手荒い歓迎
空間に大穴か開き、その中からシルヴィア達が地面に着地する。
「来たぞ!! "転移者" だ! 迎え撃て!!」
澄んだ少女の声が響き渡ると敵意を剥き出しにした少女達の視線がシルヴィア達に集中した。
「マズイ!! 皆迎撃しろ! 固まってたら狙われる!!」
そうシルヴィアが叫ぶとクラウディアを筆頭に次々とシルヴィアの側を離れ、それぞれが敵と応戦に入った。 それを確認したシルヴィアは眼前から迫り来る攻撃を躱すと敵の位置を瞬時に把握する。
(……敵は二〇と言った所か。 まさか私達の行動を先読みしているとは……)
シルヴィアは敵の攻撃を躱しながらもそう思考する。そして敵のほとんどが少女だという事と、どれも見た事のない装甲に似たものを装備している。
「くっ…… このっ!」
眼前の少女が歯嚙みすると手の上の部分に装備された装甲から何かのエネルギーで構築された剣を顕現させるとシルヴィアに襲い掛かる。
「遅い」
シルヴィアは一撃で装甲を破壊すると腹部に拳をめり込ませる。 腹部を殴られた少女は気を失うとゆっくりと地面に倒れる。 倒れた少女を一瞥するシルヴィア。 艶のある黒髪が特徴で整った顔立ちをした少女だった。
シルヴィアはその少女を装甲を観察するように見入ってしまうが他の少女が無防備なシルヴィアの横っ腹に一太刀入れようと剣をシルヴィアに振るうが、シルヴィアの魔法陣がその脅威から身を守る。襲い掛かった少女は目を見開き一瞬動作が停止するが気を取り直すと裂帛の気合いを叫ぶ。
「"通常兵装・功勢"」
少女の声に呼応するように少女の纏っていた兵装と呼ばれる装甲が変化を起こす。 両肩の装甲からミサイルポッドが現れ、片手に彼女の身長程はある大剣が具現化される。その大剣と両肩から射出される大量のミサイルを駆使してシルヴィアの魔法陣を壊しに掛かる。
「へぇ……面白い世界だ。 まさかこんな技術のある世界に来るなんてね」
噴煙に包まれ姿は見えなかったがシルヴィアの声はどこか嬉し気に見えた。少女はシルヴィアが無事と知るや大剣を振りかざし、それを振り下ろした。
「……残念だな。 技術はあっても使い手の実力が私と雲泥の差だ。 眠れ」
少女の左隣に移動していたシルヴィアが悲しそうに嘆くとその少女の装甲を軽々と破壊し、頭上に魔法陣が展開されると魔法陣から無数のナイフが降り注ぐ。
「身動きは取れないでしょ。 さぁ、次は誰が来る?」
シルヴィアはまだ敵意を向けてくる少女達に視線を向けると嬉しそうに口角を歪めた。
アイラは淡々と向かってくる敵を流れるように屠っていく。 敵のミサイルの弾幕も針を縫うようにすり抜けたりと敵の少女達の思考を停止寸前までに追い込んでいた。
背後からの攻撃も難なく躱しカウンターで迎撃する。すると一人の少女がアイラの前に降り立つ。 アイラはその少女を警戒心を持って一瞥する。 赤色の装甲を身に纏い、巨大な剣を逆手で持っている。その少女はアイラを見ると口を開いた。
「まさか私達相手にここまで立ち回れるとは……畏れ入るな。 だが、私もここで退くわけには行かない。 勝たせてもらうぞ!!」
少女は黒髪のポニーテールを揺らしながら相手と激突した。
「おおおおおお!!!」
タツヒコも多勢に無勢とは言え持ち前の剣術と魔法を駆使してうまく戦っていた。
囲まれてはいるが何とか凌いでいるという感じだ。 タツヒコは戦闘中に何度か不思議な感覚に襲われていた。 突飛的に自分以外の時間が遅くなるような感覚というのが違和感と共に襲って来たのだ。
(……何なんだ? この感じは……)
タツヒコの疑問を他所にタツヒコを囲む五〜六人の少女が一斉に武器を具現化させ襲い掛かってくる。さらに大量のミサイルが全方位からタツヒコに向け射出させる。 直撃すれば致命傷は免れないだろう。
不意にまた時間が遅くなる感覚がタツヒコを支配する。全ての時間が遅くなる奇妙な感覚がタツヒコの思考をも支配していた。 それに驚きつつ、まずは全方位からくるミサイルの塊を躱すと少女と対峙した。
「なっ!? あの状態からどうやって!?」
タツヒコの後ろで轟音が響くと共に少女が驚愕に染まった声を上げる。 思考が追い付いていないのか狼狽えた様子も垣間見れた。
「悪いな……俺は負ける訳には行かないんだ。 はあああああ!!!」
タツヒコはそう吐き棄てると少女達に斬りかかった。
粗方の敵を始末したシルヴィアは周りの状況も同時に分析していた。
(タツヒコ君や長谷川さんでも相手になってる辺り、ここの世界の住人はさほど強くないらしいね。 いや、それはまだ断定出来ないが……技術力の高さは相当なものだな)
シルヴィアは地に伏している少女達を見やる。兵装と呼ばれる装甲はまるで人型決戦兵器と呼んでもおかしくはない部類に入るとシルヴィアは思う。
「さて……まだやるかい? 君達の装甲を一撃で破壊出来る辺り、実力差は身に染みたろう?」
シルヴィアが辛うじて立っている少女達に語り掛ける。 あまりに実力差がある為シルヴィアなりの配慮だった。所謂降伏勧告だ。しかしそれでも少女達は諦めずに、目だけはシルヴィアを射抜いていた。その様子にシルヴィアは呆れ果てたのか嘆息と共に肩を竦める。
「やれやれ……もう少し頭が回るかと思ってたんだがな……。 まぁそっちから仕掛けてきたんだ。 一人くらい殺されても文句は言えないよね?」
シルヴィアから鋭い殺気が少女達の身体を震え上がらせる。 シルヴィアが移動しようと足に力を入れ始めようとした時、シルヴィアの耳に澄んだ少女の声が聞こえた。
「私が相手になろう……"転移者" 」
その声と共に赤髪を背中までに伸ばした少女がシルヴィアに斬りかかってきた。 シルヴィアは面食らいながらも上体を仰け反らしてそれを躱す。
「君は……?」
シルヴィアが明らかに不機嫌な様子で斬り掛かってきた少女に尋ねる。 すると赤髪の長身の少女は目を丸くしながらも微笑を零す。
「失礼……。 私は聖サラスメント学園二年、"竜装姫" の異名を持つミソラ・ラーシアという。 そちらの名前も聞かせてもらおうか」
「そう……"竜装姫" ねぇ。 カッコいい二つ名だね。 私の名前はシルヴィア。 以後お見知り置きをラーシアさん?」
シルヴィアはスカートの裾を軽く持ち上げる。 ラーシアは髪を払うと兵装を展開させる。
黒と白の二色で構成された色合いで、右腕を覆うほどの巨大なレールガンのような武器が特徴的だった。 今までの少女達の兵装とは一味違う事からこのラーシアがエースだろう。
「いきなり本気で行かせてもらうぞシルヴィア!! " 特異兵装・ 竜撃砲"」
ラーシアが叫ぶと、ラーシアの全身が強固な鎧で包まれ、右腕を覆っている武器がさらに一回り大きくなる。 そしてシルヴィアとの間合いを詰めると右腕の武器でシルヴィアを殴りに掛かる。
「よっと……危ないでしょ。 そんな物騒なもの……」
シルヴィアは飛び上がるようにそれを躱す。 しかしそれが間違いだと気づいた時にはもう遅かった。
「消し飛べ……っ!」
標準をシルヴィアに合わせ、超火力のエネルギー砲を放つ。 撃った反動でラーシアの右腕が跳ね上がる。 シルヴィアはまともに喰らってかなりの距離を飛ばされていた。そうラーシアは思い込んでいた。その思い込みが判断を少しだけ鈍らせた。
シルヴィアはラーシアの左隣に瞬間移動と見紛う速さで移動した時には既に攻撃モーションに移っており、その攻撃が当たる頃にラーシアは気付くも遅過ぎた。 左腕に拳がめり込まれるが鎧により衝撃が緩和され、思ったよりも吹っ飛ばされなかったラーシアは体勢を立て直す。
しかしシルヴィアの無慈悲な一撃がラーシアの強固な鎧を砕き、ラーシアの意識が遠退きそうになるが何とか堪える。 霞む視界の中でシルヴィアの姿を探すが見当たらなかった。
「くそ……どこだ?」
辺りを見回すがどこにも居なかった。 すると首筋に刀身が当てられる感触がした。
「チェックメイト……。もし抵抗する素振りを見せたらその首を刎ね飛ばす」
「……さすが "転移者" だな。 私が手も足も出ないとは。一応この中じゃ一番の手練れなんだがな……」
ラーシアが苦笑を浮かべている様子を見てシルヴィアはラーシアの首筋から剣を引いた。
それを疑問に思ったラーシアが首を傾げながらシルヴィアを見上げる。
「どうした? 私を殺さないのか?」
「……私も人の事言えないな。 とりあえず情報が欲しいからあなたを生かしただけ……。
君程度ならいつでも殺れる」
と自信に満ち溢れた発言にラーシアも顔を引きつらせる。 短い戦闘だったとはいえシルヴィアとの実力差が嫌と言う程伝わったのは事実だったからだ。
ラーシアは息を吐くと兵装を解除した。 兵装を解除したラーシアは制服姿になっており、出るとこも出ていた。 緑を基調とし、黄色のラインが入った制服で胸ポケットには学園のシンボルが入っていた。 膝丈のチェック柄のスカートに、ハイソックスを履いており肌も綺麗な色白だった。
「シルヴィア……君とその仲間達は "合格" だ。 情報が欲しいのだろう? その見返りと言っては何だが……我が聖サラスメント学園に入学して欲しい。 それに、私達も君達が何者でどんな目的でここに来たのかも知りたいしな……良いだろう?」
勝ち誇ったような表情のラーシアにシルヴィアは大仰に嘆息を吐くと手で頭を覆った。
「やられた……。 まぁ背に腹は変えられないし……良いわ。 あなたの条件に乗ってあげる。 ただ、私達は目的を達成したらすぐにこの世界を出てくわよ? それだけは頭に入れといてね」
「分かった。 では……君達の仲間にも伝えてくる」
ラーシアは立ち上がるとクラウディア達に説明を行いに行った。 その途中で長谷川とタツヒコが鼻の下を伸ばしきっていたのは言うまでもなかった。




