宣戦布告
リヴァイアサンと会ってから何事もなく一週間が過ぎた。 メイルはどこか学院の人間がよそよそしいのを感じ取っていた。 メイルを遠目で見て何やら話し合っていた。
(……)
メイルは勘は然程鋭くないが嫌な予感がしてならなかった。 胸騒ぎ、という程の事でも無いが何かがメイルを支配し始めていた。
(リヴァイアサンの予言の通りならあと一週間で戦争が始まる。 皆のあの態度、恐らく私の正体が何らかの形でバレたんだ……)
メイルはリヴァイアサンの予言を聞いた日からこうなる事は心の何処かで覚悟はしていた。 恐らくそれを撒いたのは五賢帝に他ならないだろう。 学院内にもギルドに通っている人間もいる。 それを考えれば不思議ではなかった。
「おい、化け物だぜ……。 ちょっと前の試合で無茶苦茶勝ってたよな。 あれは……」
「おい、聞こえるぞ。 バカ」
そんな会話がメイルの耳に入ってきた。メイルは制服の裾を握り締め必死に耐えた。
(このくらいなんて事無い。 おじちゃん達に比べれば私なんて……)
それからメイルは白い目で見られながら授業を受け続けた。 模擬戦の授業ではメイルと対戦する相手が殺されたく無いと泣き叫びながら戦っており流石のメイルもそれには傷心を隠せず、ショックが大きかったが何とかその相手を倒すも、皆の目は恐怖で染まっていた。
世界最強と名高い竜種が学院に通っている事自体が異常と捉えられているだろう。 身体能力も他の生徒とは天と地ほども隔っている。
少し力加減を間違えれば即死だ。 怖くないわけが無かった。
(……やっぱり私は皆とは相容れない存在なんだ)
授業が終わり、一人帰路につくメイル。 そして異変に気付く。 学院だけでは無かった。 街のすれ違う人すれ違う人が皆、メイルを侮蔑するような目で見ていた。
「ッッ!」
メイルはそれに耐え切れず、転移で思わず街から離れた荒野へと逃げた。 その時、固有空間に居るシルヴィア達の事を思い出し、シルヴィア達を顕現させる。
「メイルちゃん……」
シルヴィアを含め皆が皆顔を悲壮に歪めていた。 それに気付いたメイルは気を遣わせまいと無理に笑った。
「大丈夫です! 私なら大丈夫ですから! 皆さんは戦争の事だけを考えてて下さい……一人でも死なせたくないから」
「はっ! 言うようになったじゃねえか深淵竜ドラゴメイル!!」
不意に雷鳴のような怒号と共に何かが飛来してきた。 とてつもない轟音と土煙が舞うがそれも一瞬で霧散するとその正体が目に入ってきた。
筋骨隆々の身体に無精髭を生やし、肩に巨大な戦斧を担いだ大男。五賢帝の一人カルティヌス・ミリアスだ。 カルティヌスはスッと立ち上がるとメイルを冷笑するように視界に入れると、その口を開いた。
「メイルと……それにお前達に宣戦布告に来た。今から丁度一週間後、この場所で戦争を始める。 革命を望むお前達にはうってつけの機会だろう?それに両方に取っても損は無いはずだ。 お前達は俺たちを倒して革命をしたい。 俺たちはお前達をぶっ潰す。 もし一週間後、この場に来なかったら……メイル、お前は孤独を味わいながら死ぬ事になる」
カルティヌスは一気にそう言うと厭らしい笑みを浮かべた。 メイルはそれに怒りを覚え、殴り掛かろうとした刹那、氷雨の一撃がカルティヌスの顔面を捉えた。
「がっ……!?」
「ふん、何を言いだすと思えばそんな事? わざわざ場所と日時だけを言いに来ただけかしら? 戦争とは言わない。 今すぐ私がぶっ潰してあげるわ!!」
戦意剥き出しの氷雨が殺気を出す。冷気が辺りを包み込み、気温が低下していく。それにカルティヌスは口角を歪め、戦斧を担ぎ直す。
「ペッ! 無茶苦茶手の速い女だな……まぁそう焦るな。戦争になりゃいくらでも暴れられるだろう。 それまで楽しみに取っとけ。 じゃあな。 確かに伝えたぞ」
氷雨の攻撃を逃れるように転移魔法を発動したカルティヌスはそのまま消えてしまった。
氷雨の一撃は標的が居なくなった事により、空を切る。
「ちっ、逃げられたか」
氷雨は悪態を吐くと地面に怒りをぶつけるように蹴りを入れる。 氷雨の放った蹴りは地面を大きく抉らす程の威力となる。まだ怒りが収まらないのか不機嫌な雰囲気になってしまう。 しかしそれも十秒程したら治ったのか、ツインテールを揺らしながら腕を組む。
「ふん、戦争の時会ったら覚えときなさいよ」
と殺る気満々の台詞を吐いた氷雨だった。
「さて、ついに一週間後には戦争だ。 奴らがどれ程の戦力か知らないがこっちも負けてられないな」
シルヴィアもやる気なのか少し無謀な発言に妙な自信が含まれている。
「戦争か……まさか生きてるうちに俺が体験するなんてな。 思ってもなかった」
長谷川は目から鱗なのか少し戸惑いが感じられたが長谷川もやる気のようだ。
「皆さん……」
メイルが言葉に詰まるような口調で呟く。 そんなメイルの肩に手が優しく置かれる。 メイルが見ると氷雨がメイルの肩に手を置いていた。 メイルはいつ氷雨がそこに居たのか疑問だったが、それを払拭するかのように氷雨の優しい笑みが脳裏に焼き付いた。
「メイル、皆あんたの為にここまで必死になってるのよ。 ここまでやる馬鹿も珍しいでしょう? 全員で生き抜く為にも、この戦争は避けては通れない。 でも今しばらくは肩の力を抜きなさい」
「氷雨さん……」
氷雨のぎこちない励ましに多少なりとも勇気付けられたメイルは先ほどとは違いいつもの笑みを浮かべると元気良く肩を揺らした。
「よーし皆!! 景気付けに今日は飲むわよ!」
氷雨が高々と宣言する。 長谷川とシルヴィアもそれを聞くと天にガッツポーズをする。そして早速メイルに固有空間に入れてもらい、そこから大宴会が始まったのだった。




