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吸血鬼

「最近、何者かによる人が襲われる事件が頻発してるんだって?」


制服をはだけさせた黒髪のポニーテールの少女、クロエがポツリと呟く。 そのクロエを囲むように数人の少女達が一斉に首肯する。

九尾とアイラ、そしてカノン・リーフォルトの三人だ。


「犯人は不明……。 目撃情報は少しだけどあるわ。 紅い目をした少女らしいよクロエちゃん」


カノンがクロエに情報を提供する。 クロエはその情報に眉を顰めた。


「紅い目……少女……この学園に紅い目の生徒は恐らく居ないはずだからこの学園の生徒ではないわね……。 そもそも紅い目って吸血鬼の特徴じゃない」


クロエが吸血鬼という単語を口にした時、九尾が首を傾げた。


「クロエさん……吸血鬼って?」


「ああ……九尾は和の国から来たんだったわね。 吸血鬼ってのは簡単に言うと日中は活動せず夜に活動する種族よ。 姿はまんま人間なんだけど、紅い目と異様に白い肌が特徴なの。 ……吸血鬼の仕業か。 確かに目撃情報と一致もする」


クロエは一人納得したように顎に手を置く動作をする。


「しかし、何で吸血鬼が私達人間を襲うの?

確かに吸血鬼は陽に弱いけど、夕方くらいから活動してる吸血鬼もいるし、そもそも私達人間とはそんなに接点は無いはずなんだけど?」


カノンも何故吸血鬼が人間を襲うのか理解が追い付かないようだった。 こうなってくると吸血鬼の目的も動機も何一つ掴めない。 吸血鬼の目的を突き止めて何とかしたいと思う四人ではあったが如何せん情報が不足し過ぎていた。


「ラーシア先輩に聞いてみたらどうかしら?

あの人なら色々知ってそうだし」


カノンの提案にクロエが喉を唸らせる。考えあぐねているようだ。


「ラーシア先輩か。 確かにあの人は聖サラスメント学園の兵装科の二年の中でもトップクラスの実力を持つし頭も良いけど、私あの人苦手なのよ」


肩を竦めたクロエから漏れ出る溜め息は重々しいものだった。 そんなクロエにカノンも呆れたような表情を浮かべることしか出来なかった。



「ラーシア先輩!」


廊下にカノンの声が響き渡る。 ラーシアはその声に反応して振り向くとクロエ達の姿が目に入った。


「ああ……お前達か。 全く、クロエ……そんな制服をはだけさせてはしたないぞ?」


「私のことは放っておいて下さいラーシア先輩」


開口一番に指摘されたクロエが不機嫌そうに顔を歪めながらそっぽを向く。 それを見たラーシアは困ったような苦笑いを浮かべる事しか出来なかった。


「それで私に何の用だ?」


ラーシアが本題を切り出すとカノンが慌てたように口を開く。


「実は最近、人が襲われる事が多いですよね? ちょっとその事で私達なりの仮説を立ててみたんですけど……」



「……ほう。 吸血鬼か。 確かにお前達の言う事も一理あるな」


カノンは一通りラーシアに説明をした後、唸るラーシアが軽くカノンを褒める。 褒められたカノンは頬を赤らめて照れていた。 しかしラーシアは難しい表情のままだ。


「マズイな……。 実は少し前に吸血鬼狩りというのがあってな。 私も良く分からないのだがそれが今回の発端の大きな要因と言った所だな」


吸血鬼狩り。 その言葉にカノン達は言葉を失った。 吸血鬼狩りはその名の通り吸血鬼を狩る事……殺す事を意味していた。 この世界の吸血鬼達は夜の王として世界の裏の支配者と呼ばれるくらいの強さを誇っており、夜から深夜に掛けての強さは他の追随を許さない程だ。 ただそれは夜の場合の話であり、陽がある状態ではその強さは見る影も無くなってしまう。


夕方に活動を開始する吸血鬼も一定数おり、その吸血鬼を狙った吸血鬼狩りだろう。 陽が落ちてきたとは言え実力を発揮出来ない吸血鬼も多々おり、技術が発展し尚且つ魔法もあるこの世界において実力を出し切れない吸血鬼は格好の餌食だった。 もしこの吸血鬼狩りが吸血鬼達の怒りを買ったのなら相当なものだろう。


「……吸血鬼狩りですか。 もしその報復だとしたらどれくらいの人間がターゲットなんだろう……」


「分からん……。 もしかしたらこの世界全ての人間がターゲットかも知れん。 吸血鬼は仲間意識も強い……。 個体数が少ないとは言えその強さは想像を絶する……。 集団で襲われればまず命は無い」


カノンの疑問にラーシアが難しい表情をしながら答える。 もし吸血鬼狩りによって吸血鬼の怒りを買ったのならその吸血鬼達の怒りを鎮めなければならないが、吸血鬼の大多数はどこを住居にしているのか定かではない為探すのは至難の技に等しい。


「それに吸血鬼達がこの学園を襲わないとも限らん……。 とにかくありがとう。 お前達のおかげで事の重大さを把握出来た。 私は良い後輩に恵まれたようだ」


ラーシアはカノンやクロエの頭を優しく撫で、アイラや九尾にも同様の事をする。 四人ともくすぐったそうに目を細める。 ラーシアはカノン達を一瞥した後、優しい微笑を含んでカノン達の側から離れて行った。





薄暗く、あまり光の届かない森の奥で吸血鬼達はその身を潜めていた。 昼は人間が世界を支配し、夜は吸血鬼が支配する。 これまでもそうだったしこれからもそのつもりだった。

お互い不利益は存在しないはずだった。


「くっ……身勝手な人間め。 思い出すだけで腹が立つ」


あたりが薄暗い為か容姿は確認出来なかったが吸血鬼特有の紅い目が一際目立つ。 吸血鬼の少女はその目に殺意を抱きながら拳を握り締めた。


吸血鬼狩り。 それは吸血鬼の存在を妬ましく思った人間が始めた娯楽に近い虐殺だ。 否、虐殺を娯楽として楽しんでいる狂った行為そのものだ。 吸血鬼は基本夜以外は不干渉を主としているが、一部の吸血鬼は夕方から早朝まで活動開始時間が違うのもいる。 そういう吸血鬼達は弱く、人間達の玩具にされやすい。


そういう吸血鬼達が人間のターゲットにされてきたわけだ。 そこまでされて吸血鬼達の怒りも頂点に達していた。


「どこまで我々の邪魔をすれば気が済むんだっ!」


昂ぶる気持ちを怒りが支配し、ぶつけようのない怒りは少女の隣に生えている木にぶつけられた。 少女の拳に触れた木は接触した部分が消し飛んでおり、支柱を失った木は後方へ振動を響かせながら倒れる。


「明日だ……明日乗り込む。 目的は分かっているな? 吸血鬼狩りの犯人を見つけ出す事……あるいはそれに関する情報収集だ。 邪魔をする奴は多少痛めつけてやれ」


その少女の言葉に一〇の瞳が蠢くように反応する。


「待ってろ人間共……その身勝手な行為がどれ程愚劣な事か思い知らせてやる」


吸血鬼の少女は怒りと憎悪を胸に意を決した。 愚かな人間に鉄槌を下すという英断を。

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