全身甲冑を着こんでいるので陽光を受けないせいもあるのだろうが、単純に素材が良い。

 普段の生活でも一見すると粗雑に見えるようで、所々の所作には品がある。

 ひょっとして実は良いところのお嬢さんだったりするのだろうか?


「くぅ……っ……」


 軽く顔のほうに視線を向けてみれば、目をぎゅっと瞑り桜色の唇も強く閉ざされていた。

 相当に恥ずかしいらしい。

 ……やばい、なんかちょっと楽しくなってきてしまった。

 そんな趣味はなかったはずなんだが。


「……ま、まだか?」


「あ、ああ……もう少し待ってくれ」


「わ、わかった……」


 いかんいかん、脇道に逸れそうだった。ちゃんと仕事しないとな。

 ……でも胸も結構大きめで柔らかそうだ。店に帰った時に水浴びしたせいか汗の匂いはなく、女の子特有の良い匂いが――


「ていっ」


「――な、なんだ!? 今、ゴンッて音がしなかったか!?」


「しないしない。もうちょっとで済むからなー」


「そ、そうか……気のせい……か?」


 うむ、少しばかり頭と握った拳が痛いが問題なし。

 雑念調伏、煩悩退散。

 さっ、手早く採寸を済ませるとしよう。




「――わ、私は今日はこれで休ませてもらう」


 一通り身体の採寸が終わると、イツキは夕飯もそこそこに貸してある部屋に逃げていった。

 健啖家の彼女にしては珍しい事である。

 ずっとこちらと視線を合わせようとしなかったし、やはり精神的に相当きつかったらしい。

 俺も早々に休みたい気持ちはあるのだが、今夜は甲冑の微調整を行わなければならない。


 倉庫から甲冑を引っ張り出し、工房にて準備を行い、いざ仕事開始――


「ええい、今は仕事中!」


 脳裏に先程のイツキの姿がよぎる。

 この調子だとちょっと大変かもしれない。

 いかんなー、その場の勢いで面白さを優先してしまうのは悪い癖だ。

 ミリィにも何度か注意されたし反省もするのだが、どうにも直らないんだよな。

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