夏色*.・第9章・.*
次の日
学校に行った私に杏奈がすぐかけよってきた。
『成美?!大丈夫なの?!』
杏奈は気を使いながら、でも一生懸命に私に声をかけた。
杏奈は決して言わない。
『かわいそうに』だとか『元気出して』なんかの言葉を。
他の人はそういったありきたりな言葉で私をてきとうになぐさめ、どこかに行ってしまう。
杏奈は人を慰めるのが上手だ。
何も言ってくれなくても、一緒に泣いてくれる。
そして毎回杏奈は言うのだ。
『何にもできなくてごめんね。』
どんな慰めよりも心が落ち着く。
私はその言葉を聞くたびに、涙を拭いて、また前に行ける。
杏奈は大事な存在だ・・・って思ってる。
そんな私たちにクリスマスが来た。
皆クリスマスモードで、カレカノなんかで何処かにいくのだろうけど
私は恋をしない。
まだ和也に恋をしたまんまだった。
高校に入って初めての
クリスマス・・・・
本当なら隣に和也がいて、
『どこいきたい?』といつものようにじゃれてきたのだろう。
私は12月24日、一人で家を飛び出した。
近くの100円ショップで買った小さなツリーを持ち、
左手の薬指には和也の最後の贈り物がひかっている。
私が行ったのは和也のお墓。
墓石の隣にツリーを置き、手を合わせる。
『初めての・・・・クリスマスだね』
・・・・・・
『この前、夢に和也が出てきたよ。久々に会えてとってもうれしかった』
・・・・・・
『この指輪、すっごく気に入ってるんだぁ・・・』
・・・・・・
何を話しても、何を言っても、和也は返事をしない。
冷たく 静かな時間だけが通り過ぎるだけ
『やっぱり・・・・さみしい・・・・』
枯れたと思い込んでいた私の涙は一つ。またひとつ。大きな粒となってほほをつたる。
『あたし・・・・和也がいないと・・・なんにもできないよぉ・・・』
私はしゃがみこんで、泣きじゃくった。
もどってくるはずがない。
どんなに泣いても どんなにさけんでも もとめても
和也は二度ともどってこないんだ。
あの笑顔も 頬も 唇も 声さえも
あの夏色の空と共に消えてしまう。
私もいつか忘れちゃうの?
そんなの嫌だよ・・・・・
嫌だよ・・・・・・・・・
『・・・・んで・・・?』
私の心に残ったものは、ただハイジャックの犯人を責める気持ちと
和也の消えないぬくもり。
あの日旅行に行かなければ和也は今ここにいたかもしれない。
寒いねーって言う私を抱きしめてあっためてくれたかもしれない。
旅行の日にちが少し遅かったら。
帰る日にちが早かったら。
どんどんと浮かび上がる
【もしそうだったら和也は・・・】
という考え。
どうにもならないとわかりつつも
私の頭はそれしか考えられない。