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メアの怒り

ある日の夕暮れ時、メアは白い素肌と紅い目をギラつかせながら街中を歩いていた。理由は簡単。 自らが囮となって吸血鬼狩りをおびき出す為にあった。


(どうしてこんな簡単な事に気が付かなかったのかしら……私もまだまだね)


己の浅はかさを痛感するメアだったが気持ちを切り替えて吸血鬼狩りの犯人をしらみ潰しに探していく。


(……!)


尾けられている気配を感じ取ったメアはわざと薄暗い路地裏へと入って行く。薄暗い路地の中央辺りで足を止めると振り返る。そして視界に入るのは若い男だった。 下卑た笑いを浮かべておりメアの身体を舐め回すように見ていた。


「へっへっへ……こいつはぁ上玉だ。 たっぷり遊んだ後はコレクションに追加するか」


「コレクション……?」


メアは男が発したコレクションという単語に眉を吊り上げると同時に最悪な事が頭を過る。


「へへ……眼球取り出して観賞するんだよ。 お前は今までの吸血鬼達とは違うから念入りにさせてもらうぜ」


やはり下卑た笑いを浮かべてメアの目を見る男はメアに嫌悪感を抱かせるには充分だった。 メアは怒りを堪えながら震える右手を突き出すと握り潰すように力を込めた。


「ごはぁ!?」


男はうつ伏せに倒れて苦悶の声を上げる。見えない何かが男の身体を押さえつけているかのような感覚に襲われた男は堪らずメアを見上げてしまう。


「ひっ……た、助けてくれ」


メアを見上げるべきではなかったのかも知れない。 憎悪の塊のような深く強い殺気を出し、それと同じ様に深い憎悪の塊の目が男を射抜く。 男は短い悲鳴をあげ全身が凍り付く感じに襲われる。


「今までそうやって玩具にしてきた吸血鬼は何人いる?」


メアが低い声色で男に質問を投げかける。 その一言一言に殺意を込めて。


「おそらく一〇〇〇人を超えてる……一〇〇〇人超えた辺りから数えてねぇ……」


「そう……」


メアは短くそう告げると踵を男の背中に軽く当てると男のくぐもった声が響く。押し付けている力を強めたのだろう。


「あなたを楽には死なせないわ。 そして死ぬまで地獄を見せてあげる。 あなたは楽園で地獄を見るのよ。 吸血鬼達の無念を知れ」


狡猾に口角を歪めたメアは男を担ぎ上げるとそのまま男と共に忽然と姿を消した。





「って事があったのよ。 今頃散々な目に遭ってるんじゃないかしら?」


肩を竦めながら面白そうに告げるメア。 それを聞いたシルヴィア、アイラ、九尾、タツヒコ、長谷川の五人は様々な反応を見せる。


シルヴィアはメアの肩に手を置きながら楽しそうな笑みを浮かべ、アイラと九尾の二人は少々不快そうに眉を顰め、タツヒコも何やら難しい表情をしていた。 長谷川は頷きながらも目線はメアの胸に行っていた。


「でもこれからメアはどうするんだ? 吸血鬼狩りの犯人を見つけて吸血鬼達の仇は取ったんだろ?」


タツヒコの鋭い質問にメアはゆっくりと口を開いた。


「そうね……皆の仇も取れたしここにいる意味ももう無いわね。 吸血鬼に相応しいのは夜だけど、こういった昼間に行動出来る吸血鬼は限られてるわ。 だからもう少し楽しみたいからここに居させてもらおうかしら」


メアは落ち着いてはっきりと自分の思いを口にした。


「へぇ……メアは人間に強い憎しみを抱いてたんじゃ? 少し意外だね」


「私達に被害を加える人間は容赦しないってだけよ。 最低限の事はやるわ」


辟易としたメアが呟く。 コミュニケーションや挨拶などは確かにしており、その仕方がクールだと話題になっているとの事。


「あはは……まぁメアはクールだし、それでも良いんじゃない? 私も楽しめればそれで良いし」


「ま、そうね……。 ところで話は変わるけどあなた達 "転移者" の目的は何かしら? ちょっと気になる事があってね」


「何って……簡単に言うなら大罪人や悪の組織などの世界が崩壊する可能性の孕んだ危険分子の抹消……って言った所かな」


メアの質問にシルヴィアが即答で答える。 それを聞いたメアは考え込むように顎に手を置くとそのまま黙り込んでしまった。 逡巡を見せたがシルヴィアの方に顔を上げたメアが口を開けた。


「そう……。 ならあなた達が来てくれた事に意味があったと思うと、偶然とは思えないわね」


「どういう事?」


「実は少し前に夢を見たのよ。 それもこの世界が滅びる夢を……。 一人の女によってこの世界が蹂躙されていく酷い夢だったわ」


思い出すのも嫌というように頭を抱えるメア。それを興味深そうに聞いていたシルヴィアだったが結局それ以上の事はメアから聞けずじまいに終わってしまった。





闇に包まれし暗黒の世界……その空間の中から二つの瞳が覗いていた。 右目は金、左目は赤の二色になっており俗にいうオッドアイという代物だった。その人物は闇夜に紛れながらその二色の瞳を光らせていた。


「土台は整った。 これであとは私が動くだけね。 手始めに北の大陸……ロス・ロストから行こうかしら。 "転移者" 達のいる都市の牽制くらいにはなるでしょう。大いなる災いを降らせてあげる……この "黒い災厄" がね」


不気味に瞳を光らせ、闇に轟くように高笑いをあげる "黒き災厄" と自称する少女。 闇夜を切り裂くかのようにその全貌が明らかになる。 全身が黒に覆われ、それと対を成すかのような金色の髪が特徴的な少女だった。


「能力がどれだけ使えるかも知っておきたいから北の大陸から攻めるのは正解かしら」


少女は独り言のように呟く。 当然答えは返ってこないが気にしていないようだった。


「まだ万全の状態ではないとは言え、こんな陳腐な世界くらいは滅せるでしょ。 くすくす……人々が絶望の窮地に立たされた時、どんな顔をするのか見ものねぇ。 足掻くか諦めるか……私はどちらでも構わないのだけれど」


愉快そうに口角を歪めながら狂気に染まっていく少女。大仰に両手を広げて回り出す始末。 しかしそれも飽きてしまったのかすぐに止めてしまった。


「 "厄災の魔女" も中々の二つ名だけどやっぱりここは "黒い災厄" ね」


少女は何処からともなく大鎌を具現化させると軽々と肩に担いだ。 そして一振りすると遅れて轟音が響き渡った。


「今の私と張り合える人間がどれくらいいるのか楽しみね。 まぁこの世界の人間の実力なんて知れてる訳なんだけど」


少女が前髪を掻き分ける仕草をする。 整った顔立ちをしており、今までの言動が無ければ美少女と言っても差し支えは無かった。 少女は大鎌を消すと指を鳴らす。 すると少女の背後に玉座が現れ、それに座った。


「そろそろ行こうかしら。 ふふふ……良い音色で啼いてくれると良いわね」


言い終えた時にはもう少女の姿は無く、ただ気配と声の余韻がそこにあるだけだった。

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