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メイルと模擬戦

今日のメイルの学院での授業も終わり今はブラストの固有空間でくつろいでいた。 メイルも合流し、先程の模擬戦での話題で持ち切りになった。


「メイルちゃん凄かったよ! 色々参考になった。 ありがとね!」


シルヴィアがメイルを褒めちぎるとメイルは恥ずかしいのか赤面し、目を背けてしまう。


「そんな褒めないでくださいよ。 大したことじゃありませんから」


謙遜するメイル。 明らかに照れていた。その姿が可愛らしいのかアイラも頬を緩ませている。 両手を胸の前で組みながらメイルに身体を近付けるアイラは、普段の内気な姿とはかけ離れていた。


「メイルさん! すっごいカッコ良かったですよ! こう、魅せる戦いというか……とにかく雰囲気でも実力でも圧倒してましたし」


「アイラちゃん……恥ずかしいよ」


アイラの言葉にさらに赤面するメイルは縮こまっていた。 そんなメイル達にブラストの笑い声が鼓膜を振動させた。


「はっはっはっ! メイル、お前褒められるの慣れてねーからどんな反応して良いか分からねーんだろ?」


ブラストは言いながらメイルの頭を少々乱雑に撫でる。


「違う! ただ恥ずかしいだけなの! おじちゃんのバカ!」


ブラストの言い草にメイルは頬を膨らませると語気を強めて言い返すと腹部をポコポコ叩く。


「ぐほっ!?」


一撃がかなり重かったらしく、身体をくの字に曲げ苦悶の表情を浮かべるブラスト。


「あっ! ごめんおじちゃん! 力入れ過ぎちゃった!」


ブラストに駆け寄るメイル。 それをブラストは手で制すと辛そうながらも笑みを浮かべた。


「今は俺の固有空間内だ。 何とでもなる」


「でも……」


やり過ぎた事に反省したのか、メイルが萎縮してしまう。 ブラストはまた乱雑にメイルの頭を撫でるとメイルに笑いかけた。


「もう大丈夫だメイル」


メイルの頭から手を退けるとシルヴィア達を一瞥するブラスト。


「シルヴィア……メイルと模擬戦をやってくれないか? 別にお前じゃなくても良い。 メイルと戦いたい奴だけやってくれ。 俺らもお前達の実力を知る良い機会だし、お前達もこの世界最強レベルのやつと戦えるまたとない機会だ。 悪くないだろ?」


「え、あ……えーと、どうしようかな」


ブラストの思ってない提案にいつもより歯切れの悪いシルヴィア。 いつものシルヴィアならこういうのには一番に乗ったはずだ。そしてチラと氷雨に視線を向ける。 氷雨は一瞬驚いた表情をしたが、すぐに嗜虐的な笑みを浮かべるとメイルを射抜いた。


「しょーがないわね! 素直に私に戦ってほしいって言えば良いのに。 メイル、よろしくお願いするわ」


早速やる気満々な様子の氷雨にメイルは困ったような笑みを貼り付けた。


「メイル、もしやるんなら事象の書き換えは切っとけ。 あとここの空間内の時間軸も多少弄っといたから思う存分楽しめよ」


「おじちゃん……うん」


ブラストの配慮にメイルは頷くと氷雨を一瞥する。 すると次の瞬間にはブラスト達からかなり離れた距離へと移動していた。 氷雨はさして驚きもせず腕を組みながらメイルを一瞥する。


「しっかし便利な空間ね。 世界にこうも簡単に干渉出来るなんて」


「 あまり詳しくは言えませんがある程度は自由に弄れます。 シルヴィアさん達がいる空間には攻撃が及びませんので最初から全力で来てください氷雨さん」


戦闘態勢に入るメイル。 膨大な殺気が充満する。 その殺気一つだけで氷雨の戦闘意欲を刺激するには充分過ぎる程だった。 氷雨は嗜虐的な笑みを浮かべると氷剣を具現化させる。


「元からそのつもりよメイル。 最初(はな)から全力で行かせてもらうわ。 手加減して勝てるほど甘くないだろうし。 "魔力解放" "適応因子"」


氷雨が魔力を解放する。 氷雨の魔力の量と質が跳ね上がると同時に身体能力が飛躍的に上昇する。


「さぁ始めましょうか! メイル!!」


その氷雨の言葉と共に模擬戦が始まった。

先に仕掛けたのは氷雨。 メイルの足元から大量の氷柱を出現させ串刺しにしようとするが簡単に躱されてしまう。 躱される事は想定内だったのか氷雨は一蹴りでメイルとの間合いを詰めると氷剣を振るう。


しかしメイルは氷雨が氷剣を振るう瞬間には氷雨の背後に移動しており既に拳を引いていた。 メイルの拳が迫るが氷雨の身体に当たる前にメイルが放った攻撃は当たるどころか逆に大きく腕を弾かれてしまう。


「っ!?」


「あら、運が良かったわね。 今の私の攻撃はすこぶる痛いわよ。 覚悟する事ね」


認識を超える速度の攻撃。 氷雨の十八番(おはこ)だ。 さらに適応因子による底上げもされているので威力は申し分なかった。さらに氷雨の攻撃はとどまる事は知らず、四方八方を氷で囲う。 しかしメイルは力づくで氷の壁を破壊すると唖然とする氷雨を尻目に今度こそ氷雨の身体に拳をめり込ませる。


しかし違和感がメイルを襲った。 氷雨の身体が非常に脆かったのだ。 腕が千切れ、胴体も半分ほど抉れている。 氷雨の体温が異常に冷たく冷気さえ感じる程だ。


「なっ……!?」


違和感に気付いたがもう遅い。 氷雨を身体は砕けた氷像に変化しており、その砕けた氷の破片が全てメイルに襲い掛かる。 しかしメイルも負けずと自身ごと巻き込む爆発を起こし事無きを得る。


「ふっ!」


その爆発と同時に氷雨の背後に移動していたメイルだがその移動すら氷雨に読まれ見向きもせず剣を振るう氷雨の攻撃に鼻先を掠めてしまう。 しかし遠心力を利用した回し蹴りがヒットし数歩よろけてしまう。


「 "氷結結界"」


さらによろけた状態のまま首から下が凍らされ完全に身動きが取れなくなってしまうメイル。


「っ、この……」


「あら……力任せに破ろうとしても無駄よ。今のあなたはどう足掻いても抜け出せないわ。 これは決まってる事なのよ」


「何を……!」


氷雨の言葉に挑発され力づくで氷を割ろうとしたが身体が石のように動かず、ただただ体温だけが奪われて行った。


「『破壊の奔流 怒りの業火 大地に刃向かう愚かさをその身を以って無駄と知れ 砕けろ "天地熔災ウォーゲン・流焔ヴルカーン』」


氷雨の詠唱が完成すると共に空間内の温度が急激に上昇し地面を突き破るようにマグマが二人を囲うように至るところに噴出した。


「なっ!?」


噴出したマグマは全てメイルに向かって落ちて行き、メイルは文字通り天地熔災の流焔に飲み込まれた。 摂取一〇〇〇度を超える灼熱のマグマが降り注いだのだ。 常人ならその熱さに悶え苦しみながら絶命するのは想像に難くない。


マグマが降り注いで十数秒。氷は全て溶け落ちたが、衣服が燃え尽きた跡も皮膚が爛れた跡も付いていないメイルの姿がそこにはあった。


「冗談でしょ? 全く、呆れるくらい耐性あるのね」


肩を竦める氷雨に対し、身体の自由が効くようになったメイルは手の開閉を確認する。


「バカ言わないでくださいよ。 流石の私もアレをまともに食らったらヤバかったですって。 だから少し奥の手を使わせてもらいました」


「奥の手?」


メイルの発言に氷雨が眉を顰める。 氷雨の反応はメイルの予想の範疇だったのか首肯し氷雨を一瞥する。


「はい。 深淵竜という竜種は身体の中に宝玉というのが七つ埋め込まれています。 無論私の中にも。 その一つ一つが絶大な効果を持っており、使えばその宝玉ごとに特化した効果が付与されます。 使用するにあたってのデメリットもありますが。 今回は私の固有空間内です。 少し弄って宝玉の効果に近い効果を私の身体に付与させました」


淡々と言い放つメイルは氷雨に意識を集中させながらゆっくりと腕を伸ばした。氷雨は直感で何かが来ると危険信号が脳内で鳴り響き本能に従い巨大な炎の壁と自身の周囲を永久凍土の壁で覆い尽くす。


(あんな大規模な魔法を撃っといてまだこんな規模の防御を……。 この人の魔力は無尽蔵なの!?)


メイルは氷雨の魔力とその規模は既に自分より上の領域にいると悟っていた。が、純粋な威力ならメイルに分があった。 魔力を一点に集約させ、雷鳴が鳴り響くと同時に強烈な閃光と衝撃が空間内に迸る。 雷は炎を四散させ、見事氷の壁をも易々と砕く事に成功していた。 しかし、氷雨の姿が何処にも見当たらなかった。


「後ろか!!」


そう叫んで裏拳を自身の背後に放つ。


「がっ!!」


くぐもった声と鈍い打音が響く。 メイルの腕に裂傷が入ったがすぐに再生し完全に治癒してしまう。 今のメイルは身体能力及び反応速度が飛躍的に上昇しており先程の比では無くなっていた。 さらに再生能力も付与されメイルに傷を負わせるのが絶望的と化す。


「 "血の盟約・魔人化"」


氷雨の声が鼓膜を震わせる。メイルは氷雨のしぶとさに舌を巻きながらも全神経を研ぎ澄ませる。 大剣を具現化させ、氷雨という脅威に備える。 ふと、一瞬何かに気を取られたメイルは視線を逸らし意識がそれに向いてしまう。


「何処見てんのよ」


刹那、全身が危険信号を発するがもう遅い。すれ違いざまに氷雨の足音が響くと同時にメイルの全身から血が噴き出した。


「ぐっ……!?」


「魔人の血って知ってるかしら? 何の免疫も持たない人間に魔人の血を与えると拒絶反応で死ぬんですって。 あなたはどうかしらね……メイル」


「……くっ!!」


メイルが顔を歪め目を瞑る。 そして一拍置いて目を開けると氷雨の動きが止まっていた。 瞬きすらしていない。 メイルが固有空間内の時間軸を弄り氷雨の時間を止めたのだ。


ある程度の距離を置いてから時を動かす。氷雨が再び動き出す。 目を見開く氷雨だったがそれだけで離れた距離にいるメイルを射抜くと口を開いた。


「時間軸弄って時止めか。 ま、予想の範囲内ね。 さて、少し戦闘スタイルを変えさせてもらうわ。 灼き尽くせ "バロンセロナ"」


氷雨が言い終わった刹那、莫大な熱量を誇る火柱が氷雨を包む。 その余波が熱波となってメイルに襲い掛かる。 莫大な熱はメイルの全身を蝕むが顔を腕で覆い喉が焼けるのを防ぐ。 仮に焼けたとしても今のメイルには再生能力があるのだが極力使用は避けたかった。


(まだこんな力が……!)


メイルは氷雨の底の知れない強さに畏敬の念を抱く。 火柱はまだ氷雨を包んでいるが段々と細くなっていくのが見て取れた。 すると氷雨を覆う火柱に変化が現れた。 火柱が揺らめき、その形を球形に変えていく。


さらにメイルは本能と直感であの炎は危険だと、只ならぬ炎だと言うことを見抜いていた。 メイルは氷雨に何か仕掛けられる前に術式を展開させると二体の人形を召喚させる。 どちらもメイルを小さくしたような姿形をしており見た目も可愛らしかった。


「……ちょっと勿体無いけどこれで様子を。 見てきて!」


メイルは人形二体に命令を下す。 人形はメイルの命令に従い、氷雨の炎に近寄ると短剣を手に取り、それ諸共突っ込む。 短剣が炎に触れた瞬間、刹那より速く人形の身体が炭すら残らず拒絶されるように消えていった。


その人形達の最期を見たメイルはあの炎の認識を危険と判断し、遠距離から莫大な水量で消火しに掛かった。 しかし、圧倒的な水量で消火しに掛かってもその全てが炎に触れた瞬間に蒸発するのである。


「無駄よメイル。 バロンセロナは拒絶の炎。触れたもの、向かってくるものを全てを拒絶するわ」


氷雨の声がまたしても鼓膜を震わせる。火柱から人影が出てくるのが確認できた。 氷雨の姿を見た時メイルは絶句せざるを得なかった。


「っっ……!」


言葉が詰まり、声にならない声が出かかる。全身から危険信号が発せられ逃げろと本能が訴えかけてきている。 あまりにも危険な炎を纏う氷雨。 両手にはそれぞれ銃身の異なる二丁の拳銃が握られていた。


氷雨は口角を吊り上げると右手に持った銃身が金で施された銃をメイルに構える。照準は言わずもがな。


「第二ラウンドと行きましょうか。 魔法が根付いてるあなた達の世界じゃ銃というものは欠陥品なのかも知れない。そもそもそう言う概念すら無いのかもね。 氷の私が『氷結姫』なら炎の私は『炎熱姫』と言ったところかしら」


言いながら引き金を引く。 銃口から濃密は炎が炎弾となって射出される。 速度は速かったが今のメイルから見れば避けやすく軌道もはっきりと見える。 炎弾を難なく躱すと同時に瞬間移動で氷雨との間合いを詰めて全力の拳を放つ。


「そう易々とやられる訳ないでしょう?」


聞こえたのは背後。神速と言っても過言ではない速度で放たれたメイルの攻撃をすり抜けて瞬く間に背後を取った氷雨は今度は左に持った銃の引き金に指を掛ける。


しかしその指を掛ける一瞬の間さえあればメイルも充分に行動可能で足で銃を蹴り飛ばし、跳ね上がった左腕を掴んでそのまま膝を食らわして左腕の骨を砕く。


「あああああああ!!!」


氷雨の絶叫が響くがメイルはこれが最後のチャンスだと全霊を賭して氷雨を倒しにいく。

超至近距離での爆発魔法、極光を容赦なく氷雨に浴びせ、意識を失ったとメイルが認識するのはそう遠い話でもなかった。こうしてメイルと氷雨の模擬戦は激闘を繰り広げたが一瞬の隙をモノにしたメイルに軍配が上がったのであった。

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