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最強の武術家

 翌日。シルヴィア達は神社の境内で転生者殲滅の作戦の確認をしていた。氷雨は黒のマイクロミニスカートに白のワイシャツを着ているので身体のラインが強調されている。 結衣も今日も巫女服だった。 曰く戦闘服でもあるらしいかった。 氷雨は作戦の最終確認とでも言うように身体を前のめりにしながら人差し指を立てると口を尖らせた。


「良い? あんたらは雑魚の殲滅。 私は天界に乗り込んでその上の神界まで行って神どもを滅ぼす。 超越者の力を思い知らせてやるわ。 あとはそうね……タツヒコとアイラとシルヴィア。 あんたらはこの戦いで超越者になりなさい。三人ともあと一歩の所まで来てる。頑張りなさいよ。 長谷川さんはこいつらの子守ね」


 ビシっと長谷川に指を指し、長谷川が嫌々頷くと上機嫌になる氷雨。


「そうそう。それで良いのよ。じゃあそろそろ作戦開始するわよ……散!!」


 氷雨が言い終わると同時に全員が別方向に別れた。 タツヒコはビル街に降り立った。超高層ビルが建ち並ぶ都会の街並み。 静寂が包み込む。不思議と今のタツヒコの気持ちは落ち着いていた。


(どんな強敵が来ても俺は負ける訳には行かない)


 静かな激情を胸の内に秘め、強敵との遭遇に備えた。ふと、目線を横に向けると筋骨隆々の短髪黒髪の大男が立っていた。 柔道着を着ており、服の上からでも分かるほどの極限まで鍛え上げられた身体つき。 裂傷の痕だろうか、痛々しく残る傷がその身体に染み込んだ過酷なまでにいじめ抜いた鍛錬の証左だった。


「強き意志を持つ者よ……。強さのみを求める純粋なる求道者よ。我の名は龍我。貴公は強さの果てに何を望む?」


 低い声が世界を震わす。 そして並々ならぬ闘気と殺気がタツヒコの身体を竦ませた。開かれた双眼は尋常ならざる強さと意志を体現していた。 タツヒコはその眼力に身体を竦ませながらも口を開いた。


「強さの果て……? そんなもの決まってる。 自分という形の究極系……完成形を目指す」


 タツヒコのその言葉に龍我は好戦的な笑みを浮かべた。


「合格だ。 貴公は我の好敵手になり得る存在。 存分にやり合いたいがまずはその前に、こいつらを片付けんとな」


 龍我が言うや否や十数人の転生者がタツヒコと龍我を囲んだ。


「ッッ!!」


「良かろう……相手をしてやる。愚神に組みした愚かしいまでの劣等種共」


 龍我が言い終わった瞬間、囲んでいた半分の数の転生者が抉り飛ばされた。 神性の宿る存在の必滅───神殺し。 龍我は存在そのものが神殺しと言って過言では無かった。全知全能の権能も神殺しの前では効力を持たない。

 蹴りで、穿つ拳で一撃の元で残りの転生者を根源から消し飛ばす。 理ごと消し飛ばされてしまえば如何に強力な力をでも関係なかった。 目に見える転生者を屠り終わった龍我は改めてタツヒコに向き直る。


「さて、貴公の名を聞かせてもらおうか」


「タツヒコだ」


 龍我はタツヒコの名を聞くと嬉しそうに笑う。嗤う。全身から紅い闘気が溢れ、スパークを起こした。


「良い名だ。 この戦いを至高の一戦にしよう。我の名は龍我。強きを求め、超越の頂きに手を伸ばさんとする最強の武術家なり」


 そうタツヒコが龍我の言葉を耳にした時には身体が3つの超高層ビルを貫いていた。


「がっ……」


 その一撃だけで終わるはず無かった。空を駆け上がってきた龍我の振り下ろした拳に反応しかけたが碌な防御を取れずまともに顔面を打ち抜かれ凄まじい勢いで地面に叩きつけられる。 駆け抜ける衝撃は都市1つを陥没させビル街を容易く瓦解させた。 タツヒコを叩き落とした龍我は今のタツヒコの動きに嬉しさで止まなかった。


「我の動きに反応しかけるとはな。良い……良いぞ! これは楽しめそうだ。 タツヒコ、貴公は正真正銘の人間だろう?」


 神性の宿る存在を必滅させる神殺しの権能はただの人間であるタツヒコには効かない。これが何よりも龍我には嬉しく思った。 目をやると瓦礫の中からタツヒコが這い上がってきた。 全身にまで及ぶ深い傷は致命的だったがタツヒコの闘志はまだ消えてはなかった。


「ククク……いい目をしている。強い意志を感じる。強く在ろうとしている。だが強さが足りない。 拳で語ってみろタツヒコ!!」


 姿がブレる。タツヒコはギリギリ目で追えた為動きに合わせるように防御をした。 途端に響く破裂音。 空気が破裂し、衝撃波が空を駆け抜ける。


「ぐおっ……」


 痛みで声が漏れるが間髪無く身体を屈ませる。龍我の蹴りが頭上を掠める。 余波で地面の陥没が一層進み、ヒビ割れが随所に現れた。拙いと思ったタツヒコは一旦距離を取る為空中へと避難する。 しかしその選択は間違いだった。


「良い動きだ。だが我から逃げられると思うな」


 真横に現れた龍我がタツヒコの理解より速く放たれた拳で全身を穿つ。 その全てをタツヒコは防ぎ、反撃に拳を繰り出すが躱されてカウンターで蹴りを首に貰い瓦解したビル群に突っ込んだ。 タツヒコと対峙している龍我はタツヒコが急激に強くなる事に違和感を感じていた。


(初撃は反応出来なかった。二撃目は反応しかけた。 三撃目は反応した。そして今は防ぎきり反撃まで仕掛けた。 意志が増してるな……そう言う事か)


 即座にタツヒコの成長の秘密を見破った龍我は歓喜の笑みを上げた。背後から迫るタツヒコの拳を首を捻って躱すだけで無く、逆手で掴み腕力だけでタツヒコを叩き伏せた。追撃で強烈な蹴りで遥か彼方まで飛ばす。


「ごっ……!?」


「良い力を持ってるなタツヒコ……意志の増幅が自身の強さの増幅に直結するとは。貴公になら見せて良さそうだ……我の力を」


 爆発的なまでの力が世界を破壊した。 龍我は供笑を挙げた。


「我の性質は "無限成長" 。タツヒコ、貴公は意志の力だけでどこまで我について来れる?」


 無限成長。際限無く成長し続ける強さの求道者に相応しい性質。 それがタツヒコに牙を剥く。


「はぁ……はぁ……無限成長……?」


「そうだ。神すらも足下に及ばん劣等種に成り下がる。この世界も宇宙も……我には狭すぎる。 では行くぞタツヒコ。歯を食いしばるが良い」


 瞬間、世界が割れた。 腹部に捻じ込まれた一撃の余波で世界を割った。 タツヒコは口を顎が外れるまで開き、目も瞳孔が開いていた。


「あ……ぐ……」


 何発もの正確無比なラッシュ。それが当たるたびに世界が、宇宙が、末端世界が音も無く砕け散る。 アッパーでタツヒコを無限の末端世界の外側の宇宙まで飛ばすと龍我は武器を権限させた。


「我は武術家だ。あらゆる武術を極めている。無論、武器の練度も申し分無い」


 鎖分銅を振り回し、腹部に一発当て、足に鎖を巻きつかせ逃げる事を不可能にさせながら他の武器も顕現させていく。 巨大なバスターソードが無数の集まった素粒子で覆われていく。 そしてそれを片手で薙ぐと軌道上にいたタツヒコの身体を斬った。 無限の末端世界も同じく概念ごと細切れにされる。空間に干渉し亜空間から無数の剣を射出させタツヒコの身体に突き刺さる。 龍我はタツヒコを勢いよく地面まで投げ捨てる。


「この程度ではなかろう? 意志の力を見せてみろタツヒコ。 貴公に限界は無いのだから。意志が持つ際限の無い強さもまた……貴公の強みだ」


 ふと垣間見せた微笑を隠すように振り向きざまにタツヒコの剣戟をバスターソードの薙ぎ払いで倒す。 龍我はタツヒコという存在に嬉しくもあり悲しくもあった。


「悲しいかなタツヒコよ。 貴公の意志は紛れも無い強く在りたいというそれの表れだ。我を相手にここまで保った存在は皆無だ。皆初撃か二撃目で果てる脆弱な存在。タツヒコ、貴公は耐える事は出来ても我を超える事は出来まい。 これを我に撤回させてみよ!!」


 狂気なる言葉に龍我は染まる。 タツヒコを駆り立てる為に敢えて挑発をしたのだ。 遥か下層、世界の地上からタツヒコが剣を携えて咆哮を上げながら龍我に迫る。 両者の剣が火花を散らしながらスライドをし、身体がすれ違った。 切り返しに横薙ぎに払うも軽くあしらわれる。


「どうした? 貴公の剣技はこの程度か?」


「つっ……!!」


 焦りに変わる。様々な角度から攻めるもいとも簡単に防がれる。 タツヒコは願った。 もっともっと強さが欲しいと。 誰にも超えられない強さが欲しいと貪欲なまでに。


「ぐっ、うおおおおおお!!!」


 押し切ろうと鼻っ面から両断しようとしたが軽く受け止められる。


「遅く、軽い。まだ無限成長の真の性質を見せていないぞ?」


 龍我は片手で押し返すと蹴りを放ち、距離を取らせる。 そして大鎌を顕現させ抉るような角度でタツヒコの脇腹から肩に掛けて裂いた。 溢れ出る鮮血に急激に下がる体温。


「……我は測り間違えたのかも知れんな。さらばだタツヒコよ」


 武器を捨て全体重を乗せた一撃でタツヒコを打ち抜いたと思い込んだ。 が、その一撃はタツヒコの右手に収まっていた。龍我は訝しげに眉を顰めた。


「まだ終わってねー。 勝手に失望するような事するなよ龍我」


 思いがけない言葉に眉が釣り上がる。


「ほぉ……? まだ言葉を話せたか。 良いだろう。 我が望むは強者との戦い。貴公にも無限成長の性質を与えよう。 さらに、これ以上に我を楽しませてみよ」


 龍我は興奮気味に語るとタツヒコを殴り飛ばし無限成長の真の性質を明かした。


「無限成長の真の性質……それは成長起点だ。 成長起点を何処に置くかで強さが劇的に変わる……。我は現在に成長起点を置いた。いや、置いていると言った方が正しいな」


「現在……?」


「そうだ。まぁ、語るより見せた方が早いだろう。これが我の本気だ」


 瞬間、龍我の存在強度が跳ね上がり、それに耐え切れず世界が根源から消え失せる。が、タツヒコも同じ無限成長を与えられた為龍我の成長に共鳴して無理矢理押し上げられた。


「つっ〜〜!!」


「今度は落胆させてくれるなよ?」


 龍我の攻撃はこれまでとは隔絶していた。そこに在るという事実だけで無限の力を得ていく無限成長の真髄。過去でも未来でも無く何故現在に成長起点を置いたのか、タツヒコは嫌でも思い知る事となる。

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