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異世界を渡る者

シルヴィア達の朝は早い。 もう既に全員が席に着いて紅茶を嗜んでいた。


「皆おはよう……さて、早速だけど、そろそろ異世界へ行こうかと思う。 紅茶は帰ってきてから飲みなさい」


シルヴィアが指を鳴らすと机に置いてあった全ての紅茶が消え、魔法陣が展開された。


「まぁ……シルヴィアがそういうならしゃーねーな」


タツヒコが呟いたと同時に魔法陣の輝きが一層増すと、全員が転移し、会議室は無人となった。



空間に穴が開き、その中からシルヴィア達が地面に着地する。そしてシルヴィア達の目に映ったのは現代日本的な住宅街の一角の電柱に跪く少女とその少女を見ながら困惑した様子の制服のブレザーを着崩した少年だった。


「えっ? えっ……? 何だよこれ……」


まだ状況が飲み込めていないのか少年は酷く混乱した様子でシルヴィアと跪く少女を交互に見る。


「ちょ……氷華……あの人達もお前の仲間なのか?」


少年は跪く少女を氷華と呼び、その氷華の肩を叩いて気付かせる。 氷華と呼ばれた少女はゆっくりと立ち上がるとシルヴィア達の方を振り向く。 振り向いた氷華の出で立ちは水色の髪に翡翠の瞳を持つ華奢な身体の少女だった。 無表情だがその瞳は確かにシルヴィア達を射抜いている。


「……いえ、事前情報にありません。 敵とみなし……」


「待ちなさい氷華。 まだそいつらを攻撃しちゃダメよ」


氷華の声を遮り上空から声が聞こえてきた。シルヴィア達がその声の方へ視線を向けると、電柱の上に少女が立っていた。 スカートを履いている為、風に煽られるたびに下着が丸見えの状態だ。 黒とピンクの縞々らしい。

長谷川とタツヒコは少し興奮した様子で鼻息を荒くしている。


その少女は電柱から軽々と飛び降りて着地する。 少女は黒髪のツインテールで服装は動きやすいように軽装をしているのだろうか。スカートと赤と真ん中が白の半袖の服を着ていた。 瞳の色は茶色と一見普通の少女だ。


「あなた達……見てたわよ。 空間に穴を開けてそこから出てくるのを。 私の名前は氷雨。

そこの女は氷華。 よろしく。そしてそこのナヨナヨした男は橘 光よ」


「ナヨナヨ!?」


光と呼ばれた少年は氷雨の一言に驚きつつも傷付いたようだった。


「で? その氷雨ちゃんが私達に何の用で?」


シルヴィアが怪訝そうに眉を顰めながら氷雨に一言浴びせた。 その氷雨はシルヴィアに狡猾な笑みで返す。


「いや、あなた達も私達と同じ様に『異世界へ渡れる』力を持ってるのが意外だったのよ。私と氷華はここの住人とは違うわ。 橘 光はこの世界の住人だけどね」


「そう……勝手にべらべらとありがとう。

ついでだけど、あなた達の目的も教えてくれるかしら?」


状況を飲み込んだのか、シルヴィアが氷雨を軽く挑発する。 それに氷雨は口角を吊り上げると口を開いた。


「目的……? 恐らくあんた達と同じよ? この異世界の調査よ。 で、あんた達の目的も知りたいけど一番知りたいのは……実力よ」


氷雨が何の変哲もない剣を具現化させる。


「橘 光、あんたは核シェルターに避難してなさい。一般人であるあんたをこの戦闘で巻き込む訳には行かないわ。 分かったなら早く行きなさい」


「あ、ああ……」


光は状況が飲み込めていない様子だったが一目散に走って行った。


「核シェルター?そんなものまであるの?」


シルヴィアの一言が氷雨の鼓膜を震わせる。


「ええ…… 『脅威』に備えて一家に一つね……。さて、そんな話は後ででも出来るでしょう? 」


氷雨から殺気が漏れ出す。 それはシルヴィア達の戦闘意欲を掻き立てるには充分だった。


「私と氷華一人じゃ流石に厳しいわね。 サラディウス……」


「いるわよ氷雨」


氷雨の隣に銀髪に紅い瞳の少女が立っていた。無機的な角が二本生えており、八重歯が覗いていた。顔立ちは整っており、幾人もの異性を虜にしそうな妖艶な雰囲気が漂っていた。


「また私が呼び出す前に……勝手に出てきて」


「まぁまぁ……そんな細かい事は置いといて、面白そうな事やってるじゃない。全員殺せば良いのかしら?」


「殺すのは無しよサラディウス。 強そうなやつ一人と適当に戦って頂戴」


氷雨はサラディウスにそう告げると肩を竦めて見せた。 サラディウスは理解したのか殺気を滲ませる。


「実力を測れって事ね……目星は付いた」


サラディウスは口角を歪ませているがまだ襲いかかって来ない。 氷雨の合図を待っているのだろう。 その氷雨はシルヴィア達の方に歩みを進めるとシルヴィアを一瞥しながら口を開く。


「私達に勝とうが負けようが……あなた達は私達と行動を共にしなきゃならない。 逆も然り……。まぁ、今は楽しみましょうか」


氷雨のその言葉で氷華はタツヒコと長谷川に、サラディウスはシルヴィアに向かって対峙する。 残る氷雨はアイラと戦う事になった。


日本の現代的な住宅が建ち並ぶこの住宅街で戦闘が始まろうとしているが激戦となるのは必至。


「さて、私はあんたかしらね……。楽しませてもらうわよ……」


「楽しませれるかは分かりませんが……全力であなたを倒しに行きます」


アイラは氷雨と対峙しながら身体に紅いオーラを纏わせた。



長谷川達と対峙する氷華は静かに長谷川とタツヒコを見ていた。長谷川とタツヒコの二人は今にも襲い掛かりそうな程の勢いだった。氷華は静かに呟いた。


「目標視認……数は二。 "適応因子" に従い殲滅します」


「ッ…… "適応因子" だと!?」


長谷川が狼狽する。 "適応因子" はあのシオンが使っていたものである。 何故異世界の人間である氷華が使えるのか、長谷川の思考が支配される。


「長谷川さん!? 前を……ぐっ!?」


タツヒコのくぐもった声で長谷川の思考が動き出したが、目の前の光景を見て再度思考停止に追い込まれた。


「 "適応因子" によればあなた達の最大の弱点はこれです」


氷華の衣服が消えており、傷一つ無い神聖な身体が露わとなっている。 その状態で長谷川の目の前まで移動すると自身の胸を持ち上げる。


「ぐはっ!?」


鼻血を撒き散らした長谷川。 氷華はそれに無慈悲な一撃を繰り出した。 強烈な蹴りを股間に叩き込んだのだ。


「ぐぅおおおおおおおおお!?!?」


長谷川の絶叫が木霊し、両膝を着いて悶絶する。氷華は頭を差し出す形となった長谷川の頭を思い切り足で叩きつける。 コンクリートの地面が二メートル規模で陥没を起こす。


ピクリとも動かなくなった長谷川を確認するとタツヒコに視線を向けた。


「は、長谷川……がっ!!」


言葉を交わす間もなく、氷華の肘打ちが繰り出されるとタツヒコは地面に叩きつけられた衝撃で気を失った。


「両者を戦闘不能と見なします…… "適応因子" を解除します」


氷華は抑揚のない機械的な声でそう呟くと戦闘が開始された爆音を聞きながらタツヒコ達を一瞥していた。

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