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不変の超越者

闇が世界を覆い隠し、全ての変化から切り離された世界。闇の衣を纏い、それで構築された鋭利な棘を無数に束ねて翼を羽ばたかせるのはシルヴィア。 いつもの青髪は黒に染まっていた。紫の瞳が万物を射抜く。


「……ついに私も超越者か。 パパを超えたな」


いつもの明るい雰囲気は影を落としたように静寂が包んだ。変化という理を拒絶し、超越者へと上り詰めた魔王シルヴィア。 全ての認識から切り離された世界とそこに縛り付けられた転生者を一瞥すると指を鳴らす。闇で覆われた世界が砕け散り現代日本を象徴するビル群が姿を現わす。


「……氷雨。 いるんでしょ?」


虚空に目をやりながら闇の衣を纏う魔王は呟く。黒髪ツインテールの美少女、氷雨が笑みを携えながらその背後に降り立った。


「おめでとうシルヴィア。あんたも超越者ね」


「……」


氷雨の一言に目を細め、逡巡すると顎に手を当てる。


「タツヒコ君もその領域まで至ったのか」


「そうね。全く、やってくれるわね。これで超越者は6人。 |この次元世界では」


「6人? 私達以外にいるの?」


シルヴィアの返答に溜息を吐く氷雨は呆れ顔で腰に手を当てる。


「当たり前でしょ。 超越者は門にして鍵よ。上位次元の門番。それが無限に存在する。そしてそれに該当する超越者がこの連鎖的な無限内包を繰り返す世界の何処かにいるか、自ら作り出した上位世界にいるかのどちらかよ」


「それを倒して上位次元に行くと?」


氷雨は首を横に振る。


「もっと簡単な方法があるわ。楽しみに待ってなさい」


「……」


氷雨はその言葉を最後にシルヴィアの視界から消えた。 シルヴィアの闇の衣は変化を伴う力の完全無力化。それを難なく突破する氷雨に警戒感をあらわにする。


「戻ろう」


ゆっくりと、粒子が剥がれるように黒髪が消えていき普段の青髪が姿を現わす。シルヴィアは息を吐くと周囲を見回す。 敵の気配は無いのを確認した後、姿を消した。







同時刻、アイラは倒れ伏した転生者に一瞥もくれる事無く3本の天下五剣を眺めていた。同時に生き残っている転生者達が後退りをする。


「〜〜っっ!!」


自分より歳下の女の子がここまで強いのだ。生唾を飲み込み思わず喉を鳴らす。 全知全能の権能を行使しているが何も起きなかった。

どういう訳かと首を傾げているとアイラが肩を竦ませながら呆れたように首を振るった。


「まだ分からないんですか? 私は全ての先に存在します。全て経験済みです。故にどんな事象や現象が起ころうと私を倒す事は出来ない。

全て経験したが故(・・・・・・・・)に生きている(・・・・・)んですから(・・・・)


右手に純白の太刀を持ち、左手に漆黒の太刀を持ち、空間に浮かんでいる白と黒の縞模様の太刀にまるで赤子を見るような目を向けた。何を思ったか両手の太刀を消し、空間に浮かべていた白黒縞模様の太刀を右手に握る。


「『我』の性質の太刀。貴方達を相手にするにはこれ一本で十分です。 "我田引水"」


アイラが視認不可能な速度で横薙ぎに剣を振るう。すると次の瞬間、転生者達が糸の切れた人形のようにその場に崩れ落ちた。


我田引水。物事を自分優位に進める事。アイラの持つ太刀の無数にある性質の一つに過ぎないが強力無比に違いなかった。我の性質上、自我の存在する全ての存在ではアイラに太刀打ちは出来ない。 全ての転生者を倒したアイラは嘆息を吐くと太刀に目を落とす。


「……まだ使いこなすには至らないかな」


既に我そのものとして存在しているアイラだったが己の未熟さを痛感する。 太刀を握る事で性質としての力をより強く意識的に使う事が可能になったがアイラから見れば未熟以外の何者でもないのだろう。 ふと振り向くと氷雨が立っていた。 それに気付いたアイラが優しく微笑んで声を掛ける。


「氷雨さん」


「私を超えたわねアイラ。嬉しくもあり怒っている自分もいるわ。並の超越者じゃあその存在に耐えられない……。おめでとう」


氷雨は姉のような笑みを見せアイラの頭に手を置く。アイラはくすぐったそうに身をよじり破顔する。


「ありがとうございます氷雨さん。これで全員超越者になりましたか? 」


「そうね。既に世界改変をしてるからもうこれ以上転生者も現れない。神も理も消し飛ばした。不安要素は何一つ無いわ」


氷雨の言葉に逡巡を見せるアイラ。人差し指を伸ばすと明るめの口調で喋り始めた。


「なら少し休憩も兼ねてゆっくりしません? 皆も呼んで」


「良いわね。 海にでも行きましょうか」


「賛成です。 じゃあ結衣さんの家に戻りましょう」


結衣の家に戻った氷雨とアイラ。 食卓机の上で会議を開き、シルヴィア達に説明すると今からは急過ぎるというので明日になった。


「あんた達水着はしっかり準備しなさいよ」


氷雨の言葉に分かってると言う風に長谷川が手を振る。


「俺ら男組は海パンだけだから下に仕込むだけで良い。むしろしっかり準備した方が良いのはお前らの方だぞ。 水着のサイズが合わず、胸が入りきらなかったりポロリに繋がったがっ!!!」


長谷川が最後まで言い切る前に青筋を浮かべた氷雨の拳骨が脳天を直撃し頭から煙を出しながら机に沈んだ。


「余計なお世話よこの変態! 変な目で見たら許さないから。 タツヒコもよ。 前科あるんだからね」


「俺もか!?」


まさか振られるとは思ってなかったようで全身が青白くなっていくタツヒコ。覗き事件での氷雨のお仕置きが相当キツかったらしい。

青菜に塩をかけたように萎むと力無く頷いた。 女性陣は苦笑いを浮かべながらタツヒコ達を一瞥した。

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