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運び屋眼鏡 〜逆十字のデッサン〜

作者: hiromaru712

【 #架空職業 『職能戦線』】

ここは異能力を持った仕事屋達が蠢く首都・東京。情報屋、奪い屋、運び屋、監視屋、護り屋…彼らはその能力で時に敵、時に味方になりながら各々の職業の誇りを賭けて帝都の闇に闘っていた。今日、彼らの元に舞い込む依頼は天使の歌声か、はたまた悪魔の呪詛か……⁉



【診断メーカー結果】

眼鏡は運び屋です。性別は男、黒色の髪で、素直な性格です。武器は不明。よく一緒に仕事をしているのは護り屋で、仲が悪いのは奪い屋です。 http://t.co/K1JOkaR4


【運び屋眼鏡】

祖父から譲り受けた悪魔憑きの魔道具・アルズアザエルのペンで悪魔フラウロスを使役する能力を持つ運び屋・眼鏡。ある日彼は正体不明の刺客の急襲を受ける。強力無比な攻撃から悪魔のペンの力でなんとか逃れる眼鏡。戦いの中、使役魔が捉えた敵の姿はこの世に顕現した「天使」だった…。




「診断メーカー : 架空職業」からインスパイアされたTwitter上の #架空職業 タグで投稿していた「運び屋眼鏡」の編集版です。


【 #架空職業 『職能戦線』】


ここは異能力を持った仕事屋達が蠢く首都・東京。情報屋、奪い屋、運び屋、監視屋、護り屋……彼らはその能力で時きに敵、時に味方になりながら各々の職業の誇りを賭けて帝都の闇に闘っていた。今日、彼らの元に舞い込む依頼は天使の歌声か、はたまた悪魔の呪詛か……⁉



【ズガァァンッ!】


眼鏡「うわっ‼」

【キィィ……ィィ……】

「ぐ⁉耳が……!」

【ラァ……ラァ……ラァ……】

眼鏡「頭の中に直接……⁉ダイレクトボイスって奴か……フラウロス!」

ペン『キシシッ』

眼鏡「一旦退く。ル・ドーラ・ン・シャルテ。綴る我が写し身にかりそめの命を!」


【ブワッ】


???「……描画分身か」


???「全て潰せばいいだけのこと。行くぞハスデヤ。束ねたる理に光の祝福を。そを矢と成して暗き闇よりの客人を撃て!フィアト・フィアト……メタトロン・アラウ‼」


【ズガガガガ……!!!】


司祭「エイメン……」


眼鏡「……行ったか?」

ペン『……キシシ』

眼鏡「ああ。危なかった。まさかこんな街中で仕掛けて来るなんて。……取り壊し中の現場だよな、ここ。結果的に作業は進んだだろう」

ペン『キシシ』

眼鏡「いや。全く心当たりがない。姿を見たか?」

ペン『……』


【トントン】


眼鏡「スケッチブック?よし。描いてみろ」


【シャーッシャシャ、シャッシャー……】


眼鏡「これは……外国人?そしてその後ろに浮かんでるのは……」

ペン『キシシ』

「だな。信じられない。天使だ。それも姿が見えるレベルで顕現してる……全く。なんでこんなことになってしまったんだ。僕が何をしたって言うんだ」

ペン『キシシシ』


眼鏡「……うるさい。折るぞ」

ペン『……』




【運び屋眼鏡】祖父から譲り受けた悪魔憑きの魔道具・アルズアザエルのペンで悪魔フラウロスを使役する能力を持つ運び屋・眼鏡。ある日彼は正体不明の刺客の急襲を受ける。強力無比な攻撃から悪魔のペンの力でなんとか逃れる眼鏡。戦いの中、使役魔が捉えた敵の姿はこの世に顕現した「天使」だった……。




6時間前……


眼鏡「おはようございます。アズサさん」

アズサ「あ、おっはよ。時間通りね」

眼鏡「中国福建省・龍封門の李大人よりお届け物です。受取りにサインを」

アズサ「……確かに。んじゃこれ。報酬ね」

眼鏡「……確かに。これで二ヶ月は暮らせます。毎度どうも」

アズサ「あの国の宅配便に任せられる荷じゃないからね」


眼鏡「新しい扇子ですか?」

アズサ「ん。ヒロマルの前回の仕事が総力戦で……扇子のストックが尽きちゃってね。そこいらの扇子じゃ術に耐えられなくて発動前に朽ちちゃうから」

眼鏡「一本おいくらぐらいするんです?」

アズサ「……ここだけの話よ?職業上の機密だから……ごにょごにょ……」

眼鏡「えっ⁉二十ま」

アズサ「しーっ!」


眼鏡「じゃあ前回赤字なんじゃあ……ヒロさん命張って飲み屋代『だけ』稼いだって言ってましたよ?」

アズサ「そこは。きちんと必要経費天引きしてからヒロマルにやってるから。そうしないとあいつ後先考えないで飲み食いするからね」

眼鏡「流石ですね」

アズサ「あいつには内緒よ?経済観念が小学生並なんだから」


アズサ「あそうそう。さっきあなたを探してる人が訪ねて来てたわ」

眼鏡「僕を訪ねて……ヒロさんの道場に?」

アズサ「そう。どっから聴いて来たのか『眼鏡さんはおいでになりますか?』って。綺麗な金髪の結構イケメンだったな。門下と朝練の途中だったし取り敢えず連絡先聞いて帰って貰った。これ、TEL番」


眼鏡「金髪イケメン……?」

アズサ「背がすらっと高くて。瞳は黒かったし日本語流暢だったけど外国人かハーフかもね。誰?あれ。今度紹介して」

眼鏡「さあ……心当たりがないです。誰だろう」

アズサ「ふーん……仕事の依頼なら直接あなたのアトリエに行きそうなもんよね。素人さんかな?」

眼鏡「うーん……」


眼鏡「なんか得体が知れないですね。電話はしないで置きます。もしまた来たら、引き止めて僕に連絡くれますか?」

アズサ「分かった。そん時は上手くやる。護り屋や監視屋程じゃなくても、運び屋だってどんな恨みかってるか分かったもんじゃないんだから。念の為、用心してね」

眼鏡「お心遣い痛み入ります」


アズサ「まあ眼鏡の事だから滅多なことはないだろうけどさ」

眼鏡「僕には悪魔が憑いてます。手綱をキッチリ握ってればこれで中々頼りにはなる奴なんで。そう簡単にはどうにかされませんよ。相手が天使でも連れてない限り」

アズサ「頭に輪っかある奴が来たら電話して。割引料金でヒロマルを行かせるから」




現在……


眼鏡「ほんとに来ちゃったよ……天使……ヒロさんに手伝って貰おうかな……」




【運び屋眼鏡】祖父から譲り受けた悪魔憑きの魔道具・アルズアザエルのペンで悪魔フラウロスを使役する能力を持つ運び屋・眼鏡。ある日彼は正体不明の刺客の急襲を受ける。強力無比な攻撃から悪魔のペンの力でなんとか逃れる眼鏡。敵が悪魔の天敵「天使」を使うと知り、対策に苦慮するが……。




【プルルル……ピッ】


ヒロマル『珍しいな。電話掛けて来るなんて。トラブルか?』

眼鏡「いえ。ヒロさんのお加減はどうかなー、なんて」

ヒロマル『もうちょっとなんだが……アバラの粉砕骨折の繋がりが悪くてな。息をする度に痛みやがる。諸事情で術にも頼れないし。俺も歳だ。休暇と思って暫くのんびりするさ』


眼鏡「そうですか。折を見てまた顔出します。何か欲しいものあります?」

ヒロマル『ケンチキのパーティバーレル。金は出す。生コンみたいな病人食で病気になりそうだ』

眼鏡「分かりました。伺う時は持参します。お大事に」

ヒロマル『おうまたな』


【ピッ】


眼鏡「はぁ……僕までお腹減って来た。取り敢えず食事するか」




春日亭


眼鏡「こんにちはー」

女将「あら眼鏡の兄さん。いらっしゃい」

眼鏡「親子丼大盛りで」

女将「あいよ。親子の大イチー!」

大将「親子大イチよろこんでー!」

眼鏡「はぁ……」

ペン『キシシ』

眼鏡「そうだな。まずは相手が誰か確かめないと。食べたらもう一度アズサさんに会おう。お前のクロッキーを見せて……」


【がしゃぁぁん‼】


客「きゃあ!」

客「うわ⁉」

女将「な!なんだい⁉事故かい⁉」

大将「おわ⁉ 戸と壁どうした⁉ ダンプでも突っ込んだか⁉ みなさん!怪我はねーかい⁉ 」

眼鏡「……まさか」

???「見つけたぞ。ペンの悪魔!」

眼鏡「君は……一体なんなんだ?狙うなら、僕だけを狙え!」


???「私はジョー・マーカス司祭。神と正義の名において悪と穢れの化身たる悪魔を封滅しに来た!」

眼鏡「司祭?罪もない人々の営みを破りその住まいを壊す……これがお前の言う正義か⁉」

司祭「私が正義を行うのではない……私の行うことが即ち正義なのだ。私と戦え‼ 周囲に被害を増やしたくなければな!」


ペン『キシキシ……』

眼鏡「……珍しく意見が合ったなフラウロス。僕もあいつは……」


【さっ!】


眼鏡「ヘドが出るほど気に入らない!」

司祭「それがアルズアザエルのペンか。成る程。禍々しい霊気に満ちている。ふふふふふふ……さあ!死ぬ前に本物の天使の力、とくと眼に焼き付けておけ‼」





【運び屋眼鏡】悪魔憑きの魔道具・アルズアザエルのペンで悪魔を使役する運び屋・眼鏡。突如襲いかかって来た敵の急襲から辛くも逃れた彼は行きつけの定食屋で今後の方針を思案しながら食事を摂ろうとする。その時、店を破壊し再び現れる敵。天使を使役しジョー・マーカス司祭を名乗る敵の目的とは……。





眼鏡「待て天使使い。ここではダメだ。無関係な人が死ぬ。戦いには応じる。だがまずは場所を変えよう」

司祭「ふん。どこで戦っても同じだ。邪霊悪神、光の教理の前に滅ぶべし」

眼鏡「お前は飛べるか?」

司祭「魚が泳げるのと同等に」

眼鏡「……御徒町に最近潰れた廃工場がある。ついてこい。そこで決着をつけよう」



眼鏡「女将さん。ご迷惑をお掛けして申し訳ない。立て直し代は弁償します。後で必ず」

女将「よくは分からないけど……弁償なんていいんだよ、どうせボチボチ改築の予定だったんだから。ねぇ父ちゃん」

大将「おうよ。所であいつがウチを壊した野郎か⁉菜切包丁でぶった切ってやる‼」


眼鏡「駄目です」


眼鏡「それは僕の仕事です。あいつは普通じゃない。大将が喧嘩が強いのは知ってますが、少しだけ敵わないでしょう」

女将「あんた……なんか無茶しようってんじゃないだろうね!いいんだよウチなんか別に。もし死んだりしたら、承知しないよ‼」

眼鏡「大丈夫ですよ女将さん。僕も……普通じゃないので」


ペン『キシシ』

眼鏡「移動した先でな」


【シャッシャッ……シャーッ……ビリビリ】


眼鏡「ブリッツ・マンダ・マンダ……トゥイクンテン・ウィンガ」


【ばさあっ】


司祭「蝙蝠の羽根……穢らわしい」


【す……】


司祭「風を司る力天使よ。輝ける審議官の権限に於いて我にその理業を委任せよ」


【ピカッ!ごおお……】


眼鏡「東京の空の風は複雑だ」

【バサッバサッバサッ……】


眼鏡「煽られてビルにぶつかるなよ、司祭様!」

【バサァァッッ!!!】


司祭「私のハスデヤは気が荒い」

【ヒュルルル……ゴォゴォゴォ……】


司祭「少しでも勝負になると思ったことを地獄で悔いるがいい!」

【ゴォォオォォッッッ!!!】


【バサァッ……スタッ】


眼鏡「……ここでいい」


【ゴウゥ……ふわり】


司祭「成る程。悪魔とその使い手の死に場所に相応しい」

眼鏡「お前は…お前のそのやりようが、本当に正義だと思っているのか?」

司祭「穢らわしい。悪魔の主が正義を語るな」


【すっ】


眼鏡「話にならないか……」


【ゆらり】


司祭「同感だ」


眼鏡「最も賢きペリシテ人の名に於いて汝に666秒の自由を与える!我が描く絵画の内に……」


司祭「昔居まし今居ましやがて来たるべきもの!汝は光にしてことわりである……」


眼鏡「マシュー・アルクト・デ・オーラム……エイメン‼」


司祭「フィアト・フィアト・アルパ……イグジスト・メィタトゥローン‼」


悪魔「ホホホホッ!」

【ズドン‼】

天使「……」

【スッ】

眼鏡「……速い!」


天使『……ラ……ラァ……ラ……』


眼鏡「くっ……またこれか……歌ってる……」

司祭「ダイレクトヴォイス。人の罪の意識に働きかけて相応の苦痛を与える。耳を塞いでも無駄だ。魂に直接響く霊的な歌声だからな!」

眼鏡「ぐ……うわぁぁ……!」


眼鏡「フラウロス!本気で行け!あの歌を……辞めさせろ‼」

悪魔「ホホホホ……ゲヒャヒャヒャヒャ……!」


【ミシミシミシ……ムクムクムク……ッ!】


司祭「正体を現したな。醜い悪魔め」


【シャァッ!ズン‼】


眼鏡「いいぞ……パワーならこっちが上だ。そのまま離すな!ねじ伏せろ!」

悪魔「ゲヒャヒャヒャヒャ!」


司祭「パワーならそっちが上?舐めて貰っては困る。ハスデヤ」

天使「……」


【めりっ……】


眼鏡「馬鹿な!」


【めりめりめりっ……】


眼鏡「あんな華奢な体躯の奴に……!」


【めりめりめりめりっっ‼】


眼鏡「魔神体のフラウロスが……押されてる……⁉」

悪魔「グッ……グッ……グォォォ……ンッッ‼」

眼鏡「行けない!」


眼鏡「一旦離れろフラウロス!」

司祭「……遅い」


【ごきゃっ!ぶちぶちっ‼】


悪魔「ウォォォォ……ンンッッ‼」

眼鏡「フラウロス!」

司祭「離れたな……ハズデヤ。光の矢だ。アストラル・コアを狙え」

天使「……」


【ピカッ……キラキラキラ……】


眼鏡「フラウロス!起きるんだ!あれを喰らったら…起きろ!」


悪魔「……」

眼鏡「フラウロス……?」

司祭「かかかかかっ!悪魔が天使に敵うわけがないだろう‼ 氷が火に溶けるように。火が水で消え去るように。悪魔は天使の前に……」


【カッ!】


司祭「滅ぶのみだ‼」


【キュキュキュキュンン‼】


眼鏡「フラウロォォォス……!!!」


【ビカッ!ズガガガガッッ……!!!】


【もうもうもう……】


司祭「む……!」

眼鏡「フラウロス……やられていない……⁉」

司祭「誰だ!神の意思である正義の執行を邪魔する奴は‼」


???「問われて名乗るもおこがましいが!」


眼鏡「あなたは……来て、くれたんですか……!」


ヒロマル「新たな時代に誘われて!護り屋ヒロマル!義によって助太刀!……燭天使だかペテン師だか知らないが、俺のダチに手ェ出す奴。てめえの相手は靈言扇舞法・木船田流正統!この木船田ヒロマルが」


【ばば!ば!……すっ!】


ヒロマル「やってやるぜ‼」




ヒロマル「怪我はないか眼鏡」

眼鏡「ええ僕は……けどフラウロスが……」

ヒロマル「リミットは?」

眼鏡「あと三分程です」

ヒロマル「っしゃ任せろ。お前にゃ借りがあるからな!」

眼鏡「恩に着ます」


司祭「小汚い護り屋風情が……高貴にして清廉な天使の何を損なうことができよう!ハスデヤ、光の矢だ‼」


【ピカッ!キラキラキラ……】


司祭「天に召されよ‼」


【キュキュキュンンッッ‼】

【カッ!】

【ズズーン……‼】


眼鏡「ああっっ‼」

ヒロマル「森羅万象……この世に気をまちて以って生ぜざるなき也……」

眼鏡「……ヒロさん‼」

ヒロマル「そこのインチキ天使の攻撃は純粋な光の気。同じく光の気の術を以ってすれば跳ね返すのは容易い」


眼鏡「扇の文字……『鏡』……!」

ヒロマル「さあて、今度はこっちの…」


【ぴきっ‼】


ヒロマル「ぅぐはぁっ‼」


【ドサッ】


眼鏡「ヒ……ヒロさん⁉」

ヒロマル「すまねぇ眼鏡。くっつきかけてた肋骨が一連のアクションで粉々に戻っちまったようだぜ……」

眼鏡「ヒロさん……」

司祭「かかかっ。冗談のような助っ人だな」


司祭「光の術が跳ね返せるとしても、顕現した物理実体による直接攻撃は防げまい。紙と竹の、そのケチな道具ではな」

眼鏡「ヒロさん……しっかり。立てますか?」

ヒロマル「ぐっ……。悪りぃ。俺はここまでだ。だから……」


【ジャコッ!ガァァン‼】


天使「……⁉」

司祭「なんだ⁉ 天使に……銃撃⁉馬鹿な!」


ヒロマル「あとは妹に引き継ぐぜ」

アズサ「ったく世話が焼けるわねっ!」


【ガァァン‼ジャコッ!ガァァン‼ジャコッ!ガァァン‼】


天使「……‼……⁉……⁉」

司祭「そんな筈は…なぜハスデヤに銃弾が効くのだ!」

アズサ「豚の血をフリーズドライ顆粒にした特製散弾のショットシェル…『穢れの弾丸』よ!」


司祭「小賢しい!そんな矮小な力で天使が倒せるとでも……」


【ジジジ……ブブブブ……】


眼鏡「天使の姿に……ノイズ……?」

司祭「チッ……しまった」

アズサ「今よ!言わ猿、聞か猿……みんな最後の猿になって‼」


【キン!コロコロ……】

【バンッッッッッッ!!!】

【キー……ン……】


司祭「くっ……音響閃光手榴弾……⁉」


司祭「……いない。戻れ。ハスデヤ」

天使「……」

【……すぅ】


司祭「逃がしたか……まあいい。直接戦えば必ず勝てる。悪魔とその使い手。貴様らの命運もあと数時間だ。……くっくっく。かぁーっかっかっかっか……!」




---------------------------




眼鏡「ここ……橋新駅?」

アズサ「東京メトロ新橋駅にはあまり知られていないけど二つのホームがあるの。ここは廃駅になった旧ホーム。隠れ場所には持って来いでしょ?」

ヒロマル「あのイケメン外人がこんな場所を知ってるとは思えないが……何かの術で探り当てるかもしれねえ。あんまのんびりもできんぞ」


アズサ「とは言え態勢を立て直す時間位はある。ペンの悪魔……フラウロスは?」

眼鏡「インク切れですね。直接受けたダメージが大きかった。20分下さい。インクを補充します」

アズサ「補充?」

ヒロマル「あぁアズサは初めて見るのか」


眼鏡「……」

アズサ「ナイフ?まさか……」


【ざくっ】


眼鏡「く……!」


【ぽたっ……ぽたっ……】


ペン「ズズッ……ズッ……」

アズサ「眼鏡の血を……啜ってる……」

眼鏡「すいません。微妙にグロくて」

アズサ「20分も続けたら……あんた倒れるんじゃないの?」

眼鏡「悪魔のあるじの辛い所です」

ヒロマル「眼鏡の命の欠片を吸って悪魔は元気になる。だが、その先どうする?」


眼鏡「……」


ヒロマル「俺の見たてじゃ、まともにやりあって勝てる相手じゃねぇ」

眼鏡「……まともじゃない方法を取るしかないでしょうね」


ヒロマル「『逆十字のデッサン』……か?」


眼鏡「あいつは許せない。野放しにすれば別の何処かでまた無為な破壊を繰り返す」

ヒロマル「死ぬかもしれねえぞ」

眼鏡「それはまともにやりあっても同じです」

ヒロマル「……」

眼鏡「勝てる見込みが少しでもある方に賭けるだけです」

ヒロマル「アズサ……悪いが採算は度外視で行く。新しい扇は届いてるんだろう?」

アズサ「……あんたこそ死ぬわよ。肋骨粉々なんだから。今だって立ってるのがやっとでしょ?」

ヒロマル「はっ。どうってこと……」


【びきっ】


ヒロマル「ぅぐはぁっ……‼」


アズサ「命を賭けるような相手?情報集めながら、逃げて逃げて逃げまくればいいじゃない」

眼鏡「しかし……!」

ヒロマル「……あの司祭相手に逃げ続ける事こそ至難の業だがな」


???「ビジネス・チャーンス」


ヒロマル「……誰だ⁉」


???「命の重みの三すくみ……打開するにはきっかけがいる。そのきっかけ、私がお売りしましょう。リーズナブルな特別価格で、ねっ!」




???「ども」


ヒロマル「てめえは!」

アズサ「チェシャキャット……!」

猫耳「速くて正確、お値段以上。猫耳じるしの情報屋です」


【チャ……】


ヒロマル「アズサ。物騒なもんは引っ込めろ。弾の無駄だ。どうせ分身さ」


猫耳「流石、と言いたい所ですがどうでしょう。意外に本体かも知れませんよ?」


ヒロマル「からかいに来たならあっち行け。俺ら社会人はお前ら学生と違って忙しいんだ」


猫耳「社会的分業の一旦なら私も担ってますよ。需要のある情報を供給を求めるお客様に販売する立場でね」


ヒロマル「……どんな情報だ?」


猫耳「例の司祭の関係者の連絡先です」


ヒロマル「関係者?誰だ?」


猫耳「残念。ここから先は有料です」


ヒロマル「話にならん。それじゃ役に立つ情報かどうか分からんな」


猫耳「立ちますよ。あの司祭がなぜあんな若い身空で天使の召喚なんて大それた術が使えるのか。それを知る人物です。しかもあの司祭の暴挙を憂慮し、なんとか止めたいと考えている」


ヒロマル「馬鹿らしい……その能書きが真実だと言う裏付けは?」


猫耳「誤情報を商ったなんて話は情報屋にとっては火事より怖い。値段を付けた情報に関しては嘘は言いません」


ヒロマル「値段は?」


猫耳「9万8千円」


ヒロマル「……気に入らねえ」


猫耳「お三方の危機打開の値段としては格安だと思いますが?」


ヒロマル「そうじゃねえ。お前の持って来た情報も現れるタイミングも都合が良すぎる」



ヒロマル「俺たちのピンチの内容にも詳し過ぎる。タイミングも余りにタイムリーだ。お前……俺たちを尾けてたんじゃないか?本当の狙いはなんだ?」


猫耳「……侮って欲しくないですね。私、情報屋ですよ。主要な仕事屋の近況はリアルタイムに把握してます」


猫耳「その内の誰かを狙う刺客の情報が入れば、刺客の情報をターゲットに売ろうと機会を伺うのは、商売上当然の事と思うけども」


ヒロマル「それだけか?」


猫耳「それだけです」


ヒロマル「じゃ、こっちの条件を言う」


猫耳「条件?」


ヒロマル「今のままじゃ取引相手として信用

出来ねぇ」


猫耳「どうしろと?」


ヒロマル「お前が本当に探してるものが何かを教えろ」


猫耳「……は?」


ヒロマル「情報屋になったきっかけ……本当の目的さ」


猫耳「意味が分かりません」


ヒロマル「協力してやる、って言ってるんだ。お前の探してる何か、案外俺らの誰かが普通に知ってるかも知れねえぞ」


猫耳「……それは有りえません」



ヒロマル「なぜそう言い切れる?」


ヒロマル「新進気鋭の情報屋様は俺たちそれぞれがどんな情報を持っているか。……と言う情報さえも把握なさってるのか?」


猫耳「……やりにくい方ですね」


ヒロマル「お互い様だ。まあいい。じゃあせめて名を名乗れ。チェシャキャットってのは情報界隈の連中が勝手に付けた渾名だろ。名も知らん奴と取引はできねえ」


猫耳「……原、です」


ヒロマル「原っぱの原?」


原「……はい」


ヒロマル「交渉成立だ。アズサ。払ってやれ」


アズサ「偉そうに言わないで。眼鏡!半額は後で請求するからねっ!」

眼鏡「そんな!全額持ちますよ!」

アズサ「もうあんただけの案件じゃないのよ。この街を護りたいのは私や兄貴も一緒なんだから」


眼鏡「……すいません」


アズサ「2千円お釣りある?」

原「……毎度ども」


【ぴっ】


原「電話番号です。眼鏡さんが掛ける事をお勧めします」

眼鏡「分かりました」

原「それと……止むを得ず名乗りましたが、私の名は内密にして下さい。私にとってそうする充分な理由があるのです」


ヒロマル「分かった。一緒に居る時もうかつに名を呼んだりはしないと誓う」

原「助かります」

ヒロマル「情報屋よ」

原「はい?」

ひあ「本当の目的の件、話す気になったら言って来いよ。名前云々もそれ絡みだろ?」

原「……今日はこれで失礼します。護り屋さん。あなたのファイルには『やりにくい』と付け足しておきます」


【すぅっ……】


眼鏡「……消えた」

アズサ「上出来よヒロマル。あの情報屋に名乗らせるなんて……がんばったわね」

ヒロマル「いや。交渉のスキルじゃねえ。あいつは是が否でもこの情報を俺たちに売りたかったんだ」

眼鏡「……どういう事ですか?」

ヒロマル「さあな。そこにあいつの謎の根本があるのかもな……」



ヒロマル「電話番号か……とりあえず掛けてみろ」

眼鏡「はい」


【ピポパペポ……プルル……ピッ】


眼鏡「もしもし?」


『……君は眼鏡、と呼ばれる運び屋か?』


眼鏡「ええ。あなたは?」


『奴はエンゼル・ペンデュラムという高精度のダウジング能力を持っている。時間がない。会って話そう。すぐ移動しろ。住所を言う』


眼鏡「ええ……ええ。はい。分かりました。ではそちらで」

アズサ「メモったわ。そう遠くない」

ヒロマル「声に憶えは?」

眼鏡「……いえ。でも結構年配な感じでした。落ち着いてて、なまり……いや、外国の人かな?日本語のイントネーションの端々にちょっとクセがありましたね」

アズサ「……あいつの仲間?」


ヒロマル「可能性はある。だがこうしてても埒が明かねえ。飛び込んでみるさ」

眼鏡「……万一の時、お二人だけでも逃げて下さいよ」

ヒロマル「だとさ、アズサ。その時は俺の分まで遠くに逃げてくれ」

アズサ「逃げたら眼鏡に貰う情報代が貸し倒れになるでしょ。一緒に居るわ。4万9千円回収するまで」



------------------------------------------



ヒロマル「ここか……」

アズサ「教会……?」

眼鏡「ここから先は、僕一人で」

ヒロマル「連れねえな。俺ぁ足手まといか?」

アズサ「踏み倒す気?そうは行かない」

【……ジャキッ】


眼鏡「お二人とも……このご恩は忘れません」

ヒロマル「へっ」

アズサ「そう思うならお金早く払ってね」

眼鏡「……扉、開けます」


【ギギギ……ギィィィ】


???「来たか。待っていたよ」


【キィ……キィ……】

アズサ( 車椅子…… )


???「入って扉を閉めたまえ。この中は奴のダウジングの力も及ばない」


【キィ……キィ……】


眼鏡「あ‼……あなたは!!!」




眼鏡「枢機卿!マーカス枢機卿じゃないですか!いつ日本へ⁉」

枢機卿「久しぶりだね。教授の…お爺様の葬儀以来か」

眼鏡「マーカス……そうか。なんで気付かなかったんだろう。ジョー・マーカス司祭」

枢機卿「孫が迷惑を掛けている。本当に済まない」


眼鏡「枢機卿の……お孫さん……?」


【ちょんちょん】


ヒロマル「おい眼鏡。挨拶させてくれないか?」

眼鏡「ああ、すいません。こちらローマカトリック教会のレジナルド・マーカス司教枢機卿です。枢機卿、こちらは友人のヒロマル・キフネダとその妹、アズサです」


ヒロマル「初めまして枢機卿。ヒロマルです。お会いできて光栄です」


アズサ「ご機嫌麗しく枢機卿。ヒロマルの妹、アズサです。お近づきになれて幸いです」


枢機卿「君たちもテリブルな出来事に巻き込んで申し訳ない。事態が収拾できた後にはしかるべき埋め合わせはさせて頂くと約束する」

眼鏡「いいえ!とんでもな……」


【びしっ】


アズサ「期待してますわ」

眼鏡 (……痛い)





枢機卿「事の発端は私が孫と研究していたあるアプリケーションだ」

眼鏡「枢機卿は古今の神学・悪魔学に精通し、今でも毎年多数の論文を発表なさってるんです」

枢機卿「よしてくれ。私など君のお爺様に比べたら……そうだな。私は親友だった君のお爺様になんとか近付こうと無理をしたのかも知れん」


ヒロマル「アプリケーション、と仰いましたね。具体的にどのような?」

枢機卿「端的に言えば……天使召喚プログラムだよ」

アズサ「そんな……!」

眼鏡「完成したんですね……生前、祖父が言っていました。天使を半自動で召喚できればエクソシズムに革命が起きる、と」

枢機卿「その筈だったんだが……」



アズサ『ね。悪魔祓いって認められてないんじゃなかった?』

ヒロマル『俺に訊くな。正直バチカンの事なんて、法王を根比べで決めることぐらいしか知らん』

枢機卿「確かにバチカンは悪魔祓いを認めていない」


二人 (……聞こえてた)


枢機卿「だが救いを求める者に手を差し伸べない事は主の御心に反する」


眼鏡「枢機卿は……ここだけの話ですが、若い頃は敵なしの敏腕エクソシストだったんです」

枢機卿「いや。君のお爺様……教授のサポートがあったればこそだ。彼の知性と悪魔の知識、私の信仰と神学の智恵。我々は最高のチームだった。だが……さる悪魔を祓った際に膝に魔力の矢を受けてしまってね……」


枢機卿「この有様だ。天使召喚プログラムは……私に代わって世の悪魔どもの駆逐に大いに役立つ筈だった」

ヒロマル「何か問題が?」

枢機卿「使用者に天使の意思が逆流して正義の行使に拘る過激な人物に変えてしまう」

眼鏡「じゃあ、お孫さんは……」

枢機卿「優しい……どちらかというと大人しい奴なのだが……」


枢機卿「孫は君に会うのを楽しみにしていたよ。昔、一度だけ一緒に遊んだだろう?もう15年も前になるが」

眼鏡「え?そうでしたっけ?」

アズサ「憶えてないの?」

眼鏡「うーん……」

アズサ「……ひど」

眼鏡「すいません」


ヒロマル「……奴は強い。対策はあるんですか?」

枢機卿「ある」

眼鏡「どんな?」


枢機卿「君たちにはまた危ない橋を渡って貰うことになるが……引き受けてくれるかね?」

眼鏡「当然です。祖父の親友とそのお孫さんの危機を、放ってはおけません」

ヒロマル「友人がこう言ってるんで。放ってはおけません」

アズサ「兄がこう言ってますので。放ってはおけませんわ」

枢機卿「……ありがとう」



枢機卿「では、作戦を説明する」



枢機卿「まず孫の使う天使召喚アプリだが、セルフォンを媒介として召喚を行っている」

眼鏡「天使の召喚には長大な祝詞と膨大な量の因果演算が必要では?」

枢機卿「関心だ。勉強しているな。天使召喚アプリ……『イゾルデの門』では、演算はネット上の専用サブルーチンが処理し祝詞は圧縮音声で自動再生される」


枢機卿「同時に近接基地局の電波送受信機に働きかけ、特定周波数の特殊なリズムパターン波を放射させ、限定範囲の周期飽和電磁場……一種の結界を造る」

ヒロマル「その範囲でだけ、天使は具現化可能なわけか」

枢機卿「だがこの国はセルフォンの基地局に溢れている。事実上、エニタイムエニウェアだな」



枢機卿「弱点は二つ。召喚維持に必要な因果演算をネット上の機能に預けている為、セルフォンのバッテリーが切れると天使のアストラル体が維持できない。また、位相を反対にした特定リズムパターンの強力な電波を発すれば、天使の論理実体に必須な飽和電磁場が崩れ、天使はその存在を保てない」


枢機卿「そしてこれが……反飽和電磁場干渉装置『トリスタンの鍵』だ」


眼鏡「これで天使を倒し、ジョーさんを元に戻せるんですね?」

枢機卿「いや。これだけでは駄目だ。天使と共鳴し実存強度が飛躍的に向上している『場』に干渉する為に必要な電波出力は、最低1.21gW/cm。装置単体では不足だ」


アズサ「1.21gW/cmですって⁉ そんなべらぼうな電波、イージス艦のレーダーでも持ってこないと無理よ!」


ヒロマル「そんなに凄いのか?」

アズサ「至近で浴びれば物理的に黒焦げね」

眼鏡「イージスカン……ってなんですか?」

ヒロマル「アメさんのすげえ軍艦さ」

枢機卿「いや、手はある」


眼鏡「どんな手です?」

枢機卿「君たちの住むこのニッポンという国の技術は本当に凄い。地上高634m。地上部分本体重量4万1千トン。テレビ電波受信世帯1千4百万の都市電波塔……」


ヒロマル「電波塔?」


枢機卿「スミダ区にそびえる電子の巨木…東京スカイツリーだよ」




【びゅおおお……】



ヒロマル「アズサ……」

アズサ「何よ」

ヒロマル「怖いってわけじゃないが……屋根の上じゃなきゃダメなのか?」

アズサ「アレを展望室に招き入れるつもり?」

ヒロマル「……」

アズサ「命綱もあるんだからビビらないの。男でしょ」


眼鏡「お二人は室内に居ていいですよ。アレの相手は僕とこいつがします」

ペン『キシキシ』


ヒロマル「こんな所で神話に出てくるような奴と戦闘だぞ。手は多い方がいい」

眼鏡「ヒロさん……傷が痛むんじゃ……すごい汗ですよ」

ヒロマル「いや。だ……大丈夫。痛み止めが効いてるからな」

アズサ「知らなかった?ヒロマルは高い所苦手なのよ」

眼鏡「え⁉」

ヒロマル「ふ……ふははははっ。バカ言うな妹よ」


ヒロマル「靈言扇舞法木船田流正統、護り屋ヒロマルともあろう者が高い所ごとき苦手なわけ……」


アズサ【どん!】


ヒロマル「ばっ!うわ!な……なにしやがる⁉殺すぞミリオタブスっ‼」

アズサ「……戦力としては期待しないで。ヒロマル。これが終わったら今の発言と今後の小遣いの額について話し合いましょ」


枢機卿『聴こえるかね?』


眼鏡「感度良好です」

枢機卿『トリスタンの鍵が発動したらこのトランシーバーも使えなくなる。もう一度フローを確認するぞ』

眼鏡「はい」

枢機卿『奴が現れたら、使い魔の力で天使を抑え、メインアンテナの周囲20m以内に拘束するんだ』

眼鏡「天使を捕まえる事ができたら僕は合図する」


枢機卿『私はそれを受けてトリスタンの鍵を発動する。地域FM局のサーバー経由でシステムは掌握済みだ。上手く行けば天使は形を保てなくなり消滅する』

眼鏡「無防備になったジョーさんをなるべく穏便に無力化し、連れて帰る」

ヒロマル「その辺で俺の出番がありそうだ。眼鏡。悪魔の手綱をしっかりな」


アズサ「私は有事のヘルプと連絡係。穢れの弾丸もあと4発ある。牽制くらいはできる」

ヒロマル「無理すんなよ。お前は元々人外との戦いには向いてないんだ」


アズサ【どん!】


ヒロマル「くォっ‼だっ……やめろっつってんだろこの行き遅れ守銭奴‼」

アズサ「……あんたは色んな意味でこの場に向いてないわ」


枢機卿『こんなことを頼める立場じゃないが……できることならば……』

眼鏡「安心して下さい。ジョーさんは必ず無事に連れて帰ります」

枢機卿『……ありがとう』


ヒロマル「おっと……お喋りはここまでのようだぜ」

アズサ「来た!」

眼鏡「お二人とも。危なくなったら……逃げて下さいね!」

ヒロマル「へっ。危なくなったら、な」


眼鏡「行くぞフラウロス。最も賢きペリシテ人の名に於いて汝に666秒の自由を与える。我が描く絵画の内に。マシュー・アルクト・デ・オーラム……エイメン‼」


【カッッッ!!!】


悪魔「ホホホホ……!」

眼鏡「飛ばして行く。女の皮は捨てろ」

悪魔「ゲヒャヒャヒャ……‼」


【ごぉぉ……スタッ】


司祭「塔の屋上か。隠れおおせるとでも思ったか?」

眼鏡「ジョーさん!自分を……取り戻して下さい! 天使に飲まれてはいけないっ‼」

ヒロマル「そうだ!付き合わされるこっちの身にもなれ‼」


司祭「なんの話だ?私は私の意思でハスデヤを使役している。そしてその明確な意思でもって貴様と貴様の薄汚い下僕を塵一つ残さず滅殺する!この世からなァ‼」


アズサ「目が完全にイッちゃってる……話し合いは無理ね」


眼鏡「仕方ない……ブーレイ・ブーレイン・デード……」


司祭「束ねたる理に光の祝福を……」


司祭「そを矢と成して暗き闇よりの客人を撃て!フィアト・フィアト……メタトロン・アラウ‼」


【ズガガガガ……!!!】


ヒロマル「眼鏡⁉」


司祭「まともに喰らうとは……ハハハハッ! 正義は常に勝利する。主よ!感謝します‼」

眼鏡「こっちだ。天使使い」

司祭「何⁉」

アズサ「悪魔の肩に……眼鏡!無事ね!」


ヒロマル「眼鏡!速く決めろ!身体が持たねぇぞ!」

アズサ「どーゆーこと?」

ヒロマル「眼鏡の左手を見ろ」

アズサ「あ!ペンを……刺してる⁉」

ヒロマル「悪魔に直接血を吸わせながら戦ってる。奴の最後から二番目の手段だ」

アズサ「二番目?最後の手段は?」

ヒロマル「……『逆十字のデッサン』さ。使わずに済むなら、それに越したこたねぇ」


司祭「成る程……なりふり構わないというわけか」

眼鏡「君のお爺様と約束した……君を必ず無事に、連れて帰ると!」

司祭「やって見ろ!悪魔憑き‼」

悪魔「やってやるさ、天使使い‼」


【ビュオッ…‼】


【ゴウッッ‼】


【……‼ッッ……‼……】

【ビカッッ!……!……‼……】

【カ‼……ズドッ!……】

【……‼……‼……】



アズサ「ねえ」

ヒロマル「ん?」

アズサ「あれ……何がどうなってるの?」

ヒロマル「正直俺にも殆ど分からん……だがどうやら五分五分以上に渡りあってるみたいだな」


【ぽたたっ……】


アズサ「きゃっ……これ、血だわ……」

ヒロマル「急げ……眼鏡」


【バシィィィッッッ!!!】


司祭「ぐぬっ⁉」

眼鏡「……捕まえた!!!」

悪魔「ゲヒャヒャヒャヒャ……!」

天使「……」


眼鏡「今です!枢機卿‼」

枢機卿『よくやった!トリスタンの鍵ーー始動‼』




枢機卿『出力最大……』


【ザッ……ザザザザ……】


司祭「これは⁉」


天使【ヴ……ヴンン……ヴヴ……】


ヒロマル「天使の動きが、止まった!」

アズサ「効いてるわ!」


司祭「『トリスタンの鍵』……完成させたのか⁉ あの老いぼれめ‼ハスデヤ!アンテナだ!アンテナを破壊しろ‼」

天使「……」

眼鏡「さ、せ、な、い!」


ヒロマル「いけねえ!」


アズサ「あんたどこ行くの⁉」

ヒロマル「アンテナを護る!ビックリ箱はもう開いたんだ!二度目はねえ‼」


天使【く、ぁぁぁ】


ヒロマル「間に合え!光氣反駁!銀鏡!金威!月は陽を待ちて……」


【スドン……ッッ‼】

【ズガガッ……‼】


ヒロマル「……っっ‼」

眼鏡「ヒロさん‼」

アズサ「アンテナが…!」


ヒロマル「うわぁぁ……ぁぁぁぁ……」


【ぶらーん!】


ヒロマル「ぎゃうんっ!」


眼鏡 (……ホッ)

アズサ「ふぅ……命綱サマサマね」

天使「……!」

悪魔「ゲヒャ……⁉」

眼鏡「フラウロス……くっ」


【ズズーン……ッ】


天使「ヴヴ……ヴン……」

司祭「シット。データに欠損が。手こずらせたな。放って置けば崩壊する……が」


【ピ、ピ……】


司祭「一度シャットダウンして再起動すればノープロブレム、だ」


天使【すう……】


アズサ「天使が消えた……!くう、今ヒロマルがいれば……!」


眼鏡「はぁっ……はぁっ……!天使……足元から……再構築……されてゆく……」

司祭「主は偉大なり。正義は、行使される!ふふふふふ……ワハハハハハハハッ……‼」


天使【ザザッ………ヴヴッ……‼……】


司祭「何⁉……ダウンロードが……‼」


アズサ「肩……いえ、首までで……止まった……⁉」



枢機卿「そこまでにせよ。ジョー」



司祭「……ジジイ!」

アズサ「……とトリスタンの鍵!」

枢機卿「お前がそうなったのは私のせいだ。私はお前にエクソシスの技術は教えたが……心を、教え損ねたようだ」


司祭「世迷言を‼」


天使【ヴヴ!ヴヴヴッ‼ ガクガクガクッ……】


司祭「……ハスデヤ?」

アズサ「動いてる……首なしで……!」


天使「グモッ……グモモモッ!」


【ドカン!ズドン!】


司祭「何をしているハスデヤ!やめろ!止まれ‼」


【ガガガガッ!ヴヴヴ……!く、ぁぁぁ…】


司祭「よせ……何を狙ってる……?」


アズサ【ダダッ】

「枢機卿!鍵を捨てて!あいつはそれを狙ってる!」


天使【カッ……!】


眼鏡「枢機卿‼」


【ズガガガッ……!】

【ドーンッ‼】


司祭「……ジジイ……死んだのか……そんな……私は……何を……」


天使「グモモモッ……グモモモモモッッ……‼ 」




司祭「お爺様ぁぁぁぁっっっ……‼」




眼鏡「枢機卿……アズサ……さん……そんな……」


アズサ「浸ってないでとっとと……くぅっ…助け……て……!」

眼鏡「アズサさん!」

アズサ「命綱……ケプラーの安全帯……焼き切れちゃった……早く……流石に二人の体重を左手一本で支えるのは……ああっ……」


枢機卿「ミズ・アズサ。私を離せ。君一人なら登れる……」

アズサ「黙って!気が散る!ぐぬぬ……」

枢機卿「……」


眼鏡「アズサさん今行きま……」


天使【グモォォォッッ!!!】


眼鏡「くっ⁉ 天使使い!このデクノボーをなんとかしろ!お前の飼い犬だろ‼」

司祭「馬鹿な……有り得ない……天使は正義の権化……見境なく暴れて……敬虔な信徒を攻撃するなど……有り得ない……」


眼鏡「早く止めろ!アズサさんと枢機卿が!」

司祭「わ……私じゃない。私のせいじゃないんだ……何かの……間違い……」

眼鏡「駄目だ。こいつにアレは止められない…」


アズサ「めっ……がっ……ねぇぇっ、は……や……ク……」

眼鏡「……仕方ない」


眼鏡「皆さん!これから起きることは……他言無用に願います‼」


【すっ】


アズサ (眼鏡……眼鏡を……外した……)


【ピカッ……】


アズサ (左眼……光って……ああっ……う、で、が……)


眼鏡「ザルク・ウォルク・ファルト……ウナイテ!マハ・フラウロス‼」

悪魔「キャァァァァッッッ!!!」

【カッ……‼︎】


【ぐんっ】


アズサ「うわ⁉……め、眼鏡⁉」

眼鏡「……大丈夫か?」

アズサ「え……あんた……誰……?」

眼鏡「さあな。爺さん、生きてるか?」

枢機卿「あ、ああ……トリスタンの鍵を……落としてしまった」

眼鏡「フン……命を拾ったんだ。贅沢言うなよ坊主」


アズサ「あんた……眼鏡……よね?」

眼鏡「半分はな」


眼鏡「邪魔だからここでじっとしてろ跳ね返り。三分でカタぁ付けてやる!行くぜ!ギルギルガン・ゴーグ・オー……パニス‼」


【キュワ……チュドーンッッ‼】


天使「グモ……⁉」

眼鏡「わははははははっ……あーっはっはっはっはっは……‼」


【ギュンッッ!】


アズサ「凄いスピード!それにあいつ今直接魔法を……⁉」




ヒロマル「逆十字のデッサンだ」



アズサ「ヒロマル⁉あんたいつの間に?」

ヒロマル「ぜぇっ、ぜぇっ……たった今ようやく登り切ったとこさ」

アズサ「眼鏡……どうしちゃったの?あの左眼は何?」

ヒロマル「俺も良くは知らん。……左眼の周りを良く見てみろ」

アズサ「……あっ‼」


アズサ「左眼を中心にあれは……紅い十字架……逆さまの……」



ヒロマル「悪魔のペンで左眼の周りに逆十字を描いて発動する、眼鏡最大最強の術だ。術の効果は使役している悪魔との……合体」

アズサ「合体⁉あの……あの悪魔と⁉」



ヒロマル「二つの存在が一つになる時、一つ分『存在』が余るだろう」


ヒロマル「合体した眼鏡は、その余っている存在をパワーに替えて戦う。悪魔の魔力と相乗してべらぼうに強くなる。ただし……」

アズサ「ただし?」


ヒロマル「戦った分だけ……合体した時間だけ寿命が減る。存在自体が燃料だからな。それに……戦えば戦う程リスクが増す。悪魔に自分の身体を乗っ取られる……な」


アズサ「そんな!」

ヒロマル「だから使わないに越したこたねーんだ。けどさっきは俺やアズサ、枢機卿にあの司祭……4人の命が掛かってたからな」

アズサ「眼鏡は……元に戻れるの?」

ヒロマル「666秒を越えなければ……だが今回は合体前に眼鏡自身がかなり消耗してる。早く決着がつかないと……俺は……」


ヒロマル「眼鏡との約束を……果たす羽目になる」


アズサ「約束……まさか……兄貴……!」

ヒロマル「前回眼鏡がこのデッサンを使った時は奴の妹がいた。その時もかなりヤバかったが妹が眼鏡を鎮めたんだ。今回もメールはしてるが……間に合わないだろうな」


アズサ「眼鏡を……殺すの……?」

ヒロマル「……急げ。眼鏡」


眼鏡「あはははははっ!うわーっははははははははは……っっ!!!」




【きぃ……ぃ……ん……】




アズサ「何?この音……頭に響く」

ヒロマル「合体後の眼鏡が出す精神ノイズだ。あいつの中では今、元々全く別々の異質な精神体が同居してる。そのせめぎ合いの余波さ」


【キュドッ】


眼鏡「遅ぇよ脳無し!」


【ズドドド……!】


天使「グモォッ⁉」

眼鏡「こっちだ」


【ドグォッ】


天使「……‼」


天使『ラァ……ラァ……ラァ……』


アズサ「きゃっ…これ…⁉」

ヒロマル「ダイレクト……ヴォイス……くっ」


【ふわ……】


眼鏡「へぇ。天使の歌声ってのは首なしでも歌えるんだな気色悪い」


天使「⁉」


眼鏡「効かないのが不思議か?馬鹿天使。今の俺に……」


【ヴン!】


「罪の意識なんて……」


【ヴヴヴ……キラッ……クァァ……】


ヒロマル「まずい!伏せろ‼」

アズサ「きゃっ‼」

司祭「……!」

枢機卿「……主よ!」


眼鏡「ありゃしねーんだよ‼」



【カッ!……キュー……ン……】


【ガガガガガガァ……ンンン……!!】



ヒロマル「みんな……無事か……?」

アズサ「あたしと枢機卿は大丈夫」

司祭「馬鹿……な……天使が……悪魔に……」

ヒロマル「あいつもどうやら生きてるな」


眼鏡「あはははははっ!なにが天使だ一昨日来やがれ!くくくく……わははははははっ!」


ヒロマル「もういい眼鏡。天使は倒した。戻れ」

眼鏡「戻る?何に?」


眼鏡「今の俺は最高に気分がいい。あるべき俺の……完璧な姿がこれなんだ!今更他の何かになんてなる気はさらさらないぜ‼」

ヒロマル「何がなんでも戻ってもらう……さもないと……」

アズサ「待ってヒロマル!あれ!」


【ピポパポ……】


司祭「もう一度だ!ハスデヤが負ける訳がない。完全に召喚できれば……!」


【ガッ】

司祭「ぐわっ……⁉」

【カラカラカラー……】


司祭「『イゾルデの門』が……」

眼鏡「いい加減にしねえか。生臭司祭」

司祭「貴様!」

眼鏡「お前は何にも分かっちゃいねえ!天使も悪魔も、それ自体純粋な正義でも邪悪でもねーんだ!」

司祭「な……何を……」

眼鏡「無数に伸びる世界の因果支流の結節点……力と存在の淀み」


眼鏡「隆起した地層が山になるように、無数の魂の共鳴振動が生み出すベクトルを持った強大な力。それが天使であり悪魔だ」

司祭「素人が知ったふうなことを!」

眼鏡「本物の馬鹿かお前。『グリモアの黄金』は読んだか?『七十人訳タルムード』は?お前の爺さんが書いた本を一冊でも最後まで読んだか?」


司祭「ぐっ……」


眼鏡「何度やってもお前が召喚した天使は暴れて壊す。中途半端な力を振りかざして自滅する」

司祭「そんなことは……」

眼鏡「まだ分かんねーのかよ!あの天使は今のお前そのものなんだよ‼」


司祭「……今の……私……そのもの……」


ヒロマル「今だ!悪く思うな眼鏡!急々……如律令‼」


【バリバリバリバリ……‼】


眼鏡「ぐぁぁ……護り屋……て、め、え……」


ヒロマル「ご高説ぶち上げてる間に不動結界を張らせて貰ったぜ!今の内だ!アズサ!眼鏡に精神的ショックを叩き込め‼」

アズサ「精神的ショック⁉そんな急に言われても…!」

ヒロマル「早くしろ!長くは持たねえ!奴を元に戻す最後のチャンスだ!」


司祭「……」【ダッ】


アズサ「あ!あいつ!」

ヒロマル「ちっ!何する気だあの野郎‼」


司祭【ちゅ……】

眼鏡「!!!?」

アズサ「あ……!」

ヒロマル「い⁉」

枢機卿「う……」

アズサ&ヒロマル「えぇぇぇっ⁉」


アズサ「キ……キスよね?あれ」

ヒロマル「司祭……男色か……?」


枢機卿「男色?何を言ってる。孫は女だ」

アズサ「ああ」

ヒロマル「なんだ、女か……ん?」


アズサ&ヒロマル

「えええええええええ……っっ⁉」




ヒロマル「司祭……ジョーさんが……女⁉」

枢機卿「ああ」

ヒロマル「いつから⁉」

枢機卿「失礼だなミスターボディガード。生まれてから22年の間、彼女が別の性別であったことは一瞬たりとてない」


司祭「元に……戻って……!」


眼鏡「お前……泣いて……⁉」


【ビカッ‼バチィッ……‼】


ペン【コロコロ……】


眼鏡「うっ……」


ヒロマル「戻った‼」

アズサ「眼鏡!」


眼鏡【ふらっ】

司祭【はしっ!】


ヒロマル「ふう。終わったな」

アズサ「とりあえず、ね。後始末が大変だけど」


枢機卿「諸君には心から感謝している。諸君の協力がなければ……」


ヒロマル「待って下さい」


枢機卿「……?」


ヒロマル「どうやら黒幕のお出ましのようです」




???「いいもの、ひーろった♬」


アズサ「あなたは!」

ヒロマル「天使召喚プログラムが入ったスマートフォン……そしてその抑止装置。最初からそれが目的か。……チェシャキャット!」


原「ふふふふ……怒っちゃいやです」


アズサ「あ!それ……『トリスタンの鍵』!」


原「『鍵』が手に入ったのは単にラッキーです。状況が思った以上に上手く回って。私は『門』が欲しかった」


ヒロマル「なんの為に?」


原「残念。ここから先は有料です」


ヒロマル「……払えるような値段じゃなさそうだな」


原「良い情報屋は価値ある情報を正確に扱う」


【くるっ】


原「最高の情報屋は正確な情報で、価値ある状況を創り出す」


アズサ【チャッ!】「それを降ろしなさい!ゆっくりよ‼」


ヒロマル「待て。撃つなアズサ」


原「……弾丸の無駄ですよ。穢れの弾丸の相場は現在一発4万円前後。幻に撃つにはハイコストだと思うけども」


アズサ「……くっ」


ヒロマル「情報屋よ」


原「なんです?」


ヒロマル「お前は、それでいいのか?」


原「……なんのことですか?」


ヒロマル「言ったままの意味だ。お前が本当に欲しいのは鍵でも門でも……増して金なんかでもないんだろ?」


原「……」


ヒロマル「その為に、そのやり方が本当にベストなのか?お前にとって」


原「ふふ……やはりあなたはやりにくい。敵にも味方にもしたくないですね」


【すっ……】


アズサ「あっ!」

ヒロマル「待て‼」

原「アウフ・ヴィダーズェン」


【ばっ!】


アズサ「飛び降りた!」


【チャッ!】


ヒロマル「撃つなアズサ」

アズサ「幻でもせめて一発!」

ヒロマル「よせ!当たれば……情報屋が死ぬ」


アズサ「はぁ⁉どういうこと?」

ヒロマル「多分、今のあれは本体……チェシャキャット本人だ」

アズサ「なんでよ⁉」

ヒロマル「感じなかったか?あいつの纏う空気から……何かこう……匂いが……ほら!あれだ。ベランダみたいな名前の花の」

アズサ「もしかして……ラベンダー?」

ヒロマル「そうだそれ!」



アズサ「あれが本人なら尚更撃っときゃ良かったじゃない!」

ヒロマル「今のシチュエーションで射殺したら純度100%の殺人だぞ。妹の裁判に立ち会うのなんて御免こうむる」

アズサ「……もう!腹立つなぁっ!あのメス猫っっ‼」


ヒロマル「まあ……全員無事で良かったさ」





ヒロマル「ラベンダーの香りを纏う……幻の猫……か……」




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【プルルル……ピッ】


原「私です。……はい。……はい。『門』は確保しました。いえ、『鍵』は戦闘で破壊されて……申し訳ありません。はい。……わかりました。そのように。……ありがとうございます。官房長官」


【ピッ。ツー、ツー、ツー……】




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那由他「で……あんただけまたこうして病院送り?」

ヒロマル「那由他。お前イギリスくんだりからわざわざ嫌味言いに帰国したのか?」

少佐「オー!そんな言い方はないぞヒロマル。彼女は君に会うのをとても楽しみに……」


【バチッ!】


少佐「ぎゃっ⁉ 那由他。やめてくれ。サイボーグでもスタンガンは痛い」


那由他「あ、あんたがあるコトないコト言うからよ」

少佐「何を言う。私のメモリにある関連動画を音声だけでも……」


【バチバチバチッッ!】


少佐「ぎゃぎゃぎゃっ!」

那由他「少佐。私が許可するまで沈黙を護りなさい」

ヒロマル「コントなら病室の外でやってくれ。笑うとアバラが痛えんだ」


那由他「結局……その情報屋はどこまで糸を引いてたの?」

ヒロマル「初めに司祭に眼鏡の立ち回り先を教え、枢機卿に俺たちなら司祭を止められると教え、俺たちに枢機卿の連絡先を教えた。全部有料でな」

那由他「で、『門』と『鍵』を持ち去った?カモられたわねー」

ヒロマル「まあな」


【どたどたどた……!】

【ばんっ】


眼鏡「ヒロさん!助けて下さい!」

ヒロマル「敵はなんだ?また天使か?それとも神か仏か?」

眼鏡「ジョーさんです!あれから付きまとってはあれこれ僕の世話を焼いて……暇さえあれば悪魔学についての質問攻めで……はっ!」

ヒロマル「どした?急にベッドの下なんかに」


眼鏡『しっ……僕は居ない。来てない。行先は知らない。……いいですね?』


【こんこん】


司祭「失礼します」

ヒロマル「あ……ああ。これは……マーカス司祭。今日は」

司祭「ご機嫌ようキフネダさん。その説は大変なご迷惑を……どうかなさいました?」

ヒロマル「いえ……今日の服装が、その……とても女性らしく……」


ヒロマル「焦りました。お美しくて」

司祭「まあ御上手だこと。……所で今日伺ったのは他でもありません。エンジュ様を御覧になりませんでした?」


那由他『エンジュサマ?』

ヒロマル『眼鏡の本名だ』


司祭「私を避けてらっしゃるようで……お話があって探しているのですが」

ヒロマル「ここには来てませんね」


司祭「この近くなのは間違いないのです。示しの水晶がこの辺りで強く振れる」


那由他『シメシのスイショー?』

ヒロマル『ダウジングだ。振り子を使った捜索術さ』


司祭「もしエンジュ様が来られたらご連絡下さいます?これ、私のセルフォンのナンバーです」

ヒロマル「引き受けました。必ず電話します」


司祭「では今日はこれで。お身体、ご自愛下さいまし。お詫びにはまた改めてお伺いいたします。ご機嫌よう」

ヒロマル「ご機嫌よう司祭」


【きぃ……ばたん】

【こつ、こつ、こつ……】


ヒロマル「眼鏡、もういいぞ」

眼鏡『……行きました?』

ヒロマル「ああ」

眼鏡「ふぅ……」

那由他「なんか大変ね」


眼鏡「悪い方じゃないんですけど……なんかこう……」

那由他「熱烈過ぎる?」

眼鏡「……はい」


ペン『キシシシ』

眼鏡「うるさい。聖水ぶっかけるぞ」

ペン『……』


ヒロマル「邪険にしないで付き合ってやったらどうだ?強力な霊体使い同士、なんて業界でも滅多にいねえ……いわば仲間だろ?」

眼鏡「それは……そうなんですが……」


【ガチャ!】


司祭「見つけましたわ!エンジュ様‼」

眼鏡「わあっ‼」

【どたどたどた……】

司祭「何故お逃げになりますの?エンジュ様の御意見が聴きたいのです!『ソロモン王の鎖骨』の第11章第7節の因果結節点における具象の形而上学的展開と相転移についてなのですが……」


眼鏡「えーと……さいなら!」


【どたどたどた……】


司祭「ああっ!お待ちになってエンジュ様‼」


【どたどたどた……】


アズサ「おっはよー。……何?今の」

ヒロマル「実写版トムとジェリーさ」

那由他「トムとジェリー?誰それ?」

アズサ「おっさん世代のアメリカアニメよ」

ヒロマル「おっさん言うな」



アズサ「はいこれ」

ヒロマル「新しい扇……いいのか?使って。コストが折り合わないって入院させたんだろ?」

アズサ「仕事が一件入ったの。とっとと治してそれを受けたら今までの入院費とその扇子代払ってもお釣りが来るギャラのね」

ヒロマル「ヤバイ仕事か?」

アズサ「対象は国家的VIP。それなりね」


アズサ「それとこれ。水着にパーカー。レジャーシートとサンオイル。ビーチボールにクーラーバッグに……」

ヒロマル「待て。護衛の仕事、だよな?」

アズサ「そうよ。ね、那由他ちゃん」

那由他「明日7時に迎えに来てね!大使館がヘリを出してくれるって」

ヒロマル「……そういうことか……了解」


アズサ「あ、そーだ。他の仕事屋連中にも声かけてみようかな」

那由他「それいい!どうせなら大人数の方が楽しいし。少佐。明朝6時までにバーベキューセットと食材、飲み物を確保して。予算は1千ユーロ以内。人数はとりあえず8人から10人を想定」


少佐【こくこく】


アズサ「じゃ。そういう事だから」


アズサ「傷治して、早く寝なさいよヒロマル」

那由他「お給料分はしっかり護ってね」


ヒロマル「好きにしてくれ……全く」




ヒロマル「まさか……すげえ大人数になったりしねえよな……?」





【運び屋眼鏡 〜逆十字のデッサン〜】


【 完 】




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アズサ「ヒロマル!大変よ!」


ヒロマル「今度はなんだ?地底人でも出たか?」

アズサ「馬鹿言ってないでこれを見て!」

ヒロマル「こりゃあ……監視カメラか?スカイツリーの?」

アズサ「情報屋の画像を押さえようと思って警備員を買収したの」

ヒロマル「……なんか憶えのある展開だな」


アズサ「ほら見て!」


ヒロマル「浮いてる……トリスタンの鍵と、イゾルデの門の携帯が……」


アズサ「情報屋は……チェシャキャットは影さえも映ってない。当時のスカイツリーの全てのカメラの、どれにも全く映ってないの!」

ヒロマル「どういうことだ?」

アズサ「分からない……でもあんたはあれが本体だって……」

ヒロマル「……」




ヒロマル「悪魔にサイボーグ。魔女に天使……今度は化け猫……。チェシャキャット……情報屋・原……一体何者なんだ……?」

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