反省会
シルヴィア達は無事に魔王城へと帰還を果たした。 やはり帰宅後は真っ先に紅茶を淹れ、全員に落ち着きを取り戻させるようにする。
「ふぅ……。 やっぱり紅茶が一番ね」
シルヴィアが至福の息を吐き出しながら呟くと皆を見回してから口を開いた。
「皆お疲れ様。 今回の異世界も大変な強敵が多かったけど何事も無くて安心したよ」
まずはシルヴィアからの苦労をねぎらう一言。そして氷雨を見やる。
「氷雨、どう? この居心地は?」
「ま、悪くないんじゃない? サラディウス達の魔界の方が劣悪な環境だったからここは寧ろ居心地良いわ」
氷雨が柄にも無く褒める。それにシルヴィアは気を良くしたのか、多少胸を張ると腕を組んで鼻を鳴らす。
「えっへん! それは良かったよ。氷雨が仲間になってくれてとても心強いよ。 氷雨も皆と打ち解けると良いね」
「ふん……既に打ち解けてるようなもんよ。何日一緒にいたと思ってるのよ」
ぶっきらぼうに氷雨は答えるが何処か嬉しそうにその声も弾んでいた。 そして氷雨はアイラを一瞥するとニヤリと意地の悪い笑みを浮かべる。 アイラはそれを目にした瞬間、全身に悪寒が駆け巡ると同時に嫌な予感が頭をよぎった。
「そうね、どれくらい打ち解けてるかと言えばぁ……アイラがお風呂の時何処から洗うかまでお見通しよ。 アイラが一番最初に洗う部分は……」
「わああああああああああ!!! 言っちゃダメですぅぅぅぅ!!!」
アイラは立ち上がると両腕を振りながら氷雨の言葉を遮るように大声を発した。 その大声はいつぞやの巨竜を彷彿とさせるような音量で放たれ、鼓膜が痛くなる程の爆音だった。
シルヴィアが咄嗟に防音魔法を展開したおかげで鼓膜の破壊は免れたがアイラにまた脅威的な要素を垣間見れた瞬間だった。
シルヴィアがわざとらしく咳払いをすると我に返ったアイラの顔が一気に紅潮する。 即座に座ると俯いてしまった。耳まで真っ赤にしながら。 シルヴィアは微笑ましい気持ちになりながらも気を取り直して声を掲げた。
「さて、今回は世界崩壊の原因『世界の狭間』について挙げようかと思う。 これはパ……魔神ヴァルグからの情報によると世界が存在する数の約半分あるらしい。 その詳細は分からないけど何でも『無の空間』とか『次元が欠落してる空間』なんて呼ばれてるらしい。 これ以上の事は私は分からないからお手上げ。 世界崩壊の原因の一つだと思ってくれればそれで良いよ」
シルヴィアがざっと説明をすると、不意にタツヒコの手が挙がる。 シルヴィアはそれを挙手とみなし、タツヒコを促すとタツヒコがシルヴィアに問い掛けた。
「その『世界の狭間』が今回の直接的な原因だったが、今後そういうのは無いと言えるのか?」
そのタツヒコの鋭い問い掛けにシルヴィアは顎に手を当て唸っていたがやがて口を開くとこう説明した。
「それは一概には言えないけど、無いとも言い切れないし、不明な点も多いからね。世界によるんじゃないかな?」
「そうか」
歯切れの悪いシルヴィアにタツヒコは多少不満もみれたがそれを押し殺すと黙って席に着く。 そしてタツヒコの次は氷雨が手を挙げる。
「そうね……仮に人間全体が悪だった……または全人類が世界を滅ぼしかねない状況の世界に転移した場合は人間の殲滅は許されるのかしら?」
「……っ!」
氷雨の問い掛けは非常に難しかった。シルヴィアの表情が一気に厳しくなる。逡巡を見せた後、重々しく口を開いた。
「世界の存続には変えられないから……殲滅はする」
そのシルヴィアの一言に氷雨の眉が吊り上がると半笑いを浮かべた。
「ふーん……ま、世界によるでしょうけど。 ここでそれを踏まえた上でまた質問するわ。
前に話した世界が世界を保てなくなる時に世界は崩壊する……と言ったわね。 ならその『世界』を構成してるものは何かしら?」
「…………難し過ぎて分からないわ」
シルヴィアが頭を抱えて辟易とした様子で答える。 氷雨はそのシルヴィアの回答を予想していたのか、大した反応を見せずに席に着く。
「意地悪したみたいになってごめんなさい……シルヴィア。 ただ、魔法やら能力を持つ存在が自由に世界を行き来出来るのならさっきの質問の定義には入らない。 物理的に消せるからね。 そういう存在から世界を守りたいだけなのよね?」
「正確に言うと、世界の崩壊を食い止める事によって私達の世界の連鎖崩壊を防いでるだけ」
「へぇ……意外にすごい事してるのね」
氷雨は素直に驚くとシルヴィアを一瞥する。 シルヴィアも氷雨を見ると、何とも言えない表情をして席から立ち上がる。
「今日はもう解散。 氷雨、あなたの部屋に案内するわ。 軽くこの魔王城に何があるのかを見せておきたいしね。 アイラちゃん達は一足先に帰ってて良いよ。 明日出発するからそれまでゆっくりしてて良いよ」
シルヴィアのその言葉と共に、今日の反省会は終了となり、全員が全員とも苦い顔をしていたのだった。




