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七罪獣の強さ

夥しい程にまで群がる影を腕を振るうだけで全てを消滅させるアイラ。

右手に持つは『切り取る』性質を持った天下五剣の一振り。 左腕の前腕部分に少しの切り傷があったがこれはアイラ自身が自ら傷付けたものだ。 切り取った事物を内包する刀身で自身に傷を入れる事でその事物そのものになる事が出来る。


アイラは襲いくる影に目線を向けただけでその影を消滅させる。 明らかにアイラだけが抜きん出ていた。


(もう、面倒くさいなぁ)


手を突き出すと空間に穴が開き、そのまま影が捕食された。そしておもむろに地面に剣を突き刺す。


「"可能性選択" 。私はこの無数の影達と出会わなかった可能性を選択する」


次の瞬間、その可能性世界へ飛ばされた。全ての影が居なくなったのを確認すると虚空を薙ぐ。 すると一人の少女、七罪獣の怠惰のケレスが姿を現した。 ケレスは面倒臭そうに半目になりながらアイラの顔を伺った。 アイラは剣先をケレスに向けると口を開いた。


「七罪獣・怠惰のケレス。 ここであなたを殺します」


厳しい口調で言い放ったアイラだがケレスは顔色一つ変える事無く面倒臭そうに欠伸を咬み殺すとヒラヒラと右手を振り出し、


「なら面倒臭いし殺してほしいなぁ。 私じゃ勝てそうにないし。それに私が死んでもルティナ様の元に戻ってルティナ様の糧になるだけだから」


そうアイラに言い放った。アイラはその様に絶句したが剣を握り締めると思い切り振り抜いた。 斬撃が発生しケレスの頬を掠めると遥か後方の山と都市を二つ程消し飛ばした。


「ふざけてるんですか?」


「まさか、私は大真面目よ。今の攻撃だって私に当てるつもりは無く、ただの虚仮威しに過ぎないのと、いくつかの概念を切り取ったのを悟られない為だってのも分かったし」


「っ!」


アイラは身体を硬直させ歯軋りをする。 まさかこうも自分の考えを見透かされているとは思わなかったからだ。アイラが行動に移すより早くケレスが口を開いた。


「私は怠惰であるが故に全ての力と運動の方向で何をしたかってのが理解出来る。 怠惰であるが故に負荷が掛からない。 怠惰であるが故に静止の性質を持っている。面倒臭いけどこれで」


ケレスが手を突き出す。 すると世界の全てが静止したが、アイラの天下五剣の可能性干渉と長谷川の流れを操る能力で無力化される。


「ちぇ……無駄に力使っちゃったなー」


言い終わった瞬間、首から上をアイラに斬られ、胴体も切り離される。 血が流れ出て止まらないがそれすら気に留めずアイラは必死の形相でケレスを微塵切りにする。 同時にケレスの性質と能力も切り取っておく。


「ああ、これで楽になれるよ。お礼言っとくね。 ありがとう」


粉微塵にされたはずのケレスの声が聞こえるのと同時に無数の粒子が瞬間的に強烈な光を放って残光を残して消える。 アイラはケレスが居なくなった後も警戒を怠らず、辺りを見回す。


「何だったの……? 怠惰のケレス、もし本気だったら……」


アイラはそれ以上は口に出すのをやめた。 交戦中であろう長谷川やシルヴィアの加勢に行こうと足を動かした瞬間、強烈な殺気がアイラを襲った。


「っ!!?」


即座に対抗出来る全ての能力を総動員させ殺気の方向へ全力へ攻撃を放った。 無数の斬撃が殺気の主に直撃するが大した手応えは感じなかった。


「全く、ケレスはいつもそう。戦いたくないからって自分から殺されに行ってルティナ様の糧になるなんて」


苛立ちを隠せない声音を響かせ、粉塵から姿を現したのは嫉妬のルデアだった。


「こんにちわお嬢さん? 良い斬撃だったわよ。 殺し合いをしましょうか。 私はルデア。嫉妬を司る七罪獣。 『既に持っている存在』よ」


ルデアの凄絶な笑みと好戦的な目が光の線を以って迸る。アイラは挨拶(それ)に袈裟斬りで返した。衝撃で地面に大きく裂けたが問題なく修復された。


「あらあら。お行儀がなってないわね」


人差し指一つでアイラの攻撃を受け止めたルデアは涼しげな顔でアイラに微笑んだ。


「そんなに邪険にしなくてもいいのに。ふふ、遊びましょう? さっきの坊やはつまらなかったからあなたは楽しめるといいわね」


そのルデアの言葉にアイラが反応した。


「坊や? まさか……!」


思わず力が入るアイラ。 ルデアの言う坊やという言葉にタツヒコの姿が過ぎる。 ルデアはそれを面白そうに唇を歪める。


「タツヒコ……だったかしらね。 クスクス、今頃どうなってるでしょうね。 もう死」


アイラの天下五剣がルデアの鼻っ面を斬ろうと迫るがそれをまたもや人差し指で止める。

衝撃で世界そのものが切り裂かれる。 何もかもが両断され切り取られるが、何らかの力によりそれら全てが元通りになった。


「それ以上言うと、私はあなたを許さない」


「人間ってのは怖いわね。 感情に振り回される生物で。 短絡的なのよ。かつてあなたが言ったようにね」


「っ!?」


「過去の発言も忘れちゃったの? あなた自身が言った事よ?」


確かに聞き覚えはあった。かつてシルヴィアに言った覚えがあるからだ。


「ふふふ」


アイラの剣を押し返すとがら空きの腹部に蹴りを入れようとするルデアだったがその認識を超える速度の移動を出され空振りで終わる。


「恐ろしい速度ね。その歳でここまで出来るなんて。嫉妬しちゃうわ」


「黙ってください。 あなたは危険です。ここで……殺します」


アイラの左手にもう一本の剣が具現化していた。 黒と白の縞々の柄と、漆黒を思わせる純粋な黒色の刀身。 そしてアイラがそれを顕現させた瞬間からルデアはアイラの事を認識出来なくなっていた。 認識出来ないだけで無く、認識出来ない事を認識出来なかった。


アイラが顕現させたもう一つの天下五剣の性質は『先』。全てに先立つ性質を持つ剣だった。 アイラは先と切り取る性質の天下五剣を併用する事で絶対無敵の存在となり、無防備のルデアを背中から突き刺した。 それと同時にアイラの先の状態が解除される。


「がっ!?」


吐血し表情が苦悶て満たされるルデア。しかしそれに怯んだのも一瞬で身体を捻る事で抉られながらも無理矢理脱出すると嫉妬の性質で既に持っている能力を行使しアイラに襲い掛かるがアイラはそれを剣を振るうだけで打ち砕く。


既に経験してますから(・・・・・・・・・・)無駄ですよ」


冷徹に言い放つアイラにルデアの表情は唖然としたものとなったが次の瞬間には高笑いをしていた。


「あはははははは!!! 面白い!! 強い……強いわねアイラ・シルエート。 他者に依存するしか能の無い人間が、嫉妬という感情を乗り越え始めたというの? 」


半身を血に染めながらアイラの攻撃を躱していく。攻撃が交わり合うたびに世界が揺れて軋んでいく。 空間が、地面が、事象が揺れ動く。 地面は幾度も陥没を起こしており、空間は激化する戦闘に耐えかるのか悲鳴を思わせるかの如くひび割れていた。 アイラはルデアの思わぬ強かさに顔を歪めていた。


(まさか、既に経験している数ある可能性の中で一番最悪なのを引き当てるなんて。何とかして、これを動かさないと)


アイラは攻撃速度を上げる。 途端にルデアの身体が無数の拳に打たれて波打つ。


「ごっ!? ぐ……ああああ!!」


押し負けずにルデアは右ストレートを放つが身体を捻られてアイラに躱され反動を利用した後ろ回し蹴りで遥か後方まで吹き飛ばされた。 複数の街を破壊しながら飛ばされていくが勢いは衰えない。 十を超える街と大都市に突っ込んだ所で漸く止まったルデア。 突っ込んだ衝撃で大都市は欠片も残さず消滅していた。


「っっ……、がはっ、ごほっ……! うぅ、ぐっ、ぜぇ、ぜぇ……」


ルデアは酷い有様だった。 左腕は根元から無くなっており、腹部には無数の瓦礫や武器が突き刺さっており、右手の指は五本全てがあらぬ方向へまがっている。 足も酷いものだった。 右足は膝先から欠損、左足は欠損はしていないものの複数の骨は砕かれていた。 普通ならば生きている筈は無かった。生きられる状態では無かったが彼女は嫉妬の性質上生きざるを得なかった。


「くくく……ふふふ、アイラ・シルエート。はぁ……はぁ、はぁ……絶望を与えて上げるわ。 はははははは……」


ルデアは足のつま先から粒子化すると徐々に広がっていき、やがて完全に粒子と化して霧散した。

ルデアを何とか倒したアイラは既に経験した全てを忘れつつあった。 まだ未熟な為完全に天下五剣を使いこなせてるとは言えないからだ。 それ故に身体が馴染んでいなかった。


「ふぅ……ふぅ……、はぁ、 物凄い強かった。 もう一つの天下五剣が具現化してなかったら私は間違い無く殺されてた。 でも、私はまだまだ未熟だ。 けど、それでも何が何でも生き残って、皆と……」


アイラは天下五剣の使用の副作用で痛む身体を引き摺りながらも仲間のいるところへ目指した。





「まずいですね」


そうレルシュは呟いた。 無数の影はレルシュが腕を振るうだけで溶け消える。


「やるじゃん。 この数を物ともせずに平然といられるなんて」


無機質な黒の角を二本、頭に生やした鬼を思わせる少女が立っていた。 少女は白色のブラウスと薄手のコートを羽織っており、下は黒無地のジーパンを履いていた。レルシュは少女に目を向けるが次の瞬間には背後を取られていた。


「速攻で倒させていただきます」


しかしその言葉を耳にした時には倒れていたのは少女だった。 少女は状況が理解出来ないのか目をパチクリさせていたがおもむろに立ち上がると大口を開けレルシュに噛み付こうとする。


「無駄です」


地面から無数の影の手が少女を雁字搦めにする。


「七罪獣の一角、暴食のリーファン。 あなたの性質は暴食。 喰らったものは攻撃だろうと概念だろうと自分の糧にすると言ったところですか」


「半分正解。 半分外れ」


少女、暴食のリーファンを縛っていた影が音を立てて割れた。リーファンの周囲に魔法陣が展開されると光が空を穿つ。


「私のそれは現象に近い。 だから誰にも止められない!」


時間すら超越した攻撃がレルシュを襲うがレルシュが傷を負うことは無かった。


「全ての現象は私の支配下です」


リーファンは身体の一部、右腕と脇腹の少しを抉られていた。 レルシュは冷酷にリーファンを見下すと止めと言わんばかりに世界に閉じ込めたが、それをリーファンは食い破って出てきた。


「ただで負けるかっての」


「流石に七罪獣。 現象操作に抗いますか」


レルシュは苦笑を浮かべる。 追撃をしようとした時、猫神の城のメイドの一人がレルシュの前に血だらけになって現れた。


「レ、レルシュ様……っ!! お城が、お城が襲撃を受けています! 襲撃者が無茶苦茶に強くて城のメイド達じゃ歯が立ちません! このままでは……猫神様が!」


そう告げられてレルシュの顔色が一変しルティナの真の目的を察した。


(そういう……事ですか。 要は私達を足止めし、手の空いた七罪獣に猫神様のところに向かわせる。 私を含め城のメイド達は猫神様から力を与えてもらって護衛をしている。 その神の力で強化された能力を使えるメイド達を圧倒出来るほどの強者……急がなければ!)


「ちっ、あの屑め。 つくづく使えない」


リーファンが血だらけのメイドを一瞥しながら唾棄する。レルシュは世界操作を使いあらゆる事象と概念を操作してリーファンに致命の一撃を与える。


「ぐっ……! やるねぇ!」


仰け反るリーファンだったが何とか耐え反撃を仕掛けようとした時、巨大な十字架を模した大剣がリーファンの身体を貫く。


「あ……?」


それを認識したリーファンだったが時既に遅し。 極光がリーファンの身を内包し、天高く極光が昇った。


「彼女は……既に息絶えましたか。 また猫神様に作り直してもらわなければなりませんね。 今は猫神様の身の安全を最優先で確保しなければ。 間に合ってください……!」


レルシュはその場から空間転移で猫神の城まで転移した。





城内に無数に転がる屍。 血の匂いが空間を満たす。 返り血で真っ赤に染まるのは二人の少女。 一人はサラシを巻いて布を羽織った水色の髪のツーサイドアップの少女、強欲のシファーと、もう一人は消え入りそうな程の白い肌と銀髪のショートカットをした白のタンクトップと白のフレアスカートを着た憤怒のリィアだった。


「この程度なのか……猫神ってのは」


「ほんと、がっかりね」


落胆を隠せないシファーとリィア。 その眼前には片膝を突くボロボロの猫神だった。

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