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全能なる魔女VS絶氷の戦姫

カトレアと対峙する氷雨は自身の右手に視線を落とし一瞥する。 僅かに震えがあった。 未知なる恐怖か武者震いか氷雨には後者のように思えた。 右手に氷華を具現化させるとカトレアを見る。 カトレアはただただ笑みを浮かべていた。


(攻撃する素振りを見せない。 ちっ、舐められたもんね。先に攻撃して良いですよって訳?)


氷雨は歯噛みすると氷柱を出現させカトレアに向け射出する。 カトレアは何をするでも無くそこに立っているだけで氷雨の放った氷柱を砕いた。 それに氷雨は露ほどの感情も抱かず瞬間移動をすると同時に氷華で斬りつける。


「視えてるわよ朧 氷雨ちゃん?」


氷雨の剣を左手の甲で受け止め、尚且つ首だけを向けてカトレアの双眸は氷雨を射抜いていた。 氷雨はそれを驚きつつも表情には出さず、氷柱を射出しながら距離を取る。


「へぇ……さっきまで私の名前すら知らなかったのに、何故分かるようになったのかしら? アイーシャを取り込んだから?」


「ご名答ね。 アイーシャの記憶からあなたの強さを大体感じ取れたわ。 同時にあなたに関する未来の正確性も増した。 つまり、これで私に死角は無くなったのよ!」


「そう……それが続くと良いわね」


氷雨の一閃。 有無を言わさぬ一撃だったが 寸前に回避行動を取ったカトレアのローブが少し切れただけだった。


「……」


氷雨は鋭い視線でカトレアの動きを追う。 対するカトレアはやはりせせら嗤いを浮かべていた。 嘆息を零したカトレアは一層口角を歪める。


「チマチマ戦うのは止めにしましょう氷雨。 お互い派手に行こうじゃない!」


その言葉に氷雨は眉根を寄せる。 軽く舌打ちするが攻撃する手は止めなかった。


「"適応因子"」


適応因子を発動させると氷雨は自身の戦闘能力を限界まで引き上げると認識を超える速度でカトレアに迫る。 認識の外からの攻撃は対処出来る訳が無い。 そう確信しカトレアの身体を斬り裂いた。 が、血飛沫が出る訳でも苦悶の声が聞こえる訳でも無かった。


「未来視って良いと思わない? こんなにも容易く躱せるんだから」


「ちぃっ!」


カトレアの魔力の奔流が氷雨を襲うがそれをいなす。 さらに魔力を練り上げたカトレアは黒い魔力の塊を音速を超える速度で氷雨に射出した。 氷雨は氷結結界を展開させると即座にそれを凍らせ、地面から伸びた氷柱と氷結面を合わせてそれを止めた。 氷雨は苦い表情を浮かべながらカトレアを睨む。


「クスクス、そんな睨まないで良いわよ氷雨? あなたの心の内と未来は良く視えてるわよ? それとあなた……ほとんど全力で戦ってないようだけど私を舐めてる訳? 手を抜いた状態でこの私に勝てるとでも思ってるのかしら?」


殺気が肌を刺すが氷雨は尚も無言だった。 安い挑発だと言うのは分かりきっていた為、それを無視してカトレアの移動を先読みしての攻撃は未来が視えているはずのカトレアを驚かせた。


「っ!?」


声が漏れ、氷雨の攻撃が頬を掠める。 その様子に氷雨は気付き、小さな笑みを漏らした。


「未来が視えてるんじゃ無かったのかしら? 私の攻撃で驚いたって事はさっきの発言はブラフだった? 」


先程のカトレアがやった行為と同じように氷雨も挑発をする。 プライドの高そうなカトレアなら例え未来が視えていても挑発に乗ってくると踏んだからだ。 案の定カトレアは血管を浮かび上がらせながら激情を露わにした。


「殺す! 私を怒らせた事を後悔なさい! 押し潰れなさい!」


カトレアが言い放った瞬間から氷雨を含む周囲十メートルの重力が百倍まで引き上げられるが氷雨はその場に笑みを浮かべながら立っていた。 そして肩を竦めると嘆息する。


「残念ねカトレア……。 私にそんなのは効かない。 あらゆる空間、環境に細胞レベルで適応出来る適応因子にたかが重力操作如きで止められるとでも? 浅はかだったわね!」


カトレアの認識を超える速度で移動し、攻撃を繰り出す氷雨。 時間にすら縛られない域にまで突出したそれはカトレアを一撃で飛ばす。


「ぐっ……、この小娘がああああ!!!」


さらに切り傷が増えるカトレア。 姿の見えない氷雨に苛立っているのか語気に怒りが滲んでいた。 そんな折、姿は見えないが氷雨の声が聞こえてきた。


「あんた、そんな弱点丸出しの能力で良く生き残れたわね」


刹那、カトレアの左目に斬撃が直撃した。


「がっ!? ぐぅあああああ!!」


血飛沫が舞い、すぐにカトレアが自身の左目を両手で覆う。 そんな隙を見逃すはずも無い氷雨は魔力を練り上げるとカトレアを天を閉ざすような氷に閉じ込めた。


(ちっ、今の所圧倒出来てはいるけどいつ形勢を逆転されるかも分からない。 今の内に畳み掛けておきたいわね)


「"拒絶の炎"」


拒絶の炎を身に纏う氷雨。 天を焦がす勢いで燃え上がるその炎は全てを拒絶する絶対の炎。 氷雨は拒絶の炎で炎剣を形成させると振り下ろす。 圧倒的な熱量が空間をも歪ませ、ただただ氷雨はカトレアを見つめていた。


「お望み通り全力で相手をしてあげるわ。 手加減して勝てるなんて最初(はな)っから思ってない。 特にあんたのような強敵わね!」


裂帛の気合いと共に地面が爆ぜる。 時間と距離の拘束を拒絶し、時間と距離を超越した移動を可能にした氷雨の絶対速度は先程の氷雨よりも速かった。 そして分厚い氷壁を紙のように断面から上の部分を蒸発させるように斬り飛ばす。 途端に爆発が起こるが気にも止めずにカトレアの身体を炎剣で胴体から上を消しとばすつもりで薙ぐ。


しかし手応えを感じず、気付いた時には氷雨は見えざる力により遥か遠方に飛ばされていた。 さらに蹴りが氷雨を襲い、勢いのついた状態のまま街中へと突っ込む。 砂埃が舞い、人々の阿鼻叫喚が木霊する。 氷雨は鬱陶しそうに顔をしかめながらも瓦礫に埋もれた身体を起こそうと力を入れると炎が滾り、瓦礫が粉微塵と化す。

自由となった身体で反撃に移ろうとさらに炎を滾らせる。 刹那、光の暴力が氷雨諸共街を飲み込んだ。





街を軽々と飲み込んだカトレアの放った一撃はかなり離れた距離にいたシルヴィア達にも余波となり襲い掛かる。


「マズい!!」


咄嗟にシルヴィアは空間干渉を行使すると自分と仲間達の空間を歪ませて直撃を回避する。 何とかやり過ごすと今の衝撃で目を覚ましたのか長谷川達の意識が戻った。


「ぐっ……ぅぅ、 俺は……?」


「つっ、長谷川さん、アイラにサラディウスも、目を覚ましたか」


長谷川がタツヒコの肩に掴まりながらも何とか身体を起こす。 アイラやサラディウスも自力で立ち上がると今の事態を飲み込んだのか、殺気を全開にして警鐘を鳴らす。

今しがた街1つを消し飛ばした元凶のカトレアが拍手しながらシルヴィア達の上空に現れる。


「流石の状況判断力ねシルヴィア。 咄嗟に空間を歪めて余波に飲み込まれるのを防ぐなんて。 けど、その手負いの身体じゃあどこまでやれるかしらね?」


「っ……カトレア!」


シルヴィアの表情に曇りが見え始める。 それにカトレアは冷笑を浮かべ始める。さらに手を大仰に広げ、口を開いた。


「シルヴィア、前にも言ったけどこんな世界つまらないと思わない? だから私はこの全世界を破壊し、私の力で世界を再創生させる! 私の理想世界を創り上げるのよ!!」


大言壮語。 カトレアの力を知らぬ者ならそう嘲笑うだろうがカトレアの力を知っているシルヴィアは絶句した。 シルヴィアの反応に愉悦を感じてるのか狂気を滲ませたカトレアの笑みがさらに歪んでいく。 シルヴィアやアイラ達カトレアの力を知る者は動けなかったが、カトレアに牙を剥いた二名がいた。


「てめぇなんぞに俺たちの世界を壊されてたまるか! 朽ち果てろ!!」


大気を震わす程の音圧とともにカトレアのすぐ側まで移動し、攻撃態勢に入ったのはメイルとブラストだった。 しかしカトレアは指一本でブラストの攻撃を止め、メイルは斥力操作で逆方向に飛ばし、追撃に雷球を落とした。


「あなた達の奥の手なら私でも対応出来るかどうか微妙な所だけど、それを行うには空間に干渉しなければならない。 そのワンステップがあるからこそ私には勝てない。 残念だったわね」


カトレアが指一本でブラストの身体を押し返すと、何も無い空間から光の球が射出され、それがブラストの身体に触れると大爆発を起こした。 ブラストは全身から煙を出しながらゆっくりと仰向けに倒れる。


「やれやれ。がっかりね。 この程度で世界最強レベルだなんて。 まだ氷雨の方が強いわ」


カトレアはがっかりしたように肩を落とすと嘆息を零す。 そしてシルヴィア達に目を向け膨大な魔力を球状に具現化させて周りに浮かせ自身も浮遊する。 しかしそのカトレアが不意に吹っ飛ばされる。 一瞬遅れて余波が来るがそれは炎で遮られた。


「ふん、殴ってくださいって言ってるようなものよ。 よくもやってくれたわね。 情緒不安定女」


拒絶の炎を纏いながら氷雨がシルヴィア達の前に降り立つ。 さらにシルヴィア達の周囲に炎の壁を作る。


「その中にいれば安全よ。 どうやら私の拒絶の炎はあいつと相性が良いみたいね。 私に反応出来なかったのが何よりの証拠よ」


炎を滾らせる氷雨の背中は何よりも頼もしいものだった。 氷雨は視線を鋭くさせると憎悪に染まったカトレアが現れる。そして氷雨を睨み付けると禍々しい程の殺気を漏らしながら口を開いた。


「氷雨、あなただけは嬲り殺してやる。 私の全力でねぇ! 潔く死になさい」


そんな氷雨は腰に手を当てて鼻でカトレアを笑う。


「来なさいよ。 私も全力で迎え撃つ」


カトレアの瞳の色が紫色に変化し、氷雨に潰されたはずの左目も傷が癒えており全身にドス黒いオーラを纏う。 氷雨も炎剣の鋒に小さな炎球を形成させてカトレアに向ける。


「『外れる事を拒絶する』」


氷雨のその言葉と共に炎球は既にカトレアのドス黒いオーラを貫通していた。貫通した炎球はその小ささからは考えられない程の熱量を撒き散らしながら遥か後方で爆散した。


「ちっ」


氷雨は刺々しく舌打ちすると時間を超越した行動でカトレアの認識を超える速度の刺突攻撃を繰り出す。しかしその一撃はカトレアのオーラに多少触れる程度で静止していた。 カトレアは氷雨の攻撃が自身の防御を打ち崩せないと認識すると氷雨に凄絶な笑みを垣間見せながら口を開いた。


「クスクス、何故こういう考えに至らなかったのかしら? 未来視が出来るという事は未来を自由に改変出来ると……。 "未来改変"。 これもオールブラッドで出来る能力の一つよ」


「未来改変? 上等じゃない。 それを私にバラした事すぐに後悔させてあげるわ」


全能なる魔女は嗤う。 対するは絶氷の戦姫。

氷雨はさらに炎を増大させると不死鳥を形成させ、カトレアから距離を取る。


「カトレア、あなたの野望は私が打ち砕く。 ここで終わらせてやるわ」


氷雨の紡いだ言葉は氷雨の意思と決意が具現化したものでもあった。

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