七十三皿目、 ――『 』 2
考えたくはないが、俺は二匹に食われていたかも知れないのだ。
防護盾を引き裂く爪や、鉄格子も齧り折るような牙で、むしゃむしゃとおいしく平らげられていた可能性もあった訳だ。
「あなた悪運強イです。普通は骨も残らナイ」
狐目はへらへらと軽薄に笑う。
殴った。グーで。目一杯。
餌にしようとしてました。なんて言われて、そうですかと許せる訳がない。
右の拳に狐目の頬骨を打つ感触が伝わるのと、狐目が派手な音を立てて倒れるのは同時だった。
狐目は床にひっくり返って、俺に殴られた顔をさすった。
「イタタタ、酷いじゃないですカ。
この体は脆いデスから、手加減してくれナイと困りマス」
「ふざけるな!」
図々しい。
騙した挙句殺すつもりだったなんて抜かしておいて、拳骨しか飛んでこなかったことを有り難く思え。
「出てけ、今すぐ!二度と顔を見せるな!」
「あ、ちょっと!その子たち返して下サイ」
「誰が渡すか!」
食わせるつもりだったなら、金を払うと言ったのも嘘に決まっている。
契約不履行だなどとは言わせない。
先に約束を反故にしたのは狐目の方だ。
何故こいつに家がバレたのかは分からないが、鹿島のように竜を探す術でも持っていたのだろう。
どの道、しばらくは戻らない予定だった。
家が知られたところで問題はない。
玄関から蹴り出そうとしたところで、狐目は柱にしがみ付いて抵抗した。
「待って下サイ!私の子達を返して下サイ!」
「何がお前のか!さっさと出て行け!」
柱を挟んで押し合い圧し合うが、思ったより凄い力だ。
なかなか引き剥がせない。
狐目は叫ぶ。
「酷いデス!鬼、悪魔!人でなし!」
「お前が言うな!!」




