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絶対的な壁

シルヴィア達と向き合うように悠然と佇むカトレアは微笑を浮かべていた。 まるで強者との余裕と言わんばかりに。 スッとカトレアが人差し指を突き立てる。


「あなた達に選択肢をあげるわ。 絶望の中の希望か希望の中の絶望……どちらでも好きな方を選びなさい?」


煽るように口角を歪めながらそう言い放ったカトレアはやはり薄気味悪い笑みを浮かべている。 どうやらカトレアから先に仕掛ける気は無いらしい。 唐突にカトレアが顔を仰け反らせる。 カトレアの見上げる先にいるのは振り切った姿勢のアイラだ。


「ああ…… "視えてた" わよ。 ふふふ、良い速度と威力の乗った蹴りね」


「っ、これなら!!」


カトレアの認識を超える速度で懐に潜り込むアイラ。 カトレアはそれすらも見えているのか既に大鎌を具現化させてアイラの身体を斬っていた。


「っ!?」


「あら、意外と頑丈なのね? 普通なら腕が飛んでるわよ」


カトレアの不気味な笑みはアイラに嫌悪感を抱かせるのは充分だった。


アイラと交戦中のカトレアに狙いを定めるとタツヒコは極限まで集中をする。 するとタツヒコ以外のあらゆる時間の流れが遅くなる。 タツヒコはそれを利用して高速でカトレアの左胴廻りを斬りつける。 確かな手応えはあったが出血は思ったよりしなかった。 集中状態の解けたタツヒコはカトレアに視線を移し、戦闘態勢に入る。


「亜光速の攻撃ね……これは面倒ね。 まずはあなたから片付けてあげる」


カトレアの声が聞こえた瞬間、タツヒコの脇腹に激痛が走り、血が噴き出した。


「ぐおっ……!? 」


思わず片膝をついて傷口らへんに手を当てるタツヒコ。 表情を苦悶に歪めており剣は地面に落ちていた。 うずくまるタツヒコだが人の気配を感じ顔を上げる。


「あはは……さようなら」


カトレアが感情を感じさせないような笑みをタツヒコに向けると強烈な蹴りを浴びせるとタツヒコは面白いように吹っ飛んだ。 カトレアが腕をスッと上げると吹っ飛んでいるタツヒコを何十もの極光レーザーがタツヒコの身体を内包する。 レーザーを突き破って出てきたタツヒコの身体は血が至る所から出ており、さらに勢い良く地面に激突してタツヒコはピクリとも動かなくなった。


「クスクス……良い様ね。 おっと」


「タツヒコさん!!」


アイラの打撃を躱しながらカトレアは愉快そうに狡猾に頬を歪めた。 カトレアの左の瞳の色がいつの間にか蒼色に変わっていた。


「もう肉弾戦はおしまいよ……アイラ・シルエートちゃん」


アイラを見ていやらしそうに口角を吊り上げるカトレア。 アイラはそのカトレアの言葉の意味が分からずにカトレアの無防備な顔面に無情にも一撃を繰り出してしまった。


「がっ……!!」


アイラの放った攻撃で何故かアイラ自身が苦しんでいた。 視界が揺れ、数歩よろける。

アイラは何が起こったのか理解出来ず、頭の中は疑問で埋め尽くされた。


「ふふふ……何が起きたか理解出来ないでしょ? そのまま死になさい」


カトレアがアイラの心臓目掛けて恐ろしい速度で突きを繰り出すがそれを魔法陣で防がれた。


「私の仲間は殺させないよ……カトレア・ブラッド」


シルヴィアがアイラの襟を引っ張り、カトレアの攻撃を躱させる 。 魔法陣が粉々に砕け散り、カトレアはシルヴィアの姿を視界に捉えると嬉しそうに笑った。


「助けに来るのが遅かったわねシルヴィア。 あなた達の仲間、もうボロボロよ? 」


「君を倒す為の準備をしていてね……それで遅くなった」


そのシルヴィアの言葉に何が可笑しいのかカトレアは圧し殺すように笑う。 それに眉ひとつ動かさずカトレアを観察するシルヴィア。


「私を倒す? それは一体何の冗談かしら?

まぁ、そうね……なら楽しみましょうか」


カトレアが一歩踏み出した瞬間、巨大な青色の魔法陣がカトレアを包むように全方位に展開された。 魔法陣はゆっくりと時計回りに回っている。 その光景に思わず立ち止まる。


「……随分と面白いものを作ったのね。 ただ、こんなもので私を倒せると……」


「これひとつで倒せるなんておもってないけどあくまでも保険だよ」


淡々と呟くシルヴィアに呼応するようにカトレアを囲む魔法陣が光に覆われる。 回転しながら発光する魔法陣から膨大な熱量と光が天を穿つ。 十数秒後、カトレアを覆っていた光が薄くなり、カトレアの姿が見えた瞬間にクラウディアが魔法陣を透過してカトレアに炎を纏った攻撃を放つ。


その攻撃はカトレアに当たり、微かな悲鳴が聞こえた。 しかしすぐにクラウディアの攻撃に順応するとクラウディアの足を剣で斬り裂いて身動きを取れなくする。 しかし、クラウディアの身体が徐々に熱を放出し始める。

その異変に気付いたカトレアだったが気付いた時には大爆発を起こしていた。


爆煙に包まれ、衝撃波と熱風が縦横無尽に駆け巡る。 空間が歪み、それが人型になるとクラウディアの姿になりシルヴィアの隣に着地する。


「油断しちゃダメだよクラウディア……奴の能力は未知数だ。 何が起こるか分かったもんじゃない……気を抜かないように」


「了解しました、シルヴィア様」


クラウディアに言い聞かせるシルヴィアだが、シルヴィアも内心は相当焦っていた。 アイラとの肉弾戦の最後に使ったあの能力、アイラの攻撃自体がアイラ自身に反射しているようにも感じられた。 それを見て魔法主体の戦法に切り替えたのだ。


「全く、"物理攻撃反射" をこうも簡単に見破られるとはね。 まぁでも、中々やるじゃない。 シルヴィアとクラウディア……だっけ?」


爆煙の中から姿を現したカトレアの瞳は右目が翡翠色、左目が紫色に変化している。口元は細く微笑んでいた。


「 "オールブラッド" をこの短い戦闘の間にこれだけ使うのは二回目ね。 さぁ、まだまだ楽しみましょう!!」


カトレアの姿がブレるように消えると同時にクラウディアの身体がくの字に曲がる。 苦悶に満ちた表情をしていたが大丈夫そうだ。


「クラウ……うわっ!?」


シルヴィアが上半身を仰け反らしてクラウディアから放たれた不意の一撃を躱す。 それと同時に最悪な事がシルヴィアの脳裏を掠めた。 クラウディアのおもむろに開かれた双眸は黒と金だった。


「っ!! カトレアぁぁぁぁぁ!!!」


シルヴィアが怒りの咆哮を上げ、全身に蒼雷を纏う。


「ふふふ……この身体良いわね。 さて、貴方に仲間を攻撃出来るかしら?」


クラウディアが不気味に口角を吊り上げながらシルヴィアに問う。 カトレアがクラウディアの身体を乗っ取ったのだ。 クラウディアの身体に憑依したカトレアは迷わずシルヴィアに攻撃を仕掛ける。 シルヴィアはカトレアの猛攻を躱し、反撃し、凌ぐ。


同時にカトレアを見誤った自分に怒りを抑えきれなかった。 シルヴィアの繰り出す一撃は易々とクラウディアの腹部にめり込む。 それだけで終わらず、シルヴィアは蒼雷をクラウディアの身体に電流として流し、さらに落雷をクラウディアの身体に直撃させる。


「はっ……はぁ、はぁ……」


肩で息をするシルヴィアは電撃によって身体が痙攣しているクラウディアを一瞥する。 あれだけの雷撃を浴びたのにも関わらずクラウディアの身体は少々焦げただけで済んでいた。 これはクラウディアの魔法攻撃耐性が高いからである。 クラウディアはある一定以上の量の魔法攻撃を受け流してダメージを逃す特殊体質の持ち主で、それを見越してシルヴィアはあれだけの雷撃を食らわしていたのだ。


「あらあら……死んだんじゃないのー? クスクス……可哀想に」


とカトレアの声がシルヴィアの耳を刺す。 シルヴィアは目にも映らない速度でカトレアとの距離を一瞬で詰めると超高速で猛攻を繰り出す。 常人では目で追う事すら困難な攻撃をカトレアは微笑を浮かべながら軽々と躱して行った。


「流石に速いわねぇ。 ふふふ、もっと見せて頂戴。 この "黒い厄災" を楽しませてほしいわね!」


カトレアの目の色が翡翠に変わる。 その瞬間、シルヴィアの身体が重くなり地面が陥没してしまった。


「……っ! これは……」


「ふふふ……この世界の重力を少し弄らせてもらったわ。 今あなた達が感じてる重力はこの世界の重力のおよそ二〇倍……。 これ以上は弄れないけど……これでも充分でしょう?」


カトレアが凄絶な笑みを浮かべながら口を開きシルヴィアの肩に触れる。 シルヴィアの足元の地面がさらにひび割れ、シルヴィアが怒りで表情を歪める。


「クスクス……悔しいかしら? 足掻いてみなさい。 力で覆してみなさい……私を止めたかったらね」


カトレアがシルヴィアの顎を掴んで上に向かせる。 数秒見つめると鼻っ面に拳をめり込ませる。 シルヴィアの鼻から鼻血が出るが、シルヴィアは動じなかった。 そしてシルヴィアもカトレアと同じように狡猾な笑みを浮かべるとゆっくりと口を開いた。



「本当は使いたくなかったんだけど、使うしかなさそうね……。 カトレア、あなたの行った通り力で覆してあげる。 何もかも!!」


「……虚勢は止しなさいシルヴィア。 今のあなたに二〇倍の重力下で行動出来るような力があるとは思えない……。 それに私のオールブラッドは全能とも言うべき能力……勝ち目はあなた達に無い」


カトレアはさも面白く無いと言うように吐き捨てるとシルヴィアに背中を向けて歩き出す。 その一瞬の隙を見逃さず、シルヴィアは魔法陣を展開し、カトレアの背中目掛け超高密度の圧縮レーザーを射出させた。


「分からない子ね……全部 "視えてるわよ"」


シルヴィアの放ったレーザーはカトレアの背中のかなり手前で掻き消された。 シルヴィアは勝ち誇った笑みを浮かべるとおもむろに口を開く。


「そう……トドメを刺したつもりなんだろうけど詰めが甘かったわねカトレア……」


「どういう……」


カトレアの言葉を遮り、振り返ったカトレアの死角から血だらけのタツヒコと無傷の長谷川が現れ、長谷川の薙いだ剣がカトレアの腕を切り裂いた。しかしカトレアの超反応で長谷川の右腕が根本から消し飛ばされた。



「がああああああっ!!!!」


長谷川の絶叫が響き、地面にのたうち回る。

タツヒコは最後の力を振り絞って長谷川と共にそこから脱出をした。


「なっ……」


カトレアは自身の身体が動かないのを驚愕に満ちた表情を浮かべ絶句する。


「ありがとう長谷川さん……これで奴に隙が出来た。 カトレア、あなたに選択肢を上げるわ。 絶望の中の希望か、希望の中の絶望のどっちが良いかしらね?」


「っ!! この……」


シルヴィアの挑発にカトレアはオールブラッドの能力で長谷川の派遣斬りの効果を打ち消すとシルヴィアに襲い掛かった。


しかし、シルヴィアにカトレアの攻撃は届かず、次の瞬間にはカトレアの全身から鮮血が噴き出していた。


「えっ……」


「残念ねカトレア……私がこうなった以上、あなたとほぼ同等になったと言っても良いわ」


そう静かに告げるシルヴィア。 静かな怒りを宿したその言葉はカトレアの背筋を凍らせる。 そしてカトレアはシルヴィアの姿を見て絶句する事となる。



「なっ……何よそれ」


普段の青い髪とは正反対の深紅の髪に金の双眸が覗く。 そして並々ならない闘志を抱くその姿は紛れも無いシルヴィアであった。


「さぁ、第二ラウンドと行きましょうか。

この力を解放したからには今までと同じように楽には行かないよ」

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