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調査開始

シルヴィア達はレルシュ先導の元に歪みの調査を行なっていた。


「シルヴィア様、我々の問題にご協力頂き感謝致します」


レルシュが前を見ながらもシルヴィア達に改めて感謝の意を示す。


「いや、そんなの良いよ。 手伝わない訳には行かないでしょ? あとその言葉は終わった後に言って欲しいな」


「分かりました」


そのやり取りを終えた後は城周辺の森を探索するが、中々見つからず調査は難航した。シルヴィア達は大木にもたれ掛かって小休止に入る。


「中々見つからねぇな……。 本当に『異質な存在』ってのはいるのかよ?」


タツヒコがレルシュに疑問を投げ掛けるがレルシュは表情を変える事無く淡々と告げる。


「もちろんです。 まだタツヒコ様達は猫神様から力を与えられたばかりで慣れないかも知れませんが必ずその力を発揮する場面がやってくるでしょう」


「その発揮出来る場面ってのが訪れるのかどうかも怪しいけどな」


タツヒコは嘆息すると空を見上げる。 太陽が煌めき、木々のさざめきがタツヒコの気持ちを多少だが抑えてくれた。 ジッポの金属音が響く。 タツヒコが見ると長谷川がタバコを吸っていた。 長谷川は煙を吐き出すとタバコを指で挟む。


「まぁ良いじゃねーかタツヒコ。 俺らの役目はこの世界の歪みの修正だ。 正直言ってこの広い世界にどれだけの歪みがあるのかもまだ把握するに至ってねーんだ。 こう言う言い方はおかしいかも知れねーが焦らず行こうぜ」


「それもそうだな。 焦って本来の目的を見失ったらそれこそ元の木阿弥だ」


「お、何だお前。 難しい言葉良く知ってるな? 俺の世界の言葉だぞ?」


「橘んとこの世界に行った時に辞書っていうので読んだんだよ。 長谷川さんの言うことには賛成だな。 焦りは何も生まねー」


タツヒコは自分自身に対してもそう言い聞かせるように呟く。 それを見ていたシルヴィアは微笑を浮かべスッと立ち上がる。


「そろそろ休憩はおしまい。 さぁまだまだ頑張るよ!」


「待ってください。 何かが近づいてきます。接近反応ありです。 皆さん構えてください」


シルヴィアを手で制したレルシュの言葉に全員が戦闘態勢に入る。 次の瞬間、森の半分が消し飛ぶ程の衝撃と光がシルヴィア達を襲った。 辺りは砂埃に包まれ視界が奪われる。


「ちっ、視界が……」


「慌てるなタツヒコ。 俺の停滞能力を発動させているから相手は身動きが取れないはずだ。視界を晴れさせて一気に叩くぞ!」


「 "ケミカル・ブラスト" 」


シルヴィアが風量を調節した魔法を行使し視野を回復させるとそこには影が具現化したような存在が一体と、人型の魔物が七体いた。

シルヴィア達は影達が異様な存在だという事に一目で気が付いた。 だからこそ迅速に処理をしようという意識が働く。 全員が一撃の元に影と魔物を消滅させた。


「今のが……『異質な存在』か。猫神に力を与えられてなかったら分からなかったかもな」


長谷川が何気なく呟く。そして戦闘態勢を解除しようとした瞬間、無数の闇の魔弾がシルヴィア達に向けて放たれた。


「っっ!?」


間一髪で躱し、どこから放たれた攻撃なのか状況を確認する。 上下左右を確認したがどこにも反応は無かった。


「驚いたね。 まさか全員に躱されるなんて。 いやはや強くなったものだ。 ボクも嬉しいよ」


一瞬前まで何も存在しなかった空間に声がしたと思ったらそこには真っ黒いローブで全身を覆った少女の姿が。 フードも被っており目元は見えなかったが、その声と姿はシルヴィア達は見覚えと聞き覚えがあった。 それを認識した瞬間、全員が全員とも殺気を放ち威嚇をする。


「大罪の……ルティナっ!」


シルヴィアが歯噛みして叫ぶ。大罪のルティナと呼ばれた少女はそよ風を感じるような態度でシルヴィア達の殺気を流すと嬉しそうに微笑を浮かべた。


「随分と久しぶりな感じがするねシルヴィア。 まだ会ったのはこれで二回目だっていうのにまるで親の仇を見るような目だ。そうだ、ちょうどボクも退屈だから君達で退屈しのぎと行こうか」


次の瞬間には攻撃モーションに移っていた。アイラに放たれた蹴りはアイラが躱した事で外れたがそれにアイラが応戦する。 超高速で行われるそれは一撃一撃が空気を裂き、踏みしめる大地がひび割れる程だ。 ルティナの頬を掠め、フードが取れると素顔が露わになる。 ルティナは驚いた表情をするもすぐに好戦的な笑みを浮かべる。


背後からタツヒコが胴に斬りかかるが分かっていたかのようにタツヒコの頭に手を置き、それを利用してタツヒコを乗り越える形で攻撃を躱す。


「殺気がダダ漏れだよ。 躱してくれって言ってるようなもんだ。 "ブラックレイン"」


タツヒコの頭を掴んでいる手が暗黒に染まり、零距離で黒い魔弾が放たれ全弾直撃する形となった。 上半身から煙を出しながらゆらりと倒れるタツヒコ。 それに感化されたシルヴィア達が怒りを滲ませながら猛撃を繰り出す。 その全てをルティナは躱すとシルヴィアは顎を、アイラは胸を、長谷川は足に打撃が浴びせられた。 決して重い攻撃では無かったが攻撃の手を休ませるには充分だった。


「強くなったって言ってもこんなもんか。 攻撃も酷く単調だ。 躱すのに造作も無い。 まだまだボクを楽しませれる相手には程遠いね」


多少落胆の色を浮かべるルティナだったがシルヴィア達を煽る事でさらに戦闘を楽しもうという思惑の一つでもあった。 挑発だとは分かっていたがそれに乗った人間がいた。


「 "アンチフィールド" あなたはここで倒します」


アイラだった。相手の能力を含むスペックを強制的に三割まで下げるアンチフィールドを発動しルティナのスペックを極限まで落としていく。 そして認識を超える速度での攻撃を放ち、ルティナを遥か彼方まで殴り飛ばす。 地面を深く抉り、木々をへし折りながら飛んでいくルティナをただ見ている訳では無かった。全員が猛攻を仕掛ける。 シルヴィアは剣戟の雨を利用した無限剣戟爆破を浴びせ続け、長谷川も無数の斬撃を浴びせる。 タツヒコも加速能力で爆破の合間を縫いながらルティナの身体を切り刻んでいった。


一通り済んだ後、無駄な消耗を防ぐためシルヴィア達は一旦攻撃の手を止める。 不測の事態に備え警戒は解かずあらゆる事態に対応出来るように細心の注意を払いながら倒れているルティナを逃げられないように一定の距離で囲い、シルヴィアの空間干渉能力で周りの空間を歪めて行く。


すると微動だにしなかったルティナの指が微かに動くとゆらりとルティナが立ち上がった。 砂埃が立つのも構わずに素早く立ち上がる。 その動作でシルヴィア達の警戒心を一層強くさせたのは自明だった。


「……良い攻撃だった。 ボクに能力を出来る限り見せずに効率良く如何にしてボクを倒せるか考え抜かれた結果としての攻撃方法なら良いチームワークのそれだ。 少しは楽しめそうじゃないか……? 個人個人の力ももう少し見る必要があるね。 能力は使いたく無かったがこの人数相手だとボクも流石にキツイ。 だから少し本気を出させてもらう……"七つの大罪"」


ルティナから膨大な闇が流出し、その衝撃でシルヴィア達を吹き飛ばすと逡巡を見せた後に襲い掛かったのは長谷川だった。 まだ態勢を立て直せていない長谷川にルティナが顕現させた闇が凝縮された剣が振り下ろされたがレルシュかが割って入り、甲高い金属音が周囲に木霊した。


「……君は?」


ルティナの表情がジト目になり受け止めたレルシュへと問い掛ける。 レルシュはルティナの剣を押し返すとそれの反動を利用して胴を薙ぐように攻撃を放つがすんでのところで躱される。


「猫神様の力を奪った存在に名乗る名はありません。 ここであなたを粛清します」


「へぇ、面白い。 やってみなよ」


「では遠慮無くやらせてもらいます」


レルシュが言い終わったと同時に世界が塗り替えられる。 世界は燃え上がったような赤に染まり空間が改変される。 レルシュは大剣を具現化させており、空間を蹴って加速する。 レルシュはルティナを右の脇腹から斬りあげるように攻撃したがルティナが纏う闇に吸収された。


「惜しいね。 "暴食"」


即座にその攻撃に上乗せしたルティナの攻撃がレルシュを襲うがそれを難なく斬り伏せる。


「っ!」


ルティナが背後から迫る攻撃をいなす。そしてそこから生まれた隙は確実にレルシュへの気を逸らした。


「その纏っている闇、邪魔ですね。剥ぎ取らせてもらいます」


レルシュは文字通りルティナから闇を剥ぎ取るとそれを握り潰して霧散させる。それは明らかにルティナの表情を一変させる事態だった。


「なっ!? 君は……いや、貴様は何者だ!?

今のボクに干渉出来るような存在は……っ!!」


ルティナの言葉もレルシュが繰り出す攻撃に遮られ、押し負けて行く。 そこにシルヴィア達も加わり、ルティナ一人では明らかに状況が厳しくなっていった。


「ちっ、今日のところは引かせてもらうよ。さすがに分が悪過ぎる。 だが次はこうは行かないよ。 結構な退屈しのぎにもなったし悪い気はしないけどね」


「待て! 逃げるのか!!」


「ボクだってまだ死にたくないんでね。 こいつで遊んでいなよ。" 影絵(シャドーアート)"」


ルティナが闇に包まれて気配が消えたと同時にルティナを模した黒い影が出現した。 影はすぐにシルヴィアによって消滅したがそれによってルティナの気配が消失した。 ルティナを逃したシルヴィアは悔しさを浮かべながら歯噛みした。


「大罪のルティナ……次こそは必ず……」


その日はルティナの出現以外は特に異常が無く、ルティナの出現だけを猫神に伝えて終わりを迎えた。





ルティナはローブに付いた埃を払いながら自身の力を高めていた。 シルヴィア達に数では劣ってはいたがそれと引けを取らない実力を持つという事を教えれたという点においては今日の戦闘は有意義なものと言えただろう。


(戦闘結果がどうであれ、奴らの実力と戦闘能力の分析は済んだけど、あの猫耳女……)


ルティナの脳裏にレルシュの姿が浮かぶ。 自身の能力の総体である闇を剥がしたレルシュはルティナの中でかなり警戒すべき敵であり用心すべき敵である事を知れただけでもかなりの収穫だった。


「あれは空間支配や世界改変とは別の能力だな。 能力奪取という感じでも無かった……。あらゆる状況や能力に対応する七つの大罪の能力そのものを剥がすなんて……奴は何者だ?」


ルティナの脳内は疑問で埋め尽くされたがしばらくはそれが晴れる事は無く、ルティナの思考とともに闇夜に沈んでいった。

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