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和解

サラディウスとシルヴィアは空中で激しい戦闘を繰り広げていた。 両者一歩も譲らない肉弾戦に打撃の応酬。 高速で行われる戦闘はよりその激しさを増して行った。


「やるわねぇシルヴィア! 肉弾戦が得意なのかしら?」


「肉弾戦主体だからね……!サラディウスも良く私の速さに追いついてきてるよ……ね!」


シルヴィアの放つ蹴りはサラディウスの脇腹に直撃する。 脇腹まで覆っていた鎧が砕かれ、地面まで叩き落されてしまう。地面に小さなクレーターが形成され、サラディウスはその中心で倒れていたが手をついてゆっくりと起き上がる。 しかしシルヴィアが瞬間移動でサラディウスの目の前に現れるとがら空きの顔面を蹴り上げる。



「がっ!!」


血を吐き出し、身体が宙に浮く。 その滞空時間はシルヴィアを次の攻撃に移らせるには充分だった。踏み込んでからの渾身の力を込めた全力の右ストレートを放つ。


「甘い! そう何度もチャンスはあげないわ!」


その声は真後ろから。そして襲い掛かる衝撃。サラディウスの蹴りがシルヴィアの後頭部に当たり、シルヴィアはかなりの距離を吹っ飛ばされ顔面からブロック塀に突っ込み、勢いそのままに民家を破壊しながらやっとのことで止まる。


「やってくれるね……ぺっ。 そろそろ本番と行こうか」


笑みを浮かべるシルヴィアは魔法陣を展開させると、その魔法陣から無数のナイフを射出させる。 ナイフは真っ直ぐサラディウスの所へ飛んでいくがそれをわざわざ待つサラディウスでもない。 飛来してくるナイフの射程圏外である空に逃げると、右手を下にして腕を突き出す。



「茶番は終わりよシルヴィア。 具現しろ…… "クラディウス"」


サラディウスが言葉を呟くと、大いなる闇がサラディウスを覆い尽くす。 膨大な魔力の波動に驚きを隠せないシルヴィアは驚いたように笑ってみせる。 そしてサラディウスを覆っていた膨大な闇が全方位に拡散し始める。


「っ!?」


シルヴィアは顔全体を庇ってそれを何とかやり過ごす。 そして、空中で未だシルヴィアを見下ろしているサラディウスの姿を見てシルヴィアは目を丸くする。


黒いオーラがサラディウスの持つ魔剣クラディウスから出ており、膨大な闇の魔力と合わせてサラディウスの全身に纏わりついていた。 サラディウスは驚愕を隠せないシルヴィアに嘲笑うように一瞥するとクラディウスを振るう。 凝縮された闇が斬撃となってシルヴィアに襲い掛かる。


「っ!?」


連続して放たれた斬撃をシルヴィアは何とか躱す。 闇を纏った斬撃は地面が深く抉れる威力。 貫通力に特化しているらしい。


シルヴィアはサラディウスを一瞥すると歯軋りをする。小さく舌打ちをすると魔力を練り上げた。


「"ケミカル・ブラスト"」


掌大の大きさの風の球を出現させるとサラディウスの背後に回り込んでそれを射出させる。 サラディウスはそれを見向きもせずクラディウスを振るって相殺……したはずだった。


「ッ……!!」


突如竜巻のような暴風が吹き荒れ、地面周辺の瓦解した住宅の残骸も瞬く間に取り込んで行く。 すぐに逃げ場を奪われたサラディウス。 暴風の結界と化したそれは迂闊に接触すればサラディウスの身体は容易に引き裂かれるだろう。


「やってくれるわね……シルヴィア。 けどこんなもの……!!」


クラディウスの刀身に一層濃い闇が纏われる。 そしてそれを一刀の元に全力で振り下ろした。 放たれた禍々しい闇の一撃は荒れ狂う暴風に直撃すると風穴を開けた。 サラディウスは笑みを浮かべたがそれは間違いだという事に気がついていなかった。


「がはっ……!!」


凄まじい暴風がサラディウスを襲い、乱回転に巻き込まれてしまう。 暴風が漸く止んだが、サラディウスは全身を血塗れにさせていた。 浮遊を失ったサラディウスは頭から地面に落下を始めてしまう。


「随分やられたわねサラディウス……私と引き分けたあんたが情け無い」


サラディウスが地面に落ちるのを防いだのは氷雨だった。 お姫様抱っこでサラディウスを抱えると優しく地面に降ろす氷雨。


「ゆっくり休みなさい」


と静かに呟くと氷雨はサラディウスの胸に手を当てる。 するとサラディウスの身体が粒子化し消えて行った。 氷雨はシルヴィアを睨むとすぐさまシルヴィアの元へ移動する。


「良くサラディウスを倒せたわね。 あなた達の実力は良く分かったわ。 これなら私達も安心出来るし、あなた達も充分でしょう?」


氷雨はシルヴィアに停戦を持ちかけると同時にシルヴィア達を仲間に引き込もうと提案をする。 シルヴィアは考えるような仕草をしながら唸っている。


「確かに強かったし油断してたら負けてたのはこっちかも知れない……。確かに充分だよ。 楽しめたし。 勿論君達と私達の目的は一緒かも知れないから行動は共にさせてもらおうかな」


シルヴィアも一応ではあるが了承する。


「氷華」


氷雨が氷華を呼ぶと氷華が長谷川とタツヒコの二人を担いで氷雨の隣に現れた。


「……長谷川さんとタツヒコ君の二人を……どうやって」


「 "適応因子" でサクッと」


氷華の代わりに氷雨が答える。その事実にシルヴィアは表情を驚愕に染めて氷雨の肩を乱暴に掴む。


「適応因子!? な、何で氷雨が適応因子を知ってるの!?」


ガクガクと揺らすシルヴィアに氷雨は鬱陶しいと思ったのか押し返すと咳き込む。


「ケホケホ……いきなり何すんのよ。 私が行った世界で氷華の元となる良い器があったからそれを応用したのよ……。 世界が崩れ掛けてたのに大した損傷も無かったのは不幸中の幸いだったわね」



「世界が……崩れ掛けてた?」


唖然とするシルヴィアに氷雨は首を傾げる。


「何……? 知らないの? 世界が世界である事を保てなくなった時に起こるのが崩壊現象よ? 私が行った時には既に世界の大半が崩れ掛けてたけど……」


「なっ……」


氷雨の口から語られるのはシルヴィアには、にわかに信じられない出来事であった。あまりの衝撃にシルヴィアは絶句する。


(まさか……私達が来た事でその世界そのものの歴史が狂ったとでも言うの? シオン……結局私達は君を救えなかったの?)


「ちょっと、何ボーッとしてんのよ。 大丈夫?」


氷雨の声掛けに我に返ったシルヴィアは氷雨に大丈夫という意思を伝える。氷雨は何かを察したようにシルヴィアを見やる。


「そう……あんた達も行った事あるのね。ただ、あんた達がいつ行ったのかは分からないけど、私が行ったのはつい三ヶ月前よ。 あんた達はいつ?」


「三日前」


「三日? おかしいわねぇ」


と今度は氷雨が考えるように顎に手を当てる仕草をする。 暫く唸った後、考えを導き出したのか手を叩いた。


「分かったわ……おそらくあんた達が行った世界と私達が行った世界は並行世界……パラレルワールドと呼ばれるものに該当するはず。私の仮説が正しければね」


自信満々に言い放った氷雨は誇らしげに胸を張っていたがシルヴィアは氷雨が呟いた言葉を静かに繰り返していた。


「パラレルワールド……パラレルワールドか。 並行世界……同じような世界が同時に存在する……か」


「……あまり難しく考えちゃダメよ。 あくまで私の仮説なんだから」


シルヴィアの肩に手が置かれる。 氷雨がシルヴィアの肩に手を置いており、その表情は何処か柔和な雰囲気を醸し出していた。


「分かったよ……ありがとう氷雨」


「良いのよ……。 さて、そろそろ立ち話も何だから橘 光の家に向かいたいんだけど……もうそろそろかしら?」


氷雨が何かを予測するような言葉を言った直後にけたたましいサイレンが街中に轟いた。


「隔離技術システムを作動します。隔離技術システムを作動します。 住人の皆さんは核シェルターから住宅へと戻ってください。 繰り返します……」


と機械的なアナウンスが街中に響くと直後に劇的な変化が街中に現れる。次々と倒壊していた住宅が波紋のように次々と書き換えられていく。


「なっ……」


「驚いたでしょう? 『隔離技術システム』。何でも………街に危険を及ぼす存在が確認された場合にサイレンが鳴る。 このサイレンは壊される前の街並みを複写するらしいわ。そして危険な存在が排除されたら倒壊した街並みに、複写した街並みを投影させる事で被害を最小限に抑える事が出来るんだってさ」


状況が追い付かないシルヴィア達に氷雨が補足で説明をする。 それをシルヴィアは感心したように頷く。 氷雨がおもむろに振り返ると制服のブレザーを着崩した少年……光が走ってくるのが見えた。


光は氷雨の目の前で止まると息を整えてから顔を上げた。


「氷雨ぇ……助けてもらった恩もあるし、俺の家に来いよ。 泊まるところねぇんだろ? 使ってない部屋がいくつかあるから使ってくれよ」


「悪いわねぇ橘 光。 根本的な問題が解決するまでお世話になるわ」


氷雨が嬉しそうに笑みを浮かべると光の肩に手を回す。 光は恥ずかしいのか、少し照れていたが氷雨をやっとの事で振りほどくとシルヴィア達を見やる。


「えーと、あんた達は?」


「あ、シルヴィア達も私の仲間みたいなもんだからあんたの家にお邪魔させてもらうわよ」


シルヴィアが答えるより早く氷雨が強制的に決めてしまった為シルヴィアは苦笑を浮かべる。


「はぁ?? 多過ぎだろぉ〜」


光は光で肩を落としてショックを受けていた。多少強引ではあるがシルヴィア達も光の家に居候させてもらう事となった。

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