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反省会と眠れない夜

「よっ……と。 到着〜っと」


シルヴィアを皮切りにしてアイラ、タツヒコ、長谷川と順に出てき、最後にクラウディアが出てきた所で空間の穴が閉じられる。


「お、クラウディア悪いね」


席に着くなり、早速出されるのは人数分の紅茶だ。そうして紅茶が出た所でシルヴィアが咳払いをして雰囲気を醸し出す。


「今回の世界は下手したら全滅も免れなかっただろう……皆が生きてて嬉しいよ。 お疲れ様」


シルヴィアが柔らかな口調で告げる。最大の死闘でもあったカトレアとの戦いの事をシルヴィアは言っていた。 あの戦いで誰かしら命を失ってもおかしくはなかったが、結果で見れば世界崩壊を防ぎ、死者は誰一人として出なかった。


「まだカトレアみてーな化け物染みた力を持ってるやつとかいるのか?」


タツヒコが純粋な疑問をシルヴィアにぶつける。


「恐らくいるだろうね。 今回は運良くたまたま助かっただけかも知れない……次は誰かが死ぬ可能性もある。 そんな奴に出会わない事を祈るよ」


シルヴィアはため息混じりでそう呟く。それを聞いたタツヒコと長谷川は顔を青くする。



「嘘だろ……俺らが死に掛ける程の死力を尽くしてやっと倒したカトレアと同等の奴が……まだ……」


長谷川が表情を絶望に染めながら戦慄した様子で言葉をやっとの事で吐き出す。 シルヴィアは長谷川を一瞥しながら嘆息を吐く。


「まだあくまで可能性の話ってだけだよ長谷川さん。 ちょっとネガティヴになり過ぎかな……すぐネガティヴになるのは長谷川さんの悪い癖だね」


「あ……す、すまんシルヴィア」


シルヴィアに言われて頭を項垂れる長谷川は青菜に塩を掛けたように萎縮してしまう。それを見たシルヴィアは困り顔をしてしまう。


「いや、こっちこそ脅かすような言い方しちゃったね……ごめんね。 ほら私の紅茶あげるから元気出しなよ」


おもむろにシルヴィアが自分の紅茶のカップを長谷川に差し出す。 長谷川もシルヴィアの手に重なるように手を差し出してそれを取る。 手を握る長谷川にシルヴィアは困惑したような表情を浮かべた後、苦笑いを顔に出す。


「あー……長谷川さん? 手をどかしてくれないかな? 流石の私も中年のおじさんの手を長時間触れてたくないんだけど?」


「えっ!? ひどっ!!」


長谷川は大袈裟に傷付いた素振りを見せて素直に手を離すと、怪しげに目を光らせる。


「因みに口は付けてるか?」


「ぶん殴って良いかな?」


「すいませんでした。 ありがたく頂きます」


長谷川は一礼して紅茶を飲むと至福の溜め息を吐き出すとゲップも出てしまう。 それを全員が顔を引きつらせ、時間差で襲う激臭にアイラの顔色が明らかに悪くなる。


(う……臭い。 長谷川さんの息ってこんなに臭かったの!?)


出かかった言葉を何とか思考に収めるアイラだったが長谷川を見る目がまるで汚物を見るかのように冷たくなっていた。


「はいはーい!! ちょっとふざけ過ぎかな。

さて、質問とかあれば何か答えるよ?」


シルヴィアが仕切り直しのように手を叩き、反省会を続行させる。 スッとアイラの手が上がる。 シルヴィアはアイラを指名し、アイラは一旦咳払いをするとシルヴィアに疑問を投げ掛けた。


「シルヴィアさんはカトレアとの戦いで切り札みたいな技を使いましたが身体とかは大丈夫なんですか?」


その質問にシルヴィアの顔が一瞬だけ固まるが観念したかのようにアイラの問いに口を開いた。


「アレはごく短い時間ならそんなに身体に影響はないんだ。 そうだね、なっても疲労困憊状態かな。 ただ、それはごく短時間での話。長時間使うと勿論私の身体に多大な影響を及ぼす。 諸刃の剣なんだよ」


シルヴィアが所々ボカしながらもアイラの問いに答える。 アイラは一応は納得したのかそれ以上は追求しなかった。


「さて、他に質問は?」


シルヴィアは周りを見回すが手を挙げる様子もなさそうだった。


「じゃ、質問もないようだしこれで反省会は終わりとしようかな。 今回の休みは一日だけ。 明後日にはここを出るからそのつもりでね。 解散!」


シルヴィアのその言葉と共に反省会はお開きとなり、各自自分の部屋に戻っていった。





その日の夜、アイラは寝る気が起きず気晴らしに城のベランダらしき所へ出て星を眺めていた。


(私にはあの燦々と煌めく星のような輝きは無い……。 人は自分には無いモノを求めてしまう。 贅沢は言わないからせめて……せめて誰かの心を照らし続ける存在でありたいの。お兄ちゃんと酒呑童子のように)


アイラは胸に手を当てて星を一層眺めた。 今もなお自分の心を支えてくれるのは兄と慕っていたブユウと、あの悲しそうな笑顔が網膜に焼き付いて離れない酒呑童子の姿だった。


…… 星々の輝きも変化するように心の在りどころも常同じく変化する。


(ただ、死者に囚われてはいけない。 私の心を繋ぎ止めてくれる存在で良い……深入りはしない)


アイラのその言葉はブユウの教えでもあった。 死者に囚われ過ぎると死神に魅入られると教えられていたアイラはその考えを今も守っていた。


不意に足音が聞こえ、アイラの思考が遮られてしまう。 それはアイラが振り返るより早く手すりに身体を預けるように凭れ掛かった事により姿が明確になった。


「シルヴィアさん……」


アイラがシルヴィアを見上げてから呟く。シルヴィアは呼ばれたと思ったのか顔をアイラに向けると優しそうに微笑んだ。


「アイラちゃんが星を見てるなんて珍しいじゃん。 寝れないの?」


「はい……起こしちゃいましたか?」


アイラが申し訳なさそうな表情になるが、シルヴィアの手がアイラの頭に伸びる。


「いや、私も寝れなかったクチだから安心して。 で? アイラちゃんは何を悩んでたのかな? お姉ちゃんが聞いてあげよう」


頭をポンポンしながらアイラに微笑みかけるシルヴィア。 対してアイラは驚くように目を丸くした。


「えっ、どうして私が悩んでるって……」


「人が夜空を見上げるのは過去を懐かしんでる時か何か悩みがある時が主だって聞いたからね。 話してごらん……私が解きほぐしてあげる」


優しい口調のシルヴィアにアイラは何故か惹かれ、自分の中で留まっている想いを吐き出した。


「私達から見た星々は燦々と輝いてますよね? 私も誰かの心を照らせるような存在になりたいんです……私も心を照らしてくれる人達がいたから」


それを聞いたシルヴィアは深く頷くと息を吐き出す。


「もうなってるさ。 私の心をアイラちゃんが照らしてくれているし、支えてくれている。

知ってる? 言葉にしなくても人の想いってのは伝達していくんだ」


シルヴィアが夜空を見上げながら零すように呟く。 シルヴィアの本心なのか、人の想いの本質を表したのかのどちらかはアイラにも分からなかったが、そのシルヴィアの想いはアイラの心にもしっかりと届いていた。 アイラは胸に手を置いて握り締める。


「シルヴィアさん……ありがとうございます。 おかげで楽になれました」


「ははは。 この程度でお礼言われてもね……」


シルヴィアは後頭部を掻く仕草をする。 心なしかシルヴィアの顔が少し赤くなっている気がした。 シルヴィアは何かを思い出したのか手を叩く。


「そうだ、良いことを教えてあげる。これは私達にも言える事なんだけどね」


「良い事?」


シルヴィアの発言にアイラは訳がわからないと首を傾げ、シルヴィアの言葉を待った。


「生者と死者の違いさ。 これは私の勝手な解釈だけど、死者は想い人と私は思ってる」


「想い人……ですか?」


アイラの言葉に頷くとシルヴィアは続ける。


「死者って言うのは私達が想いを届ける事しか出来ない。 死者側から私達へ想いを伝える事が出来ないんだ。 だから生者がその想いを馳せる事で、死者は想い人だって個人的に解釈してるよ」


「……凄く考えてますね」


「そうかな? 私達は生きてるし、生きてる以上はアイラちゃんみたいに悩みを抱く事もある。 それを解決出来るのは私達生者だけなのかもね。 こうやって共有も出来るし」


シルヴィア夜空を仰ぎながら星を探すように目を凝らす。 アイラはおもむろにシルヴィアに抱き着くと腰に手を回す。


「ちょっ!? アイラちゃ……」


「すみません……しばらくこのままで良いですか? ちょっと涙腺に来ちゃって」


アイラの言葉に優しく頷くとシルヴィアはアイラの頭に手を置く。 二人はそのままの姿勢でしばらくの時を過ごした。

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