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平穏な日々

アイラ達が聖サラスメント学園に来てから三日が経過した。 相変わらずアイラは女子達に人気があり、当の本人は少しそれが迷惑でもあった。 アイラは物静かな所を好んでおり基本的に一人でいる事が前の世界……ミラナス・ナハスでは多かった。


(……まだ恥ずかしい)


故に人との接し方がまだ不慣れで、こうした日常だと緊張するのがアイラの性格だった。

しかし、徐々にこういうのにも慣れていき、少しずつではあるが人と喋る楽しさも知れてきたのは確かだ。



「アイラちゃん!」


とアイラを呼ぶ声がアイラの耳を震わせた。少女の声だった。 アイラはその声に反応して辺りを見回し、背後を向くと獣のような耳が特徴の少女がアイラに笑顔で手を振っていた。


「九尾さん……!」


アイラもそれに釣られてか笑顔になり手を振り返す。九尾と呼ばれた少女は頭に生えた耳を忙しなく動かしながらアイラに近づいて来る。 そしてアイラに手が届きそうな距離でお互いが見つめ合う。


「外……行きません? アイラちゃん」


「良いですよ」


九尾は艶のある銀の髪を手で押さえながらアイラを見ていた。 アイラも九尾の身体を見る。 九尾も聖サラスメント学園の制服を着こなし、やはり出る所は出ており、くびれもあるためかなりスタイルは良い方だ。


九尾も元はこの世界とは違う所の出身らしい。 が、同じ魔法科のクロエという少女に召喚されてこの世界に来たという事情の持ち主だった。 その為アイラと馬が合い、二人きりで話す事も増えてきた所だった。 そんな二人は今中庭に来ており腰掛けていた。


「風……気持ち良いですね」


「そうですね。 こんなのんびり出来るのは久し振りです」


そよ風が靡いて九尾とアイラの二人は気持ち良さそうに目を細める。 スカートのシワを直しながら姿勢を整えるアイラはチラと九尾の横顔に目をやった。 銀色の綺麗な髪と整った顔立ちが羨ましいとさえ思ったが他人である九尾にこんな嫉妬染みた感情を抱くのは間違っているとも言える。


(全く……嫌だな)


そんな感情を抱く自分を嫌悪するが、それを抱くという事はアイラはまだ自分に自信が持ててない証拠であった。 アイラは九尾から目を逸らすと俯いて小さく嘆息した。 自分と他人を比べてしまう不甲斐なさと、個性の無い自分に嫌気がさす。


「溜め息とは……。 まだアイラちゃんと知り合って間も無いですが相談乗りますよ?」


嗅覚が鋭いのか、アイラと隣同士で座っている為か分からないが些細なアイラの変化を敏感に察知しアイラに優しく言葉を掛けた。


(私には無い優しさだなぁ。 でも、まだ九尾さんに頼る訳には行かないし、何よりこんな事を相談したら必ず心配されるはず……)


「大丈夫です……ありがとうございます」


アイラは九尾に悟られまいと平静を装うが自分の心の中を見透かされているようで若干声が震えているような感じがする。 アイラの言葉を聞くと九尾はジッとアイラを見つめる。

吸い込まれそうになる九尾の黒い瞳は大きく、全て吐き出してしまいたいとさえ思えてしまう。 九尾はアイラから視線を逸らすと納得したのかのように頷いた。


「分かりました。 私ならいつでも相談に乗りますから。 ね? アイラちゃん」


そして眩しいほどの笑みでアイラと視線を交わす。 その笑顔でアイラは何故か酒呑童子を思い出してしまった。 彼女の最期の笑みもあんなように輝きに満ち溢れた笑顔だったとアイラの心の奥底に仕舞い込むと、九尾に対してぎこちない笑みを浮かべる。そんなアイラを見て九尾は表情を元に戻し、視線を外すと俯いてしまった。


「アイラちゃんは昔の私に似てるから放っておけなくて……。 何ていうか、雰囲気が似てるんです。 自分に自信が持てず他人と比べてたあの頃の自分に。私はここに来る前までは和の国と呼ばれる島国で妖怪をしてたんです。 妖怪として生まれて、彼ら人間達に似通った姿をしてましたが彼らとはかけ離れた力を持ってました」


九尾が自らの過去をアイラに話し始める。

九尾もアイラと同じ様に人の形をしながら人ならざる力の持ち主だった。


「そんなんだから普通に憧れたし、他人とは違う自分、自分とは違う他人というのを嫌という程見てきた事もあります。 でもこの世界に来てそんな悩みもどうでも良くなったんです。 私という個性や人柄というのは他人は真似出来ないし、その逆も然りです。 その事に気付いてから私は変われた。 だから……アイラちゃんも……」


九尾の言葉が不意に閉じられた。 アイラは九尾を見るとやはり優しそうな笑みを浮かべており、あどけなさの残る顔が愛おしく感じられた。 ふと視線を下にやると九尾のスカートから何やら飛び出しているのが目にはいる。


「触ります? 私の尻尾ですよ」


言いながら九尾はその飛び出している尻尾を上下に一度振るとアイラの顔面にそれを擦り付けた。 アイラはくすぐったそうにしていたがやがて尻尾に抱き付いたままの状態になってしまった。


「ふふ……可愛い。 どうです? 私の尻尾」


「……気持ち良いです。 もふもふしてて可愛い」


アイラは恍惚そうな表情を浮かべながら九尾の尻尾に頬擦りをする。 九尾は悪戯な笑みを浮かべると尻尾を消してしまった。


「あ……」


アイラが残念そうに顔を歪める。


「こんな風に私は九尾ですから尻尾を出したり消したり出来るんです。 もふもふしたい女の子達もいて未だにもふもふされてますが。 アイラちゃんも……いつでも良いからね?」


九尾は言い終わるとアイラに向かってウインクをする。 これが九尾の言っていた他人には真似出来ない個性なのだろう。 アイラもその九尾の言葉を思い返すと、一人納得したように頷き、九尾に笑顔で返した。


「ありがとうございます九尾さん。 九尾さんのおかげで少し自分に自信が持てそうです」


「それなら良かったです。 お互い……頑張りましょう」


二人が笑い合うと、靡くそよ風に髪を煽られる。 やはり二人同時に髪を押さえると、視線を交わし合い満面の笑みを浮かべあった。




人気のない薄暗い路地裏。 超高層ビルが建ち並び、どれも活気を帯びていたが、それは陽の当たる世界での話。 陽の当らぬ世界も存在する訳だ。 ぐったりと横たわる一人の男性とそれを見下ろすように一瞥する一風変わった風貌の少女。


「また違ったのか……。 やはり本格的に動く必要があるな。 我が同胞を奪った人間よ……必ず見つけ出して殺してやる」


その少女は異様に白い肌をしており、それとは対照的に紅く綺麗な瞳が特徴的だった。布切れ同然のローブを身に纏い、その紅い目に殺意を迸らせながら少女は誓った。 血の断罪を執行させると。

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