猫神VS大罪のルティナ
シファーとリィアに見下される形で膝をついてる猫神は肩で息をしながらも勝負を諦めた訳では無かった。 ゆっくりと立ち上がるとシファーとリィアに攻撃を仕掛ける。
猫神は爆発的な初速で床タイルを粉微塵にしながらシファーの眼前に移動すると右フックを繰り出す。シファーの顔面をまともに捉えたがリィアが黙って見過ごす筈無かった。 猫神の華奢な身体を蹴りを見舞うがそれを反射的に防ぐ猫神にリィアは目を丸くした。
猫神は焦っていた。 神の力は微量しか回復しておらずこの戦況を打開出来る力は持ち合わせていなかった。 持ち前の全能の権能も神の力に大きく左右される為今の状態では使うに使えない。 猫神は歯軋りをする。 神を名乗ってはいるが蓋を開けてみればこの様。猫神は自嘲せずには居られなかった。
「ふっ、全く……なんという情け無い体たらくじゃ。世界の理を成す神が……この様とは」
「ホントだよ。 だから君は神失格だ」
瞬間、膨大な数の黒い魔弾が猫神を襲った。
「っっ!!」
避ける事は叶わず、かなり多量に喰らってしまう。 そして今しがた攻撃を放った主を察してさらに唇を噛み締めた。 大罪のルティナがシファーとリィアに挟まれる形でそこに立っていたからだ。 ルティナはシファーとリィアの頭に手を置くと少し表情を厳しくさせる。
「思いの外シルヴィア達が手強かった。 七罪獣と影達を使ってシルヴィア達を足止めしてる間に君を殺し、七罪獣を回収しながら超越者になる計画だったが、まさか計画より早く足止めに使った七罪獣達全員を返討ちにするなんてね。だから少し計画変更だ。 ボク自ら君を殺す。七罪獣を吸収したボクが」
シファーとリィアを粒子に変換させながらその力を増したルティナ。 その力は猫神の予想を大きく上回る事となる。 全身に力を滾らせたルティナは猫神との距離を一気に詰めると腕を横薙ぎに振るう。 たったそれだけで城が半壊し猫神に暴威となって蹂躙する。
「くっ……!!」
「そぉら!!」
ルティナの放った蹴りを身体を丸めて右腕でガードするがガード毎吹き飛ばされ衝撃の余波が城を全壊させ、猫神は都市部まで飛ばされてしまう。 しかし猫神もやられっぱなしで終わる訳では無い。 なけなしの全能の権能を行使し一時的に空間を異世界に繋げるとそこから超高層ビル群を高速で射出して反撃を試みる。 百メートルを超える大量のビル群の波状攻撃も徒労に終わり無惨に破壊され、無傷のルティナが姿を現し猫神に頭突きをかます。
そのままでは終わらず、猫神の頭を掴んで地面に叩きつけてからビル群の残骸へと走り出すルティナ。 一瞬で到達すると飛び上がって猫神の全身をビル群の残骸へと叩き込んだ。
ガラスなとが突き刺さり瓦礫に埋もれた猫神はすぐには動けず、ルティナの力の強大さを内心認めざるを得なかった。
(くっ……あやつ、七罪獣を取り込んでる影響か知らんが我の理を超えつつある。 例え神の力を不自由なく使えてもこやつを倒せるかどうか……。 確実に超越者へと迫っているっ……まずいぞ。 ルティナが超越者に至るのも時間の問題だ。そうなってしまえば……世界の理を超えてしまえば……我では干渉出来なくなる)
それだけは何としても避けたかった。今の猫神では防戦一方が精一杯だ。
「ぐぐっ……、はぁっ!」
ビルの残骸をやっとの事で消し飛ばすもルティナの猛撃が苛烈さを増して襲い掛かってきた。 まず眼前に飛び込んで来たのは無数の黒い魔弾と上空からうち乱れる極太のレーザー。 それらを権能を行使して着弾場所をズラすもルティナの魔力を練り上げて権限させた魔剣が猫神を穿つ。 腹を貫かれ血が流れ出る。 空に大穴が空き、世界が悲鳴を挙げ始めた。猫神は立つ力も無いのか、座り込んだままルティナを見上げる。 ルティナは止めと言わんばかりに力を滾らざる。
カルドネアの死の力を最大限まで高めた魔剣は神という概念すらも消せる絶対的な死の象徴を持った力の奔流。
「猫神……ボクは神を超える」
言い終わると同時に振り上げられる絶対的な死。 しかし、それが猫神に当たる事は無かった。
「猫神様は殺させません。 大罪のルティナ……!」
「レルシュ……」
「君は、そうか。 猫神を守りに来たか。だが、今更君が来て何になる? 」
レルシュの現象操作によって死という現象の力を失った魔剣を持ったルティナの右腕が下がる。
「レルシュ、奴らは? シルヴィア達は?」
猫神の問いにレルシュは表情を微かに曇らせながらルティナから視線を離さずに口を開いた。
「……長谷川様の尽力によりカルドネアに瀕死に追い込まれていたシルヴィア様が回復し長谷川様と共闘の上カルドネアを撃破、アイラ様も単独でケレスとルデアを撃破、タツヒコ様は長谷川様の能力によりルデアの能力から脱出し、全員が合流して今こちらに向かっております」
「そうか……レルシュ、シルヴィア達が来るまで保つか?」
「……厳しいです。 保って二分と言ったところでしょう。 ですが、命に変えてもあなただけは守ります!」
レルシュは余裕の笑みを崩さないルティナに苦い顔をしながら攻撃を仕掛ける。
「話は終わったかい? ボク相手に二分保たせる? 面白い……やってみなよ」
ルティナは軽々と右手で受け止めるとレルシュの拳を握り潰す。 現象操作を行使し無数の竜巻を出現させるがそれらが二秒もしないうちに掻き消された。
「稚拙、全く以って稚拙だ」
ルティナは衝撃波を出そうと剣を振るったが衝撃波が出る事は無かった。 そして不可視の死の現象がルティナを襲い、それを同質の力で相殺しようとルティナも顕現させようとしたが発揮される事は無く、死の力がルティナを包んだがルティナが死に至る事は無かった。
「良い能力だ。 ボクの部下に欲しいくらいだ」
時間を超越した一撃もレルシュの前では等しく平等の元に処される。 相殺されたにも関わらずルティナは気に病む事は無く延々と猛攻を仕掛ける。 しかし、そのどれもが現象として発生している為レルシュに無効化されてしまっている。 ルティナとレルシュの相性は確実にレルシュの方に分があった。
今のルティナではレルシュを傷付けられそうになかった。
一方でレルシュもルティナ相手に完全に攻め切れてる訳では無かった。 現象操作で無効化してはいるが七罪獣の特性が活かされており耐性が出来ているのだ。
(……突破されるのも時間の問題ですね。 しかし、シルヴィア様達が来れば……この現状も打開してくれる筈)
レルシュはなんとかして耐えなければならなかった。 ここで自分が倒れてしまえば猫神をルティナという脅威から守れなくなってしまうからだ。 レルシュは現象によって引き起こされる改変も能力もある程度は支配下に置けてはいるが神の力による依存が大きかった。
「っ!」
首から上を吹き飛ばす勢いで放たれた剣戟を防ぐがそれを利用した蹴りが腹部にめり込まれる。 一瞬ではあるがルティナを縛っていた現象が全て解除されてしまう。 それを感覚で感じ取ったルティナは時間と距離を殺し、絶対的な死をレルシュに放ったが、それも届く事は無かった。
「待たせたな……! 猫神……レルシュ!」
長谷川が姿を現したからだ。 長谷川の登場と同時にシルヴィア達の姿も見て取れた。 全員が全員、研ぎ澄まされた闘気を放っていた。
それを見たルティナは好戦的な笑みを浮かべる。
「ようやく主役が来たようだね。 全く、君達には驚かされてばかりだ。 まさか君達が……神々の理に辿り着いたボクの予想を裏切る成長をするとは」
可笑しそうにルティナは笑う。 純粋な神で無いルティナに全知全能の権能は持ち得る事はないが自力で神の理へと至っていたルティナの力は神のそれと似ていた。七罪獣の力も相まった力は神と同質と言っても過言では無かった。
「ルティナ、終わりにしよう」
「ふふ、カルドネアに瀕死にされた君が良く言えるね……シルヴィア」
「次は油断はしない」
既にシルヴィアは神の力を解放していた。
それを見たルティナはさらに唇を歪める。
「神の力に頼らざるを得ないのがシルヴィア、君の敗因だ」
ルティナはゆっくりと右腕を前に突き出すと同時にルティナの足下に赤色の魔法陣が展開される。
「さぁ、絶望すると良い。 シルヴィア、神の力を猫神に譲渡しなかった自分を恨みながら死ね。 神剣具現化」
世界が真っ白に包まれる。 莫大な衝撃波が世界を震撼させ、世界の外側に広がっているいくつかの多元宇宙が滅びる。 そしてシルヴィア達の眼前には腰まである黒髪のロングヘアーを靡かせ、大人の女性の姿となったルティナが神性を帯びた剣を具現化させて立っていた。と同時にシルヴィアの表情が絶望で染まっていた。 シルヴィアは震える手先に目線を落としながら戦慄した口調で呟いた。
「神の力を……奪われた?」
「不純な神の力は理の力そのもの……の一部。 純粋な神じゃない君の力なら容易に奪える。 神剣ベルフェゴールは神殺しの剣だ。 神の力をこの剣そのものが喰らう。さて、第二ラウンドと行こうか」
莫大な神の力を得たルティナは既に魔人の域を超越し、覚醒した魔王の域まで迫っていた。 神々の理と化したルティナと神殺しの神剣、そして確実にルティナはその神々の理を越えようとしていた。




