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永劫の嫉妬

タツヒコは大量のルティナの影を相手に大太刀回りで奮戦していた。 非実体原理の物理無効を無視する形で攻撃を放ち、次々と影を消滅させていく。


「はぁ、はぁ……はっ、キリがねぇ」


迫り来る攻撃を身体を捻って躱し、すれ違いざまに斬る。 両断された影は粒子化して消えて行く。 即座にタツヒコは体力を回復させると全方位に回避不能の閃光を爆発的に放出させた。


「っ!!」


白に染まった視界の前方から先端が鋭利に尖った影がタツヒコを襲うが首を捻る事で回避。 頬を掠めるが気にせず連鎖的に身体も捻り、力を充填させる。


「はっ!!」


爆発的な威力が生み出され、影は一片も残す事なく消滅してしまった。


「及第点ってとこね」


拍手と同時に聞こえてきたのは少女の声だった。 タツヒコは目を向けるとその美貌に少しだけ目を奪われた。 露出した白い肌が一際目立つ少女。 緑のチャイナ服を来た十代後半の見た目の少女がタツヒコの眼前に立っていた。 タツヒコより背の低い少女はタツヒコを見上げる形で視界に入ってきた。


「なっ……何だお前!?」


「七罪獣が一人、嫉妬のルデア。 ルティナ様の部下。 最近退屈してたのよ。楽しませてくれる?」


「七……罪獣……?」


呆然とするタツヒコにルデアが剣で斬りかかる。タツヒコはそれを反射的に防いだ。ルデアは幼げに破顔するとタツヒコの大剣を弾き飛ばす。 さらに胸倉を掴んで尋常ならざる力でタツヒコを引き寄せる。


「そうよ。 まぁあなた程度にベラベラ喋ったところで実力差が覆る訳でも無いから良いけどね。あなたはどれくらい保つ?」


ルデアはタツヒコの頭を掴み、膝蹴りを繰り出した。 タツヒコは鼻血を噴き出し苦痛に顔を歪める。


「ぐあっ!!」


よろけた所に細い足から繰り出された強烈な蹴りが側頭部に刺さる。 余波で地面がえぐり返され、タツヒコは隣町の外壁に突き刺さる事でようやく完全に勢いを殺す事に至った。


「ごっ……がはっ!?」


頭から血を垂れ流し、平衡感覚すら失いかけたタツヒコはやっとの事で立ち上がったがタツヒコの視界に入ってきたのは巨大な閃光だった。それを何とか上空へ回避する事で直撃は避けたが街は閃光に飲み込まれ消滅した。


「出鱈目だ……」


「これぐらい規格外じゃないとね」



ルデアはタツヒコを蹴り飛ばした時と変わらずの格好でタツヒコの背後を取っていた。タツヒコはすぐに時間停止と時間加速を併用し、全てを置き去りにする速度でルデアから距離を取り大剣を手に入れるが、ルデアにとって時間と距離の束縛は大した痛手ですら無かった。 それらを振り切ってタツヒコの前に現れる。


「……!!」


時間加速を用いて攻撃を放ったがルデアはそれを蟻で遊ぶように人差し指一つで受け止めた。ルデアはどこか妖艶に笑うと自分の頬に手を当てた。


「私が司るのは嫉妬。ふふふ、軽いわね。あなたは仲間に対して激しい嫉妬を抱いてる。 個性から来る優劣……優劣から来る嫉妬。人は愚かしい生き物ね。個性・優劣なんか無ければ嫉妬も起こらず平等だと言うのに」


「……何が言いたい?」


タツヒコの言葉にルデアは口角を吊り上げたまま顔をタツヒコの方に寄せた。 ルデアから鼻腔を刺激する良い香りがタツヒコの思考を一瞬だけ支配する。


「他者になりたい、他者への羨望、それらは皆自分にないものを『他者』が持ってるから。他者はどこまで行っても他者でしかない。 自己は他者になり得ない。 自分にない物を他者から求め続けるだけ……その渇きが潤う事は永劫来る事はないでしょう。 人間の欲から来る業そのものだから」


一言一言がタツヒコの心に突き刺さった。

しかし、それらの言葉に耳を傾ける事無く、隙だらけのルデアの首に向け刃を穿つ。 が、ルデアの首に血筋一つ作るに至らない。ルデアは語る。 大層楽しそうに。


「醜い。 自分の弱さが気にくわないでしょう? 他者が羨ましいでしょう? 恨めしいでしょう? そこら辺に転がっている石ころや草木、蟻にすら嫉妬し、焦がれ望んだ事でしょう? 草木になれたら、石ころになれたら、蟻になれたら……誰もが一度はそう思ったでしょう。 人は無価値なものにすらも嫉妬心を抱く生物。それがどんなに無意味なものでもね」


タツヒコの乱撃を避けようともせずに喜々として語るルデア。 不意にルデアはタツヒコの大剣を最低限の動きで躱すと懐に潜り込み、鳩尾に拳を叩き込む。


「ぐっ……!?」


堪らず両膝を突き悶絶するタツヒコにルデアは嘲笑を浮かべる。


「ああ……ああ、こうやって自らが積み上げてきた強さを他者に否定される気持ちはどう? 堪らなく悔しいでしょう? ねぇ?」


後頭部を踏み潰し地面に顔が埋まる。 すぐに地面が血に染まり、血だらけのタツヒコが姿を見せる。 ルデアはタツヒコを殴り飛ばすと右手を天高く掲げる。 掲げた右手の掌から伸びるは複数の魔法陣。それが連なってゆっくりと回転している。


「終わらせてあげる。 蟻にすら劣る人間さん」


魔力で形成された長大過ぎる光の刃。 否、魔力が刀身を形作ってるだけに過ぎない、圧倒的な暴力の象徴。 五メートルはくだらないそれをルデアはタツヒコに止めと言わんばかりに振り下ろした。 見事タツヒコに直撃し、光が天を衝く。 猫神の世界でなければ余波だけで世界を壊しかねないそれはやはり圧倒的な暴力そのものだった。 タツヒコの姿を確認するまでもないと判断したのかルデアはゆっくりと歩いていく。


()ぅ……待てよ……まだ、まだ終わってねぇ」


その声がルデアの歩みを止めさせた。ルデアは振り向いて意外そうに目を丸くさせると口元を手で隠す。


「意外ね。 今ので完全に潰せたと思ったのに。 ふふ、存外楽しめそうね。 耐え抜いたご褒美に一つ、良い事教えてあげる。私の性質を。 私が司るのは嫉妬って言ったわね。 つまり、他者が望んだ性質・能力を私は既に持っている事になる。 これがどういう意味か分かる?」


「はぁ……はぁ、どういう……?」


息も絶え絶えなタツヒコを一瞥するルデア。 その表情は圧倒的優位者が浮かべるものだった。


「あなたの負けは既に決まっているって事。

私から見ればあなたは酷く無価値に等しい。 そんなあなたがどうやって私に勝てると言うの?」


残酷に放たれたそれは事実だった。 その事実にタツヒコは歯噛みする。


(確かに、確かにそうだ。 だが、それがどうした。 人の事を勝手に無価値と決め付けるのは間違ってる。 嫉妬のルデア……こいつは強い。 認めよう。 けどな、俺だって負けられない気持ちはあるんだ……気持ちで負けてたまるかよ!!)


タツヒコの目に意思が宿る。 局所的な時間加速を行い傷付いた身体を回復させ爆発的な加速でルデアの身体目掛けて刺突攻撃を繰り出した。


「あなたの攻撃じゃ私は倒せない。 なんでこんな事にも気付かないの?」


「俺は諦めの悪い男なんでな。 いくらでも喰らい付いてやるさ!」


「ふん、馬鹿みたい」


タツヒコの攻撃を受け流しつつルデアはタツヒコを観察していた。 嫉妬を抱いてはいるが確かに強い意思も存在している。 そしてその強い意思がタツヒコの強さに直結していた。


(これは……。 なるほど)


受ければ受けるほど力を増すタツヒコの攻撃にルデアは多少なりとも驚きを隠せずにいた。


「はあああああ!!」


極限まで振り切られたタツヒコの攻撃はルデアの身体を貫く寸前で地面へと無理矢理軌道を変えられ、タツヒコの身体が地面へめり込む。


「ぐっ……!? があああっ!?」


「重力操作よ。 あなた如きじゃ破るのは無理だと思うけど。 力を望めば望む程私の力になるから頑張ってね。 蟻もその気になれば人は殺せるから、一縷の望みに賭けてみるのも良いかもね。 じゃあね〜」


ひらひらと手を振りながら空中へ浮かぶと空間に穴を開けて消えるルデア。 空間転移か何かだろうが今のタツヒコにはどうだって良い事だった。


「ぐぐ……っ、ぐぅおおおおお!!! お、おおおおおお!!!」


一体どれだけの重力が掛かっているのだろうか。 タツヒコも必死になるがどれだけ力を加えても脱出するのは難しかった。 さらに、この状態でルティナの影や他の七罪獣に襲われたら死ぬのは免れない。


「ああ……っっ!! ああああああああ!!!」


タツヒコの怒りにも似た咆哮が虚しく響いた。


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