第二話 伝説の勇者のお師匠様!
「ぬおおぉぉぉおお!!! 俺は元の世界に帰るぞぉぉお!!!」
気合いを込めて拳を振り抜く! いや、こういうのって勢いじゃん?
「あの、盛り上がっているところ、すみません」
俺が1人でハイテンションしていると、セシリア姫が申し訳なさそうに声を掛けてきた。
「あ、すいません。なんかテンションあがっちゃって」
こういう時、冷静な人が近くにいるとなんだかお尻がムズムズします。はい。
ぽりぽりと頭を掻いて、少し落ち着いてみる。
「勇者カズマ様。この世界の平和のためには、魔王エンド オブ ザ ワールドを滅ぼさなくてはなりません。その為には、カズマ様には強くなって貰わなくてはいけません」
セシリア姫は、和やかな笑みから、真剣な表情に変えて話をする。まぁ、そりゃそうか。ラスボスをLevel 1で斃せるなんて旨い話はあるはず無いな。
「しかし、一体どうやって強くなるっていうんだ? 自慢じゃないが、俺は剣なんか振ったことも無いし、魔法なんて使ったこともないぜ?」
当たり前だ。平和ボケした現代日本人で剣での戦闘を経験したヤツなんかいる筈がない。それに魔法なんて向こうでは空想の産物だ。そんなモノ扱えるなんてヤツは、その日から病院送りか白い目で見られる生活を保障される。
「そうですわね。そのどちらに関しても、師を紹介致します。ルシウス! スノウ! 」
セシリア姫が名前を呼ぶと、2人の人物が扉を開けて、部屋に入ってきた。
1人は大柄の男だ。厳つい顔をしており、筋骨隆々で、長い黒髪を背中に垂らしている。もう1人は小柄な爺さんだ。何処か剽軽な雰囲気を醸し出しており、身軽そうだ。
うん。これは男が剣士で、爺さんが魔法使いだな! 掛けてもいい!
「初めまして勇者カズマ。我輩は宮廷筆頭魔導師のルシウス・タイラントだ。以後お見知り置きを」
厳つい顔をした筋骨隆々の男が一礼し、そう述べる。
「わしは元宮廷騎士団総帥、スノウじゃ。前線からは引退しとるが、まだまだ若いものには負けん。宜しくの、勇者殿。ほっほっほ」
爺さんが楽しそうにそう答える。
ちっ、間違えたか! 絶対逆だろ! 見た目的に! 俺は心でそうツッコミをいれる。しかし声は虚しく響いて消えた。心の中でな!
「あー、なんだか見た目が逆な気がするけど、色々と宜しくお願いします!」
深々とお辞儀をする。こういう事は最初が肝心。ほらよく言うだろ? 第一印象はその人との今後の関係性に大きく左右されるって。
「はっはっは! 無礼なヤツなのか礼儀正しいヤツなのか。カズマ殿はよく分からんですな」
ルシウスは、豪快に笑うと大きく手を打った。うおっ、びっくりした。本当に絶対見た目が逆だろ!
「宜しい。それでは今日は我輩が見るとしよう」
「それがいいじゃろ。剣術は明日からじゃ! 明日の8時より訓練を開始とする。場所は後ほど遣いをおくるでな」
スノウは楽しそうに笑うと、そのまま部屋から出て行った。
「それでは頑張ってくださいね! カズマ様! 」
セシリアの声援を背に、俺はルシウスに連れられて部屋を後にした。
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「はぁ〜、やっぱお城って馬鹿でかいのな」
其れから30分は歩き、漸く目的の部屋に着いたようだ。もうクタクタだぜ。上がったり下がったり、一つの部屋に行く為に大変すぎるぜ。まるで迷路だ。
「ふふふ。迷路みたいって思いました?分かりにくいのには理由があるんです」
セシリア姫が、楽しそうに声を掛けてくる。って、お見送りしてなかった?まぁ、いいけど。可愛いし。
「左様。遥か昔、この王国、キングダムがまだ世界を統治していなかった時代。俗に言う初代様がこの城を造られた。当時は戦が長く続いていてな。攻め込まれても、王へとその牙が届かなければよい、と考えたわけだ」
へぇ〜なるほどね。確かに玉座へと辿り着かなきゃ王は取れねぇもんな。確か、今の学校もそういう造りになってたんだっけか?変質者が現れても、迷うようにだっけ?その規模が途轍もなく大きいもんって考えればいいか。
「なるほど、それならこの入り組んだ造りにも納得できるな。歩き回るのは疲れるけど!」
「ふふ、そのうち慣れます」
セシリア姫は俺の取って付けたような文句にも、律儀に返答してくれた。
はぁ、本当にええ娘やぁ。
「さぁ、着いたぞ」
ルシウスはそう言うと部屋を遮る大扉を開ける。
「我が研究所へようこそ、勇者殿」
仰々しく一礼をするルシウスに迎えられ、俺は部屋へと入った。
ワクワクが止まらねぇなぁ! 魔法使いの研究所って言ったらアレだな! 蜘蛛の巣に沢山の古びた書物のある本棚! 最強の呪文が載っていたりしてな! それに何かよく分からないモノをグツグツと煮詰める大鍋とか? とりあえず何がでるかな?
色々な妄想をして部屋に入った俺は余りの衝撃に言葉を無くした。
……そんな……
ばかな……
「メッチャ綺麗やん!!!!」
その日、俺の幾度目かの叫びは何処へともなく吸い込まれていった。