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極めし者達

不変──それは変化を拒絶する力。 シルヴィアは闇の衣を纏いながら忌々しく目の前の少女を歯軋りをしながら睨みあげた。変化の伴うあらゆる事象・現象を成立させない彼女の力を以ってしても目の前の少女に傷1つ付けられなかった。


「超越神シルヴィア……確かにあなたは私達と同等よ。 あなただけじゃない。あなたの仲間も私達と同じ強さになってる。 それでも私達には勝てない」


背中まで伸ばした黒髪が風に靡く。純白のロングコートを羽織った少女は苦笑しながら髪を掻き上げた。


「積み上げてきた経験、存在そのものの強度、特性、性質……全てが違い過ぎる。 不完全であるが故に私達はここまで辿り着いた。 世界は存外脆いものよ」


シルヴィアの『不変』の力を物ともせずにただ在るだけで莫大な存在感を醸し出す少女ネフィリア。


「私達超越神はその不完全性を補う為に世界の管理をしてきた。万物を超越した者の責務としてね」


シルヴィアの纏う闇の衣が霧散し華奢な身体が露わになる。 異常事態に脳の処理が追い付かないシルヴィアに浴びせられたのは強大過ぎる力の奔流だった。 吹き飛ばされたシルヴィアを尻目にネフィリアはロングコートを翻す。


「私は『対』そのもの。相対する全てを総体とする超越神」


目の前に現れたシルヴィアの攻撃を2本の指で挟み込んで無力化し、優美な微笑を浮かべた。


「まだ、あなた達に世界を背負わせるのは酷みたいね?」


どれ程の力を込めようとネフィリアの指に挟み込まれた闇の衣を抜き取るのは愚行の極みだった。 相対が存在する全ての表現方法では彼女の力から逃れるのは不可能だった。


「っっ……!! ぐっ、諦めない……ここまでやってきたんだ。 世界の真実に辿り着くまで諦めない!」


シルヴィアの鬼の形相にネフィリアは苦笑で返した。


「不完全な世界の真実……? それは何処まで行っても不完全でしかないと思うの。 『原初の苦悩』……全ての元凶にしてこの世界の真の創造主。奴を倒さないとこの不完全な世界は終わりを迎えない」


ただ、と付け加えてシルヴィアの無防備な腹部に蹴りを入れる。内臓を潰される感覚に支配されながらシルヴィアはビル群に突っ込んだ。


「私達は奴を直接見た事は無いし、どんな力を持ってるのかも知り得ない。奴を直接知ってる黒金色香なら付け入る隙はあるかもだけど」


世界を漆黒の闇が包み込むがネフィリアが踵を鳴らしただけで霧散する。 ネフィリアの真上から複数に偏在したシルヴィアが襲い掛かるがそれを身体を回転させるだけで一蹴した。


「がっ……!? ごほっ、ごほっ!!」


咳き込むシルヴィアの胸ぐらを掴み上げるネフィリア。


「その黒金色香は行方不明。 全く、嫌になるわね……」


シルヴィアを無造作に投げ捨てる。シルヴィアを一瞥していたネフィリアだったがふと顔を上げると偏在したタツヒコと長谷川がこちらに向かってきてるのが目に入った。


「ルーシィー」


ネフィリアがルーシィの名前を呼び指を鳴らすとルーシィが真横に現れ無限次元に長谷川達を隔離した。が、1秒もせず無限次元を突き破ったタツヒコ達にルーシィーは好戦的な笑みを浮かべた。


「上等じゃない! 残らず叩き潰してやるわよ!」


ルーシィーは経過支配の性質で経過を伴った全ての性質を持ち得ていた。 行動には経過が伴うので行動を必要するあらゆるものはルーシィーには通じない。 瞬間、拒絶の炎が舞った。


「そもそも、拒絶という概念自体誕生してないと存在し得ないものなのよ、キャラ被り。如何に拒絶しようとも、受け入れられないものが存在するという事自体が経過している証左に過ぎないの」


氷雨の一撃を受け止めながら飄々とツインテールを揺らすルーシィー。


「私達以前の存在である黒金色香なら兎も角、私達より後に生まれ出たあんたじゃ私には勝てない」


ルーシィーは氷雨のあらゆる防御性を無視して攻撃を叩き込んだ。 苦痛に氷雨の顔が歪む。


「あら、ごめんなさい? 性質上、あらゆる防御性や干渉不能性を無視して攻撃を叩き込む事が出来るの。 自分でも無茶苦茶だと自負してるわ。第一、このくらいの事なら超越神全員出来るわよ。 眠りなさい」


氷雨を深い眠りへと誘う。 抗いようのない幸福感と脱力感に氷雨は堕ちた。ルーシィーは氷雨を一瞥すると思い出したかのようにタツヒコ達の存在に顔を向けた。 その顔には失望が見え隠れしていた。腰に手を当て嘆息した。


「ちょっと、この程度なの? 数億年ぶりの実戦に期待を馳せてたんだけど」


肩を竦めるルーシィーにタツヒコと長谷川の表情は優れなかった。 ルーシィーの後ろにはネフィリアが控えていた。状況は絶対的にタツヒコ達に不利だった。





結衣を取り囲むのは1万人以上に偏在した氷雨だった。 その異常とも言える光景に結衣は引きつった笑みを浮かべる事しか出来なかった。


「ちょっとお姉ちゃん……私、この人と話しがしたいんだけど」


結衣が控えめに指を指す先には稲穂色の金髪のショートカットにラフな格好をした絶世の美少女だった。 それを一瞥した氷雨が不愉快そうに鼻を鳴らす。


「ふん、結衣には指一本触れさせないわ。話したいならそこから話しなさい」


「全く、お姉ちゃんったら……あなたの目的は何ですか?」


こうなったら聞かない氷雨に呆れつつ、目の前の少女に問いを投げかける。少女はうんうんと頷きながら腕を組んでいた。


「私の目的か。 結衣ちゃんと話すだかな。敵対する理由が見つからない。あったとしてもそうならないようにするまでだ」


少女--リーネはそう言って肩を竦めた。


「他の人達は結構ドンパチやってるみたいですけど……」


「君達のとこにも、私達のとこにも好戦的な人達が多い証拠だね。そうなるのもしょうがない……私達が超越神になったのは数億年も前の事だから」


リーネは苦笑し後頭部を掻いた。


「結構タツヒコ達苦戦してるみたいね。つーかあんたんとこの連中強過ぎでしょ」


氷雨がむくれながら呟く。 それを聞いたリーネは吹き出したように笑った。


「伊達に超越神じゃないからだよ。修羅場も君達より潜り抜けてる。それと、生まれ持った能力が強力だったってのが1番の理由かな」


「ルーシィーは経過、ネフィリアは対、ネフティは不可、フィレーナは平等、あんたは?」


「もうそれ聞く? 『理由』。 私は理由そのもの。 理由の超越神。万物に理由は付随する。理由の存在する全ては私の支配下に置かれる。存在理由という根源から支配される……故に理由の存在する何かでは私は倒せない」


「めちゃくちゃね……」


リーネの言葉に氷雨はそれ以上言葉が出なかった。それを聞いたリーネは愉快そうに口の端を歪め、大仰に両手を広げる。


「強さにしても、それを成す理由があるだろう? 意思にしろ渇望にしろ……理由の無い強さは存在しない。 もちろん、私達を倒す理由も君達にはあるはずだ。 私達6人はお互いを補い合うようにして存在している。弱点を打ち消す為に。まぁ、それでも黒金色香には足下にも及ばないだろう」


「あんた達をしてそこまで言わせる黒金色香……一体何者なのよ」


「それを探る為に君達にも協力してもらわないとならない。私は今の君達の戦いに干渉するつもりは無いから存分にネフティ達と戦ってくれれば良い」


「そうね、ならちゃっちゃと終わらせてくるわ」


氷雨はその場から消える。 それを見たリーネは肩を竦めた。


「やれやれ……偏在とは便利なものだね。一定の意識を共有しつつ、独立した意思を持ち行動もする。 まぁ、それは今は置いておこう」


リーネは結衣を一瞥する。 それに反応した氷雨達が殺気を漏らすがリーネが手を薙ぐだけで氷雨達が消滅した。


「さて、これで話が出来る。神薙結衣、君は自分を何だと思っている?」


「えっ……!? そ、そんな急に言われても」


話を振られ戸惑う結衣にリーネは優しく微笑み、驚きの言葉を発した。


「ああ、分からなくて当然だ。 君は私達の器……もし私達が何らかの存在により消された時のための世界維持装置に過ぎない」


「……何となく、分かってました」


俯き、肩を落とす結衣。それに僅かに眉を吊り上げるリーネ。


「だからお姉ちゃんと接触させたんですね。全て分かってたんじゃないですか?今の私はあなた達の権能を全て持ってる」


「そうだ……だがそれを以ってしても黒金色香には勝てない。だから私達が滅んでも良いように君に全てを託すんだ」


諭すような口調でリーネは結衣の肩を掴んだ。


「黒金色香に勝てないようなら原初の苦悩には勝てない……世界は不完全のまま周り続ける。 だから裏から手を引いて君達にもこの位階まで来てもらった」


「それは分かります……ですが、もう充分でしょう。 私達の力は分かったはずです。これ以上お姉ちゃん達が傷付くのを見たくない」


結衣が胸に手を当て強く握る。 結衣の脳内にはシルヴィアや氷雨が傷つき、それでもなお力を示そうと足掻く姿が映っていた。 その叫びにリーネは思う所があったのか理由を改変した。そして全員が結衣達の元に集まった。


「ちっ、これからだったのに」


「これからって……私に傷1つ付けられないのに粋がるんじゃないわよキャラ被り」


「はぁ? やるの? 」


ルーシィーと氷雨が口論を始めたが結衣とリーネに宥められる。場を仕切り直して、結衣が咳払いをする。


「今から全員で黒金色香さんを探しに行きます。 私達以前の存在です……私達が認識出来ないのは当然として、この世界のどこかにいます。この世界を作った人だから」


その言葉にリーネが待ったを掛ける。


「神薙結衣、君は」


「私も行きます。 私だけ置いてけぼりは嫌だから。器でも何でも……一人ぼっちは嫌なの。早く、黒金色香さんに仲間になってもらいましょう」


結衣の決意した表情に氷雨は安堵の笑みを浮かべる。


(強くなったわね結衣……。本当に)


その気持ちを仕舞い込むと氷雨は空気を肺一杯に溜め込む。


「黒金色香!! 出てきなさい!! これ以上私たちを困らせるんじゃないわよ!!」


叫んだだけで無限次元世界を破壊する威力があったがそれは結衣達の存在の力だけで相殺される。


「人探し? ボクも混ぜてよ」


ふと、認識外から大罪のルティナの声が聞こえた。 黒のローブが靡く。携えた神剣には死に体の超越者サラが刺さっていた。


「〜〜〜〜ッッ!!」


それ(・・)を認識した瞬間、リーネ達超越神の怒りが爆発した。


「ただの魔人風情が……その子を離せ。 その子は私達の知り合いだ」


フィレーナが底冷えするような声色で殺気を漏らしながら呟く。 それにルティナは謎が解けた子どものような笑みを浮かべた。


「へぇ……この子の言ってた事は本当だったんだ。 そして君達がボクの目指した存在……万物を超越した存在」


邪悪な笑みを浮かべた魔王は超越神に喧嘩を売った。

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