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感じる強さ

「さぁ、私達もそろそろ始めましょうか」


閑静な住宅街へ移動した氷雨とアイラは静かに闘志を燃やしていた。 閑静というよりは人の気配が感じられない事に多少の疑問をアイラは抱いたが今は目の前の敵を倒す事に全力を注ぐ事にした。


と同時に身体に衝撃を感じ、一瞬遅れて血が噴き出した。


「ッ!?」


大した傷では無いがいきなり事にアイラは目を見開いた。


「何ボーッとしてんのよ! もう戦いは始まってんのよ。 ふん……こんなんで楽しめるのかしら」


氷雨が吐き捨てるようにアイラに投げ掛けた後、アイラの足下から氷の棘が突出してきた。 アイラはバックステップで躱すのと同時にすぐさま視線を氷雨に移す。 氷雨は既にアイラに斬りかかっていた。


「ふっ!」


勢い良く息を吐き出すと共に、左手に持った剣を右肩辺りまで上げていたのを一気に振り下ろす。


「くっ!!」


アイラは剣の軌道をギリギリまで見極めてそれを躱す。 が、触れてもいないのに頬の辺りが微かに切れていた。 アイラは一旦距離を置いて氷雨の様子を見ようとする。 氷雨はそれに気付いたのか、剣を肩に担ぐと眉を顰めて嘆息を吐いた。


「あんた……全力で私を倒しに行くんじゃなかったの? 守りに徹して様子見……? そんなんでどうやって私を倒すと言うのよ?

一方的じゃつまらないから奥の手だろうが何だろうが使って攻めて来なさいよ!」



「……!! なら遠慮なく行かせてもらいます!」


言い終わった頃にはアイラは既に氷雨の右隣に移動しており攻撃を加えるところだった。

氷雨は驚きつつもそれを躱す。 しかしアイラは休む暇を与えずに攻撃を仕掛ける。氷雨はそれを躱していくが躱し切れずに顔面にクリーンヒットし、ブロック塀を突き破って民家に突っ込んでしまう。


粉塵が舞ってしまった為視界が遮断されてしまったがアイラは警戒を解かずに神経を集中させる。


「……」


「何処見てんのよ!!」


声が聞こえたと同時に背中に衝撃と痛みが駆け抜けた。しかしその痛みに耐え振り向くと同時に裏拳を繰り出す。


「えっ!?」


素っ頓狂な声を上げてしまうアイラ。裏拳も空振りに終わり、アイラの裏拳の範囲の遥か後方に立ち尽くす氷雨を捉えた時、アイラは愕然とした。 氷雨の姿がブレるように消え、先程より近くに移動した氷雨はアイラに苛立ちを覚えたような表情を浮かべていた。


「相手が姿を現わすまで待ってるつもり? その瞬間にはあんた死んでるかも知れないのよ!! 今のではっきり分かったでしょう! 全力で来なさい!! 全力で来ないなら……殺す!」


氷雨の全開の殺気に本気だと悟ったアイラはここぞとばかりに心を落ち着かせる。


「 "アンチフィールド"」


静かに呟いたそれは、短時間ではあるが絶大な効果を発揮するアイラの技。 相手の身体能力を強制的に半分以下に下げる効力を持つアイラが滅多に使わない技だった。


アイラは神経を研ぎ澄ませると氷雨の攻撃を見切り、顔面に思い切り拳を叩き込む。


「がっ!!」


数メートル吹っ飛ぶ氷雨だがアイラはすぐさま距離を詰めると追撃の蹴りを加える。骨が易々と砕かれる感覚を味わいながら、民家を数件貫通した氷雨の後を追い、さらに追い討ちを掛ける。


全身を殴る蹴るの強撃を繰り返した後、肩を押さえ、後頭部を鷲掴みにしてコンクリートの地面に何度も叩きつけ始めた。


血飛沫が至る箇所に飛び、地面が真っ赤に染まり上がる。アイラは渾身の力を振り絞って最後の一撃を見舞う。 クレーターが形成され、民家の何軒かはそれに巻き込まれて崩壊してしまった。


「はぁ……はぁ……」


息を荒げながらアイラは氷雨から離れると呼吸を整える為に立ち止まる。 そして未だ倒れている氷雨を一瞥する。 あれだけやったのだから死んでいてもおかしくはないはずである。


(……やり過ぎちゃったかな)


周辺の民家が倒壊する程の力を見せたアイラだったが少しやり過ぎたと反省し、踵を返そう足を反対方向へ向けた時、聞こえるはずのない声がアイラの鼓膜を刺激した。


「ゴホッ……ゴホッ……! 待ちなさいよ……まだ終わってないわよ」


「何で生きてるんですか……」


あれ程のダメージを負ったにも関わらず何故まだ氷雨が生きているのか理解出来ないアイラは再び氷雨との距離を瞬時に詰め攻撃を繰り出す。 しかし、寸前で躱されてしまう。


(……まだ "アンチフィールド" が切れるには時間が早い。 まさかもう順応して……!?)


アイラは氷雨の驚異的な順応能力に恐れすら抱くが攻撃の手を休めるわけには行かず、ひたすらに攻めた。


「全く、さっきとはえらい違いね……。ようやくあなたの動きにも目が慣れてきた所だし、傷も癒えそうだからそろそろ攻めに転じさせてもらうわ。 "滅炎球"」


氷雨の身体が高温の炎の球に覆われる。 それによりアイラは攻撃手段を失い、攻撃のリズムも崩されてしまう。 莫大な熱気がアイラを襲い、堪らずアイラは顔を左手で庇った。


「あんたは移動速度が驚異的に速いけどただそれだけ。極僅かな攻撃に移る時間が隙を生ませるから攻撃を躱される……。 私のように反応速度が速い相手にはキツそうね」


炎の中から氷雨の声が聞こえてきた。突如炎の球が周囲に熱気を散らしながら四散する。

炎の中から氷雨が姿を現した。 服は血に染まってはいるが顔は血が綺麗になくなっていた。 氷雨は剣を一振りすると口角を吊り上げた。


「さて、まだやれるわよね? 次は私が力を見せる番ね」


氷雨が言い終わると同時にアイラの身体から鮮血が噴き出す。


「っ!?」


「……あなたが "認識を超える速度の移動" なら私は "認識を超える速度の攻撃" よ。 どうやら私の方が一枚上手のようね……」


「くっ……」


氷雨とアイラに決定的な差があるのは紛れもない事実である。 氷雨の言う事が確かなら避けようのない攻撃手段を氷雨は持っているという事になる。 それに気付いてしまったアイラは思わず歯噛みする。


「 "絶零の氷壁"」


氷雨の目の前に巨大な氷の壁が出現し、アイラに立ち塞がる。さらに地面から大量の氷の棘が出現しアイラは飛び上がって避けるしかなかった。


「読み通りよ」


その言葉がアイラの耳に聞こえたと同時に全身に衝撃が走り、地面まで蹴り飛ばされてしまう。 分厚い氷の壁を貫通し、民家の二階の窓と反対側の壁を突き破る勢いでアイラは飛ばされてしまう。


「がっ……ごほっ……!」


粉塵が立ち昇り、アイラは思わず咳き込んでしまう。身体に目をやると所々身体が凍り付いていた。


(これもあの人の? 正直言ってあの人の攻撃が一番厄介だ……。 私の認識を超えて攻撃が来るんだから避けようがない。 どうしたら……)


どうにかして氷雨に一撃を与えたかったアイラだが、隙が無い上にシルヴィア並の人外染みた反射速度を持ち合わせていては攻撃の当てようも無い。


アイラの思考を遮るように家がミシミシと音を立て始める。 危険と見たアイラはすぐさまその民家から離れると近くの空き地に身を潜める事にした。


(あの人も魔法が使えるのなら魔力は持ってるはず……見たところ使えるのは氷と炎だけ。 いや、魔法があるから付け入る隙も無い……もしかしたらシルヴィアさん以上の……)


「っ!」


アイラは危機を感じ咄嗟に空き地から離れる。 数瞬遅れて空き地が巨大な氷に飲み込まれてしまった。


「なっ……」


その異様な光景に絶句するアイラ。そして全身がその異常な殺気を敏感に察知し、本能が警告を告げる。ふと見やると氷雨が隆起した氷の頭頂部に足をつけてアイラを見下ろしていた。


「何なんですか……あなたは。 本当に人間ですか?」


「魔法が使える事以外は紛れも無い普通の人間よ。 あんたのあの猛攻に耐え切ったのも魔力があったから……。 さて、ギアを上げさせて貰うわ。 "血の盟約" 具現しろ……"クラディウス"」


氷雨の身体が禍々しい闇の球体に包まれるとそれは急速に成長していった。 膨張する闇の球体は禍々しさを増していきながら限界まで膨れ上がる。 そしてその限界を超えた時、大気を揺るがす振動を以って破裂し、その中から一本の黒い剣を携えた氷雨が姿を現した。


「っ……!」


息を飲む程にアイラはその禍々しさを肌で感じていた。そして一目で見てわかるのはあの闇を凝縮させたかのような雰囲気を持つ黒い剣だ。 氷雨は閉じていた目を開く。 茶色の瞳から真紅のような色合いの瞳に変わっていたがそれは然程驚くべき点ではなかった。


冷徹な眼差しを向けている氷雨は、その時点で有無を言わせないような圧力がありアイラに戦慄を抱かせた。


「あんたの……」


「え?」


「あんたの名前を教えてくれないかしら? まだ聞いてなかったわよね?」


「……アイラ・シルエートです……」


アイラは恐る恐るそう答え、氷雨を凝視する。 氷雨はゆっくりと目を閉じてから頷くと再び目を開ける。


「そう……アイラか。 良い名前ね……。これからよろしく頼むわ」


氷雨はそうアイラに微笑みかけると膝を折って一瞬でアイラの懐に潜り込むと魔剣クラディウスを振るった。 アイラはそれをギリギリで躱すと蹴りを放つ。 氷雨はそれを腕で防ぐ。 重々しい音が響き、氷雨の腕の骨が軋む音が聞こえた。


「ぐっ……出鱈目な威力してるわね……全く」


言いながらクラディウスを振るう氷雨。 しかし、当たらずに空を切る。


「なら、これならどうかしら?」


クラディウスの刀身が黒いオーラで包まれ、氷雨はそれを振るうと黒いオーラが斬撃となってアイラに射出された。 さらにアイラの両腕に氷雨の攻撃が当たったのか、真下は血で染まっていた。


アイラは覚悟を決めたのか、地に付けた足に力を入れてさらに腕をクロスさせてあの斬撃を防ごうとした。


「ぐうぅ……!!」


凄まじい威力と衝撃が襲い掛かり、両腕に痛々しい程の斬撃の爪痕が残される結果となった。 痛む全身に鞭を打ちながらもまだ氷雨と戦う意思を見せるアイラ。


「はぁ……はぁ……」


肩で息をしながら姿が見当たらない氷雨を探すアイラ。 満身創痍だろうとまだ意識はしっかりとあるのでアイラは必死に氷雨を探すが、何処にも見当たらなかった。


「何処に……」


「 "真・氷結世界"」


不意に浴びせられた声に反応を示そうとした途端、アイラの視界が白に包まれ、そのまま意識を手放した。





アイラが気を失ったのを確認した氷雨はアイラに回復魔法を掛けると、やるべき事はやったかのように息を吐き出した。


「まさか氷結世界まで使わされるとは恐れ入ったわね……アイラ・シルエート。 魔力も結構使っちゃったけど、まぁそれなりに楽しめたから良いわ。 さて、サラディウスの加勢にでも行こうかしらね」


氷雨は一度だけアイラを見ると優しそうな笑みを浮かべ、そのまま姿を消した。

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