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買い出し

全員が神社から出て、氷雨と結衣が傍に停めてあった二台の単車に跨るとエンジンを掛けた。


「タツヒコ、あんたは私と来なさい。しっかり掴まってなきゃダメよ。女の子の身体に合法的に触れるなんて良かったわね〜? そうだ、長谷川さんはその原付ね」


タツヒコを後ろに乗せた氷雨は長谷川に原付に乗るように促す。 長谷川は開いた口が塞がらないのか氷雨達との差に絶望した様子で原付に跨る。 アイラは結衣の後ろに、シルヴィアは長谷川の後ろに乗ったのを確認した氷雨はゆっくりと走り出す。


氷雨の腰に手を回しているタツヒコは案外氷雨の腰周りが細いという事を覚えたが運転中の氷雨にそんな事を言ったら何をされるか分からなかった。


「なぁ氷雨、こんな街中走ってるのになんで転生者とかがいないんだ?」


タツヒコにとっては見慣れない都会の風景を走る氷雨に質問をする。


「いるわよ? うじゃうじゃね。 今も私の視界に結構入ってるけどあいつらから私達は見えないわ。 超越者が介入・干渉した事象に超越者以外の存在は介入・干渉出来ないようになってるのよ。 今はその特権を認識系にちょっと使ってるだけよ。 まぁ、見せた方が早いかしら」


言うが早いかタツヒコの視界に飛び込んで来たのは我が物顔で跋扈する若い青年達だった。 否、青年と称するには幾分か幼さがある顔立ちをした少年達と少女達が街を歩いていた。


「っ……これが転生者……。 今のところは普通にしか見えないぞ?」


タツヒコの問いに氷雨は嘆息で返す。


「そりゃあいつらの視界に入ってないからよ。因みにタツヒコがあいつらと戦ったら即座に存在を改変されて死ぬわ。 私はあんたが殺されるより速く転生者共を殺せるけど。 しかし邪魔ね。ちょっと殺してくるからバイクから離れるんじゃないわよ!」


そう言い路肩に停めたバイクから飛び降りた氷雨は転生者の一人を背後から認識を超える攻撃で腰から上を消し飛ばす。 余波で無数の多元宇宙も消し飛んだ。


「なっ!? 何だ……バッ!!」


無数の多元宇宙破壊の攻撃に耐え切った転生者達も次の瞬間には上半身が消し飛ばされていく。


「なっ、何で復活しねーんだよぉ!! 転生者は無敵じゃ無かったのか!?」


自分の認識の外で起こる殺戮と自分達に与えられた特権が機能しない事に焦りを覚える転生者達。


「あんた達転生者は神から与えられた神の肉体と様々な能力で全能感に浸ってるんでしょうけど、そんなもの超越者(わたし)から見たらただの無知無能よ」


転生者を認識の外側から屠る氷雨は聞こえるはずのない独り言を言うと転生者の一人の手足を消し飛ばし達磨にする。


「ぎゃあああああああああああ!!!!」


「……っ!!」


「馬鹿な……痛覚も遮断してるはずだぞ!? それにどうして常に改変されていく俺達に易々と干渉出来るんだ!!」


「それは私が朧 氷雨だからよ」


転生者達は突如姿を現した氷雨に戦慄を隠し切れない表情を浮かべた。 神と同等の権能を以ってしても今の今まで感知出来なかったからだ。


「て、てめぇか……? 次々と転生者を殺してった奴は?」


転生者の一人が氷雨を指差しながら質問をするが氷雨はそれに微笑と斬撃で返した。


「ぎゃっ!! ぐぅぅ、このぉぉ!!」


痛みに悶えながらも何とかそれを堪え反撃に出る。 時間を無視した速度での改変攻撃と自己の存在の改変を並行して行う攻防一体の人並み外れた攻撃は易々と氷雨に片手で受け止められる。


「その程度?」


「〜〜〜っ!! まだまだぁ!! 来い!魔剣・ヘルグラム!」


異空間から魔剣を召喚させると氷雨も合わせて剣を顕現させる。 時間を無視して行われる攻撃は無数の末端世界を破壊していく。激しい打ち合いに発展し、そこから発生する余波でやはり無数の末端世界が破壊されていく。転生者が繰り出す剣戟の一撃一撃が無限の末端世界を有に破壊出来る威力を内包しているがそれを全て受け止めていく氷雨。


(悪くないわね。時間を超越してるのが意外だったけど)


転生者の剣戟を受け流しつつわざと剣を弾かせた。


「! 貰ったぁ!! "多元階層魔門ヘルグラム・全門開放フルバースト"!!」


魔剣・ヘルグラムに搭載された魔門と呼ばれる特殊砲台を多次元的に展開し時間を無視した速度で放った。 一発の魔門の砲撃で無限数の末端世界を破壊出来るのを数億まで展開、それを全門射出する。 それを氷雨は丸腰の状態で砲弾の雨に呑まれた。無限数の末端世界が数億回破壊されるだけに留まらず、その末端世界を無限連鎖内包している九層構造の天界の第一層まで破壊していく。


「はぁ……はぁ……てめぇみてぇな化け物は全時間軸・全並行世界と空間ごと消してやるよおぉぉ!」


転生者は消耗が激しかったが全知全能の権能を使い氷雨を過去・現在・未来の一本の時間軸からの完全消滅と、その時間軸上から無限に派生する可能性世界と並行世界の全てからあらゆる手段を用いて消滅させた。


「……まぁ所詮は転生者ね。結構頑張ったみたいだけど私をどうにかする事なんて出来はしなかった」


しかし、何事も無く無傷の氷雨が姿を現した。氷雨が一般的な神レベルの存在であれば今の消滅も効いただろうが氷雨は超越者だ。世界の理はとうに超越しているのであらゆる原理の消滅能力が効かなかった。 氷雨は肩を竦めると氷華を顕現させる。 世界が極寒の世界に塗り替えられた。


「欠伸が出るほど弱いわね。 もしあんたがその権能をフルに使いこなせていれば神界くらいは楽に破壊出来ただろうに。 "万象凍結"」


氷雨がひとたび剣を振るうと、改変も操作も認識も現象も関係無く一切合切が凍結した。不変の世界へ様変わりする。


(これに対抗出来るのは長谷川さんとシルヴィアとアイラくらいかしら)


思考しながら歩けど無音。 当たり前だ。音は振動。変化の止められた世界で音は鳴るはず無かった。

氷雨は動作が停止している転生者の前に氷華の鋒を向ける。


「普通なら認識が変化する事は無いし認識の変化によって流転する世界からその変化性を取り除かれた時点で世界から置き去りにされる。 私が超越者じゃ無かったらこの世界を維持する事すら出来ない。 名も無い転生者……永遠に認識が変化する事の無い世界で永劫を生きなさい」


氷華の鋒が軽く転生者の頬に触れるのを起点として世界が変化を取り戻した。鋒を向けていた転生者の姿は既に無かった。 そしてその転生者に対する認識も変化する事は無い。


氷雨が首を動かすとすぐ横を斬撃が掠める。 時間を超越した速度で転生者達が襲い掛かるがその時間を無視した転生者達の認識すら超える速度での一撃で易々と命を刈り取った。


「弱いわね。もっと本気で来なさいよ」


氷雨が莫大な殺気を放出すると世界に普遍している法則が瓦解する。 超越者という存在の『格』に世界の法則が耐えきれないのだ。

これを防ぐ為に氷雨達超越者は意識的に力を抑えている。 抑えていても神と同等の力を持つ転生者を圧倒出来る実力を有している。

どれほど超越者という存在が規格外か分かるだろう。


対して転生者達は氷雨という存在がどういうものか徐々に理解し始めた。 超越者という存在の本質は認識・理解出来なくとも今起こった異常事態のお陰で、全知全能という法則そのものを統べる超常的な力すらも彼女の前では意味を成さない事実に慄いた。


「〜〜っっ」


歯噛みする転生者達を尻目に剣を肩に担ぎながら嘆息し肩を落とす氷雨。


「あんた達は結衣に手を出した。 それだけで万死に値する。 普通に死ねると思わない事ね」


そうして剣を振るう。 その動作、その余波だけでも天界の第一層を無限に内包している第二層を容易に破壊していく。 転生者達は焦燥と絶望に駆られる。 全知全能が効かない、神の干渉性や理そのものという強みも超越者のそれには遠く及ばない。 成す術無く殺されていく。 再生能力や復活能力も神から与えられていたが理を超越した一撃には何の意味も持たなかった。氷雨に反撃を試みた転生者達もいたが今度は何もさせてもらえずに理ごと消し飛ばされた。


粗方の転生者を殺し尽くした氷雨は路肩に停めたバイクに跨りエンジンを掛ける。 何事も無かったかのようにヘルメットを被り、自身の腰に手を添えるタツヒコに問い掛けた。


「タツヒコ……あんた目で追えた?」


その問いにタツヒコは伏し目がちになるとバツを悪くしながら噛み締めるように呟く。


「……追えなかった。 お前の動きも、転生者の動きも。何が起きてるのか認識が追い付かなかった。 次元が違い過ぎる……」


戦慄を垣間見せるタツヒコに氷雨は厳しい現実を突き付けた。


「そうよねぇ。 精々あんたが喰いつけるのは魔王クラス。 産まれながらの神や全知全能の力には成す術無く殺される。

因みに神の力ってのをどこまで理解してる訳?」


「神の力以外の物理的な攻撃や干渉及び能力の完全無力化。 シルヴィアも良く使ってたしな」


「正解。 実際神の力を打ち破るには同じ神の力かそれを殺す神殺しの力、私みたいな超越者しか無理よ。つまり、今のあんたじゃ転生者には勝てないのは自明ね」


言いながら出発する。 爆速で駆け抜けるが体感的には非常に遅く感じられた。


「けどよ……もう能力も強さも修行でどうにかなるレベルじゃねー。 強くなりたいって気持ちもあるが、意思だけじゃ強さを語れねー」


タツヒコの悲痛な叫びに氷雨は口を開く。


「超越者ってのはなりたくてなる訳じゃない。 決められた運命や理を強引にぶち破る事で超越者になるのよ。 私はその結果超越者になった。 ただ、超越者になったらなったでまた別の『何か』に束縛された気分に陥った。 まるで管理されてるような。私はあんた達と一緒にそいつを殺したいのよ。 だから期待してるわよタツヒコ……」


「ああ……そういや、長谷川さんやアイラ達は大丈夫なのか?」


タツヒコの問い掛けに氷雨は吐き出すように笑う。


「私が遍在してるから大丈夫よ。それも不可視で。今頃目的のディスカウントストアに着いてるんじゃないかしら?」


「ディスカウントストア?」


「……説明するのが面倒くさいから一通り知識をあげるわ。 現代知識ってやつね。全く。アイラの方にもあげとこうかしらね」


氷雨はくるくると指を回すとウィリーをかましながら速度を上げる。 タツヒコは落ちそうになるも氷雨にしがみ付く事で落ちずに済む。 ふとした瞬間にタツヒコの頭にこの世界の知識が流れ込んで来た。 本当に氷雨が面倒だったのか、量は必要最低限しかなかった。


「便利なんだな、この世界って」


「そうね〜。ま、すぐ上の世界に行くからその内必要無くなるわ。 さて、着いたわよ。いつまで私の腰に手を置いてるつもり? さっさと降りなさい」


いつの間にかディスカウントストアに着いており、そこの一階でシルヴィア達と合流しつつ、生活用品や水着などを買った。

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