表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/108

数の暴力

二十万という通常ではあり得ない異常な数を目の前にしてシルヴィア達全員は認識を超える速度で突っ込む。 そして面白いように兵達が吹っ飛ぶ。 そこから圧倒的な数の波がシルヴィア達を飲み込んだ。


「おらぁぁぁぁぁ!!!」


長谷川とタツヒコは別れずに次々と兵を屠っていく。 長谷川もタツヒコも四方八方からの攻撃を耐え凌ぎ、弾き飛ばしながら抉っていく。


「人間ってのは日々進化するもんだ。 俺の新しい能力を見せてやるよ」


長谷川がそう言うと能力が展開される。 能力が展開された瞬間から変化が起こった。 長谷川の半径数メートル範囲内にいる全ての敵の動きが停止する。 それの範囲外の敵ですら動きが酷く緩慢になっている。


長谷川が発動した能力は半径五〇〇メートルのあらゆるものを停滞させる能力。 無論長谷川に近付けば近付くほどそれの効力は増す。 長谷川の半径数メートル以内の場合はあらゆるものの運動を停止に追い込む事が出来る。


「ふん……おらぁ!!」


動きの止まった数人の敵を穿つ。 長谷川の攻撃を喰らった敵は身体が大きくくの字に曲がり、骨すら容易に砕ける。 長谷川が能力を解除するとその敵はそのまま爆散した。


長谷川とタツヒコは背中合わせになり、敵と対峙する。


「タツヒコ、少し集中してみろ。 面白いもん見せてやるよ」


次々と襲い掛かってくる敵の猛攻を凌ぎ、弾き返し、躱すタツヒコに長谷川が小声で囁く。タツヒコは言われた通り意識を一点に集中させるとタツヒコの視界が一変した。


「これは!?」


何と、タツヒコの視界も長谷川と同じように敵の動きが止まって見えていた。


「 "共感覚" ってやつだ。 だが長くは保たねぇぞ。 それにこの数だ。 だがお前の能力と合わせれば……俺とお前の相性は最高だな」


破竹の勢いで突き進み、敵を次々と屠っていく。 足を斬り落とし、腕を斬り飛ばし、胴体を斬り裂き、二人は駆けていく。


「ぐっ……こ、こいつらただ者じゃねぇぞ……。 後方支援! 魔法だ! 魔法でこいつらをっ、がぎゃっ!?」


指示を出していた男の首が身体から離れる。 斬ったのはもちろんタツヒコだ。 既に共感覚の効果は切れているが単身でも充分な実力を擁するタツヒコの敵ではなかった。


「ふっ!」


流れるような体捌きで次々と敵を切り刻んで行く。 そして刀身に極光を纏わせるとそれを勢い良く振り下ろす。 途端に爆発的なエネルギーが生み出され、光柱が天を突くと、瞬く間に大爆発を起こした。 瞬間、タツヒコは自身を高速化させると極光を纏わせた剣を横に薙ぐ。 すると遥か後方で兵士達が爆散し、断末魔が木霊する。



「はぁ……はぁ……。 くそ、今のでこれだけか……」


肩で息をするタツヒコは明らかに疲れを見せていたが、気合いで敵を穿つ。 息を吐く暇すらない戦いに、蓄積していく疲労。 仲間すら巻き込むような魔法の嵐。 いくらタツヒコが強かろうとこれは流石に根をあげるレベルだ。


「っ!!」


死角から迫る熱量。 気付いた時にはもう遅かった。 周りは敵に囲まれている。 今この瞬間ですらタツヒコを殺そうと躍起になっているギルドの兵達が猛攻を仕掛けてくる。


(くそ、これまでか……シルヴィア、氷雨……アイラ、長谷川さん……)


死を覚悟したタツヒコだったがそれはいつまで経っても来なかった。


「まだ諦めるには早くないか? タツヒコ」


それは先ほど離れてしまった長谷川の声だった。 タツヒコが見上げる頃には動きを停止している炎弾を斬り上げ、炎弾は物質が形を保てなくなり、消滅した。


「長谷川さん……」


「さて、俺の能力も長くは続かん。 回復丸薬を飲め。 そうだ、少し耐えろよ。 おらぁ!」


言うと長谷川は無数の斬撃を敵に放つと、タツヒコが高速化を発動すると同時に長谷川の停止能力を解除する。


「タツヒコ、俺を連れて上へ逃げろ!」


長谷川の言葉より速くタツヒコは長谷川を掴むと上空へ避難する。


「う、うわっ!? か、身体が勝手に……言う事、きかな……うおわあああああ!!!」


一人のギルド員がその言葉を最後に全魔力を注ぎ込んだ爆発魔法を放って自爆。 それを皮切りに長谷川の斬撃に触れた全ての人間が自爆をした。


「な、何が起こったんだ……?」


突飛的な状況に理解が追い付かないタツヒコ。


「俺の派遣斬りと飼い殺しの二つを一つの斬撃として放てるようになってな。 今のはそれの……っ! タツヒコ、危ねぇ!」


長谷川が何かに気付き、叫び、即座に能力を使用する。 次の瞬間にはタツヒコの首筋ギリギリに刀身が、そしてそれの持ち主である黒髪の男がそこには居た。 タツヒコも危険を察知したのかその場から即座に離れる。


「やるぞ……」


生唾を飲み込み、動きの停止している男の喉を目掛けて剣を一直線に薙いだ。 それを見届けた長谷川は能力を解除しタツヒコと一緒に地上へ降りる。


「っと、良い太刀筋だな……」


「っ!? うおっ!?」


今しがた倒した筈の男が長谷川とタツヒコの間に割って入り、タツヒコの顔付近を抉るように振り抜く。 タツヒコも条件反射でそれを防ぐ。


「今のを防ぐか。 ふん、保険を掛けておいて正解だったな。 俺はギルド連合第七部隊副ギルドマスターのヤエズだ。 僅かこの短期間でこれほどの兵を……おばっ!!」


「っ!?」


何の脈拍もなく男の首から下が爆散する。 それと同時にシルヴィアが姿を現わす。


「シルヴィア……」


シルヴィアの姿は返り血で染まっており、まるで鬼神のような出で立ちだった。 シルヴィアはタツヒコと長谷川の二人が無事なのを見て安堵したのか少しの笑みを見せる。


「二人が無事で良かったよ」


「シルヴィアはどうだった?」


「まぁ、流石にこの数はキツイけどもう半分くらい削ってるんじゃないかな?」


敵を屠りながら会話を続けるシルヴィア達。 もう雑兵だけでは手に負えなくなっていた。


「他の皆は……?」


「さぁ……。 氷雨に加勢しようとしたら怒られたぐらいかな。 アイラちゃんの姿も見えないけど、きっと上手くやってる筈だろうね」


相当数の敵を屠った所で、雰囲気の違う男がシルヴィア達の前に立ちはだかった。 黒のフードを被り、鼻から上は見えなかったがかなりの実力者だと思えた。 そしておもむろに片手を前へ突き出した瞬間、タツヒコと長谷川の身体から鮮血が噴き出し、何か見えない力により遥か後方へ吹き飛ばされた。


「長谷川さん! タツヒコ君!! っ、お前……」


既に見えなくなった長谷川とタツヒコの身を案じながら目の前の男に牙を剥く。


「雑魚に用はない。 アイーシャ様にお前の足止めの命を受けた。 いくぞ、異世界からの来訪者よ」


淡々と言い放つその男からは鋭い殺気が感じられる。 シルヴィアも臨戦態勢になり、男と刃を交え始めた。





一方、氷雨は既に多勢に無勢という圧倒的な不利な状況にありながらもそれすら上回る実力差で雑兵達を蹴散らしていた。


「ふん、脆いわね。 剣術もダメ、魔法の質も最悪。 こんな烏合の衆とやり合ってもダメね。 "合成魔法・氷炎乱舞"」


氷雨はつまらなさそうに呟くと息を吐くように合成魔法を創り出し、それを群がるギルド員達に放つ。 炎と氷が織り成す極大の爆発は一種の芸術と言っても過言では無かった。


合成魔法を詠唱破棄で放つという離れ業を難なくやってのけた氷雨に大多数のギルドの兵は後退りをした。 氷雨に尻込みする兵を尻目に氷雨は殺気を出すも、彼らでは到底辿り着けない領域にいると彼らが悟ってしまった為、兵の大半が怯えにより戦意喪失していた。


それに氷雨は肩を鳴らしながら嘆息を吐くと有象無象の集まりにとどめを刺すべく刀身から冷気を放出する。


「消えなさい。 肩慣らしにもならなかったわね」


そして何の躊躇もなく振り抜くと、巨大な氷柱が地面から大量に現れるとそれは戦意を失った兵達の身体を蹂躙した。 そして指を鳴らすと氷が砕ける。 全身を氷漬けにされた兵の多くは氷が砕けると、同じように身体が砕け、絶命した。


「ひっ……」


範囲外にいた兵の一人が腰を抜かし、何とも情け無い悲鳴を上げる。 氷雨はそれを一瞥するとやはり躊躇すら見せず認識を超える速度の攻撃で首を刎ね飛ばした。


「ふん、次行くわよ」


そう言った瞬間には既に二〜三人の腕や足が飛んでおり、氷雨の移動速度すら目に映らない兵達には理解する事すら出来ず絶命する。


「ん……?」


ふと何かの気配を感じ、認識を超える速度の攻撃を放つ。 超音速で飛来する何かを正確に捉え、それを相殺する。 一瞬遅れて攻撃だと気付いた氷雨は即座にその場を離れると、氷雨がいた場所に大きなクレーターが形成され、周りの兵すら巻き込みながら衝撃波が波紋状に広がる。


そして氷雨を挟むように二人の男が現れる。 一人は紫のローブを着ており、短く切り揃えられた赤髪の男。 もう一人は全身を覆う黒い外套にフードを被った長身の男だった。


氷雨には直感で分かった。 この二人はそこらの雑兵とは一味も二味も違う強者だと。


「勝つために手段は選ばないつもり? 面白いじゃない。 纏めて相手になってあげるわ」


氷雨も氷雨で相手に取って不足は無いのか嗜虐的な凄絶な笑みを見せると魔力を解放させる。 すると赤髪の男が口を開いた。


「俺たちギルドマスター二人かがりで貴様を殺させてもらう。 覚悟するんだな」


ギルドマスターという単語が氷雨の耳に入った瞬間、さらに氷雨は口角を歪めた。


「上等じゃない。 雑魚ばかりで飽き飽きしてた所よ。 本気を出すに値するか……私を失望させない事を祈るわ」


氷雨もまた、ギルドマスター二人掛かりという難所に直面する事となる。





兵を一撃で戦闘不能に追いやるアイラ。 魔法を持たぬアイラはその身一つで戦場を駆ける。 アイラの速度もまた人の認識を超えた域に達している。 その速度から放たれる技はまさに一撃死を表していた。 顔が半分吹き飛んだ者、肋骨が皮膚を突き破って息絶えた者など様々だ。


死屍累々と化した独壇場の戦場でアイラは今まさに五賢帝の一人カルティヌス・ミリアスと対峙していた。 カルティヌスは余裕のある表情を浮かべアイラを一瞥していたが、その重々しい口を開いた。


「本当はあの黒髪のツインテールの女と戦りたかったが、お前も強そうだな。名前は?」


「あなたに教える名前はありません。 と言いたい所ですが教えといてあげましょう。 アイラ・シルエートです」


「アイラか。 俺はカルティヌス・ミリアス……五賢帝の序列第五位だ。 最も、今は第二位だがな」


カルティヌスは肩に担いでいる巨大な戦斧を地面に突き刺す。 地面に深々とめり込み、その戦斧が如何に重いのかがひしひしと伝わってくる。 カルティヌスとアイラを取り巻くように見ているのはギルド連合軍の雑兵。


五賢帝の一人であるカルティヌス自ら戦場に赴いたのがよほど珍しいのか騒々しかった。 カルティヌスは雑兵達をひと睨みすると黙らせる。 地面に突き刺した戦斧を肩に担ぎ直すとアイラを顎でしゃくる。


「場所を変えさせもらうぞ。 お前は全力で倒させてもらう」


「……!?」


もう、次の瞬間には先ほどとは打って変わって静かな荒野に場所が変わっていた。 遥か後方に見えるは蠢く蟻のようだと錯覚してしまうギルド連合軍の兵達が見えた。


「ここらで良いだろう……お前も全力を出せ。どちらかが果てるまでの……殺し合いを始めるとしようか」


五賢帝カルティヌス・ミリアス。 二つ名は『地に堕ちた雷帝』。 天上の雷神が地に堕ちた時、それは稲妻の如く地を蹂躙する。 全身全霊を賭けた殺し合いが幕を開けた瞬間だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ