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取り戻した未来

メイルに出してもらったソファーで水を飲みながらリラックスする氷雨。 その表情は先程までとは別ものだった。


「あー……さて、大体可能性を引き出せたからもう良いわね」


とシルヴィア達を順に見ながら氷雨が口を開く。 長谷川のリアクションだけは違った。

次は自分の番だと言わんばかりに自身の事を指指していた。 が氷雨は肩を竦め嘆息を零す。


「はぁ……長谷川さん、悪いけどあんたはもう充分強いわよ。 この中で一番の強さと言っても過言ではないわ。 それにあんた自身も気付いてるはずよ」


「そこまで気付いてたか。氷雨……俺はあの戦争で戦況を読む能力と流れを操る能力を感覚的に覚えたんだがな。 社畜時代はこういう能力も必要だった……あの戦争で表に出ただけの事だ」


と長谷川が真面目な口調で話す。 それを氷雨は鼻を鳴らし腕を組むとまた口を開いた。


「そうね。 あとあんたと戦うと色々ヤバそうだから遠慮したいってのもあるわ。 私の本能がそう訴えてる」


そう言う氷雨はソファーから立ち上がると大きく伸びをする。 伸びをする事で身体が反り、氷雨の胸が強調される。 それを長谷川が鼻を伸ばしながらガン見し、タツヒコが横目で見る。


「ふんっ!」


「ごはっ!!」


氷雨の認識を超える攻撃が長谷川とタツヒコの身体に直撃し全身で悶える。 それをシルヴィアが引き笑いを浮かべながら見ていた。


「うぅ……あれ、私……?」


メイルに膝枕されていたアイラが目を覚ます。 それに気づいた氷雨とシルヴィアがアイラに駆け寄ると座り込む。


「アイラちゃん大丈夫?」


「ようやく目を覚ましたわね。 ちょっと心配しちゃったじゃない」


とそれぞれの反応が違うのにアイラは微笑みながら軽く頭を下げる。


「ありがとうございますシルヴィアさん、氷雨さん。 あの、氷雨さん……私の能力どうでしたか?」


「あんたそれを私に聞くかしら……結構良い線行ってたわよ。 自由に発動出来れば(・・・・・・・・・)ね」


氷雨の発言にアイラは驚きを隠せない表情をした後に俯き、自信を無くした声を絞り出す。


「実は今も発動させようとしてたんですが中々上手く行かなくて」


「あんたは私達を殺す気かしら? この距離で発動させたら確実に私の脳天貫いてるわよ?」


「氷雨さんは殺しても死ななそうじゃないですか。 だから大丈夫ですよ。 うーん、何だろ……気持ちの問題かな?」


アイラが首を傾げ、そのアイラを青筋を浮かべながら鬼の形相で震えてる氷雨をメイルとシルヴィアがたしなめる。


「十中八九そうでしょうね。 危機的状況に陥らないと発動しないようになってるんじゃないの?」


気持ちを落ち着かせた氷雨が疲れたような表情を浮かべてアイラを見やる。 その言葉で確信に変わったのか少し落胆した様子のアイラだったが直ぐに顔を上げる。 そしてメイルの方に振り向くと軽く微笑んでから頭を下げる。


「ありがとうございましたメイルさん。 だいぶ楽になったのでもう大丈夫です」


「ううん気にしないで。 また辛くなったら言ってね?」


はい、と笑みで返しながらおもむろに立ち上がるアイラ。 その小柄な体躯は氷雨と比べて見ても顔の半分くらいの差の身長しか無かった。


「いつか自分の意思で自由に顕現出来るようになって見せます」


その決意を胸にアイラの心に闘志が静かに広がりを見せ始めたのだった。 アイラが目を覚ましたのに気が付いたのか長谷川とタツヒコもアイラの方に近寄ってくる。 大丈夫と言うように笑みを浮かべるアイラに長谷川とタツヒコは胸を撫で下ろすような表情を作った。


「さて、次はどうするのかな? 何か私達で手伝う事はある?」


シルヴィアがメイルに質問をするがメイルは首を横に振る。


「先程国から亜人の差別を禁止するお達しが出ました。 これで亜人達の未来は守られる事でしょう。 私達は自分達の、引いては亜人達と全ての人間達の架け橋になる事が出来そうです……未来を取り戻したんですよ」


涙ぐんだ声で語るメイルは指でそっと涙を拭うとこれ以上ない笑みを浮かべた。 シルヴィア達はその言葉にまるで自分達の事のかのように喜びを表現すると皆で分かち合った。


「ならもう私達は必要無いんじゃない? 少し早いけどお別れね」


と氷雨が口にすると、シルヴィアも申し訳なさそうにメイル達に視線を向けると口を開いた。


「そうだね。 アイーシャ達の脅威を排除出来た以上は私達がここに留まる理由はもう無いかな。 まだ敵対勢力がいるかも知れないけど、二人の強さは本物だから何とかなりそうだしね」


「ああ……お前達には本当に世話になった。 何から何までな。 本当にありがとう。 俺は……俺達はお前達と出会えて本当に良かった。 向こうでも達者でな」


ブラストとメイルが頭を下げて敬意を示す。 それにシルヴィア達も照れながらもメイル達に倣って頭を下げる。


「私達の方こそ、見ず知らずの私達を信頼してくれてここまでやってくれた事に感謝しなくちゃね。 君達が居なかったら私達は死んでたかも知れないし」


「それはお互い様だろ? ふっ、さぁそろそろお前達を固有空間から出すぞ。 ……元気でな」


「シルヴィアさん達には感謝しても足りないくらいお世話になりました。 ありがとうございます。 また出会える事を祈ってます」


メイルとブラストが再度お礼を述べるとシルヴィア達の姿が歪み始める。 奇妙な感覚と共に地面に着地する感覚を感じながらシルヴィア達は空を見上げる。


「この世界ともお別れか。 戦いの連続だったけど、悪くない日々だったな」


シルヴィアの言葉と共に上空に巨大な魔法陣が描かれる。 そして強い光が世界全体を覆うとシルヴィア達はこの世界から姿を消した。





「あいつら、もう行ったのか。 なんだかんだで居なくなると寂しいな。 短い間だったけど」


ブラストがポツリと零す。 それにメイルが同調するように微笑みかける。


「そうだね。 でも、いつか信じていれば必ず会えるよ。 私達も力を磨かないとね」


「ああ……」


ブラストがメイルの頭に手を置こうと差し伸べた時、固有空間に花柄のフリルの付いた白いワンピースを身に付けた銀髪の髪を持つ少女がブラスト達の目の前にいた。それに気付いた時には銀髪の少女はワンピースの裾をちょこんと持ち上げながら二人の方に目を向ける。


「ようやく会えましたね……深淵竜ドラゴメイルとブラスト・シルヴァ」


「っ!? てめぇ! どっから入って来やがった!!」


所有者以外からの干渉を完全に拒絶する固有空間内に突如入って来た謎の侵入者にメイルとブラストは全ての力を解放し、厳戒態勢にあたる。 銀髪の少女は無表情から眉を多少動かすとわざとらしく頭を垂らした。


「これはこれは。 自己紹介がまだでしたね。 私の名前はサラ。 貴方達の持つ『力』の回収に来ました。 元は私の力です。 返して貰いますよ……世界を改変する力の一部を」


自身をサラと名乗る銀髪の少女はメイル達に金色の瞳を向けながら淡々と告げる。 メイル達はこのサラという少女の発言の意図が見えないのか眉をひそめる。


「『力』? どういう事だ。 この力は俺らの力だ。 何企んでるのか知らねぇが、邪魔するなら容赦無く潰すぞ!!」


ブラストの言葉が可笑しかったのかサラは嘲笑を浮かべた。


「少し計画が狂い始めてるのよ。 私の予想を遥かに超える速度で彼女達(・・・)は成長して行ってる。 だからここらで『力』の回収に踏み切った訳。 返してもらうわ。 私の力を」


サラが腕を軽く振るうとそれだけでブラスト達が吹き飛ばされる。


「がっ!! てめぇ!!」


ブラストは固有空間の力を使い全ての事象を操作する。 サラのいる周囲の空間が爆発を起こし空間が捻じ曲がる。


「力の使い方がなってませんね」


その声をブラストが認識した時にはブラストの左腕が根本から切断されていた。


「があああああっ!?」


身体が反り上がるがサラは容赦無くがら空きの腹部に蹴りを入れる。 それを無防備の状態で受けたブラストはかなり遠距離まで飛ばされる。


「おじちゃん! よくも!」


ブラストをやられた事でサラに対し激情を浮かべるメイルは奥の手全てを解放し、サラの時空間に干渉し、その隙を見て背後から鋭利な爪を以って刺突攻撃を繰り出した。


「全く以って温い。 "ジ・アブソリュート"」


時空間への干渉を物ともせずにサラの能力が発動される。 その瞬間、サラに攻撃を仕掛けた筈のメイルが激しく地面に叩きつけられ、全ての能力が強制的に解除された状態に戻ってしまった。


「がっ……!? ぐっ……あなた、一体何者?」


メイルが全身の痛みに耐えながらも何とか立ち上がって見せ、サラの正体を探ろうとする。 しかしサラはそれらを意に介さず、指を動かすと片腕の無いブラストがメイルの側に乱雑に落とされる。


「私の正体? 貴方達には過ぎた情報です。

既に力は得た(・・・・・・)事ですし、貴方達はもう用済みです。 何、全ての力を奪った訳じゃない。 ほんの一部を返して貰っただけ。 これからの生活に支障は無いでしょう。

まだ勝負を続けるというのなら話は別ですが」


サラの纏う雰囲気が一変する。 金色に輝く瞳が一層光を増す。 それにメイルは背筋が凍り、悟ってしまった。


(この人は……氷雨さんと同類の力の持ち主だ……)


「ほう……流石ですね。 ですが、私の力はあの力とは似て非なる力。 おっと……喋り過ぎた。 では私はこの辺で。 もう二度と貴方達と会う事も無いでしょう。 ではさようなら」


サラが指を鳴らすとメイルは意識が事切れたかのように地面に崩れ落ちた。 サラは二人を闇へと(いざな)うと落胆を隠しきれない表情を浮かべた。


「『力』の回収は済んだ。 これでもまだ彼女達(・・・)には遠く及ばない。 いつか追い付いてみせる。 私も高みへ……」


そうサラは言い残すと固有空間から姿を消してしまった。

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