七十七皿目、 ――『 』 6
憤慨する狐目に、思わずツッコミを入れる。
オールバックの髪型に真っ平らな……はともかく……。
アイロンの利いた紺色の三つ揃いスーツに、飴色の革靴。
ピンストライプのネクタイに、真っ白なチーフもごつめの腕時計も、どこから見ても立派な伊達男だ。
「だったら何でそんなスーツなんか着てるんだ!
どう見たって男物じゃないか!」
「これが人間の大人の装束でしょウ?」
「は?」
私、人間のこと勉強しましタ。と狐目は胸を張って言う。
「人間の、群れの働き手、みんなこんな恰好してまス。
働く、糧を得ル、これ大人ノ仕事。つまり、この装束こそ大人の証!」
何やら微妙な誤解を感じる。
「そうだけど……それだけじゃない。
お前が見た人間の中に、髪が長かったり、胸が膨らんでたりするのがいなかったか?」
「おお、いましタ。でも体小さいでしたシ、体力少なイ。
大人見習いの子達でショう?」
「それが人間で言うところの“女”だ」
何故か驚愕の表情で俺を見返す狐目。
「なんてコト!私ずっと間違えてましタ!」
「あー……うん、まあ、そういうこともあるかも知れないな……」
がっくりと肩を落とす狐目に、何だか俺も気が抜けた気がした。
というか、呆れて脱力した。
いやいや、しっかりしろ俺。
この際そんなことはどうでもいいはずだ。
それよりも、こいつが二匹の親だということは、だ。
当然の事実に、俺は気付いた。
――こいつも、竜。
俺の思考を察したのか、狐目がにやりと笑う。
「人間に化けル方法、いくつか有るマス」
「……何でわざわざ人間に?」
服やら何やらを調達してまで、人間の振りをする必要があるのか、疑問だ。
「私達、時々こっち来まス。こっちノ世界、人間の姿が一番安全で便利」




