七十四皿目、 ――『 』 3
玄関先でどたばたと騒ぐ。
明らかに近所迷惑だ。
「あの子タチは大切な、私の宝でス!」
「うるせえ、知ったことか!」
「お願いでス!返してくだサイ!」
腸が煮えくり返るような思いは本心だが、しかし、狐目が本当に本気で必死だというのも見て取れた。
俺の手がわずかに緩んだ隙に、狐目は柱に飛びついて、それをしっかりと抱え込んで離さない。
梃子でも動かんという意志を込めた目で、俺を睨みつけた。
だからという訳でもないが、まぁ、なんだ。
このままよく分からないまま放り出すというのも、腑に落ちない部分が残る。
「よし、とりあえず話くらいは聞いてやろう。
但し、俺を納得させられなければ、即座に叩き出す」
ぱっと、狐目の顔に喜色が満ちた。
「おお、あなたイイ人、感謝します」
いけしゃあしゃあと言いやがる。
勿論、こいつを信用する気など更々無かった。
何と言われようが、二匹を渡す気も無い。
居間に戻り、卓袱台をどかした後の空間に、座布団を二枚並べる。
俺は胡坐をかいて座り、狐目は何故か正座した。
茶は出さん。そんな義理は無い。
鞄の中から、クロウとシロウが不思議そうにこちらを見ている。
それを、狐目はやけににこにこと嬉しそうに眺めていた。
そして、ぽつりぽつりと語り始めた。
「どこから話すイイですかね。
私、もっと暖かいトコ住んでました。でも私の大事な卵盗んダ人間、いましタ。
犯人、卵を船に乗セた。私、船追いカけてコの国来たデス。
卵見つけたケド、私取り返しに行ケバ、多分逃げられル。
だからアナタに頼んダ。無関係ナ人間が良いト思っタね」
つまり、あの鹿島を始めとした連中がこいつから卵を盗んだってことか?




