六十二皿目、 ――そして再会 9
しかし、助かったのは鹿島と二人の研究員だけだった。
見れば、檻も盾も網も機械も、全て壊れるか或いは燃えていた。
「主任、機材が!」
「ああ」
相沢の言葉に頷いて、溜息をつく。
黒い竜は、檻の残骸によじ登ってこちらを見ている。
白い竜は、卵泥棒に抱えられてこちらの様子を窺っている。
鹿島は、信じられない心持ちだった。
竜が人間を庇いたてるなどとは。
あまつさえ、人間を信頼してその身を預け切っているなどとは。
白い竜が卵泥棒の腕に大人しく抱かれ、
黒い竜が卵泥棒に危害を加えた者を狙って襲うことからも明白だ。
二匹は、卵泥棒と居ることをこそ望んでいるのだ。
はぁぁぁ~……。
盛大な溜息。
何にせよ、機材無しでは竜を取り戻したところで連れ帰ることはできない。
これ以上は粘ってみても無駄だ。
「相沢君、稲生君、撤収」
鹿島の判断は早かった。
そうと決まれば、壊れた檻も割れ溶けた盾も手早く片付けて、二人が運び出し始める。
憮然と立ち尽くす竜泥棒に、鹿島が言う。
「今はまだ預けておきますよ、新垣さん。
でも必ず、返して貰いに来ますからね」
無言の一秒が、彼の返答だった。
黒い竜が、新垣の肩に止まる。
鹿島を牽制するように、ちらとだけ一瞥をくれる。
さながら、竜使いといった風情だと思った。
残骸をまとめた相沢と稲生が、手分けして大荷物を運んでいく。
「それじゃ、また」
地面に残る焦げ跡以外、何の痕跡も残らぬ庭に、鹿島は背を向けて立ち去った。
角を曲がって姿が見えなくなるまで、背後から三対の視線が追いかけてくる気配を感じていた。
――
子竜VS鹿島は、竜の勝利で幕引きです。




