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外的存在

シルヴィア達は帰ってくるとすぐさま席に着き、紅茶を飲むというゆったりとした時間を過ごす。今回の世界はアイラ一人に重荷を背負わせる結果となってしまったが、無事に帰還出来たので結果オーライと言った所だろう。


「さて、アイラちゃんお疲れ様。 疲れたでしょう? 連戦のような状態で良く勝てたね……流石だよ」


シルヴィアはアイラの苦労をねぎらうような口調でアイラに向かって口を開く。


「……ありがとうございます。 そうですね、流石に疲れました」


アイラの口調は淡々としており、何か考え事をしているのか何やら難しい顔をしていた。

紅茶にもほとんど手を付けておらず紅茶の水面にアイラの顔が映っていた。


「……」


「アイラ、紅茶いらないならちょっとくれよ!」


と、そんな声がアイラの鼓膜を震わさすと横から伸びてきた腕がアイラの紅茶のカップを掴むと持って行ってしまった。


「あっ……」


声が思わず出て、手も伸ばしかけてしまうがもう遅い。声の主、長谷川がアイラの紅茶を飲み干してしまった。


「……何をそんなに思い悩んでるんだ。アイラ。 俺らは仲間だろう? 何でも話してみろ……何の為の仲間だよ」


そう言うと長谷川は大音量のゲップをしてしまいシルヴィア達の表情がとても嫌なものに変わる。


「はい……そうですね。 ただ、人の紅茶を飲むのとゲップはやめて下さい」


アイラが少し怒ったような口調で長谷川を叱る。表情は露骨に変化はしていないが間違い無く嫌悪感を抱いてるようだった。


「アイラちゃんの言う通りだよ長谷川さん……流石にあの音量のゲップは誰でも不快感を示すレベルだ。 場を弁えようね」


シルヴィアも長谷川に注意を促すとアイラに視線を持っていく。長谷川が何か文句を垂れていたがシルヴィアの耳には入って来なかった。


「アイラちゃん、長谷川さんの言う通りだよ。私達は仲間なんだ。 悩みがあるなら話してみて?」


シルヴィアの優しい問い掛けにアイラは俯かせてた顔を上げるとポツポツと語り出した。


「私、ずっと疑問に思ってた事があります。

あの酒呑童子の事です。あんな小さな孤島で、あの強さはおかしいと感じました。 戦闘の時は無我夢中で戦ってましたから気が付きませんでしたが」


「私もそれは感じてたな。 老人しかいないような孤島であの異様な強さはおかしいって。アイラちゃんと互角の強さだったんだ。 酒呑童子一人であんな孤島ぐらい滅ぼすのは余裕だっただろうに……」


シルヴィアもアイラの考えに賛同するように呟く。 寂れた孤島の洞窟を住処にしていたが酒呑童子がその気になれば島の人間を滅ぼすのは訳なかったはずだ。 シルヴィアの脳裏にある考えが浮かんだ。


「仮にあの酒呑童子が私達の実力を測る為だけの存在だったとしたら? 酒呑童子に何か人智を超える存在の力が働いていたとしたら?」


シルヴィアがボソっと衝撃的な事を告げた。

アイラもそれは感じていたのか首肯する。


「私もおかしいとは感じてましたね。 まるで私を試すだけの存在のようでした。 酒呑童子の意思とは違う、何か……もっと大きな力が動き出したのかも知れません。 まだあくまで仮定の話ですが」


さらにアイラが続ける。 戦ったアイラがそれを一番実感しているのだろう。アイラは酒呑童子の事が脳裏によぎり、胸が痛んだ。


「……断定出来ない以上、仮説でしか話せませんが。私達の事を快く思ってない連中がいるのかも知れない。 私達と同じく異世界に渡れる力の持ち主がいるかも知れない。 酒呑童子に力を与えた存在がいたとしたら、そのどちらかでしょう」


そのアイラの言葉に全員が黙りこくってしまう。 妙に説得力のあるアイラの言葉に全員が納得してしまった。


「ま、この話はここまでにしましょう……。

各自、身体を休めるように。 二日後、異世界に行く。それまで自由に過ごすように」


そのシルヴィアの言葉で今日の反省会は終了、シルヴィアを除く全員が会議室を後にした。 一人会議室に残ったシルヴィアが紅茶を啜りながら座っている。しかし表情は真剣そのものだ。


「パパ……異世界の悪人達の状況は?」


シルヴィアが独り言のように呟くが、シルヴィアの肩の真上に巨大な顔が現れる。 魔神ヴァルグだ。 ヴァルグは低く唸るが、すぐに答えを出した。


「……緩やかに増えておる。 しかも強い魔力を持つ者が多数いる。 実力で言えばお前を凌ぐ者が数人……お前と同等が数人と言った所か。 恐らくお前と同じく異世界を渡れるだろう。 鉢合わせたらすぐに逃げろ」


ヴァルグが静かに告げる。がシルヴィアはヴァルグの言葉に首を横に振った。


「大丈夫よパパ……。 私には奥の手があるし、仲間もいるんだ。 そんな心配しなくても大丈夫」


自分にも言い聞かすような口調で言うシルヴィアにヴァルグは頭を垂れた。


「確かにシルヴィア……お前には奥の手があるがアレはお前にはまだ危険だ。 出来るだけ使うなよ。 ワシは魔界に縛られておるから異世界には行けん……。 が、異世界にはワシを超える存在がいるのは確かだ」


「パパを超える……?」


「そうだ。 全盛期のワシを軽くいなした存在がいる。 異世界の覇者とまで呼ばれたこのワシを……奴は次元が違うぞ。 ナリは子どもだが会っただけでその存在の格が違うのを思い知らされる……それだけは覚えておけ」


ヴァルグはその言葉を最後に景色と同化するように消えてしまった。シルヴィアの脳裏にそのヴァルグの言葉が暫く反響していた。



二日後の朝、シルヴィアは会議室で紅茶を啜っていた。 誰一人居ない、紅茶を啜る音だけが響く至福の時間だ。 紅茶を受け皿に置いたと同時に扉にノックの音が響く。


「どうぞ」


「失礼します……シルヴィア様、全員連れて来ました」


シルヴィアが促すと扉が開かれ、クラウディア達が姿を現した。 シルヴィアは首肯すると頬杖をつく。 クラウディア達は各々の席に座るとシルヴィアの言葉を待った。


「さて皆……これから異世界に行く。 いつ帰って来れるか分からない。 死人も出るかも知れない。 だが、各地に蔓延る巨悪を倒す為……ひいては私達の世界の為の事にも繋がる事だ。 覚悟を持って如何なる時でも志を捨てるな」


シルヴィアの凜とした声が反響を起こす。誰一人アクションは起こさなかったが各々の心に響いてるのは確かだろう。 シルヴィアは静かに咳払いをするとまた口を開いた。


「じゃあそろそろ行くよ」


シルヴィアの言葉と同時に巨大な魔法陣が展開し、強烈な光に包まれる。 会議室には誰一人としていなくなった。

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