おかわり、 後日談7
「生息環境の保護ってのはどういうことだ?」
「竜の生息域、ということでこのアパート周辺に機材を置いて、定期的に環境調査をすることになるかと。
この部屋自体をウチが借り上げてもいいんですけど」
「お断り」
「じゃあ住宅手当をつけておきますね」
あれ?単に家賃の話?
「一応聞いておくけど、初任給は?」
「そうですねー、えっと」
鹿島はおもむろに取り出した電卓を、考え込みながらぱちぱちと叩いた。
「私に財務の権限はないので、あくまで参考ですが」
基本給、技術手当、危険手当、住宅手当。
研究助手の立場ならばいくら、と説明されながら、足し込まれていく数値を見守る。
「危険手当高っ」
「まあ、相手は竜ですから。
新垣さんの場合危険は皆無でしょうが、数字に表すとこうなっちゃうんですよ」
最終的に、
「あんまり出せませんけど、多分こんな感じで」
と言って見せてくれた金額は、俺の目からだけでなく世間一般の懐事情から見ても、決して低い数字ではなかった。
(……十分過ぎるじゃないか……?!)
ぐらり、と心が揺れる音が聞こえた気がした。
ちらりと狐目の顔色を窺う。
「いいんじゃないですか?」
意外にもにこにこと笑いながら、狐目も電卓の数値を覗き込んできた。
「存分に私達の世話をするがいいです。労働は尊いです」
あ、こいつ、自分の都合で言ってやがる。
「子供達と私、飢えないならそれでいいです。
お前に子供達預ける気ないですが、ここで暮らすこと文句ないです」
狐目が鹿島に言う。
不都合があれば、最悪“あっち”に帰ればいいとの算段があるからこその余裕だ。




