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魔物狩り

シルヴィア達が橘家に居候をして三日。時間は正午を過ぎたあたりの真昼間。 今は光達と家に置いてあったレーシングゲームで遊んでいる最中だった。今は光とアイラが対戦して遊んでいた。


「うおおおお!!! 行け行け行け! このまま行けば俺の勝利だ!」


光の操作する車がトップを走っているがその後続がアイラだった。 光の操作する車にアイラの操作する車が体当たりをする。



「うぇぇ!? マジかよ!? 」


「一位は頂きです光さん!」


光の車はスリップを起こして壁に激突、大幅に減速してしまう。 アイラの車の車体も多少揺らいだが走行に影響は無く、光の車を追い越すとトップギアを入れて一気にゴールしてアイラの勝利に終わった。


「くっそー負けた! アイラ、お前ホントに初めてかよ? 初めて一時間で俺に勝つなんて……」


アイラに負けたショックからか光は四つん這いになって項垂れていた。 それを見た氷雨は笑っておりさらに光の精神を苦しめる結果となった。


「全く……だらしないわねぇ橘 光。 アイラ、次は私とやりましょう。 負けないわよ!」


「ゴホッ!? バカ……氷雨俺に乗るな……! お、重……ぐあっ!」


四つん這いになっていた光に氷雨が乗っかり、光の禁句を耳にした為鉄槌を下す。


「女の子にその言葉はタブーよ。 それに女の子に乗ってもらえるなんてあんたにはご褒美じゃない? 精々幸せを噛み締めなさい」


そう薄ら笑いを浮かべながら氷雨はコントローラーを手にするとアイラと共に遊び始めた。


「負けた……アイラ強いわね」


アイラに完敗した氷雨は光同様項垂れていたが次の瞬間には頭を振って立ち上がっていた。


「ふん……次は負けないわよ」


そういうと氷雨は二階へ上がって行った。アイラは困ったような笑みを浮かべていたが心底楽しそうな笑顔を終始浮かべていた。


「あ……私ばっかりやっててごめんなさい……こういうの無かったからやり方が分かっちゃうと楽しくて……えへへ」


アイラが立ち上がるとソファに移動する。


「そろそろレーシングも飽きたから辞めにするか。 格ゲーで良いか?」


「お、格ゲーか。 俺も学生時代はゲーセンで鬼の長谷川と呼ばれた事もあるくらい格ゲーは得意だぜ。 光、俺とやろう」


格ゲーという言葉に反応した長谷川が目を輝かせながらコントローラーを握っている。何処と無くオーラを醸し出しており目も鬼のそれだった。 そしてゲームが始まると多少の操作確認はあったが、長谷川の快進撃が始まった。


鬼の長谷川に恥じぬ圧倒的な強さで光をボコボコにする。これまた完膚なきまでに叩き潰された光のメンタルは塵と化した。


「くっそぉ……強過ぎる。 ゲーム上手い人多過ぎるだろ……」


積み上げてきたプライドまでも粉々に打ち砕いた長谷川とアイラに光はショックは大きかったが久しぶりの大人数でのどんちゃん騒ぎに内心は嬉しくてたまらなかった。



街中にけたたましい程のサイレンが鳴り響く。 同時に何かが割れる音が響くとシルヴィア達の顔色が変わった。


「光君……地下の核シェルターに。 氷雨の "氷結結界" が張ってあるとは言えここも安全とは言い難い……。 とは言っても氷雨と氷華で事足りるかな」


光を一応核シェルターに避難させるシルヴィア。 光も身の安全を守る為シェルターに避難する。



氷雨の張った "氷結結界" は指定した物体、または物質が入ると瞬時に全身を凍らせる結界だ。 範囲は五メートルと広く、橘家を守るには充分過ぎる程だった。 魔物が "氷結結界" の範囲内に一歩でも入れば瞬く間に凍死させる一種の予防線みたいなものだった。





「さて、氷華……二手に別れて魔物を討つわよ。 行けるわね?」


「了解しました氷雨様……仰せのままに。 魔物を殲滅してきます」


二階の窓から足を掛けて飛び出すと氷華は瞬く間に魔力を探査して魔物の出現地帯へと足を運んだ。 氷華が行ったのを確認すると氷雨も二階から飛び降りて地面に着地する。


「シルヴィア達はどうやら私達だけで良いと判断したみたいね。 全く……まぁ個々の力と魔力は微々たる雑魚ばかりだから良いんだけど……。やりますか」


氷雨は瞬間移動でその場を後にした。


「おー、うじゃうじゃいるわね」


瞬間移動で魔物の出現地帯に姿を現した氷雨は魔物の多さに多少驚いていたがすぐさま戦闘態勢に入る。黒い表皮に覆われ、鈍く光る赤目、異常に長い両腕が特徴的な魔物だった。 魔物は氷雨に対して威嚇をしていたが効果は無いに等しく、氷雨の感情を昂らせる結果にしかならなかった。


「ふん……雑魚どもが一人前に威嚇してんじゃないわよ! かかってきなさい "氷華"」


氷雨は氷剣・"氷華" を具現化させると剣から発せられる冷気で、辺りの気温が急激に下がり始める。 至る所から氷が突出し、魔物の体を易々と貫いた。 同時に氷雨が魔物の群れに突っ込み、縦横無尽に駆け巡る。


「ははは! 弱いわねぇ!」


魔物の体を易々と裂きながら踊るように戦闘を繰り広げている氷雨。 氷雨の一撃一撃が容易に魔物に突き刺さり、絶命していく。

魔物の単純な攻撃は当たるはずもなく、両腕を消し飛ばされた魔物が叫びながら氷雨に体当たりを仕掛ける。


「微温いのよぉ! 凍りつきなさい!」


体当たりを仕掛けた魔物を切り裂くと "氷結結界" を発動し、全ての魔物を瞬時に凍らせる。 氷雨は全ての魔物が凍った事を確認すると剣を粒子に変換させ、丸腰になる。

やりきったように手を叩くと溜息を吐いた。


「全く……手応え無かったわね。 砕け散りなさい」


氷雨が指を鳴らすと魔物の氷像が全て粉々に砕け散った。 魔物退治を終えた氷雨は空間のヒビを見上げる。


「っ!?」


全身が刃物で刺されたかのような錯覚に陥る。 それくらい強烈な殺気が氷雨を襲い、思考すらも死に塗り替わる。 呼吸が止まり、嫌な汗が噴き出す。


「……っっ!」


ヒビから目を逸らし、何とか呼吸を整えた氷雨だったが、高鳴る胸の鼓動は収まらず、脳裏にあの強烈な殺気がこびり付いている。


「あそこに何かがいる……絶対に。恐らくそれがこの世界のヒビの元凶なはず……。 兎に角シルヴィア達に知らせないと」


氷雨はすぐさま瞬間移動を使って橘家へと帰宅した。 そして帰宅した氷雨はすぐさまシルヴィア達を呼び集めると、ヒビの中にいるであろう得体の知れない存在の事を話す。


「氷雨の言ってる事は分かった……。私達もそのヒビの中に何かがいると仮定してたんたんだけど、その氷雨の言葉で確信が持てた」


シルヴィアが自信有り気に頷く。


「ただ、その存在が何なのかは分からないけどね」


「それは分かってるわよ。 だから出来るだけ早く乗り込みたい。 そしてその元凶を討つ!」


氷雨の意気込みはシルヴィア達を鼓舞するのに充分な効果を持っていた。





ヒビの中の空間で佇む黒いローブの少女は嗤っていた。 この状況を楽しむかのように。

異空間の中で自然発生する魔物を一瞥すると口を開く。


「ふふふ。いいね。 中々強そうだねあの子達……ま、それでもボクには及ばないけど」


少女は機嫌が良いのか何なのか、明るい口調で言葉にする。 そしてその空間に蔓延る全ての魔物を一掃させ、腰を降ろした。少し大きくなったヒビから見えるのはやはり住宅街。


「まだまだ楽しませてもらうよ……ここに居られる時間は少ないんだから」


その少女の呟きには誰一人反応しなかったが、少女は笑みを浮かべていた。 残り僅かな時間を楽しむ為に最善の手を尽くす。 少女はおもむろに被っていたフードを取り、素顔を露わにする。


ショートカットの黒髪に、少しボーイッシュな顔立ちの少女だったが、髪留めが女の子らしさを感じさせる。 あどけなさの残る十代半ばと言ったところか。 少女はただただ嬉しそうに笑みを浮かべて佇んでいた。

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