六十一皿目、 ――そして再会 8
「主任!」
相沢が、うっかり俺を離して鹿島の元へ駆けつけた。
地面を転がって、炎を逃れる代わりに土埃にまみれた鹿島は、驚愕の表情で二匹を見た。
「まさか、“息吹”まで使うとは……!」
息吹とは、さっきシロウが吐いた炎のことだろうか。
跳ね起きると同時に、ひらりと俺の元へ飛んで来るシロウ。
バキン!
クロウは、鉄格子に齧り付いていた。
ベキベキと音を立てて、格子を歯でへし折っている。
開いた穴から這い出たクロウが、じろりと鹿島達を睨んだ。
「危ない!」
庇うように、相沢を突き飛ばす鹿島。
再び、轟音と共に炎の柱が立った。
――
咄嗟に、腰から抜いた短剣を翳したのは上出来だった。
直後、視界を炎の赤が染め上げる。
黒い子竜が浴びせかける灼熱の温度。
鉄をも溶かしかねない火力の前では、人間などひとたまりも無い。
が、今や炎は鹿島を避けて燃えていた。
子竜の吐きつけた火の玉は、鹿島の手にした短剣の前で、二つに分かれて左右へと逸れた。
危ないところだったと思った。
この剣がなければ死んでいる。
きっと骨も残るまい。
「さすが、“竜の牙”……!」
冷や汗を流しながら、鹿島は呟いた。
本当かどうかは知らないが、教授は確かにそう呼んでいた。
その白い、象牙にも似た短剣の刃は、竜の牙を研いで作られたものであるらしい。
竜の体を構成する物質には、“息吹”を退ける魔力が備わっているという。
例え、牙一本のたった一欠けらであったとしても、結果は見ての通り。
ご利益は十分だ。




