七十一皿目、 ――三十六計逃げるに如かず 3
俺は二匹の皿と鍋を洗って、冷蔵庫の中を確認した。
腐るようなものは残ってない。
生ゴミも無いし、電気も消した。
ガスも元栓からきっちり閉めた。
それらをもう一度確認して、家を出る準備は整った。
ずっしりと重くなったバッグを担ぐ。
大家さんにしばらく留守にするって連絡を入れないとな、などと考えながら玄関に向かう。
その時だ。
ピンポーーン。
チャイムが鳴った。
思わず身構えたのは、咄嗟に鹿島だ!と思ったからだ。
鞄の中からすら、二匹の緊張した気配が伝わって来る。
そっと足音を殺して、部屋の奥に下がった。
鞄を下ろして、閉じていたファスナーを開ける。
「何かあったら逃げろよ」
中からそっと見上げた二匹にそう言い置いて、俺は玄関に戻る。
息を潜めて、ドアの向こうの様子を窺う。
二度目のチャイムは鳴らない。
帰ったか隠れたか、或いは向こうもこちらの様子を探っているのか。
一番手近にあった武器――フライパンを握り締める。
先手必勝。顔を見た途端に殴ってやる。
関節技の怨みも、無きにしも非ずだ。
バン!
意を決して扉を開く。
四角く切り取られた外の景色から、朝の光が差し込んで来る。
立ち尽くす人影に向けて、フライパンを振り上げる。
だが、そこに居たのは、鹿島でも、白衣の二人でもなかった。
俺の予想を大きく裏切ったそいつは、あの日と同じスーツ姿で、突っ立っていた。
あの、“狐目”だった。
これより、物語は終幕へと向かいます。




