突飛的な助太刀
シルヴィア達が氷雨と合流する三十分前、シルヴィア達は生物兵器との戦闘を強いられていた。
「くっ、このぉ!!」
シルヴィアの攻撃も虚しく空を切り、近くにあった岩が爆発しただけだった。 その攻撃を避けられた事にシルヴィアは若干の憤りを感じたが冷静になるように努めた。
「シルヴィア、伏せなさい! 魔剣・クラディウス!」
サラディウスの声が聞こえると同時にしゃがみ、途端に闇色の斬撃がシルヴィアの頭を掠めて生物兵器に直撃して爆発と旋風が生物兵器を蹂躙した。
「まだだ! ここは私が!」
追撃と言わんばかりにシルヴィアが魔法陣を展開し、無数のナイフを射出する。 ナイフが旋風を突き抜け次々内部で爆発を起こした。
再生しかさせずに行動を封じる作戦だった。
「はぁ……はぁ……くそ、キツイぜ……」
「同感だ……防戦一方って感じだ」
長谷川とタツヒコが満身創痍と言った感じで口を開く。 この二人の実力はシルヴィア達に比べれば劣る為、シルヴィア達のスペックをコピーしている生物兵器相手だと勝つ事は非常に厳しい事になるだろう。
「長谷川さん、タツヒコ君……辛いとは思うけど私達がやつらを倒すから君達はサポートをお願い。 長谷川さんの共感覚で全員の能力を共有するんだ。 出来るかな?」
無茶苦茶とも言える注文だったがシルヴィアの口調は本物だった。
「ああ……やってみる」
覚悟を決めたのか長谷川は凛とした声で返事をする。 それを聞いたシルヴィアは口角を少し吊り上げた。そして射出しているナイフの数と速度を一気に加速させた。
「良い返事だ。 頼んだよ!」
「おう! "共感覚" 」
そして全員に全員の全ての能力を共有状態にさせると爆発が唐突に止み、辺りを静寂が支配した。 爆風の中から飛び出してきたのは六体の生物兵器。 どれも既に再生能力を発動させており無傷そのものだ。 しかし今のシルヴィア達から見れば生物兵器達の動きは酷く緩慢であり隙だらけでもあった。
「凄い……長谷川さんの停滞能力。 良い感じだ」
シルヴィアが静かに呟くと同時に既に生物兵器の頭部が消えていた。 しかし頭部は再生しない。 長谷川の停滞能力は発動者に近付くほどその効力を強めていく。 今のシルヴィアと生物兵器の距離は二メートル。 全ての物事が停止する範囲内だ。
「よし、再生しない。これで……!?」
さらに畳みかけようとした時、シルヴィアの身体に異変が起きた。 シルヴィアの腹部から生物兵器の触手が突き出ていた。
「なっ……!?」
いつ攻撃されたか、攻撃の予兆、動作など考える間も無く攻撃された事実にシルヴィアは驚愕した。 この技を扱える人物をシルヴィアは知ってるからだ。
「これは……氷雨のっ……!」
認識を超える攻撃。 氷雨が最も得意とする攻撃方法の一つである。 しかしシルヴィアは臆せずに長谷川の能力の一つである生命保険を自身に掛けると傷を回復させる。
(まさか、氷雨のスペックまでコピーされてるとは。 くそ、まずい事になった)
シルヴィアは眉根を寄せて生物兵器から少し距離を取る。 レーザーを射出し生物兵器を焼き尽くす。
長谷川やタツヒコ、アイラ達の状況も確かめる為に一度生物兵器から視線を外す。 各戦況は五分五分だった。 長谷川やタツヒコも奮戦しており何とか食らいついている状況だ。
サラディウスやミラディウスも同様だった。
しかし再生能力のある生物兵器の方がやはり分があった。 徐々に押されていき、長谷川の能力も切れた。 手負いのシルヴィア達も回復手段はあったがそれに時間を割く余裕は無く、形勢は依然生物兵器が有利だった。
「がっ!!」
シルヴィアが地面に叩きつけられる。 そして立ち上がろうとするも顔面に蹴りを入れられ鼻が潰れる。 さらに地面に顔面を叩きつけられクレーターが形成させた。
「うぐっ……ぐっ……」
呻く事しか出来ないシルヴィア。 傷だらけのシルヴィアは生物兵器に軽々と持ち上げられると触手で首を絞められる。
「ぐがっ……!? がっ……!!」
「ねぇ、自分に殺される気持ちってどんな感じ?」
生物兵器が触手はそのままにシルヴィアに擬態して耳元で囁いてきた。
(ぐ……意識が……。 こんな、奴に負けるなんて……こんな所で……)
「 "夜の支配者" 。情けないわねシルヴィア……。そこに転がってるお仲間さんも」
シルヴィアが意識を手放し掛けた時、空間が夜に支配され、シルヴィアを拘束していた触手が消滅し、全ての生物兵器が膝を付いた。
そしてシルヴィアとタツヒコには聞き覚えのある声が聞こえてきた。 紅い目と異常なまでの白い肌、それは吸血鬼のメア・ロデウス・クロウデルディアナだった。
メアはシルヴィアを一瞥するとシルヴィアの全身に及ぶ傷を何事も無かったかのように傷だけを消した。
「ふん……感謝しなさいよね。他のお仲間さん達もね」
メアが顎をしゃくった後には既に長谷川達の傷も同様に無くなっていた。 シルヴィアは何故メアがここに居るのか理解が追い付かなかった。
「な、何でメアがここに!?」
「たまたまよ。 ちょっとした野暮用ついでにね。 ここは私に任せなさい。夜の支配者である吸血鬼の強さってのをこいつらに教えてあげるわ」
生物兵器達を一瞥し、凄まじい殺気を放出するメア。 嗜虐的な笑みを浮かべ一気に戦闘態勢に入る。
「離れてなさいシルヴィア。 あなた達は特別だけど、本来はこの"夜の支配者" を発動した私には干渉出来ない。私からあなた達には一方的に干渉出来るけど。 吸血鬼の本領は夜に発揮するもの。 これは強制的に夜にするタイプの時空間支配能力よ」
メアが喋りながら指を動かすと生物兵器の身体がさらに深く地面にめり込んだ。
「ぐぅぅ……何だお前……」
「喋るな。 お前に発言権はない」
メアの冷たい一言で生物兵器の擬態は解け、さらに強力な重力が襲い掛かった。
「待ってメア! そいつらには私たちのスペックをコピーする能力があるんだ!」
「ああ、そういう系の能力も今の私には通用しないから安心しなさい。 そろそろ行きなさい。 出来ればなるべくこっちを見ずに」
「でもメア……この数相手だと……」
「何人相手でも関係無いわ。 まとめて捻り潰すだけよ。吸血鬼の王女を舐めるんじゃ無いわよ」
メアがぶっきらぼうに答える。 何か言いたげなシルヴィアだったが堪え、アイラ達と共にアイーシャの所へ向かっていった。
「ふぅ……行ったわね。 さて、楽しませて貰うわよ」
メアの凄絶な笑みが生物兵器の脳に焼き付いた。
*
「シルヴィアさん!」
その声が聞こえたと同時にメイルが姿を現した。 ブラストも一緒のようだった。シルヴィアはメイルの姿を見ると無事を安心したのか親指を立てた。 メイルもそれに合わせ同じように親指を立てる。
「メイルちゃん、そっちはどうだった?」
「こっちは固有空間送りにして時間軸、次元を私達とは違うところに設定して隔離しました。出てこられないでしょう」
「すごいね……」
シルヴィアは乾いた笑みしか浮かべられなかったが素直にメイルを褒めた。
「アイーシャです! 氷雨さんもいます!」
メイルが叫ぶ。 全員が視線を向けると確かにアイーシャと氷雨が対峙していた。 それを確認するとシルヴィア達は速度を上げて急いだ。
そしてアイーシャが喋り終わったと同時にシルヴィア達が氷雨と合流した。
「シルヴィア……無事だったのね。 良く生きてたわね」
「何、ちょっとした助太刀が入って楽になっただけさ」
「助太刀? まさかこの夜の世界の?」
「そうだね。 まぁ今はそんな事どうでもいい。 さっさとこの戦いを終わらそう」
シルヴィア達全員が殺気を放つとアイーシャは困ったように肩を竦めた。そこにカルティヌスも登場し、最終決戦の火蓋が切って落とされ両者は激突した。




