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シオンの想い

「ふむ……これで大体皆の能力は把握出来たわ。 ありがとう」


荒野地帯を北に進みながら砂漠を抜けたところにいるシルヴィア達はシオンに軽くシルヴィア達の目的と自分達の持つ能力を説明し終わったところだった。


「しかし、皆個性の強い能力や魔法を持ってるのね。 羨ましいわ」


「シオンも魔法とか使えるんでしょう? さらに "適応因子" もあるんだし、かなり強い方だよ。 最初から弱点が分かるってのも大きな強みさ……私にはこっちの方が羨ましい」


シルヴィアがごく自然にシオンの性能を褒める。 シオンはそれに頬を緩ませた。


「ありがとシルヴィア。 さて、私としてはこのまま "白の組織" に足を踏み入れたいんだけどな……」


「さっき戦ったばっかでしょ……そんな焦る事も無さそうだけど?」


少し急くシオンをシルヴィアは宥めるように落ち着かせる。しかしそれでもシオンには焦る理由があった。


「実は "白の組織" は私達Xシリーズより次世代機……新型機の開発をしてるっていう情報が私の情報回路の中に存在してるの。 言うなれば私達は……私はその次世代機の試作型に過ぎないのよ」


シオンが苦渋を噛み締める思いを吐き出す。悔しさ、憤りを抑えきれないような口調だった。その衝撃の事実にシルヴィア達は言葉を失う。


「だから早くあいつらと決着を付けないといけない……おそらくもう、あいつらの修理は終わってるはず……」


そう呟くとシオンは凄まじい速度で駆けて行った。


「タツヒコ君!!」


「分かってる……見つけた!! 」


タツヒコの光速化の能力で時間の流れを遅くしてすぐさまシオンの位置を把握し、シオンの後を追うシルヴィア達。


「シオン! 待ちなさい!」


「流石に速い。 全く、分かっ……!?」


シオンの言葉は最後まで伝わらず、遮られる形となって空から飛来したな何かがシオンを襲った。 途端に土煙が舞い上がる。


「シオン!! くそっ、あいつらか!?」


タツヒコが叫ぶ。しかしすぐにタツヒコのくぐもった声が聞こえる。 土煙で視界的に分の悪い状況に陥ってしまったと咄嗟に感じたシルヴィアは暴風を起こし、土煙を四散させた。


「ふん……ちょっと調子乗り過ぎじゃない!?」


シルヴィアは一瞬の隙を突いてシオンを屠ったアンドロイドを殴り倒した。


「おっと……まさか新型でも対応してくるとは……やはり侮れんな」


シルヴィア達の前にあの三人が立ちはだかった。


「まさかたった一時間で私に消し飛ばされた腕が直ってるなんてね……今度は徹底的に叩き潰す!」


「俺らの目的はあんたじゃない……04、お前だ。 "白の組織" に戻って来い」


「ふざけるな……誰があんた達のところになんか戻るか! 人間の都合でよって作られ、言いなりになり、それを異常とも思わない……異常と思えないあんた達とは一緒にいたくない!!」


シオンが思いの限り叫ぶ。 今まで抑圧してきた本心が、本音がシオンの全てを揺さぶった。 感情という機械には持ち得ない感覚は人間のそれより的確で鮮明だった。


少なくともシオンには人間が人間を殺すと言う行為がどれだけ愚かというのを理解していたし、自滅行為と呼んでも差し支えない人類の愚行であった。その異常とも言える行為を異常と認識出来てるのはシオンだけであった。


「やはりダメか……プログラムに異常あり。 人類及び我々を敵と認識しているな。 早く組織に連れ帰ってプログラムの書き換えを行いたいものなんだがな……」


赤髪の男が抑揚のない声で呟くとシルヴィア達を見やる。 そしてその赤髪の男の隣に新型であろうアンドロイドが寄ってくる。


クリーム色の髪に白い肌、青い目が特徴的な少女だった。 首から下は薄いが強固そうな装甲で覆われている。 黒色の丈の短いスカートを穿いていた。


「こいつはまだ未完成だが戦闘能力だけなら俺らより上だ。 戦闘本能だけで行動する。俺らの事を仲間だと一応は認識している。名をゼロ……全ての始まりという意味らしい。 ゼロ、やれ」


赤髪の男がゼロに命令するとシルヴィアに襲い掛かる。 シルヴィアもそれを感じ取り、頭上に展開させた魔法陣から無数のナイフを射出させる。しかしその全てを躱し切るとシルヴィアの眼前に飛び上がり、拳を振り上げた。


「シルヴィア! そいつの頭の部分に "核" があるわ! それさえ壊せばそいつは完全に動きを止めるわ! 私もこいつらを倒したら加勢する!」


シオンの "適応因子" でゼロの頭の部分に核がある事をシルヴィアに伝える。 それは対峙していた他のアンドロイドは知らなかったのかシオンに疑問を投げ掛ける。


「04、何故俺達でさえ知り得ない "核" の場所を知っている? 疑問だな」


シオンは水の塊を出現させるとそれを青髪の男に向けて投げる。 青髪はそれを炎剣で斬りつけるが、蒸発とまでは行かずに数発着弾した。


「さぁ? あなた達に教える訳ないでしょ? 因みにあなた達の核の場所も把握済みよ。 感情がない故に言いなりになり愚行を愚行とも気付かないあなた達は……戦争の道具よ」


その言葉と共にシオンの刃は青髪の男の胸の部分を貫いた。 青髪の男はショートを起こすと数瞬の間を空けて爆発を起こした。


「……だからこんな馬鹿げた世界を、人間を消す。 自ら作った兵器に消される人間も皮肉なものね」


シオンは寂しそうに呟くとタツヒコ達の戦闘に加勢しに行こうかと思い立ったが既に戦闘が終わっていた。 アイラの方も同様だった。


二体とも核が粉々になっており、身体も損壊が激しかった。 これでもう動き出す事はないだろう。 残りはシルヴィアだったが、これも間もなく決着が付きそうだった。


四肢を失くしたゼロにシルヴィアの容赦のない一撃が繰り出される。 その一撃は見事ゼロの頭蓋を砕き、核諸共粉砕された。


「終わった……?」


アイラが言葉を出すが、シオンは首を横に振るう。


「まだ。 まだ "白の組織" にいる人間達が居るわ。 その人間を消してやっと終わりよ……」


淡々と呟いたシオンの口調は何処となく殺意が感じられた。


「私は戦争の道具じゃない。 でもそれを証明させるには戦わなければならない……これ程おかしな事もないわね」


シオンの悲痛とも言える叫びは虚空に掻き消された。





「な……なんだお前達は!? 何処からはいっ……ぐぎゃっ」


シオンの案内で "白の組織" に侵入したシルヴィア達は組織内の全ての人間を殺して回った。 さらに何体かアンドロイドが安置されていた為それも破壊しておく。


「だ、誰か……助け……」


「そう懇願した同族をあなた達は何の躊躇いもなく殺したわね? 愚かな者と書いて愚者……愚者らしく死になさい」


シオンは壁に頭を叩きつけた後、払い腰と蹴りを食らわせ、浮き上がった所を高圧水流の剣で身体を貫いた。 仕上げにシオンは組織の建物を完全に破壊させた。



「これで完全に終わったわね……。 シルヴィア、あなた達が居なかったら私のこれは成功しなかったわ。 ありがとう」


「いやいや……しかし、ここの人間を全員殺しちゃっても良かったの?」


「…地上の人間は多少なりともいるし "白の組織" が無くなった以上、徐々に落ち着いてくるはず。 それに地下にも人類がいるのよ。

地上に進出しなかった人類もいるから、あなた達の言う世界の滅亡はまだまだ先になるわね」


シオンがそう言うとシルヴィア達を惜しむような眼差しで見合った。


「シルヴィア、アイラ、タツヒコ、長谷川さん……私はこの世界でしか生きられない。

"因子" が身体にある以上私はこの世界で生きてくしかないけど、私はあなた達の事は忘れない……だからあんた達も忘れちゃダメよ?」


「シオン……」


シオンの想いがシルヴィア達全員の胸に突き刺さる。 もうすぐ別れる事を何らかの形で察したのだろう。 そのシオンにシルヴィアが一歩踏み出した。


「全く、勘が良いのか何なのか分からないけど……安心しなさい。 私は、私達はあなたの事は忘れない。 たとえ世界が違ってても私達の想いは同じなんだから」


言いながらシルヴィアは空間を突く。 空間に大穴が開き、その口からなんとも言えない雰囲気が醸し出される。


「じゃあね……シオン」


「うん……また会えると良いわね」


「信じてればきっと会えるさ」


シルヴィアはシオンにウインクをしたのを最後に空間の穴へと入っていく。 アイラやタツヒコ、長谷川もシオンを見ながらこの世界を後にした。


「悲しいのに涙が出ない……やっぱアンドロイドね私も」


シオンはそう嘆くと空を仰いだ。 雲一つない快晴がさらにシオンの心を締め付けるのだった。

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