六十九皿目、 ――三十六計逃げるに如かず 1
朝。
差し込む日の光に、心地よい眠りから引き戻される。
瞼を開けば、頭の両脇に竜が居た。
クロウは俺の肩を枕にし、シロウは俺の顔の上に尻尾をのたくらせている。
どちらも仰向けになって腹を見せただらしない寝相だ。
やれやれ。無防備なこった。
むくりと身を起こした俺は、
「朝だぞー」
と、二匹の柔らかい腹をわしわしと無造作に撫でさする。
くすぐったげにじたばた身悶えして、二匹は目を覚ました。
しばらく眠たげに欠伸などしていたが、俺が着替えを終える頃にはもう、腹が減ったと布団の上を這い回って催促する。
「ごはーん」「ごはーん」
「はいはい、ちょっと待ってろ」
俺は二匹を振り落とすような勢いで、布団を畳んで押入れに上げる。
時々、どちらか或いは両方が布団の間に挟まったりもするが、こいつらはそれをスリリングな遊びだと思っているようだ。
そのまま仕舞ってしまっても、勝手に這い出てきて、朝飯が並ぶ頃には卓袱台の横で待っている。
今日も、相変わらずのカレーだ。
いや、俺だって普段は米と味噌汁の普通の朝飯を食う。
だが、今日に限っては残りのカレーを片付けてしまう必要があったのだ。
今日からしばらくこの家を離れるつもりだったから。
そうなれば、日持ちしない食べ物は始末しておかねばなるまい。
二匹は、そんなこと気にもせずにカレーをがっついている。
「腹いっぱい食えよ。昼飯はちょっと遅くなるかもしれないからな」




