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腐敗と革命

シルヴィア達とブラスト達は互いの状況と情報を交換し共に行動する事で了承した。


「まずは俺達からだな。 さて、どこから説明したもんかね。 この世界は腐り切ってる。昔から亜人……混血の人間への迫害を始めとする差別や民への重税とか様々な事が悪手として残っている。俺らはそれを変えようと立ち上がって世界を変えるつもりだ」


ブラストが簡単にこの世界の状況を説明する。 そしてメイルに目配せするとメイルが頷いてみせ、メイルがわざとらしく咳払いをし注目させる。


「まずおじちゃんは……世間じゃ死人扱いなんだから退場してね?」


「おっと。忘れてた。 カルティヌスとアイーシャに姿が見られたがまぁ問題はないだろう。 詳しい事はメイルから聞いてくれ。 メイル、何かあったら頼むぞ」


ブラストはそれだけ言うと空間に溶けるように消えていった。 その異様な光景にほぼ全員が絶句した。 それを見たメイルは可笑しかったのかクスクスと可愛らしく笑う。 綺麗な黒髪がそよ風に靡く。


「びっくりしました? 今のはおじちゃんの固有空間が発動したんです。 私も使えますが。

さて、少し歩きながら説明しますね」


そう言うとメイルは荒野を歩き始める。 見渡す限りの荒野だったがそれでも歩き進める。 そこでシルヴィア達は様々な事を聞いた。

この世界は王政である事。 魔法の概念があり、学院で基本的な魔法及び魔術の扱い方を学ぶ事。 亜人という混血種の人間がおり、その亜人達の迫害や差別が酷いと言う事。


「おじちゃんも実は亜人でして。竜人なんですがこれも迫害や差別が酷く、幼少期は凄絶な日々を過ごしてたらしいです。 そんな差別や迫害を無くそうと同じ境遇の人達や仲間をかき集めて世界を相手に戦争を仕掛けました。これは後に亜人戦争と呼ばれる戦争です。 この亜人戦争で私以外ほぼ全滅しました」


メイルがポツリと語ってくれた。 さらに氷雨が詳しく聞こうと色々質問攻めをし、メイルが軽く引きながらもポツポツ語っていく。


「亜人戦争はギルド連合軍と呼ばれる各国のギルドが連合を作り、人数と資源はおじちゃん達亜人の千倍近くありました。 連合軍十二万人、亜人十二人。 しかし主要メンバーである六人はリヴァイアサンという神様から授かった神の鱗という物を持っておりそれで戦いに臨んだのです」


メイルは急に表情に怒りを滲ませると握り拳を作る。 怒りを何とか抑えてるような感じだった。


「戦いは壮絶なものでした。 たった十二人の亜人達はその千倍近くいる十二万人を圧倒していました。 が、終盤になるとそれも衰えを見せ、結果的には負けてしまいました。当時幼かった私は当然亜人側。 それを何を思ったか敵である連合側が私を保護しようとしたんです。 恐らく私を人質か何かだと思ったんでしょうね。 私は仲間を殺された恨みと怒りから我を忘れて無我夢中で敵を嬲り殺しにし始めました」


メイルは当時の事を思い出しているのか、喋りながらも明らかな怒りが漏れ出していた。

歯をくいしばる様にして喋り続ける。


「三〇〇人近く殺した辺りで疲れて倒れてしまって。それで結局保護されました。 手厚く保護された私は学院に通い、そこで今も生活してます。 その学院では……酷いものでした。 亜人達を悪に仕立て上げ、あたかも自分達が正義の味方かのように子供たちに教えてたんです。 真実を知ってるのは私一人。 亜人達は苦しみから解放されるのを願い、今後未来から迫害や差別を根絶しようと立ち上がって世界まで相手取って戦ったのに……こんな、こんな……」


メイルが涙を流し始め、ついに両手で顔を隠してしまった。 シルヴィアはメイルの背中を撫でながら悲しみに満ちた表情をしていた。


「ありがとうございますシルヴィアさん……。もう大丈夫です」


しばらくしてメイルも落ち着いたのかシルヴィアにお礼を言って再び歩き出す。


「因みに私も普通の人間ではありません。 深淵竜という竜の突然変異で生まれた竜人です。 いや、深淵竜の力を持って生まれた人間というべきでしょうか。 どちらにせよ身体能力や魔法、寿命などは常人の比じゃない事は確かです。 話が逸れましたね。 私達の目的は世界を変える事。 守りたい人を守りやすくする為に世界を変える。 武力に頼らざるを得なくなりますが……話し合いで解決出来るような容易な問題でもありません。 今はその為にも仲間と力が欲しい。 これが私の……私達の目的です」


メイルはここまで喋るとゆっくりと息を吐き出しシルヴィア達を見やる。 次は自分達の番だと言うように。 シルヴィアもそれを察したのか歩きながらポツポツと喋り始めた。


魔界の崩壊を防ぐ為、各異世界を渡り歩いて世界の崩壊を防いでる事。 異世界ごとに原因や問題があり、その問題を解決している事。 さらに仲間を増やしながら異世界を巡っているという事。 この世界に辿り着いたのもそれを解決する為と言う事を噛み砕いて説明する。するとメイルは感心したかのようにシルヴィア達に尊敬の眼差しを向ける。


「凄いです! 様々な困難を乗り越えてここまで来たんですね! 厚かましいかと思うかも知れませんが良ければ手伝ってくれませんか!?」


シルヴィアの両肩を掴んで必死に揺らすメイル。 加減しているのだろうがシルヴィアの両肩がミシミシと音を立てて悲鳴を上げていた。


「わ、分かった分かった……。 一応メイルちゃん達の目的も分かったし世界秩序の変革とその維持をこの世界での目標にしようか。途中で何らかの事態が起こった場合はそれを優先させてもらうけど良いかな?」


「……! はい! 緊急すべき事態が起こった場合はそれを優先させても構いません。 ありがとうございます! やったぁ!」


メイルが満面の笑みを浮かべながらその場で跳ねる。よほど嬉しかったのかとても可愛らしく笑っている。 そのメイルを尻目に氷雨はシルヴィアを半目で並んで肘で小突く。


「ちょっと! 何でもかんでも安請け合いするんじゃないわよ! 私達の判断は!? あんた一人だけじゃないのよ!? そこら辺も良く考えなさい」


「うっ……ごめんなさい氷雨。 ならタツヒコ君達の意見も聞くよ。 タツヒコ君と長谷川さんはメイルちゃん達の話を聞いてどう思ったの?」


シルヴィアが氷雨の意見に素直に従い、タツヒコ達の意見を仰ぐ。タツヒコは答えを出す為に唸っていたがこれに即答したのが長谷川だった。


「俺は賛成だな。 これは言うなれば革命だ。 古い固定観念や常識を取り払い、諸悪の根源である世界や圧政を変える為の行動。 フランス革命然り、常に人を動かすのは人だ。もし革命が起こったらそれは確実に後世に名を残すぞ!」


長谷川が饒舌に語る。その熱弁に少なからず感心したのか氷雨が長谷川の肩に手を置く。 そして長谷川が振り向いた途端に長谷川を全力で殴り飛ばした。


「ぐあっ!」


地面に叩きつけられ、服が汚れ、口の端から血を垂らす長谷川が氷雨を睨むように見上げる。 氷雨は腕を組んで眉根を寄せながら長谷川を半目で見ていた。


「たまにはかっこいい事言うじゃない。 正直見直したわ。 でもね、現実を見なさい!! たった六〜七人で何が出来ると言うの? 人が人である限りこう言うのは無限に行われていく。 まぁでも……今滅ぶのよりはマシか。 革命にも立ち会ってみたいし。 私も一応賛成という事で。 アイラとタツヒコは!!」


氷雨の剣幕にアイラは肩を揺らし驚愕に顔を染め、タツヒコも肩を揺らすが意を決したように言葉を口に出した。


「俺も賛成だ。 微力ながら力になる」


「わ、私も。 拙いですが一生懸命頑張ります!」


「これで満場一致ね。 シルヴィア、これからこういう大事な事は仲間の意見も聞きなさい。 あんま一人で突っ走ってると仲間も離れてくわよ」


氷雨は棘のある口調でシルヴィアに釘を刺す。 シルヴィアもそれを道理と思ったのか頷くと氷雨に肯定の意思を示す。 メイルはメイルで自分のせいで仲間割れになったのかとアワアワしていたがシルヴィアとアイラが説明してメイルが気に病む事じゃないと分からせる。


気を取り戻したメイルはこれからメイルが通っている学院があるリャードという都市に転移する事を全員に伝えると早速全員を転移させた。


(俺だけ殴られ損かよ……)


長谷川の心の叫びは虚しく届かず転移して行った。

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