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強襲

「ここがhologramのアジトです……。本当に襲うんですか?」


アイラに案内され、着いたのは巨大な施設が文字通り視界を覆い尽くしていた。

今シルヴィア達は巨大な門の前まで来ている。辺りに門番らしき気配は見当たらない。


「当たり前。ここまで来たんだから。しかし、門番すらいないなんて随分とザルな警備をしてるのね」


シルヴィアが呆れたように肩を竦める。


「hologramは世界的に有名な組織ですが、このアジトを知ってる人間なんてほとんど居ませんから門番は必要ないんです」


「へぇ……まぁいいや。これから私達に潰されるんだし、早いとこ乗り込みましょう」


シルヴィアはアイラの話を聞き流すと、急かすように捲したてる。アイラは咳払いをすると全員を見回す。


「なら私の身体に触れてて下さい。私が移動して基地内まで送ります」


「分かったわ……皆、アイラちゃんの身体に触れて」


シルヴィアの言葉に皆一様にアイラの身体に触れる。長谷川とタツヒコはアイラの胸に手が伸びかけたが理性が働いたのか、ローブの裾を握る。アイラは全員が身体に触れたのを確認すると、次の瞬間には既に基地内に飛んでいた。


「……成功です。さて、ここは……」


「ご苦労アイラ……まさかノコノコ戻ってくるとはなぁ」


不意に聞こえた声にアイラが振り向く。

アイラの視線の先に短髪に切り揃えた赤髪の男が立っていた。腰に剣を携えている事から剣士だと想像はついた。


「ミラ……さん」


アイラが何とか言葉を出すと、ミラと呼ばれた男は肩を竦めた。


「なんでお前程のやつがhologramに楯突いたのかは知らねぇ。いや、お前が兄だと慕っていたブユウを殺した事が大きいとも考えられるが……俺は結構、お前の事気に入ってたんだぜアイラ」


「……あなた達がした事は許せない。 お兄ちゃんの事もそうだけど……私達は道具じゃないんだ。ここであなたを殺す! ミラ・ラルス!!」


憤るアイラにミラは冷笑を浮かべる。その行為はアイラの神経をさらに逆撫でする結果となった。


「おいおい……まずはこの数見てから言えよ。アイラ、お前に潰されたとはいえ数じゃあまだこっちに分がある」


ミラが右手を上げると何処から湧いて出たのか、シルヴィア達の十数倍の人数が即座にシルヴィア達を囲った。それに伴いシルヴィア達も臨戦態勢に入る。だだっ広い空間が人で溢れかえった。全員の服装が一致しており、黒で統一されている。一目で戦闘員とアイラは理解した。


「アイラちゃん……これ、大丈夫なの?」


多勢に無勢のこの状況でやけに落ち着いてるシルヴィアがアイラに問う。アイラは首肯すると全体が見渡せる位置に移動したミラを睨めつける。


「皆さん、私も戦いますが、この圧倒的劣勢を覆すには各々が全力で戦う事です。それを頭の中に入れといて下さい」


「おいおい……まさかこの状況で勝算があるとでも?」


「そのまさかですよ……この圧倒的劣勢を覆すのにうってつけの勝算が。 "アンチフィールド"」


ミラの言葉にアイラは嘲笑し、アイラの隠し玉を発動させた。その瞬間、アイラの瞳が嬉々として輝く。


「さて、これで五分ですね……ミラさん、あなたにはアンチフィールドを掛けてませんから楽しみに待っててください」


「〜〜〜〜っ!! 殺せ!!」


ミラの怒号を合図にhologramの戦闘員達がシルヴィア達に襲い掛かった。その瞬間、何人かの戦闘員が面白いように吹っ飛んだ。


「只でさえ雑魚なのに、能力制限をされた有象無象如きが私を殺せるはずないでしょう?」


シルヴィアが嗜虐的な笑みを浮かべながら次々と屠っていく。すぐに返り血で染まり、地獄絵図と化した。破竹の勢いで蹂躙していく。


「止めようもないわね……シルヴィア。 さて、私も行くわ。 虚しく散れ……"残光の太刀"、"残影の太刀"」


至極落ち着いた様子のリミアは敵の攻撃を見極めながら次々と切り刻んでいく。 鮮血が舞い、腕や指が飛んでいく。


「楽には死なせないわ。 精々もがき苦しみなさい」


絶叫が響き渡る中でも淡々と腕や足を吹き飛ばすリミア。さらに残光の太刀で目を潰された多数の戦闘員達はその見えぬ恐怖に身を震わせる事となる。


「うおおおおおおおおおおお!!!」


タツヒコもここぞとばかりに敵をなぎ倒していく。リミアとの模擬戦のおかげか敵の攻撃や動きが良く見る事が出来、カウンターを主に狙っていくスタイルで戦っていた。


「喰らえやああああ!!!」


背後からの奇襲も反応でき、隙だらけの腹部に蹴りを捩込む。よろける相手に剣の柄で顔面を思い切り殴り飛ばすと光属性の魔法を放ち追撃をする。 光の玉が数発相手に直撃したあと、身体が膨れ上がり、血肉を撒き散らしながら爆散した。


「お前らに負ける気はしねぇ!!」


威圧感を纏ったタツヒコの姿に一部の敵は戦意喪失するがタツヒコはそれを許さずに怒りの咆哮を上げた。



長谷川はいやらしい笑みを浮かべながら多数の戦闘員と対峙していた。中年の男がいい歳してするものでも無く、案の定敵にすら軽く引かれていた。しかし、数に利があるため一斉に襲い掛かってきた。


「"能力・派遣斬り"」


居合いのような太刀捌きで半円を描くように抜刀すると静かに構えた。戦闘員達は長谷川の能力により動きが限りなく遅くなり、瞬時に敵との形勢を逆転させた。


「俺だって遊んでた訳じゃあないんでな……。 しかし、我ながら便利な技だ。ちょいと失礼するぜ」


長谷川は一人の女性戦闘員に目をつけ、着ていた服の上から身体を舐め回すように見つめるといやらしい笑みを浮かべ、舌舐めずりをした。 おもむろに女性戦闘員の胸を鷲掴みにすると揉みだした。


「良いねぇ……B……いやCって言ったところか。 ラッキースケベってやつだ。悪く思わないでくれ」


そして距離を取ると全体を見回す。


「……皆派手にやってんな。すげぇ。さて、俺もあの中に飛び込むか!!」


長谷川も猪突猛進の勢いで敵を切り込んでいく。 切り込まれた相手の動きは酷く緩慢なものになり、時が静止したようにも感じられる。そして長谷川はその中から品定めするかのような雰囲気を出し、一人に目星をつけると立ち止まり、口角を吊り上げた。


「お前を実験に検証するか……」


そう呟くと長谷川はおもむろに剣を喉元に突き立てる。


「"能力・飼い殺し" 。 今からお前は俺の奴隷だ。肉片となるまで俺の為に働き、俺を守れ……。この瞬間よりお前に掛けた派遣斬りの効力は無くなった。全身全霊を以って敵を穿て」


長谷川が言い終わると、その戦闘員は動けない左右にいた別の戦闘員の首から上を吹き飛ばし、凄まじい速さで辺りの敵を一掃した。


「ははは………踊れ踊れ。 悪くないな」


長谷川の独り言は阿鼻叫喚の叫びで掻き消された。


シルヴィア達が戦闘員達の足止めをしている最中、アイラもまた戦闘員を相手に戦っていた。が、まるで相手にならず軽くいなしてしまう。


「さて、そろそろ降りてきたらどうです?」


「ガキが……調子に乗るんじゃねぇよ。

"豪炎の太刀"」


アイラは壇上にいるミラを挑発し、ミラとの一騎打ちで勝負をするつもりのようだ。

ミラの持つ剣が猛々しく豪炎に包まれ、凄まじい熱波がアイラを襲う。しかしアイラはどこ吹く風と言わんばかりに微笑を浮かべる。


「ミラさんも太刀所有者でしたね。ですが私に勝てます?」


「ほざけ! ガキに負ける程落ちぶれてねーよ!」


売り言葉に買い言葉。 一触即発の中で先に行動を起こしたのはアイラだった。剣を持っていない左手に狙いを定めたアイラは全体重を乗せた重い一撃を繰り出す。


「っ!?」


脇腹に直撃しミラの表情が苦悶に満ちる。しかし痛みに耐えながらも豪炎を纏った剣をアイラに振り下ろす。しかしその攻撃は当たらずに空を切る。 既にミラの上半身と下半身が真っ二つにされていた。


「なっ……に!?」


「一人に集中し過ぎ。じゃあね剣豪さん」


シルヴィアの一撃でミラは絶命すると同時に豪炎も消失する。アイラは唖然としたがすぐに我に帰る。


「もう終わったんですか!? 流石ですね」


「長谷川さんの能力が役に立ったから苦労はしなかったよ」


そう言ってシルヴィアは長谷川を見やる。長谷川は恥ずかしそうに後頭部を掻きながら口笛を吹いていた。


不意にアイラがシルヴィア達に頭を下げた。


「すみませんでした。実は、生物兵器などの話は嘘なんです。 ですが、ブユウさんが殺されたのは本当でして……どうにかしたかったんですが如何せん数が多く……。それでシルヴィアさん達に力を貸していただきたかったので……このような事になってしまい申し訳ありませんでした!」


「……過程はどうあれhologram全員を始末出来たんだ。結果オーライだよ。さて、やる事もやったから私からもお願いしようかな」


シルヴィアは間を置くと咳払いをする。緊張感が辺りを駆け巡る。


「軽く説明するけど、私達は異世界から来た異世界の住人なんだ。その目的はこういう悪に染まった人間や組織を潰すこと……。

もし良ければ二人にも来て欲しい。ダメかな?」


シルヴィアがリミアとアイラに頭を下げて懇願する。アイラはかなり悩んでいたがリミアは案外簡単答えを出した。


「ごめん……私には孤児院って居場所があるしイリアや子ども達も待ってるからシルヴィア達には着いてけない……約束もあるしね」


「リミアちゃんはそう言うと思ってたけど、やっぱり残念だなぁ」


シルヴィアは困ったように笑うと、リミアを抱き締める。流石のリミアもこれには困惑し、思考が停止した。


「えっ……え? なっ、なっ……!」


「ふふ……案外可愛いとこあるのね? 私達の事、忘れないでね」


そう言ってシルヴィアはリミアの頭を優しく撫でた。 シルヴィアの行為を理解したのか落ち着きを取り戻したリミアは頷くと、シルヴィアから離れる。そしてシルヴィアはアイラを一瞥する。どうやらアイラはまだ悩んでるらしい。


「私……私は……」


か細い声がシルヴィア達の耳に届くが、何も反応しない。アイラは一旦深呼吸をし、再度言葉を吐き出す。


「私は……居場所もない、仲間もいない。

唯一いた仲間は殺された。もう私にこの世界にいたくないんです。逃避と言われるかも知れない、弱いと言われるかも知れない……。でも、それでも私は今までの私という殻を破って、シルヴィアさん達と一緒に行動したい」


アイラの決意は揺るぎそうもなかった。揺るぎない想いがアイラを動かしたのだ。それを聞いたシルヴィアは満面の笑みでアイラに応えた。


「ようこそアイラちゃん。歓迎するよ」



「さてリミアちゃん、そろそろお別れの時だ。今までありがとう」


「お礼を言うのはこっち。 多分シルヴィア達が居なかったら私は死んでたかも知れない。ありがとね」


リミアは若干頬を赤らめて言った。それにシルヴィアは恍惚とした表情を浮かべる。


「照れちゃってか〜わい〜」


「う、うるさい! 当然のことを言ったまでよ!」


シルヴィアのからかうような態度に腕を組んで顔を背けるリミア。心なしか耳まで真っ赤になっており満更でもなさそうだった。


「じゃあそろそろ行くね」


シルヴィアが何もない空間を突くと、空間に巨大な穴が渦巻きながら開く。シルヴィアはリミアにウィンクをすると空間の中に入ってしまった。


「……バカ。悲しくなんかないんだから」


一人残されたリミアの頬に涙が伝い、その想いは届く事はなかった。

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