再臨する厄災
辺りは強烈な光に包まれ大地が鳴動する。 光が収まった後も大地の鳴動は続いており、まだアイーシャは一人で歪んだ笑みを浮かべていた。 そして『何か』に気が付くと膝をついて頭を垂らした。
「我が先祖、カトレア・ブラッド。 全能なる魔女よ……我が呼び掛けに応えてくださり非常に恐縮であります」
「ああ、そう言うのは良いわ。 あなたがこうするってのは全て分かってたから、ねぇ? アイーシャ・フォン・ゴンハルト」
その何か……全身を黒に染め上げた最凶最悪の魔女はただただ嗤っていた。 アイーシャはシルヴィア達に向き直ると殺気を放つ。 対するシルヴィア達は苦い表情を見せていた。 戦力と呼べる力は氷雨とシルヴィアしかおらず、まともに動けるのもこの二人しか居なかった。
「クスクス……久し振りねぇシルヴィア? あの時はまだ万全の状態じゃなかったとは言え、あそこまで私を追い詰めたあなたが今はこの様……どんな気持ちかしら?」
カトレアは見下したようにシルヴィアに視線を送ると口角を吊り上げる。 シルヴィアは歯噛みし、カトレアを睨み付けるが言葉は返さなかった。
「『下手に言葉を返すと逆上されて殺さなかねない』ね。 全く、魔王たるあなたでも恐怖するものなのね」
「っ!?」
心を読まれたと思ったシルヴィアだが、それが出来ても不思議ではないとカトレアを見やる。 漆黒を思わせる黒の双眸のカトレアは深い闇の一端を覗かせていた。 カトレアはシルヴィアから目を離すと、次は氷雨に目を向ける。 その顔には少し驚愕が混ざっていた。
「あら? あなた……何者? あなたの名前も素性も視えないわ」
カトレアの言葉に氷雨は気付かれないように小さく笑みを漏らした。
「ふん、全能なる魔女が聞いて呆れるわね。私一人分からないなんて。 さて、そろそろ良いかしらカトレア・ブラッドさん?」
剣を抜く氷雨。 その意図を理解したのかカトレアの魔力も高まっていく。 シルヴィアも戦闘態勢に入るがどこか疲労が見えていた。
「ああ、そうそうアイーシャ。 あなた、もう用済みよ」
その腕はアイーシャの心臓を的確に貫いていた。
「カトレア……様?」
喀血するアイーシャは自身の胸を貫いているカトレアに困惑の視線を向ける。 カトレアはそんなアイーシャに対し露ほどの温情も込めずに言い放った。
「悪いわねアイーシャ。 あなたは私をこの場に呼び寄せる為の捨て駒だったのよ。 そして今その役目を果たした。 私に全てを委ね、私中で永遠に生き続けさない」
「ぐっ……貴様ぁ……!! 謀ったなぁ! 私の世界を……こんなところで、終わらせる訳には!」
カトレアの真意に気付いたアイーシャだったが既に時遅く、カトレアに吸収されていった。 吸収し終わったカトレアは愉悦のような笑みを見せながらシルヴィア達を一瞥した。
「なっ、アイーシャ……アイーシャああああ!! き、貴様ぁ!」
アイーシャを吸収され我を忘れ、氷雨の氷柱を打ち破ってまでカトレアに近付くカルティヌス。 しかしカルティヌスの攻撃は見えない何かに遮られ、あってはならない大きな隙を作ってしまう。
「雑魚は引っ込んでなさい」
その一言でカルティヌスは音速を超える速度で岩盤に勢い良く叩き付けられ、地面に倒れる。 それを氷雨の巨大な氷柱がカルティヌスの身体を幾重にも貫き、またもや地面に縫い付けた。
「ふん、勝手に抜け出すからそんな目に合うのよ。 自業自得ね」
唾棄する氷雨にシルヴィアは苦笑いを隠せなかったが改めてカトレアを良く観察する。 そんなシルヴィアに対し、待ったを掛けたのは氷雨だった。 肩を叩く氷雨にシルヴィアは振り向くと思いもよらぬ一言がシルヴィアの耳に入った。
「あんたは休んでなさいシルヴィア。 というか私の戦いを目に焼き付けて起きなさない。 あんたは私が倒れた時の保険よ。 大丈夫、あんた達に攻撃を与えるような真似は一切させない」
捲し立てるように氷雨が言うと、氷雨はシルヴィアを殴り飛ばす事で距離を取らせた。
「なっ……!? 氷雨!?」
「ふん、少しは私を信じなさいよ」
そう呟くと魔力を解放させ力を増幅させる氷雨。 その双眸はしかとカトレアを捉えていた。
「さて始めましょうか……全能なる魔女カトレア・ブラッド」
全能なる魔女はただただ嗤っていた。




