光の柱《ジェイコブズ・ラダー》
ロシアとウラルスタンにまたがって走るウラル山脈、北側に行けば行くほど「石の帯」という別名もあるほど石が多くなる、その険しい山肌。
そこから“アルティメイタム”を、そして美空たちを音もなく見守る者がいる。
その姿は不可視モードを駆使して高度に欺瞞され、その結果誰の目にもとらえることができない。
眼前で繰り広げられる戦いを、そのコックピットのなかにおさまった使用者はただ黙って見守っていた。
“幽冥のエレボス”は両腕を組みながら、周囲の風景に溶け込んでその動向を注視している。
「……馬鹿者が。そんなことでは“アルティメイタム”はおろか、“白金のサージスト”すら倒すことなど、夢のまた夢」
“虚ろな男”の険しい瞳の先にある“金剛のエスト”は、攻めあぐねていた。
◆
高度二八〇キロメートルの軌道エレベータに設けられた低軌道プラットフォーム。そこから、一機の緊急展開用ヴィークルが射出されてすでに五分が経過した。
機体はもう大気圏に突入している。耐熱タイルが敷き詰められた外装は高熱に焼かれて焦がされながら、猛烈な速度で降下していく。
ステータスが終末誘導モードに切り替わる。すると、もはや必要のなくなった機密性の高いモジュールが自動破棄モードに移行し、人の手を借りることなく勝手に自壊していく。緊急展開用ヴィークルの役目を終えるときが、刻一刻と迫っている。
コックピットのディスプレイに表示される情報に目を通しているベアトリクスに向かって、瑞姫が小さな声で言う。
<ベアーティ。なんだか雲行きが怪しいよ>
「そうね、作戦空域の天候が悪化して、かなり視界が悪いわ」
<いや、そうじゃなくてさ>
どうやら真面目な話だったらしく、ベアトリクスは画面から目を放す。
ディスプレイ越しに瑞姫と対面する。
「ミズキ、どういうこと?」
<さっきまで一方的なゲームだった米軍が急に押されてる>
「押されて? それは一体……」
どういうことだろう。米軍が退けられる事態も作戦では想定されているが、それはあくまでそういう可能性もあるという程度で、さほど真剣に検討されていたわけではなかった。
だからこそ、こうしてふたりは米軍よりも早く奪取された機体を奪還すべく動いていたのに。
<人工衛星が監視してる画像情報と、レーダーの機影、そして米軍の通信。それがなんだか妙なんだよね>
「どうやら、本格的にあたしたちの出番かもね」
<いいや、どうだろうね。戦場にダイブしてみたら、ちょっとした地獄絵図かもしれないよ>
瑞姫の嘲笑混じりの言葉に、ベアトリクスは肯定すべきか否定すべきか迷った。
◆
米軍空軍基地の統合指令センターでは無数の軍人たちが大講堂の超大型ディスプレイに向かい、そこにリアルタイムで映し出されている地球の裏側の戦場の推移を、真剣な面持ちで見守っている。
「山岳地帯に展開中の敵性エリジニアン、全て沈黙。無力化を確認」
管制官たちの表情がいくぶんか安堵で緩む。
「素晴らしい戦果だ。それも、こんな短時間に」
「残骸を回収できれば、新たなエリジウム鋼が手に入りますな。これは僥倖」
一段高いフロアで見物していた高官たちがさっそく皮算用を始める。
つい先ほどまで緊張感で満ち溢れていたセンター内では極めて楽観的な雰囲気が漂い始めていた。
「司令、現地住民が洞窟型住居から多数、飛び出してきます」
「ピンポイント爆撃なんだが、まぁ現地の人間ならパニックにもなろう。われらの目的はあくまでも敵性エリジニアンと老原動乱の英雄様だ。くれぐれもこちらに攻撃の意志のない非武装の住民を巻き込むな」
「いえ、彼ら彼女らは……何かから逃げている、ようです」
管制官のひとりが、自分でも何を言っているのかわからない、というような態度で応じる。
「なんだその報告は!? もっとその詳細を、具体的に言え!」
高官が煮え切らない報告を寄越す管制官を叱咤していると、別の管制官が声を張り上げた。
「作戦空域、上昇気流が発生! 上空の温度、急上昇。くわえて周辺の磁気が異常な数値です」
「電波障害が発生、一部の無人機とのリアルタイム接続が不能に、自律駆動モードに切り替わります」
「センサー系がダウンする寸前に、強力な磁気嵐を検出。ただし、再検知は不能。今のでセンサーが故障した恐れあり」
先ほどまでの歓喜の渦は嘘のように消え去り、かわりに場を支配したのは異常な事態に対する警戒感と困惑だ。
「……これは、一体?」高級将校のひとりが司令に答えを求める。
「ええいっ、無人機の操縦手に現状を報告をさせろ!」
「ゆっ、ユニットFの人型無人機動兵器“ギガント”四機、通信途絶。戦闘不能、戦闘不能」
エリクシルの民の洞窟型住居を包囲していた光点がにわかに減少し始め、包囲陣に穴が空き始める。
<司令部、こちらアンカレジ・ワン。光の柱がユニットFを薙いだ。高エネルギーレーザー砲《HELG》か? これでは有効射程距離に機体が近づく前に、返り討ちにされる。至急、戦術の代替案ならびに作戦プランの再考を乞う>
「馬鹿な、なぜ今になって急にレーザーなど持ち出す? 最後の悪足掻きか?」
<司令部、こちらミネソタ・ツー。ミネソタ・ワンとミネソタ・スリーの二機一組は完全に破壊された。戦闘継続は不可能>
「あの光の柱は一体なんだッ!?」
「凄まじい高熱を帯びた非常に強力な電磁波、としか……」
司令の怒声に、管制官も何がなんだか皆目見当もつかない、といった趣だ。
<HQ、こちらアンダーソン・ワン。ライブラリにない未確認の超巨大敵性エリジニアンと交戦中。こちらの攻撃が通用しない。至急、近接航空支援を要請する。ただし、乱戦だ。友軍機は赤外線ストロボを使用中。ストロボ持ちには絶対に当てるなよ>
「光の柱、作戦空域を通過!」
「無人航空機のシグナルを消失」
「友軍の残存戦力、さらに減少。作戦区域で強力な電波障害が発生しており、システムエラー。正確な自機の数を把握できません」
「CIAの合同戦術センターの無人航空機が撃墜されました。同センターでは以後、全ての戦況確認が不能」
時間の経過とともに、悪化していく戦況。
何が起きているのか、まったくわからない。それゆえ、どう対処すればいいのか。一瞬にして混沌に叩き込まれた統合指令センターは、完全に戦いの主導権を何者かに明け渡していた。困惑と怒号で満ちた場にはもはや、先ほどまでの勝利の予感と余韻はない。
「馬鹿なっ! 何を言っているっ!? 先ほどまではあれほど優位に戦況を進めていたのにっ!!」
「……悪夢だ。米軍の新たな敗戦だ」
「早く援軍を! このままでは本当に負け戦だ」
「作戦区域に緊急展開できる友軍機及び部隊は存在しません。増援は不可能です」
自機を表す光の点が見る見るうちに減り続ける。この体ではもはや、作戦の完遂どころかこれ以上の継戦すら困難だ。
だが、司令は目の前で進行する敗北の予感に震えるばかりで、その命を発することができない。
「どうやら、接触してしまったようですね、連中と英雄様が」
唐突に統合指令センターの扉をくぐった若々しい男。紫色の第一種軍装――諜報軍所属であることを表す――できっちり身を固めたこの優男は軽やかな足取りで部屋を堂々と突き進んでいく。
「まぁ、結果はどうあれ、本作戦はこれにて終了です」
「……ふっ、ふざけるな! そんな説明でわれわれが納得するとでも思っているのか?」
「諜報軍の身内といえど、全ての情報を開示するわけにはいかない、ということです。ご容赦を」
若い男は、手短なマイクを手に取ると口を開いた。
「同刻をもって、本作戦OPフューリーロードは破棄。残存勢力は事前に立案された三ヶ所の回収可能な集結地点まで至急退去せよ。繰り返す。同刻をもって、オペレーション・フューリーロードはただちに破棄された。残存する部隊は集結地点まで急行し、即刻退避せよ」
マイクを奪われ呆然とする女性管制官に、この男は余裕の笑みで言う。
「このまま、敵の勢力下で撃破されると、後処理が大変なもので。なんせ、装填された砲弾がエリジウム鋼製ですからね。使用が条約で禁じられてるんだ。あそこに放置じゃマズい」
「待て! そもそも貴殿は一体何者だ? なんの権限があってわれわれに指図する?」
「米軍諜報軍特別検索群“クロームクラウン”第一一九特殊作戦部隊付情報参謀のジョエル・ジョンストン少佐です。ヴォーゼン中将の全権の特命を受けて、ここへ」
これがその指令書ですのでどうぞ。若い男――ジョエル・ジョンストンはそう言いながら脇に抱えられた封筒、そこに収められた極秘の指令書を司令に押し付けるようにして渡す。
中身を見て絶句している司令をよそに、ジョエルは心底楽しそうにしながら勝手に喋り出す。
「しかし、本当に強いですね。この日のために練り上げてきた対エリジニアン戦術が、まるで通用していない」
すると、ジョエルの懐におさまった携帯端末が震え出す。
「はい。中将閣下、こちらはジョンストン少佐です。ええ、エリジニアンの力は想像以上です。ともかく、現状でミソラ・ハンノキとも対立関係にあるのは完全に悪手です。わが国と言えど、二正面作戦は避けねばなりません。至急、UNAEAを介して会合を設定する機会を。でないと、あの化物にこちらの虎の子が皆食われてしまいます。……はい。では、そのように」
手短に要件だけ述べて通話を終了すると、ジョエルは芝居がかった風で肩を竦めた。
「われわれが物語の主役でないのは残念だよ。でも、だからこそ、せめて助演男優賞狙いでいくしかあるまいね」
◆
用済みとなった緊急展開ヴィークルが、事前にプログラミングされていた通りに空中分解する。
すると、その内部から、二機のFHDが宙に向かって投げ出される。
“深紅のアレルイア”はまるで戦闘機のような外観をした高速機動モードに変形し、その後部には“赤紫のクレド”を運搬可能な外付け拡張モジュールを合体させている。
すぐに補助推進装置が火を噴いて、凄まじい速度で作戦空域に突入していく。
<地球の重力がずっと恋しかったからかな、胸が熱いよ>
「こんな体調で作戦に投入されるなんて、ほんと泣けてくるわね」
<……お給料、上がんないかな?>
「あたしじゃなくて、社長に言って」
圧倒的なスケール感で屹立するウラル山脈の周辺で、幾重にも爆発が重なり、まるで祭りの終焉を告げる花火のような様相を呈する。
あれはレーダーと敵味方識別装置によれば、米軍が操る無人航空機だ。UAVはまるで害虫が駆除スプレーで退治されていくように、一方的に叩き落されていく。
「ちょっと、何よあれ!?」
それは確かに、エリジニアンだった。
だが、全長四〇〇メートルを超える図体はまるでウラル山脈から産み落とされた新たな山。敵として認識するにはあまりにも大きい。自分たちの相対的な小ささを痛感せずにはいられない。
前世代のステルス爆撃機のような鋭角的なフォルム。恐竜をモチーフに兵器を作ったら、きっとこんな風体になるだろうという有機的な外観は背びれや肘、膝に鋭い爪のような部位を持つ。
鋭い眼光は一見すると双眸だが、よく見ると三つの複眼から構成されている。
大柄の動物が持つある種の緩慢さはそこにはなく、俊敏な狩人という感じできびきびと動く。
<エリジニアン? でも、なんだよあのサイズ。まるで山か島だ>
筋肉ではなく、体の組成自体を瞬時に組み替えて最適化しているので、その巨躯は意外に俊敏で、展開した米軍機の攻撃を軽々とかわし、回避運動が攻撃と連動して次々と倒していく。
そこにはもはや小細工など不要だ。
運動エネルギーにまかせてただ敵に向かって突進するだけで、凄まじい質量攻撃となる。地鳴りとともに大地が割れ、砂埃とともに兵器の残骸が散る。
四〇〇メートルを超える尾から繰り出される三次元的な横払いは切っ先の鋭さ以前に、その重たすぎる質量で触れた敵を勢いそのままに解体する。
もはや、米軍機に勝機などない。あまりに、あまりにも一方的な戦いだった。谷に転がる米軍機の残骸を見れば一目瞭然だ。残存兵力は時間の経過とともに少なくなっていくばかりだ。攻守が入れ替わることもなく米軍は今、まざまざと敗北を突きつけられていた。
<ふたりとも、作戦名・“光の柱”は現時刻をもって中止とする。現状ではあいつに対抗可能な兵装はない。今は逃げろ! 交戦を禁ずる>アルヒ社長が回線に割り込んでくる。
<なんでそういうこと、もっと早めに決めないんだよ!? 完全に手遅れだろ! あたしらを殺す気か!>
瑞姫が腹の底から力の限り叫ぶ。
<超巨大エリジニアン背部より、多数の飛翔物の射出を確認。超高速で接近。非誘導なため、チャフやフレアなどの装備では欺瞞不能。乱数回避運動、開始します>戦術支援AI・TOTALが警告する。
「なんなのよ、もうっ!!」
ベアトリクスは“アルティメイタム”の背中から打ち出される杭のように細く尖った飛翔体を巧みな操縦桿さばきでなんとかやり過ごす。
「ミズキ、“深紅のアレルイア”の長所が消されてるから分離する。後は自力で頑張って」
<うん。囮になって飛び回ってくれると、こちらもありがたいよ>
後部拡張ユニットを“赤紫のクレド”とともに切り離すと、“深紅のアレルイア”は一気に加速し、高度を限界まで上げる。
普段はあまり用いないアフターバーナーを使い、ジェットエンジンの排気に再度燃料を吹きつけて燃焼させ、高推力を得る。
「誘導部、活性化」
まずは中距離空対地ミサイル六発で様子を見ることにしたベアトリクスは、機体を“アルティメイタム”の死角へと素早く移動させると、慣れた手つきで発射態勢を整える。
ターゲティング用の測距レーザーを“アルティメイタム”に向けて照射しロックオンする。自身に照射されたレーザーを探知してか、“アルティメイタム”の殺気漲る双眸がベアトリクスへ向く。
「レーザー・オン。レージング! 三、二、一、〇……ボムズアウェイ」
対するベアトリクスは恐れも迷いなく、これが自分の仕事だとばかりに引き金を引き切る。
下面武器庫内の“空中ブランコ”と呼ばれるアームが伸びて、中距離空対地ミサイルを機外へと押し出す形で放出する。
すると、すぐに固体燃料が燃やされて、大型推進ロケットモーターが火を噴く。そのままミサイルはマッハ四まで一気に加速すると、ミサイルは猛烈な勢いをそのままに“アルティメイタム”を目指して突き進んでいく。
<周辺の発雷確率、急上昇。飛行ルートによっては雷に打たれます。非エリジウム製の電子機器が破壊、もしくは一時使用不能になる恐れがあります。飛行ルートの再計算を開始します>
「もうっ、なんでこんなときに!」
<これは自然の雷じゃない>瑞姫が怒鳴る。
“アルティメイタム”の背中から稲妻が放たれ、終末誘導モードに入った空対地ミサイルが片っ端から叩き落とされていく。
もうもうと黒い煙がたなびくなか、“アルティメイタム”はいささかも動じることなく、悠然と歩を進めていく。
<あいつ、放電してやがるんだ!>
「だめ! あいつに近付きすぎると、電子機器が狂い出す。なんて磁力と電気なの!?」
“深紅のアレルイア”は急旋回して、再度“アルティメイタム”の死角に飛び込む。“アルティメイタム”もまるで後ろに目がついているかのように、ベアトリクスの動きに合わせて、体の向きを変える。剣山のような背中から杭状の物体が次々と打ち出されていく。
TOTALが行った未来予測演算に基づく回避運動に移りつつ、ベアトリクスは反転すると機首を“アルティメイタム”に向けた。
<ちょちょちょ!? ベアーティ、何すんの?>
「こうなったら仕方ないわ。搭載してる全ての火器をぶつけて機体を軽くしておく。誘導用センサーがいかれたら、ただの死重だもん」
<それは一理あるけどさ!>
二機のFHDはそれぞれ自機の武装の最終確認を行う。
<せっかくだから、一点に集中しよう。どこにする?>
「狙いを外さないという意味では胴か脚だけど、やつを止めることを考えれば当然頭よね」
<あれだけデカけりゃ、頭だって一発たりとも外しはしないよ>
◆
突如飛来した二機のFHDが“アルティメイタム”に攻撃を叩き込んでいく。
だが、“アルティメイタム”は防御の構えすら取らず、悠然と進む。
<ふふっ、このスケールならば、たとえ多弾頭部を全てエリジウム鋼製にした大陸間弾道弾でも完全かつ不可逆的な破壊は不可能。これだけのエリジウム鋼があれば、たとえ外殻が損傷したとしても瞬時に修復・再生が可能。これはもはや武器や兵器という概念でおさまる代物ではない。武力の究極にして到達点だ>
テウルギストはほくそ笑む。
二機のFHDが執拗に頭部を狙って猛攻を繰り広げる。エリジウム鋼製の兵装は確かにダメージを与えている。
だが、“アルティメイタム”のあまりに強固な外殻と自己再生・自己修復能力から少しでも傷付いた箇所から瞬時に修復が始まり、傷をつけても削り取ってもすぐに元の木阿弥となってしまう。
<おいおい、嘘だろっ!? 対エリジウム装甲用弾頭で、まるで通じないとか反則だろ!!>
「やっぱり、あのサイズ相手じゃ力不足よね」
<あのサイズに対応可能なエリジウム鋼製兵器なんて、どこの国だって作れないだろ>
瑞姫は忌々しそうに吐き捨てる。
“アルティメイタム”はその全身から稲光を発し、次の瞬間周囲に向けて解き放つ。
周囲は眩い光に満ち溢れて、視界が真っ白になる。
次の瞬間、遅れてやってきた轟音と衝撃波が周囲を蹂躙する。
ウラル山脈南部の森林地帯は炎に巻かれて、そのあまりの威力に水分があっという間に蒸発し、枯れ木でもないのに発火し始め、すぐさま消し炭となるといとも簡単に崩れ落ちてしまう。
「電磁エネルギーの瞬間的なバーストを確認。なんて強力な電磁パルスなのよ」
<……で、影響は?>
「今ので残ってた二発のミサイルの誘導部が完全にお釈迦よ。これはもう空中投棄するしかない」
<大容量コンデンサでも積み込んでいるのか? いいや違う。やつの体そのものが電荷を蓄えて、放出する受動素子の役割を果たすのか!>
瑞姫が叫び疲れたのか、呆れた風にぼやく。
「……もう、限界ね」
<ああ。悔しいけど、これ以上の継戦は無意味だよ。戦闘事務、こちらヴァルキュリア・ツー。“金剛のエスト”の奪還能力を喪失。作戦名・“光の柱”は現時刻をもって終了、撤退する。じゃあね>
“深紅のアレルイア”は外付け拡張ユニットを装備した“赤紫のクレド”と合体すると、ブースターと自機の推進器を吹かせて、戦闘空域を素早く離脱していく。
背後に山のようにそびえ立つ“アルティメイタム”を残して――。




