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孤島の鬼

空間に穴が開くとその中からシルヴィア達が地面に華麗に着地する。 全員降りると穴はやはり徐々に小さくなり数秒に閉じてしまった。


「……アイラちゃんの世界と比べるとかなりこじんまりしてるんだな……」


タツヒコが顔を歪ませながら呟く。 家屋が十数戸建っているだけの小さな孤島らしい。

するとタツヒコ達の側を通った一人の老人がタツヒコ達に気付くと側まで寄ってくる。


「どなた方が存じませぬが……私達の島を救ってくれませんか?」


しがわれた声で絞り出すように声を発するとシルヴィア達を見上げてきた。それを聞いたシルヴィアは眉根を寄せる。


「一体何があったの? 救ってくれだなんて……」


「実はここより東に行った洞窟に鬼が住み着いていまして……。昔は仲が良く、私達と酒を飲み交わしていたのですが事件が起こりまして。 それから奴に恐怖した島の人間達はあの鬼には関わらなくなったのです……」


「鬼……ねぇ」


シルヴィアが訝しそうに呟く。老人はシルヴィアの言葉に首肯するとさらに話を続ける。


「奴を倒す為に征伐隊が組織された事も何度かありますがその全てが返り討ちに遭っていまして……あと奴は定期的に酒を求めるんです。 それで三日に一度、奴に酒を渡しに行っています」


「ふむ……島民を恐怖に陥れる悪鬼か。 良し、私達が倒してこようじゃないか。 早速行ってくるよ」


立ち話も早々に切り上げたシルヴィアは早速東にあるという洞窟に向かった。そんなに広くない孤島の為案外すぐに見つかった。


大自然の神秘を感じさせる立派な洞窟で、入り口から雰囲気が明らかに違っている。シルヴィア達は暫しその神秘の余韻を堪能して入り口に足を踏み出したのだった。


中は巨大なドーム状になっており外見から見るよりずっと広く感じた。そのドーム状の洞窟の最奧から鋭い殺気が放たれると同時に声が聞こえてきた。


「お前ら……俺の洞窟に何の用だ? 見たところここの奴らじゃねーな? どこのどいつだ?」


声は低いが女の声だと判断できた。 声は洞窟内で反響を起こしている。


「私達はおじいさんに頼まれてあなたを倒しに来たのよ。 何でも、ここの人達を恐怖に陥れてるそうじゃない?」


視界を前方に移したシルヴィアが声の主の問いに答えると共にその声の主の姿が視界に入ってきた。 背中まで伸びた亜麻色の髪に、頭に無機的な角を二本生やし、薄着で佇んでいる女、それがシルヴィアが感じた第一印象だった。 最奧の石段に腰を下ろしながら片手に持つ杯を煽る鬼は殺気染みた目でシルヴィア達を睨んでいた。


「ふん……。まぁいい。最近碌に運動してなくてな……お前らで楽しませてくれよ。俺は酒と戦いが何よりの好物だからなぁ」


シルヴィアの質問を無視すると、スッと立ち上がる鬼はシルヴィアとアイラを一瞥した後嬉しそうに顔を破顔させた。


「そこの青髪の女と訳分からねぇ服着たチビの女……お前らは俺を楽しませてくれそうだな。それにしても、それ程の力をどうやって手に入れたのか興味深いな」


シルヴィアの顔が一気に真剣なモノに変わり、発言した鬼を黙らせるかのように純粋な殺気を放った。 心なしかシルヴィアの毛先が薄い赤色に変化していたがその事に誰も気付く素振りは見せなかった。


「私の力も見抜くとは……。生物の闘争本能が語りかけてるの? まぁでもそこまで分かるんなら力の差も分かってるわよね?」


シルヴィアの問いに鬼は馬鹿にしたように鼻で笑う。


「馬鹿言うな。 俺は楽しめればそれで良いんだよ……力の差があろうとなかろうと俺が楽しけりゃそれで良い……さぁ、誰から来る?

それとも全員で俺を袋叩きにするか?」


シルヴィアの言葉を一蹴し、肩を竦めた鬼だが途端に嗜虐的な笑みを浮かべシルヴィア達全員を一瞥した。


「これならどうです?」


と既に鬼の懐まで移動していたアイラの跳び蹴りが鬼を襲う。が、鬼もそれに負けない速度で防御態勢を取るとアイラの攻撃を間一髪で防いだ。防がられたのを見てアイラは鬼と一定の距離を空けた。


「っ……! てめぇいつの間に……!?」


「あそこまで詰め寄られた割には俊敏ですね……骨が折れそうです」


驚きを隠せない鬼に対しアイラは落ち着き払った様子で冷静に鬼の強さを分析する。しかし鬼も冷静さを取り戻すと嬉しそうに息を吐く。


「俺の名前は酒呑童子。ここいらじゃあ一番強えと自負してる。 お前は?」


鬼……酒呑童子はアイラを顎でしゃくる。アイラはそれに何ら不快感を示す事なく落ち着いている様子で口を開く。


「私の名前はアイラ・シルエート。よろしくお願いしますね」


「……お前となら楽しめそうだな。 良い目をしてる……精々俺をガッカリさせてくれるなよ?」


酒呑童子が地を蹴ると同時にアイラも地を蹴ってお互いに殴りかかる。酒呑童子の拳はアイラの頬を掠め、アイラの攻撃は酒呑童子の鼻っ面にめり込んだ。 酒呑童子の上半身が大きく仰け反り、片足が浮き上がる。さらにアイラは出張った腹部に強烈な踵落としを見舞う。


「……っ!!?」


苦痛に顔を歪めた酒呑童子の瞳がさらに見開かれる。そのまま背中から勢い良く倒れ、倒れた衝撃で周りの地面にヒビが入った。アイラは追撃する様子を見せずにただ倒れた酒呑童子を一瞥する。


「痛ぅ……よく効くなお前の拳。 予想してたのより大分痛ぇよ」


「……大した方ですね。 痛いと言いながらも無傷そのものなんですが?」


「伊達に鬼を名乗ってないんでな。 アイラだったか?次はこっちから行くぞ!!」


叫んでからが速かった。酒呑童子はアイラも見紛う程の速度で移動するとアイラのリーチ外から攻撃を仕掛ける。 酒呑童子が放ったのはミドルキック。 アイラはその蹴りをした足を掴むと捻りを加えながら地面に叩きつけた。


「ぐっ……この! 離しやがれ!」


酒呑童子は不自由な体勢ながらも何とかしようとアイラに攻撃を加えるが力が充分に入らない体勢での攻撃は無意味に等しい行為だ。


「……このまま足を破壊しても良いんですがそれじゃつまらないでしょう? 私もこんなので終わらせるつもりは毛頭ありませんが」


アイラは掴んでいた足を乱暴に地面に叩きつけると攻撃の及ばない範囲まで距離を置く。

酒呑童子は立ち上がるとどこから取り出したのか杯と酒瓶を出す。 そして杯に並々と注ぐと豪快にそれを飲み干す。


「っああ〜〜!! やっぱ酒はうめぇな。 こういう戦闘中だと尚……な。 酒も飲んだし、上げるぜ?」


急に活気に溢れた様子の酒呑童子にアイラの思考に疑問がよぎったが今すべき事は思考ではなく戦闘。 脳を切り替えるとこちらに来る酒呑童子を迎え撃った。 お互い一歩も譲らぬ激しい接近戦となり、どんどん激化していく。


(力が上がっている……!? おかしい……酒呑童子さんの力が確実に上がってる!)


一進一退の攻防を繰り広げる二人だったがアイラの方が防御に偏っていた。 それを見抜いた酒呑童子はわざと攻撃頻度を一瞬下げた。


アイラはその一瞬の攻撃の隙を突き、蹴りを放つが酒呑童子が細く微笑んでから罠だと気が付いた。


「これはさっきのお返しだ。遠慮せずもらっとけ」


アイラの蹴りは無情にも空を切ると、酒呑童子のラリアットがアイラの顔面を捉えた。 ラリアットを喰らったアイラはノークッションで洞窟の壁に激突し砂塵が舞い上がった。


「まだ終わるとも思えねーなぁ。 しかし強えな。こんなバトルは久し振りだ」


アイラとの戦闘に高揚感を隠せないのか酒呑童子は興奮気味に呟くと酒を飲む。すると舞い上がる砂塵を切り裂くようにアイラが姿を現わす。 赤いオーラを纏っており、瞬間的な速さは酒呑童子を上回るものだった。


あっという間に距離を詰めると酒呑童子の頬に掠めるように拳を振るう。少し反応が遅れた酒呑童子は目を見開いた後、アイラを見ながら呆れたように口を開いた。


「お前のさっきの言葉そっくりそのまま返すぜ。 俺の一撃を喰らって無傷とか……バケモンか?」


「私は闘神の加護を受けてますからね。そこらの常人の身体能力とは掛け離れてますよ」


「はっ……闘神の加護ねぇ……随分と大層だなおい」


まるで吐き棄てるかのように言うと酒呑童子はまた酒を流し込む。


「随分とお酒を飲むんですね? しかも戦闘中に。随分と呑気な方だ」


アイラも侮蔑するような目を酒呑童子に向けるが酒呑童子は意に介さないようだった。酒を飲み干すと杯を投げ捨て、至福のため息を吐き出す酒呑童子。


「ああ……? 何言ってんだ? 気分が上がるから酒を飲んでるんだぜ? 俺の体質や特性にもよるが」


「体質……?」


アイラは首を傾げ鸚鵡返しで返す。酒呑童子はそれを首肯すると続けた。


「俺の体質は酒に酔いにくい。 そして特性は酒を飲めば飲むほど強くなる。

身体能力が上がるんだよ。 特に気分が良いとその上昇率も跳ね上がる……これで解ったろ? 解ったところで俺には勝てねぇがな!!」


酒呑童子が吠え、力を増幅させていく。


「さぁ……お互い死力を尽くそうぜアイラ!!!」


それに呼応するようにアイラもオーラを赤から緋へと変化させ、お互いが全身全霊を賭けての勝負はさらに激化する。


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