六十四皿目、 ――そして再会 11
檻なんかに閉じ込められて、さぞ怖かったのだろう。
それでも立ち向かった時には、どんなにか勇気を奮ったに違いない。
シロウが、慰めるようにクロウに寄り添う。
クロウは、応えるようにシロウに頬擦りする。
「ほら行け、先に部屋へ戻ってろ」
俺が声を掛けると、二匹は同時に羽ばたいた。
ひらりと飛び立ち、二階の廊下の手摺に止まる。
その背中が、開けっ放しの玄関の中に消えた時、
「新垣さん?」
名を呼ばれた。
ぎくりとした。
心臓がどきんと高鳴って、踵がちょっと浮いたかもしれない。
驚きも露に振り向く。
白井のおばあちゃんが、目を丸くして立っていた。
やばいやばいやばい、見られたか?
どこから見られた?どこまで見られた?
場合によっては、本当に不味いことになる。
しかし、おばあちゃんはまるで心配そうに俺に駆け寄ってきた。
「まあまあ、どうしたの、そんな格好で?」
「はあ、いやまあ、えっと、その……」
駄目だ。うろたえ過ぎて誤魔化す言葉が浮かんでこない。
確かに、いくら夏とはいえ、部屋着にスリッパ履きで表にいれば何事かと思うだろう。
「何でもないんです」
これ以上ない程の苦笑いで押し切ろうとする。
「何でもないって……」
「ええ、もう、ホントに、何でもないんです!
それじゃ!」
我ながら不審極まりないが、それ以上言えることもない。
脱兎のごとく階段を駆け上り、自分の部屋に飛び込んで扉を閉めた。
バタン!と大きな音がする。
そのまま、ずるずると玄関に座り込んだ。
クロウとシロウが、様子を窺いに首を覗かせる。
俺は溜息をつく。
心底から疲れたと思った。
ふと足元を見やれば、玄関に忘れられたままの鹿島の靴が残されていた。
 




