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絶氷の戦姫

氷雨は氷華を具現化させると自らの周囲を囲うように先が鋭利に尖った氷壁を出す。目的は二つ。 一つは周りの雑兵の横槍を防ぐ為。

もう一つは────。



「俺達の行動を制限したか……」


全身を黒い外套で覆っている男が口を開く。

そう、氷雨の目的のもう一つは敵であるこの二人の行動を制限する事。 しかし氷壁の強度を限界まで高めていようとこの二人ならいずれ突破されるだろう。 氷雨は目を細めると殺気を放つ。


それを合図に外套の男と赤髪の男も臨戦態勢に入り、それぞれの武器を具現化させる。 外套の男は闇を思わせる漆黒の両刃の大剣、赤髪の男は炎を刀身に纏った片手剣だ。


(……ふん、少しは出来そうね。 取り敢えず先手必勝と行かせてもらおうじゃない!)


氷雨は二人の武器を一瞥した後、視認するのも難しい速度で赤髪の男に攻撃を仕掛ける。

目の前に移動したと言うのにまだ赤髪の男は気付いてない様子だ。 それに軽く舌打ちすると氷雨は全体重を乗せた蹴りを鼻っ面に叩き込む。


「ぐあっ!!」


鼻血を噴き出しながら氷壁に激突する。 さらに氷雨は間髪入れずに認識を超える速度の攻撃を数発叩き込む。 数カ所から勢いよく血が噴き出す。 赤髪の男は顔を苦痛に歪めながらも炎剣を手に取ると氷雨に襲い掛かる。


「後ろがガラ空きだぞ」


「っ!!」


背後から聞こえた声に咄嗟に氷雨は氷華を振るい、さらに前方から迫る敵襲に氷雨は同時に氷壁を出現させそれを防ぐ。 氷雨は後ろの男に回し蹴りを繰り出すがそれをガードで受けられてしまう。


「ちっ……」


氷雨が舌打ちをするのと同時に衝撃が氷雨の背後から襲う。 背中に激痛が走り思わず足が前に出る。


「ぐぅ……!」


流し目で確認すると赤髪の男が背後にいた。

おそらく炎剣の袈裟斬りだろう。 すぐさま視線を前に戻すと暗黒のオーラに包まれた右ストレートが視界に入る。 氷雨はそれを紙一重で躱すが、躱し切った直後に首に凄まじい蹴りが直撃する。


「がぁっ!!」


氷雨からくぐもった声が聞こえるが、途端に氷雨の身体が氷像に変化しその全てが氷柱となって全方位からギルドマスターの二人を襲う。


「甘い!」


しかしそうそう馬鹿正直に喰らう訳でもなく魔法で対処されてしまう。 氷柱を炎で全て溶かされる。


「もう終わりか?」


外套の男が氷雨に鋭い口調で問う。 それは何処か氷雨に呆れを抱いている口調で、氷雨の鼓膜を揺らした。 その瞬間、赤髪の男の身体が衝撃と共に氷壁に深くめり込んだ。


「ライド……!」


外套の男がライドと口にした男に駆け寄ろうとした瞬間、無数の氷柱が襲った。


「またこれか。 舐めるな……」


身体に暗黒を纏わせると、その全てを無に帰さんばかりに氷柱を呑み込んでいく。 それを見た氷雨は氷壁の中から姿を現わすと口角を吊り上げる。


「へぇ……面白いもん持ってるじゃない。 さて、ギアを上げさせてもらうわよ。 "適応因子"」


適応因子を発動させた氷雨は男の視認速度より速く男を殴り飛ばす。 勢い良く氷壁に激突し、攻撃された方向を見るが既に氷雨の足が男の視界に入っていた。


「ぐっ……!」


脊髄反射でそれをギリギリの所で躱される。 氷雨の蹴りの威力はかなり高く、分厚い氷壁を軽々と蹴破った。


「ふん、運が良いわね。 さて、悪いけどさっさと終わらさせてもらうわ」


氷雨は蹴破った氷壁の一部から槍を生成するとそれを恐ろしい速度で投擲する。 男は全神経を集中させてそれを避けるが、槍はそのままライドの腹部を氷壁諸共貫通し地面に深々と突き刺さった。 ライドは身体を槍をで固定されてしまい、腹部からの出血が酷かったがそれを気にする余裕は今の男には無かった。


「やはりギルドマスターというだけはあるわね……あんたの名は? 私は氷雨。 ふっ!」


氷雨は言い終わると同時に斬り掛かるがそれを受け止められてしまう。 しかしそれだけでは収まらず、猛攻を仕掛けていく。


「ぐっ……答えたく無かったんだがな……。 ランプ……ランプ・グロリアだ」


外套の男────ランプは苦い顔をしながら自身の名を言う。 それを聞いた氷雨はさらに攻撃速度を上げ、ランプの身体に複数の切り傷を付ける。 さらにトドメと言わんばかりに顔面に蹴りを入れると、自らが作った氷壁を一瞥する。


(私が作ったものだけど邪魔ね。 ここはもう御役御免という事で……こうしましょうか)


氷雨は氷壁に手を置くと、氷壁の形が巨大な剣に丸々変化していく。 全て変化する頃には全長十メートルはくだらない巨大さになっていた。 氷雨は異常事態でも目にするかのような眼差しの兵を凄絶な笑みで見回すと凄まじい速度で蹂躙し始めた。


「ちんたらやってんじゃないわよ! 雑兵どもが! これで……終わりよ!!」


数百人を一瞬で屠ると最後は頭上まで振り上げられた悪魔の一撃だった。 振り下ろされたそれは地面を深く抉り、多大な兵が下敷きとなる。 また巻き込まれなかった兵を衝撃波で体の内外部が潰れるなどの被害を被る。


「ん? ……っと!」


氷雨はランプの暗黒魔法による攻撃を相殺すると血だらけになったランプを視界に入れると肩を竦めた。


「ちょっと力を使っただけでそのザマ? この世界のギルドのレベルが知れるわね。 まぁ良いわ。 もうちょっとだけ踏ん張って貰おうかしら」


氷雨は辟易とした様子で言い放つと氷華を地面に突き刺した。 すると冷気が地面に充満し、地上の気温が下がる。 しかしそれを待つランプでも無い。 ランプは隙だらけの氷雨の間合いに一瞬で入ると暗黒のオーラを纏わせた斬撃を放つ。 しかし氷雨に当たる直前で掻き消され、ランプは歯噛みする。


しかしランプはすぐに切り替えると魔力を練り上げた。 どす黒い魔力が身体を覆い尽くし、一瞬で巨大な闇の球体を作るとそれを片手で頭上に持って行き、地面もろとも氷雨を抉るように消し飛ばした。


「はぁ……はぁ……」


肩で息をするランプは消し飛ばした地面を一瞥するとすぐにその場を離れた。 移動したのは本隊から少し離れた場所。 回復魔法を自身に掛け、気休め程度に回復をする。


「くそ、何なんだあいつは……」


得体の知れない強さを誇る少女にランプは戦慄を覚えた。 おそらくあの程度の攻撃では仕留めきれていないだろう。


「絶氷の戦姫……だな。 二つ名を付けるのなら」


「あら、良い二つ名じゃない。 それ、使わせてもらうわね」


気付いた時にはランプの身体には衝撃といたみだけが残っていた。 そして遅れて身体が後方へ吹っ飛ぶ。


「ぐっ……闇に呑まれろ……!」


しかし即座に魔法を唱え、深淵を地面に覗かせる。


「残念……。 氷だとこういうのも出来るのよ」


氷雨が勝ち誇ったかのような笑みを見せる。 氷雨には氷で出来た翼が生えており、それを羽ばたかせながら滞空していた。


(まぁほんとは翼なんか無くても滞空出来るんだけど)


氷雨は手を突き出すと、ここら一帯の地面を凍らせ、氷雨の得意な戦場へと変貌させる。

当然ランプの魔法の暗黒も氷漬けにされてしまい、無力化される。


「ぐっ……化け物か貴様……」


戦慄するように口を開くランプ。 まさかこうも圧倒されるとは計算外で歯軋りしか出来なかった。 氷雨はそのランプの言葉に自嘲気味な笑みを浮かべると右手をスッと挙げる。


「もうお喋りはそこまでよ。 氷の中で眠ってなさい」


氷雨が言い終わった瞬間、ランプの身体が分厚い氷に何重にも覆われてしまった。 徐々に体温を奪われ絶命するのも時間の問題だった。 氷雨は地面に降り立つとランプを閉じ込めた巨大な氷壁を見ながら自嘲する。


「絶氷の戦姫か……今から使わせてもらうわ。 こんな化け物染みた力、誰にも手に負えないでしょう……」


一瞬見せた哀愁漂う表情。 だが次の瞬間には既に戦闘のそれになっており、敵の本陣に瞬間移動で突っ込んでいった。


「灼き尽くせ "拒絶の炎"」


今度は猛炎が戦場を支配した。

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