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固有空間

メイルは氷雨を担いでブラスト達の元へ移動し、そこで降ろすと氷雨の治療を始めた。


「氷雨さん、むちゃくちゃ強かったですよ。正直いつ負けてもおかしくなかったです」


とメイルは苦笑いを浮かべていた。シルヴィア達もまさか氷雨があそこまで強いとは思っておらず、誰もが氷雨の強さに絶句した様子だった。


「うっ……」


氷雨の呻く声が聞こえ、ゆっくりと目が開かれる。


「氷雨さん! 気が付いたんですね! 良かったぁ」


メイルが目を覚ました氷雨に気付き、安堵の表情を浮かべる。 氷雨はゆっくりと起き上がるとメイルに眉根を寄せる。


「あんた……強いわね。 ただ、もう少し優しく出来なかったかしら? あんなへし折り方はないでしょう?」


「しょうがないじゃないですか。 あれでも充分考慮したんですよ? 生半可な攻撃だと殺されかねなかったし……」


氷雨の問いにメイルが顔をしかめながら答える。


「まぁ殺す気だったわね。 ああでもしないと本気出さなかったでしょ?」


「それはそうですけど、一応模擬戦だったんですよ? やっぱ加減はして欲しかったですね」


「何生温い事言ってんのよ。 身体能力も魔法も人間の比じゃ無いんでしょう? それに最初にあんた自身が言った言葉を忘れたの? 全力で来てくださいって」


「う……確かに」


見事に氷雨に言い負かされたメイルが肩を落とす。 氷雨は嘆息を吐くとおもむろに立ち上がりメイルを見下ろす。


「あれで私が倒れてなかったら勝ってたのは間違い無く私よ。 まだ空間支配系の魔法を使う予定だったのに狂っちゃったわ。 まぁでも楽しかったわよ」


ポンとメイルの頭に手を置く氷雨。 氷雨が微笑を浮かべメイルを一瞥すると次はシルヴィア達に目を向けた。


「シルヴィア」


「っ!?」


氷雨が呼ぶと肩を震わせるシルヴィア。 そして泳ぎ切った目を氷雨に向ける。 それを氷雨は呆れ切った様子で腰に手を当てた。


「はぁ……私にメイルとの模擬戦を譲ったのは私の実力を計りたかったんでしょう? だからあんな歯切れの悪い答え方をした……違う?」


「ごもっともです……氷雨の全力が見たかったんだよ」


氷雨の鋭い問いにシルヴィアは観念したのか本音を吐き出した。 予想通りだと氷雨は頭に手を置くとやはり盛大なため息を溢す。


「見たいなら見たいって言ってくれれば見せたのにバカねぇ。 まぁそんな事は置いといてあんたから見た私の実力はどれくらいよ?」


「奥の手を解放した私と互角って感じかな。 はっきり言ってただの人間でここまでの強さは異常の領域だよ」


「シルヴィアがそこまで言うなら私の強さは問題ないわね。 元の世界でも頭二つ分くらい抜きん出てたから当然じゃない」


氷雨が胸を張って威張る。 鼻を鳴らしさぞご機嫌そうだった。 氷雨はまた座るとブラストに手招きをする。 ブラストは氷雨に近寄っていく。


「私の強さは見せたわよ。 で、次はどうすれば良いのよ」


氷雨の質問にブラストは困ったように笑うとポリポリと頬を掻くと口を開いた。


「あー、いや、しばらくは何もしなくて良い。 ま、お前らの強さは相当なもんだと言うのが分かった。 これなら五賢帝と互角に張り合える」


「五賢帝……? 」


シルヴィアが首を傾げるとブラストがまたもや頬を掻いた。


「まだこれも説明してなかったな。 ギルドの連中も厄介だが恐らく俺らの計画の最大の障害となり得るのがその五賢帝だ。 前の大戦で二人倒してるから今は三人だが……。 この五賢帝は一人一人の実力が半端ない。 その中で最も注意しなければならないのがーー」


「序列第一位、アイーシャ・フォン・ゴンハルト。 仮面を被った女です」


ブラストの言葉を遮ってメイルがポツリと呟く。メイルの目は座っており、静かな闘志を燃やしていた。ブラストもそれに頷きつつ、さらに続けた。


「正確な実力は未知数だが全力の俺を相手にしても余裕があった。 恐らくは氷雨やシルヴィアと同等と捉えていいだろうな」


「私や氷雨と……」


シルヴィアも静かに呟く。 タツヒコと長谷川は震え上がるように身を寄せ、目を合わせるが一瞬の間を置いてお互いがお互いとも即座に離れ吐いていた。 それを目にしたアイラは苦笑いを浮かべていた。


「なっに情けない顔してんのよ! そんな弱気じゃ勝てる勝負も勝てないわよ!! ふん、私とシルヴィア、それにあんた達が全力を出せば勝てるわ! 世界を変えるんでしょう? なら死に物狂いで戦いなさい! 数ある自由を掴むために!!」


氷雨が周りを鼓舞する。 そして胸を張ると胸を叩く。 ほんの少しだけ胸が揺れる。 それに少しだけ励まされたのかブラストが笑みを溢す。


「ふ、そうだな。 世界を変える為に……か。 守りたい人を守りやすくする世界に、人々が笑顔でいられるような世界に……」


ブラストはおもむろに立ち上がると指を鳴らす。 その瞬間、同時に全員が立ち上がる事を強制される。 それに目を見張るシルヴィア達。


「もう時間だ。あっちに戻れ。 時間はそれほど経ってないだろ。 いつ五賢帝達やギルドの連中が動き出すのかは知らんが、注意しとけよ。 俺の顔も見られてるしな……」


「おじちゃん……」


「メイル、お前はまだギルドの息の掛かった学院にいるがいつ敵に回るかも分からん。かつてのクラスメイトと戦うことになるかも知れんが、堪えろ。 幸いお前の素性を知ってるのは五賢帝と俺だけだ。 五賢帝がギルドにチクらなきゃバレることは無い。 それまで楽しめよ」


ブラストは手を振ると再度指を鳴らす。 世界が暗黒に包まれるがすぐに光明が現れる。光明は瞬く間に暗黒を飲み込んでいき、全てが光に包まれた時には既に学院の校庭に居た。


「ん……ん〜……」


氷雨が伸びをする。 腰や背中の骨が小気味良い音を立てて鳴る。


「さて、これからどうするの? メイルちゃん」


「今はまだ何もしなくても良いです。 って言うかシルヴィアさん達、あのまま固有空間に居た方が良かったんじゃないですか? 私の家……に来ちゃいますか?」


そのメイルの問いにシルヴィアは即座に首肯する。 それを見たメイルは乾いた笑みを浮かべるも転移魔法を使い、即座にメイルの自宅へと転移したのだった。

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