七十皿目、 ――三十六計逃げるに如かず 2
公共の交通機関に乗れば、こいつらのことは隠さなければいけない。
どこか落ち着ける場所を見つけるまでは、食事も与えられないかも知れない。
どこまで行けるかは分からない。
だが、行けるとこまで行ってみよう。
おかわりを要求する二匹にたんまりよそってやりながら、俺は自分の皿を片付けた。
それから荷物を作り始めた。
持っている限りで一番大きなバッグに、タオルやら着替えやらを詰める。
こいつらの退屈を紛らわす玩具やおやつも持って行かねばなるまい。
と、かき集めたそれらを俺が捨ててしまうとでも思ったのか、二匹が慌てて抗議にやって来る。
「ダメー」「アソブー」
「こらこら、邪魔するな。出かける準備してるんだから!」
持って逃げ出す二匹から、ボールとピーナッツの袋を取り上げる。
お前らもこれから鞄に入るんだぞと教えたら、揃ってきょとんとした顔を見せた。
「これからお出かけだ。外は初めてだろ?
いい子にしろよ」
「おデかけー?」「おさンぽー?」
「散歩とは違うけど、まあそんなもんだ」
途端に、目をきらきらと輝かせ始めた。
好奇心旺盛なこいつらのことだ。外の世界には、大層興味があったに違いない。
だけど俺が外へ出ることを許さないから、いつもはきちんと留守番をしていたのだ。
初めての外出に浮き足立った二匹は、俺が言うより先に鞄に潜り込む。
俺のシャツやジーンズの上で丸くなり、鞄の口からひょこりと顔を出す。
残った隙間に、俺は財布や携帯電話を押し込めた。




