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第七の世界

「皆おはよう」


シルヴィアが会議室の扉を開けて入ってくる。もう会議室には全員が揃っており、紅茶も淹れてあった。 シルヴィアは朝のティータイムと洒落込みながら嬉しそうに紅茶を啜る。


吐息すると恍惚そうな表情を浮かべ、一気に紅茶を飲み干すと切り替えるように真剣な表情となる。


「さて、早速異世界へ行こうか。 どんな異世界に行くかは分からないけど少しの油断が命を落とす事になるから決して油断しないように」


シルヴィアは全員に言い聞かせると指を鳴らす。 すると魔法陣が展開され辺りが強烈な光に包まれる。 光が止むともう誰も居らず、無人の会議室だけがそこにポツンと残された。





岩肌が切り立つ広大な荒地の一角。大勢の敵に囲まれているのは一人の男と一人の少女。 しかしその戦力差を物ともせずに鬼神の如く奮迅ぶりを見せる。 少女、深淵竜ドラゴ・メイルもその華奢な身体とは思えない程の孤軍奮闘ぶりに敵勢はことごとく散って行く。


「ふっ!」


息を吐き、全神経を研ぎ澄ませながら繰り出すその一撃一撃は地面が爆ぜ、抉れる程強烈だった。


「消し飛べ!!」


大地を切り裂くような裂帛の声と共に繰り出されたのは眩い閃光からなる巨大な光柱だった。 なす術なく光柱に飲み込まれ絶命してく敵勢達にメイルは苦渋の表情を浮かべ、空から飛来してきた新たな敵を見やると苦々しく呟く。


「っ…… 『五賢帝』カルティヌス・ミリアス!」


巨大な戦斧を肩に担いだ筋骨隆々の巨躯に無精髭が特徴の歴戦の猛勇、カルティヌス・ミリアスがメイルの前に立ちはだかる。カルティヌスはメイルに狂気的な笑みを浮かべると戦斧をメイルに突きつけた。


「久しぶりだな……メイル。 お前は酷く強い。 並みの奴じゃ歯が立たん……だから『五賢帝』カルティヌス・ミリアス様が相手をしてやる。 世界最強と名高い深淵竜の変異体……メイル」


「っ……! あんた達のせいで……」


メイルは歯軋りをすると猛烈な速度で移動し、その勢いのままカルティヌスに爪撃を繰り出す。 カルティヌスはメイルの爪撃を戦斧で受け止めるが、存外威力が高かったのか少し目を丸くした。


「……流石だな。 ただの爪撃でここまで威力が高いとは。 先の大戦で幼齢ながら三〇〇人を屠っただけはあるな」


そのカルティヌスの一言はさらにメイルの攻撃を激しくさせた。


「私達は、世界をより良いものに変えようとした! 守りたい者を守りやすくする世界に! それを世界に対する反逆と見なされ、反逆者達に仕立て上げられた私の仲間の無念を思い知れカルティヌス!!」


激情するメイルの攻撃は一層激しさを増し大気を震撼させ、地割れも起こし、音圧がカルティヌスを襲う。 カルティヌスも流石に攻撃を凌ぐので一杯一杯なのか、苦しい表情を見せながら追いやられて行く。 そしてメイルの一撃がカルティヌスの身体を穿つ刹那、メイルの身体が宙を舞った。


「!?」


「あの時の幼い子どもがここまでやるようになるとはな」


それは女性の声だった。 メイルは態勢を整えて着地すると目の前に現れたその女性に愕然とし、その表情のまま震えた声で口を開いた。


「っ〜〜! 『五賢帝』序列第一位……アイーシャ・フォン・ゴンハルト……」


メイルが射抜くその女性の容姿は独特なものだった。 素顔を隠すような面に全体的に細い身体つき、金髪のロングストレートを風に靡かせながら佇んでいた。 腰には長剣を差していた。


「アイーシャ……何でお前が……」


カルティヌスは何故アイーシャがここに来たのかが分からなかった。 カルティヌスの問いをアイーシャは愚問と一蹴すると空を見上げる。


「空間の歪みを確認したからな。 まもなく、異世界からの来訪者が来るはずだ」


「っ!」


そのアイーシャの一言はカルティヌス、メイルの意識を張り詰めるには充分の一言だった。


「メイル!」


「……おじちゃん」


不意に背後から声が掛けられたがメイルは見向きもせず答える。 メイルと並ぶように立つ男は血濡れていたがその全てが返り血だという事はメイルには分かっていた。 アイーシャはメイルと肩を並べる男に気が付いたのか仮面に隠れてはいるが微笑を溢す。


「先の大戦の大罪人の一人……ブラスト・シルヴァ。 死んだと聞いていたがまさか生きていたとはな」


「俺が大罪人か。 まぁいい。 事の顛末を知らないお前達からすれば驚きだろうな。 俺はまだ世界を変えるのを諦めちゃいねーぞ」


男……ブラストがそうアイーシャに言い切ると同時に両者とちょうど中間に位置する地面に斬撃が走り、地面に深い穴が形成された。


アイーシャとブラストは上空から放れたと見て同時に空を見上げる。 両者の視界に入ってきたのは数人の少年少女が空間に空いた大穴から出てきたところだった。 一人おっさんが混じっていたが見なかった事にしたのは内緒だ。


そして少年少女達が地面に降り立つと、ブラストとアイーシャ、カルティヌスとメイルをそれぞれ見回す。 黒髪のツインテールの少女が一歩踏み出すと微笑を含めて口を開いた。


「あら……お取り込み中だったかしら? だとしたらごめんなさい」


小馬鹿にしたかのような態度だったがアイーシャはそのツインテールの少女を、ブラストはツインテールの少女の後ろに立つ仲間に視線を物珍しいそうに一瞥する。


「カルティヌス……退くぞ。 異世界からの来訪者達の姿も見れたし充分だ」


踵を返すアイーシャにカルティヌスは不満そうだったがアイーシャの言葉に従う事にした。


「待て!!」


メイルが飛び出そうとしたがブラストに引き止められ、そのままアイーシャ達は転移して逃してしまう形となった。


「っ! おじちゃん! 何で止めたの!?」


「落ち着けメイル。 勝負こそ常に冷静に……頭に血を上らせた状態じゃ勝てる勝負も勝てないし、今はそんな事を気に掛けてる様子でも無さそうだぜ」


メイルを宥めるブラストが先頭に立つツインテールの少女を見る。 ツインテールの少女は好戦的感じが見受けられたがそれ以外は普通の少女と言った感じだ。 するとその少女が口を開いた。


「私の名前は氷雨。 朧 氷雨よ。 後ろにいるのは後々説明するわ。 あんた達は何者で何を目的とするのか喋ってもらうわよ」


ツインテールの少女、氷雨が口角を吊り上げながら言葉を放った。 氷雨から殺気は見受けられたがそれ以外の仲間からは敵対心は感じられず、寧ろ氷雨を宥めていた。 小柄な体躯でローブを着た少女と茶髪の少年が氷雨を止め、肩甲骨辺りまて伸ばした青髪の少女がブラスト達に歩み寄ってきた。


「いきなり仲間が過激な発言をしてしまってごめんなさい。 でも悪気はないの。 どうか許してください。 私の名前はシルヴィア。そこの血塗れのあなたと可愛い女の子の名前を聞かせてくれるかしら?」


「……ブラスト・シルヴァとメイルだ。 そこの女の子がメイル。 さて、あんた達が何処から来たのか教えてもらおうじゃねぇか。 話はそこからだ」


警戒心の強いブラストから放たれたのは力強い言葉と、警戒心を解かせる為の人の良さそうな笑みだった。

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